遺跡調査 - 2日目
森の中、遺跡前の拠点に到着しテントに入る。
家で作ってきたおにぎりと、レダさんの差し入れを渡すととても喜んでくれた。
案内する予定の魔道具の担当者さんはすでに到着していた。
「魔道具の研究をしているケレベルと申します。今日はよろしくお願いします」
ケレベルさんは眼鏡をかけた細身の男性だ。白衣を羽織っている。
髭は剃っているようだが、髪はぼさぼさで肌も色白と正に研究者という感じの人だった。
「お昼がまだなので食べてからで良いですか?」
「ええ、僕もまだなので構いませんよ」
ケレベルさんは町からお弁当を持って来ていたので、テントのテーブルでケレベルさんと昼食にすることにした。
すぐ出発していたら現地で食べる予定だったらしい。
おにぎりを食べながら、ケレベルさんの話を聞く。
ケレベルさんはガルディアの町で活動している研究者で、ギルドの職員というわけではないそうだ。
主に遺跡から発掘された物の研究をしていて、その一環で魔道具にも詳しいみたい。
「普段は小物の鑑定や調査をしています。現在、ガルディアで手の空いている魔道具の専門家は、僕しかいないので呼ばれてしまいました」
「小物ですか」
「ええ、最近は精神疲労を癒すお香や、濾したものが綺麗な水になる布などがありましたね」
どうやら鑑定のレンズでは武器や防具、アクセサリーといった装備以外は鑑定出来ないことも多いらしい。
また鑑定出来たとしても、その効果の内容が分からないときに実験することもあるとか。
そういえば魔法付与を試したときに粉塵耐性というのが付いたけど、結局なんだったか分からないままだ。
そういう効果も検証するのだろうか。
「粉塵耐性ですか? 粉塵を吸い込みにくくなる効果ですね。鱗粉などを巻き散らす魔物との戦いに使います」
試しに聞いてみたらすらすらと答えてくれた。
他にも分からない効果があったらケレベルさんに聞けば色々と教えてもらえるかもしれない。
◇
少し早い昼食後、遺跡に入る。
テントにいる間に、ドゥニさんのパーティは戻ってこなかった。
もう1つのパーティはギルドに緊急性の高い依頼が入ってしまったため、そちらを優先して貰うことにしたらしい。合流するのは数日後になるだろうとのことだ。
左の通路はもうほぼ完了していて、右も似たような造りじゃないかと思っている。正面通路次第だけど、調査に数日もかかるかな?
入り口から地下に降りると照明はついたままになっていた。まだ装置の魔力は残っているようだ。
そのまま左手の通路を進み、階段を上がって部屋に着いた。
照明もついているし、リルファナもいるしで護衛と言っても楽な仕事である。
「これが魔道具ですか……」
ケレベルさんがパネルや大きな魔石を見ると驚いて固まっていた。
鞄から筆記用具と紙、本を取り出すと装置を一周してからパネルを調べ始める。
「ふむ……、随分古い装置のようですね」
装置とパネルの接続方法や、パネルの表示などである程度の時代も分かるらしい。
そしてこの装置はヴィルティリア文明か、その次の文明の物だろうと結論付けた。
「これは何でしょう。『魔力』……」
「魔力の補充ボタンですね」
「ああ、そういえば古代語も読めるのでしたね」
ケレベルさんは、わたしたちには何も言わずにパネルに表示されるボタンを見ながら辞書を片手に調べていた。
わたしが読めることを忘れていたのかな?
どうやら、魔道具の専門であるケレベルさんでも辞書が必要なぐらいだから、わたしがそんなにすらすらと読めるとは思っていなかったみたい。
その後からは、ちょくちょく聞かれるようになった。特にヘルプ欄はすべての項目の説明が見れるので長文だらけだ。
翻訳してくれて助かったとお礼を言われた。
魔力の残量は19%になっていることを確認。
小数点以下がどうなってるのか分からないが、少なくとも20日は持つようだ。
「その若さでC級冒険者だけでなく古代語まで勉強してらっしゃるとはすごいですね」
「たまたまですけどね」
神様に物のついでのように教えてもらっただけだからね……。
「ついでのように」というか本当についでだった気もするけど。
「読めそうなものを集めたよ」
「あまり多くありませんけど」
クレアとリルファナは周囲の机や棚を調べていたが、文字が残っている書類を集めていたようだ。
ほとんどが風化してしまっているので多くは無い。
「この時代の紙は風化してしまっていることが多いんですよね。これでも随分残っていたほうだと思います。ありがとう」
ランタンの油、半分ぐらいでケレベルさんの調査が終わったようだ。照明はあるがいつ切れるかも分からなかったし、時間の計測も出来るのでランタンは灯しっぱなしにしている。
ケレベルさんは装置の他のボタンの使い方を調べたり、装置自体の大きさなども測っていた。
「とりあえずここで出来ることはこれぐらいかな。翻訳して貰えたので思っていたより早く終わりましたね。戻りましょう」
「分かりました」
◇
一度、テントまで戻って報告をする。
ケレベルさんは、数日はここで調査内容をまとめながら泊まるそうだ。追加の調査が必要そうなら、また護衛を頼むとのこと。
うーん、探索を続けるにも町に帰るにも時間が微妙だ。
「ドゥニさんたちのパーティは、午後は補給に戻るとのことで町に戻りました。並んだ部屋は全て確認済みで、その奥は左手通路と同じような造りだそうです」
「左右は同じですかね」
「多分そうなっていそうですね。そちらの確認に行きますか?」
「良いんですか?」
ギルドの指示とはいえ、他のパーティが探索していた場所を調べても良いのだろうか。
「ええ、ミーナさんたちが早めに戻ったら先を調べるかもしれないとは伝えてはありますので」
確認してあるなら大丈夫そうかな。
「それなら、少し調べてきますね」
「よろしくお願いします」
その後、右手通路の奥まで行くと扉と階段があった。
完全に左右対称の造りになっているようだ。
「こちらには何もいないようですの」
「その方が楽でいいよ、リルファナちゃん」
「そうですわね」
扉を開けると、反対側と同じように大きな部屋だ。足元は石造りの通路と同じ。
何もいないようだし、さっさと照明をつける。
壁と同じ素材で出来た長いテーブルと椅子がたくさん並んでいた。
部屋の奥には、仕切られた場所があった。わたしには調理スペースのように見える。
「食堂みたいかな?」
「ええ、そうでないならグループで行う作業用の部屋かもしれませんわね」
いくつか箱型の魔道具らしきものが残っていたので回収していくことにした。
ケレベルさんに見せれば何か分かるかもしれないし、分からないなら調べてくれるだろう。こっちの方が専門みたいだし。
2階に上がると、やはり同じように1部屋だけあった。
「こっちにも魔石があったりするかな?」
「うーん……、動力源が独立していたらありえるけど、照明がこっちの通路も一緒みたいだからどうだろう」
扉をあけると、魔石のあった部屋と同じぐらいの大きさだ。
左の通路と右の通路は、完全に左右対称になっているようだね。
部屋の中央にテーブルと椅子があり、端に並ぶ小さい机のいくつかにはパネルが設置されていた。
パネルは壊れてしまっているのか、触れても反応が無いものが多い。それでも、いくつかは反応があった。
データの呼び出しや、保存といった内容が並んでいる。
呼び出せるデータのタイトル一覧には、この遺跡の地図やサバイバル知識、室内で可能な娯楽関係についてなど様々な分野があるが、試しに呼び出そうとするとエラーが出た。
元のデータが壊れているか、接続出来ないようだ。簡易的なパソコンといった感じかな。
「事務室かな」
「会議室とか、そんな感じじゃないかな?」
「パネルは少ないですが、図書室っぽくも感じますわね」
この部屋には書類や魔道具は残っていないようなので、ざっと見回したあとはテントまで戻り報告した。
ケレベルさんが調べるものが増えたと目を回している。でも好きでやっている仕事なのだろう、楽しそうでもあった。
右の通路はあまり収穫は無かった気もする。
ただひとつ変な点があることにも気付けたから良しとしよう。