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その時歴史が動いた!

 魔王城を震わせる爆発音が響いた。

 各部屋で戦いを繰り広げていた勇者一行と四天王たちはただならぬ気配を感じ取り、急ぎ、魔王の部屋に(つど)う。



「勇者!」

「魔王様!」


 彼らが部屋に飛び込むと、部屋のあちらこちらに炎が広がり、魔道具が壊れて生まれた魔力片が空中を漂っていた。


 勇者と魔王はステンドグラスを突き破り、その先にある巨大なテラスの上に立ち、互いに剣を持って対峙している。


 仲間たちが彼らに近づこうとする。

 だが、二人は大声を張り上げて、皆の足を止めた。


「来るんじゃねぇ!!」

「来るな!!」


「え?」


「これは俺と魔王の戦い!」

「貴様たちの出る幕ではないわ!!」


 二人の腹部は真っ赤に染め上がり、その赤は額からも流れ落ちる。

 肩で息を切らす姿は、まさに満身創痍。


 仲間たちは二人の姿に、言葉を失った。

 その様子を見て、しめしめと二人は笑う。


「ふふ、どうやら、塗料を血だと思い込んだようだ」

「フッ、魔道具の魔力片をまき散らし魔力を感じ取れにくくしているから、何とか体裁は整ったな」

「よし、この勢いで続けるぞ」

「わかった」


 二人は一度剣を合わせてから後ろへと下がった。

 LV1のためその動きはとても緩慢であったが、全身傷だらけの様子を見て、仲間たちはもう動くことが限界なのだと感じ取る。


 たまらず、女法術士が飛び出そうとするが、勇者が慌てて止めに入る。



「勇者様っ!」

「こ、こら、来るな!」

「で、でも!?」

「これは俺と魔王の戦いだと言っただろう!」

「ですがっ!」

「俺たちの魔力は尽きかけ、もはやまともに戦えない! だが! この剣を握り締められる限り、戦いを続ける!」


 この言葉に、女魔導士が叫び声をぶつけた。

「何、馬鹿なこと言ってんの? あんたが死んだら、この戦いの意味なんてないでしょう!!」

「そうだ、こんな戦いに意味なんてない!」

「え?」



 勇者は魔王に目配せをする。魔王は小さくコクリと頷く。


「見ろ、俺たちを! 血に塗れ、憎しみをぶつけ合う姿を。これが今の人間と魔族の姿だ! こんな恐ろしく醜い姿があるか!?」

「四天王よ。我らが目指した世界は、このような醜き世界の上に立つのか? そのような世界に意味があるのか!?」


 仲間と四天王は言葉の意味が理解できず、狼狽(うろた)えるのみ。

 さらに二人は、皆に言葉を投げかける。


「俺は魔族を憎んでいた。だが、魔王と剣で語り合う間に、共に同じ道を歩めるのではないのかと考え始めた」

「私も同じだ。私は人間を憎んでいた。だが、勇者と刃を交え、互いの心にある思いが、同じものであると確信した!」


「俺たちは平和を願っていたのだと!」

「私たちは平和を願っていたのだと!」



 二人の言葉を最後に、一時の静寂が訪れる。

 その静寂を女法術士が切り裂く。


「ならば、どうして、二人は殺し合いを続けるのですか!?」

「憎しみが止まらないからだ!」

「え……?」


「人間と魔族は互いに憎しみ合ってきた。その憎しみはそう簡単には消えない。だから、だから、だからっ! その憎しみを俺たちが背負う!」

「この我らの戦いを以って、全てに決着をつける! この愚かな戦いに!!」


 勇者と魔王は慈しみの宿る笑みを仲間たちに向ける。

「ふふ、なぁ、みんな。殺し合いよりも、共に手を取り合う方が素晴らしいと思わないか?」

「四天王よ。憎しみの炎を消す時が来たとは思わぬか?」


「勇者……」

「魔王様……」



 勇者と魔王は寂しく微笑む。


「だが、決着というものはつけないと……」

「この愚かな戦いを最後に、貴様たちには平和を歩んで欲しい……」

「さぁ魔王、最後の決着だ。みんな、さよなら!」

「ああ、望むところだ! 四天王よ、賢き選択を!」


 

――どりゃあぁあぁぁ!!



 二人の怒声が重なり合う。

 その言葉に、仲間たちの叫び声も重なるが、それは眩い閃光と激しい爆発音によってかき消されていった。

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