ラーメンが好き過ぎる男
「またっラーメン?!」
彼の言葉に唖然として立ち尽くす。
「外食ならやっぱコレしかないでしょ!」
いつもじゃんか!
あんたとラーメン以外の外食した事ないじゃん!
いつものように、調べたという有名なラーメン店へと連れて行かれる。
ラーメンは嫌いじゃないけどさ……もっとオシャレなパスタ屋さんとか行きたいのにな。
なんて思いながら、ラーメン屋の暖簾をくぐった。
私の隣ではいつものラーメントークが始まる。
「やっぱラーメンは醤油だよな!それで固めのちぢれ麺!チャーシューとメンマと味玉とのりがのっててさ!」
いつも聞いてるけど、醤油ラーメンってだいたいそんなトッピングですけどっ!
「熱々がやっぱいいよなー」
はい、だいたい熱々だと思うけどっ!
回転椅子をくるくる半回転させ、口を尖らせながら待ちきれない様子だ。
私の事なんて見向きもしてない。
「ねぇ、私、今日雰囲気違くない?」
ん?とこちらに目をやり、ジーッと見つめるが首を傾げている。
アイシャドウを変えて、髪も巻いているというのに気付かないらしい。
せっかくデートだからってオシャレして来たのに……きっとラーメンの湯気でアイシャドウなんて消えてしまうだろう。
「もう、いいわ……」
私は大きな溜息をついた。
「いつもラーメン食べるんだから、そんなに濃いメイクしてこなくてもいいじゃん?」
私はその言葉を聞いて、一気に頭に血が上り沸騰したかのように激怒した!
「あんたって言う奴は何でいつもそんなんなの!ラーメン、ラーメンって、その言葉しか知らないのか!バカの一つ覚えみたいにぬかしやがって!」
彼は来たラーメンに見向きもせず、呆気にとられて目が点になっている。
「そんなにラーメンが好きだったら……
ラーメンと結婚でもしたら?!」
私はそう捨て台詞を残し、店を勢いよく出て行った。
背中からは「ラーメンなんかと結婚出来るわけねぇだろ」とボソッと聞こえた気がした。
私は寒空の下、公園のブランコでおいおいと泣きじゃくる。ラーメンも食べてないからお腹も減ってるし、体もあったまっていない。
夕日が綺麗で余計に涙腺が緩む。
バカな事言ってしまったと思う。
ラーメンに嫉妬しても仕方ない。
でも、ラーメンと同じぐらい、いや、
それ以上に私を見て欲しかった。
カタン
彼が隣のブランコへと腰を掛ける。
汗だくだ。でもラーメンの麺が口元に付いている。バカだから食べてから来たのだろう。
「何よ、ラーメンと結婚するんじゃなかったの?」
「それが、人間とラーメンは結婚出来ないんだな。残念だけど」
「あっそ」
私はつま先でブランコを漕いだ。
「さっきラーメンを一人で食べながら思った。お前が隣に居ないと美味しくなかったんだ。あんなに好きなラーメンなのに。お前と一緒に食べるラーメンが好きだったんだ」
「ごめん」
彼は私の顔をやっと見てくれた。
「俺とこの先も……一緒にラーメンを食べてくれませんか?」
「うん……」
彼が自らのブランコを私のブランコへと引き寄せる。
ラーメンのスープの様な夕焼けをバックに……
私たちは口付けを交わした。
いつものラーメン味のキスだった。
終