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緑色のあの子

作者: 佐藤 優空

私の知る彼女は、いつも緑をまとっていた。洋服も頭からつま先までのアイテム一つ一つに必ずどこか緑が入っている。手荷物もほとんどが緑で、気づけば呼び名もミドリちゃんになっていた。そんな彼女は、周りに何を言われようと気にした様子もなく、本名とは関係の無いミドリちゃんという呼び方にも平然と答え、いつしかそんな様子が当たり前になっていた。

「なんで緑なの」

 一度だけ、気になって彼女に聞いたことがある。そんな質問に彼女はじっとこちらを見たまま答えない。他の話をしている時は饒舌に話すくせに、自分の話になると黙り込むのも彼女を知る人間からすれば“当たり前”の一つだった。

「なんで緑なの」

「あんただって緑の物もってんでしょ。なんで持ってんの」

 もう一度聞けばそんな返答が返ってくる。質問を質問で返されたことに腹が立ってもう一度私は言う。

「なんで緑なの」

「そんな珍しい色じゃないでしょ。たまたまいるんだもん。緑が」

 別に緑を持っていることを怒ったわけではないはずが、お互いに喧嘩腰になってしまったせいでそれからの会話は続かなかった。何故だか私は納得がいかずに彼女を見つめ続けていたことだけは強く印象に残っている。その日はちょうど小学校四年生最期の放課後で、それから卒業まで彼女とは話すこともなく、私が入学した中学校に彼女の姿はなかった。

 そんなことがあってずいぶんと経ってからそのミドリちゃんと偶然、地元の駅で会うことがあった。お互いに大学生になっていて、私は全く気付かなかったと言うのにミドリちゃんは当時と変わらない明るい口調で話しかけてくれた。今まで話さないでいたことが嘘のように会話が続いた中でふと、私は当時のあの質問がよみがえってきたのである。

「なんで緑なの」

 私はなぜか緊張していたらしく無意識に唇をなめていた。口の中も外も乾いていくような嫌な気持ち悪さが広がっていく。それに対して彼女は少しキョトンとしてから困ったように笑った。

「おばあちゃんがね、初めて作ってくれたワンピースが緑色だったの」

 それだけ。と付け足すように言って、申し訳なさそうに笑った彼女の洋服や手荷物には一つも緑がないことに今更気づいて小さくごめんと呟いていた。

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