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遺跡調査 - 初日午後

 テントに戻っていた遺跡探索のパーティ。


 そこにいたのはスキンヘッドのひょろっとした一見やられ役としか思えない男だった。

 ギルドの講習後に掲示板を見ていたら声をかけてきた見かけとは大違いの実は紳士な男だ。


 相変わらず顔は怖い。クレアがわたしの後ろにこっそりと隠れた。


 横にいるのは杖を持った灰色のローブ姿で、杖で物理的にお約束(テンプレ)男を止めていた女性だ。

 フードは下ろしていて、こげ茶色の髪を肩にかからないぐらいの長さで切り揃えているのが分かった。


 他に2人いるが見覚えは無い。パーティメンバーなのだろう。

 金属鎧に片手槍、背が高くがっしりとした上半身が隠れてしまうぐらいの大盾を背負っている男と、革鎧をまとい細剣レイピアを腰に吊るしたエルフの女性だ。


「あ、ミーナさんたちも戻ったのですね。こちらのパーティから灯りが付いたと報告があったのですがそちらはどうでしたか?」

「それなんですけど、……ごめんなさい、わたしたちが原因です!」


 左の通路の先で装置を発見し、調べていたら遺跡内の照明がついたことを説明する。

 さすがに照明については誤魔化しようがないし、調査依頼なので嘘も言えないだろう。


 魔力の補充については、多分わたしとリルファナじゃないと出来ないので黙っておくことにした。

 ガルディアのギルドなら無いとは思うけど、遺跡の調査が終わってからも電池扱いで呼び出されたりしたらたまらない。


「お嬢ちゃんたち、あまり無闇に知らない装置に触れない方が良いぜ……」

「古代語で説明があったので、色々と調べてたんです」

「え! あなたたち古代語が読めるの?」

「完璧にではありませんけど……」


 古代語の文字を見ると勝手に翻訳されるので人に教えたりするのは難しい。適当に濁しておく方が良いだろう。


「なるほどなるほど」


 ギルドの職員はわたしたちの話を聞いてメモを取っている。

 わたしたちのパーティとしての報告は、部屋の数、奥の休憩所のような部屋、装置の部屋について説明した。


 右の通路を調べていた4人は、やはり手前から調べていて30部屋ほど調べ終わったところだそうだ。こちらと同じような造りなら半分だ。

 リルファナのように気配が読めないことと、この遺跡の役目に見当が付いていないせいか随分かかっているみたい。


「おっと、そういえばパーティの顔合わせは初めてでしたよね? 一区切りついたので自己紹介しておくと良いでしょう」


 ギルドの職員に促され、そういえば自己紹介もしていなかったなとお互いに名乗ることにした。


「俺はギヨーム。ガルディア出身だ。よろしくな」

「ネリィよ。初心者っぽいからギヨームが声をかけたのにC級だったなんて、意外とベテランだったのね」


 お約束(テンプレ)男と、ローブの女性が名乗った。


 あの時は正真正銘の駆け出し(E級)でした……。


「ドゥニと言う。一応このパーティのリーダーをしている」

「アムディナ。ガルディア出身のハーフエルフ」


 背の高い男とエルフ、ではなくハーフエルフの女性も名乗る。たしかに服屋の店員さんに比べると耳が短い。


「ミーナです。フェルド村の出身です」

「クレアです。ミーナお姉ちゃんの妹です」

「リルファナと申しますわ」


 リルファナが戦闘用仕立てのメイド服でカーテシーをすると、ドゥニさんたちが息を呑んだ。

 『隷属の首輪(ブレスレット)』が見えたのか、仕草から貴族だと分かったのかもしれない。


 あれ? もし両方だとすると貴族を奴隷にしているわたしは何なんだって話にならない?


 ……気にしないでおこう。



 折角だしお昼を一緒に食べようと誘われたのでテントで昼食になった。


 ネリィさんはトレンマ村の出身、ドゥニさんはアルジーネの出身だと聞いた。アルジーネはガルディアの西の町だね。


 アルジーネにも冒険者ギルドはあるけど、ガルディアの町の方が駆け出しに対するサポートが良いということを聞いて、わざわざガルディアまで来たそうだ。そのときにレダさんにお世話になったので、そのままガルディアで活動しているらしい。


 わたしたちの話は、フェルド村から出てきてガルディアで活動を始め、最近C級になったということを伝えた。

 冒険者は素性や能力などを詮索するようなことはしないのが礼儀とされている。そのおかげか細かいことは聞かれなかった。


「さて、そろそろ仕事に戻るかね」


 一息ついたところでギヨームさんが席を立つと、他の3人も手馴れた様子で準備を始めた。

 その様子に気付いたのか、ギルドの事務員が話しかけてくる。


「明日、魔道具マジックアイテムの担当者を呼びますので、ミーナさんたちの見つけた装置の場所まで、その担当者を連れていってもらえませんか?」

「構いませんけど、古代語の通訳もですか?」

「ある程度は読めると思いますが、可能でしたらお願いしたいです」

「分かりました。今日は残っている部屋を調べれば良いですか?」

「そうですねえ……。他の部屋と違うかどうかの確認だけお願いします」


 避難所シェルターの可能性が高いのではないかと報告したためか、個室の重要度は下がったようだ。

 何かあるかもしれないので、確認だけは済ませておこうという感じだろう。


 わたしたちが入った階層には動力がきていないのか、そもそも照明が無いのか暗いままだ。

 だけど、階段を下りたところからは照明がついているので歩きやすくなっている。


 個室は暗いままだったが、ドア横の透明な板に触れることで照明がつけられることに気付いた。

 ドアを開ける、照明をつける、内装を確認する、照明を消す、ドアを閉める。これを残りの57部屋分繰り返して確認していく。


 机や壁の一角が剥がれたような状態になっている部屋もあったが、穴が空いているわけでもなく特に問題は無さそうだった。


 テントに戻る頃には、夕方になっていた。ほとんど部屋の開け閉めしているだけだったが、随分と時間が経ってしまったようだ。


 遅い時間とはいえ野営するにも微妙だし、報告後は町に帰ることにした。

 テントの職員に「戻るのは構わないけれど、町に着くのは遅い時間になりますよ」と言われたけれど、3人なら普通の人よりも移動が速いので2時間ぐらいで着くだろう。


 明日の昼過ぎに担当者が来るそうなので、それまでにテントに戻っていれば良いそうだ。


 雑用係をしている職員も戻ってきていたので挨拶だけしてテントを出る。ほんわかしたような雰囲気の女性だった。

 そして帰り道の途中、2人に装置のところで妖精のようなものを見たと話した。


「あの魔力の塊が妖精だったの?」

「わたくしには探知出来ませんでしたけれど、妖精なら可能性はあるかもしれませんわね」


 リルファナは妖精について何か知っているようだ。


「妖精は自分が気に入った者の前にしか姿を現しませんの。魔力だけでも気付いたクレア様はすごいと思いますわ。……それと魔法戦士絡みのクエストで妖精からの依頼があると聞いたことがありますわ」


 後半はわたしにだけ聞こえるように呟いた。

 リルファナに褒められて「そうなんだ」とクレアが笑顔だ。


 そう言われてみると、確かに妖精から受けるクエストがあった。


 野外フィールドで、妖精から声をかけられて色々とこなしているうちに仲良くなるようなクエストだったはずだ。最終的に妖精の国へ招待されるらしいけど、わたしはそこまでは進んでいなかった。


 魔法戦士のクエストではなく、ランダム発生系のクエストだと思っていたので、自分から妖精を探すことはなかったのだ。

 クエストに出てくる妖精は普通に言葉をしゃべっていたはずなんだけど、ゲームだったからかな。


 ゲームと同じ世界ではないってカルファブロ様も言っていたからね。


 また妖精と出会うことがあれば何とかコミュニケーションをとってみたい。


 町に着くと午後3の鐘が鳴るよりは前のようだった。

 東門近くにある定食屋で夕飯を済ませて家に帰る。


「お姉ちゃん、明日はゆっくりで良いんだよね。ゲームやろうよ」


 明日は装置まで案内するので昼前に遺跡へ向かえば良い。

 クレアがボードゲームを持って来たので、3人で少し遊んでから就寝となった。


 案内のあとは別の通路か、休憩所の開いた穴の先の調査を頼まれるだろう。



 ――翌日。


 午前は家でゆっくりしてお昼前ぐらいに拠点のテントに着くように町を出ることにした。

 テントで昼食にしてから遺跡に入れるように、おにぎりを作った。テント勤務の人たちはあまり町に戻らないようだったので差し入れがてらに多めに作ってしまったけど、足りるかな。


 家を出る前におにぎりを作っていると、今日の早朝にテントから戻ってきた人にわたしたちが家に戻ったと聞いたそうで、レダさんが家までやってきた。


「おはよう。初日から随分活躍しているようさね」

「おはようございます。たまたま装置があっただけですよ」

「運も実力の内さ。特に冒険者はね。1個いただいても良いかね?」


 レダさんがたくさん並んだおにぎりを見ている。


 まだ朝ごはんを食べていないのだろうか。それとも早めのお昼にするつもりかもしれない。


「テントへの差し入れ用も兼ねているのでいいですよ」

「ああ、そうかい。ついでにこれを持って行って貰おうかと思ってね」


 レダさんは菓子パンなどのお菓子がたくさん入った袋を出す。レダさんもテントへの差し入れを考えていたらしい。


 袋をテーブルに置くとおにぎりを1つ取って食べはじめた。


「むむ……。これは、何が入ってんだい?」

「醤油につけたフィウメパラミタの粉を一緒に握っているんです」


 簡単に言えばおかかのおにぎりだ。


「なるほどね。具を入れるのは知っていたけど、そんな方法もあるんさね」


 レダさんは、なかなか奥深い料理さねと一人呟いていた。


 そんなたいそうな物ではない。ただのおにぎりである。


 クレアとリルファナも準備が出来たようでやってきた。


「お姉ちゃん、準備出来たよ。あ、レダさん来てたんだ」

「ああ、ちょっと拠点まで荷物を持って行って貰おうかと思ってね。もう出るなら鍵はかけておくから出掛けていいよ」


 そう言いながら2つ目のおにぎりを確保して椅子に座った。


 おにぎりを弁当箱に入れてマジックバッグにしまい、お言葉に甘えて家を出ることにする。

 レダさん用に水を汲んで、もう2つほどおにぎりを残しておいた。


「いってらっしゃい」


 3人でいってきますと返して森の拠点へと出発した。

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