しばし憩いの時を
あれから一ヶ月が経つ。
その間に元婚約者も現伯爵様のお怒りによって後継から外され勘当され、殿下と同じく間違っても外に出した後に子どもを作り伯爵家に害を持ち込まないようにと密かに断種を受け家から追い出されたのだそう。
断種までは流石に考えてはなかったけれど、表向き病死とされて内密に処理されるのとどちらがマシだったのだろうか。
私にこの情報を齎してきた少し口の悪い友人が、親の目がないことをいいことに少し行儀悪くティースプーンを振り回し元婚約者の末路を笑う。
「彼、最後まであなたが悪いんだって言い張ってたらしいわよ。他の人たちが自分たちの罪を認めて家の人や元々の婚約を結んでた方々に謝罪する意志を見せてたにも関わらず。一切反省の余地なし!しかもあなたは自分をまだ好きなはずだと寝言までほざいて。愛されるだけの行いもしてこなかったのに、本当に今更何を言うのかしらね。これだからあの男は嫌いよ」
彼が私にすべき最低限の礼儀も疎かにしていたことを彼女は知っているのだ。
それでこの軽蔑と発言。近くで控えていた侍女や護衛たちも止めず同意を示さんばかりの表情なのは我が家だからということにしたい。
私の味方ばかりだから許される。他でやれば流石に被害者といえどきっと眉を顰められるだろう。
私はお茶の入ったカップの表面に映る自分にと目を移しながら肩を竦めるに留めた。
「自分を中心に世界は回っている。女性たちは自身を愛して当然というような方でしたからね、昔から。私があっさりと引いたのも気に食わなかったんでしょう」
あの時の呆然とした顔も今ではいい記念になった。あの男ともう一生顔を合わせることもないのだから。
「でも去勢されて良かったわ。これであの勘違い男の被害に合う女性がいなくなるもの。それに子どももね。あの男とそっくりの子が生まれて育つなんてそんな恐ろしいこと、耐えられない」
「そこだけは同意ね」
辛辣な彼女に相槌を打てば自然と彼女と私が目を見合わせて、合図もなく同時にクスリと笑い声を立てた。