第二話 ダンジョン攻略!!
いきなりだが、俺はダンジョンという言葉を聞くと、このような連想をする。
ダンジョン=迷宮=迷路
と、いうことは、だ。
地図的なものが無いと、脱出できないのでは?
別に方向音痴なわけじゃない。
しかし、現在地が分からなければ、どう行動すればよいか判断できない。
まず、入口どこ?
印とかを壁につけながら進めば、迷子になることはないだろう。
だが、進んでここに戻ってを繰り返しながらこのダンジョンを攻略するとなると、一体どれほどの年月がかかるだろう?
1ヶ月? 1年?
いや、ここがどのくらいの広さなのか知らない今の状態で、そんなこと分かるはずもない。
しかも俺は地図を書くのに必要なペンや紙、更には水や食料なんかも持たない。
この状況で、どう生き残れと言うのか。
ダンジョンって普通アイテムとかをそろえてから攻略するもんじゃないのか?
俺の持ち物……無し。
神は俺に死ねと申すか。
………あれ?
まさか、この状況を乗り越えるためのチートスキルを、もう既に持ってるとか?
記憶がないだけで、本当は神様と会ってて、その時にもらってたりして。
………だといいなぁ。
ま、いい。
とりあえずは適当にこのダンジョン内を探索してみよう。
せっかく異世界に転生したんだ。
こんなところで死んでたまるか。どうせ死ぬなら派手に死んでやる。
まあ、一番良いのは死なないことなんだけど。
とりあえず移動するか。
おもむろに右手でダンジョンの壁に触れる。
というか今気づいたのだが、俺まだここがどこか分からないのにダンジョンという前提で考えている気がする。
ま、いっか。
ダンジョンならば、あの有名な、右手を壁につけたまま進むという手段があるな。
あとは、糸を垂らしながら進むとか。
いや、そんなことしなくても、何かを落としながら歩けばいいのか。
じゃあ服でも破るか?
これを破れるか?
結構分厚いぞこれ………
うん諦めよう。やっぱり一番妥当なのは、右手を壁につけたまま進むって手段だな。
……よし、それでいこう。
それでなんとかなるはずだ。というか、それ以外思いつく手段がない。
では早速行動だ。
あれから20分くらい経っただろうか。
右手をダンジョンの壁にあてた状態で進んでいるのだが、見事に何もない。
と、いうことは……
「……俺、このまま餓死すんのかな……」
食料となる動物を探しても、全くいない。
そろそろ喉が渇いてきたのだが、こんな場所に水の入ったペットボトルが落ちてるはずもない。
はぁ、とつい溜息をついてしまう。
ここは、ダンジョンのような見た目をしているだけあって、暗くてジメジメしている。
その影響があるからか、ついネガティブな思考をしてしまう。
ちなみに道は直進ではなく、たまに曲がったりする。
迷路とまでは言わないが、そこそこ複雑な道をしている。
しかしこの俺はもう既に対策済みなのだ!!
右手を壁につけたまま進んできたため、戻る時は曲がり道を左に曲がればいいだけという素晴らしい攻略法を利用した俺の前には、どんなダンジョンも目じゃないぜ!!
そんなことを考えながら道に従い、右に曲がろうとしたときだった。
なんとなく気配のようなものを感じた俺は身を隠した。
バレない程度に顔だけ出して見てみると、そこには緑色の肌をした小柄な人間がいた。
いや、人間じゃない。人間は額に角なんてない。
角と言っても小さな突起があるだけだが、それでも人間とは言えない。
そう、ゴブリンだ。あのRPGでお馴染みの、ゴブリンさんだ。
今までゲームで散々お世話になってきた、超初級モンスターゴブリンさんだ。
これは偏見だが、ゲームをプレイしているときのゴブリンへのイメージは、こんな感じだと思う。
Lv1~20 以外と強敵………!!
Lv21~50 レベルアップに必要な経験値の足しにしてやるぜ!!
Lv51~80 経験値少ねーし、戦う時間が無駄。
Lv81~ ん? こんなヤツいたっけ? あーそういえばいた気がする。まあいいや、とりあえず倒そ。
だいたいこんな感じではなかろうか?
そう考えたらなんだかゴブリンが哀れに思えてきた。
と、そんなゴブリンさんが今、目の前にいるわけだが………
俺の視線がゴブリンの手に持っているものへと吸い寄せられる。
ん? 何あれ?
何であんな物騒なもんをゴブリンさんが持ってんの?
ゴブリンの手に握られていたのは、切れ味の良さそうな長剣だった。
日本で平凡な生活を送ってきた俺は、当然剣なんてアニメや漫画などのフィクションでしか見たことがなく、実際に目の前にしてみると恐怖を感じる。
しかも、小学生くらいのゴブリンが1メートル近くの剣を持つと、更にゴブリンが強そうに見えてくる。
幸い、ゴブリンはこちらに気づいていないようなので、さっさと退散しよう。
そろーりそろーり。
バッとゴブリンがこちらのほうを向く。
はぁ!? 何で音鳴ってないのに分かるんだよ!!
だんだんと足音が近づいてくる。
どどどど、どうしよう。
走ったら完全に俺のことバレるよなぁ………
いや待て。
全力で走れば追い付けないんじゃないか? 足短いし。
そうと決まればさっさと逃げよう。
そして俺は、今までで一番のスタートダッシュを切り、全力で逃げ出した。