第十話 男か美女かの違い
「んぅ……ぅう………ん?」
なんとなく頬付近に違和感を感じ、自身の身体に再起動を命じる。
意識を強引に覚醒させようとしていると、後頭部の少し硬さのある微妙な柔らかさに気付く。
俺は柔らかすぎる枕が嫌いなため、個人的にはちょうどいい柔らかさなのだが家の枕とは違う。
では今俺の頭の下にあるものはなんなのだろうか。
そんなことを思案しながら目を開くと、その視線の先には見慣れた顔が。
「………お前何してんの?」
自称肉体を失った天使に問う。
その質問は今この状況についてだった。
今の自分の状態は分かったが、どういった経緯でこのような状況に至ったのかがどうしても分からない。
『えーっと………嫌、だった?』
「これを美少女にされてたら大喜びしてただろうさ………だがな、自分の分身にされても嬉しさなんて微塵も感じないし、むしろ殺意が湧いてくるよ!!」
『えっ、なんで? 男の人だったら喜んでくれるって聞いてたんだけど………』
「だーかーら、美少女姿のお前からされるんなら喜んでたかもしれないけど、相手が自分だぞ!? 喜ぶわけないだろ!?」
『で、でも膝枕だから、喜んでくれるかなぁって思って………』
「膝枕だぞ!? その気持ちはありがたいが、男同士の、それも自分とだぞ!?」
『………気を失ってる時にされたら感謝してくれるかなって思いました』
「そりゃあ感謝してるよ。でも、自分がそれを受けた時にどう感じるか考えてから行動に移してくれ!! いいな!!」
『………ハイ、ごめんなさい………』
ふぅ、いかんいかん。つい動揺して大声を出してしまった。
……というか今気付いたが、なんかセフィアがしおらしくなってないか?
最初のほうは気の強いお嬢様みたいなイメージだったのだが……今のセフィアはなんというか、つい守ってあげたくなるような、気の弱い後輩みたいな雰囲気を醸し出している。
いつからそっち方面にシフトチェンジしたんだ!?
可愛らしいセフィア………いやいやいや、セフィアは気が強いからこそセフィアなんだ、うん。
やはり明らかにセフィアが異常事態だ。
い、い、一体どうしたんだ、セフィア!?
「ど、どうしたセフィア? なんかいつもと違う気が………」
『大丈夫、気のせいよ』
「あ、そう? ならいいんだけど……」
いきなり戻ったな、お嬢様な感じに。
それにしても、あの気の弱いセフィアはなんだったのだろう。
……これ以上、この話は止めよう。
………で、話を変えるが、結局あれはどういうことなんだ、セフィア?
何度も何度も止めたのに、何故それを無視して俺を殴り続けたんだ?
『あ、あれはレンが本気で戦わないからでしょ!! そりゃあいきなり襲い掛かった私も悪いと思うけど、気を失ったのは手加減したレンが悪いと思うわ!!』
は?
本気で戦わない? 手加減した?
一体何の話をしているんだお前は。
俺は本気だったし、手加減をした覚えなんて一片たりともない!!
『嘘つかないで。どう考えても貴方は本気を出していなかったわ!!』
いや、嘘じゃないって!!
どんな勘違いをしたらそうなるんだ!?
『勘違い!? 私が間違ってるって言いたいの!?』
そう言ってんだろーが!!
俺は特に取り柄のない普通の16歳の人間なんだよ!!
『もう私と契約した時点で普通の人間じゃないわよ!!』
確かに!!
………いや、論破されてどうする、俺!!
ん?
契約って単語で思い出したが、確か契約したら多大な恩恵を受けることができるんだっけ?
『ええそうよ、だからあなたは気を失うはずがないのよ!!』
ちょ、ちょっと待って………その恩恵って何?
転生前の肉体と全く変化がないように感じるんだけど。
え、恩恵ってまさか自分がピンチの時にしか発動しない特殊スキル的なモノなの?
『いえ、私の場合はステータスの能力値が全体的に強化されるんだけど………』
………ってことは自分のパワーとかスピードとかが上がったってこと?
んー、実感が全く湧かないんだよなぁ。
ちなみにその強化って具体的にどれくらい?
『前のステータスがこんな感じ』
―――◆―――◆―――◆―――
個体名:花園蓮 Lv.1
種族 :人間 年齢:16
攻撃力 :13
耐久力 :10
敏捷 :26
器用 :15
魔法効果:0
魔法抵抗:0
魔力 :0
スキル:〈〉
加護 :〈〉
―――◆―――◆―――◆―――
『で、今のステータスがこれ』
―――◆―――◆―――◆―――
個体名:花園蓮 Lv.1
種族 :人間 年齢:16
攻撃力 :503(+490)
耐久力 :452(+442)
敏捷 :609(+583)
器用 :537(+522)
魔法効果:531(+531)
魔法抵抗:512(+512)
魔力 :550(+550)
スキル:〈念話〉〈威圧〉〈分身体〉
加護 :〈大天使の加護〉
―――◆―――◆―――◆―――
………いやナニコレ?
このステータス、壊れてないか?
ステータスは小説とか漫画で飽きるほど見てきたが、改めて自分の身体能力を数値化されると全然実感がわかないな。
しかも大体10前後だった能力値が500近くになったとか言われたら、なおのこと分かりづらい。
『ちなみにこの世界でLv.1の人間のステータスがこんな感じよ』
―――◆―――◆―――◆―――
種族 :人間 Lv.1
攻撃力 :20
耐久力 :20
敏捷 :20
器用 :20
魔法効果:15
魔法抵抗:15
魔力 :25
スキル:〈――〉〈――〉
加護 :〈〉
―――◆―――◆―――◆―――
………え?
いや、転生前の俺がこの世界の人間よりステータスが低いってのは分かったけど………え?
なんか大幅に上をいってるんだけど。
こ、これ大丈夫なの?
やりすぎじゃない?
『ここは世界最大のダンジョンよ? このステータスでも足りないくらいだわ』
ま……マジすか…………
………この可能性はないと思いたいけど、もうレベルアップしてもステータスが上がらないとか、そんなんじゃないよね?
『え? いや普通にステータスも上がるけど………』
よかったぁ。
恩恵の代償がステータスが上がらないとかだったらどうしようかと思った。
でも常人離れしたこのステータスでも、このダンジョンでは厳しいんだよな?
『そうね』
よし、じゃあまずは、レベル上げをしよう!!