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森の探索

 3人で依頼を探しにギルドにやってきた。

 いつものように混雑を避けて少し空いてから依頼の貼られた掲示板を見ている。


「討伐依頼を受けて、ついでに採取依頼も出来るのが理想かな」

「うーん」


 採取依頼は、常在依頼でなかったとしても受注処理をせずに、先に採取をしてきて受注と素材の受け渡しをまとめて行うという手がある。

 その間に依頼を他の人に取られてしまう可能性はあるが、採取出来なくて失敗というリスクが無くなるし、普通の素材として買い取ってもらえば良いので素材が全部無駄になることもない。


 同じようなことを考える冒険者も多いようで、採取依頼のほとんどは依頼書が貼られっぱなしになっていることが多いようだ。

 尚、ギルド側としては受注のタイミングは自由だが、依頼書を最初に受注をしたパーティに優先権があり、それ以外の人はとやかく言う権利はないというスタンスをとっているとのこと。


 討伐依頼も素材の回収であれば同じことが出来るのだが、何故かそうする冒険者はあまりいない。


 同じ目的のパーティが狩場でかち合ってしまうと、効率や達成率が一気に落ちるからだそうだ。

 それと同じ理由で、希少価値の高いものを採取する必要のある採取依頼は先に受注してしまうのが基本らしい。


 掲示板を眺めつつどんな依頼が受けたいか考える。

 西門から先のクエストは何度か受注したので、わたし個人としては北か東へ行ってみたいかな。


 該当しそうなのは『灰色熊の討伐』『小悪魔インプの討伐』の2つ。どちらもミニエイナに行くために通った東の街道より北側の森に生息するようだ。


 灰色熊は名前の通り、体毛が灰色の熊。セブクロでのレベルは20ぐらいと今まで戦った敵に比べると結構強めではある。

 この依頼は熊の胆(くまのい)の素材が欲しいという依頼。熊の胆(くまのい)とは、熊の胆のうを乾燥させた薬のことだ。ついでに毛皮なども買い取るとのこと。


 小悪魔インプは、背丈は幼児ぐらいと小さく、翼が生えた悪魔だ。赤色や緑色をしていることが多いが、体色も強さも地域によって差がある。


 見た目から魔神のしもべと呼ばれることもあるが、小悪魔インプはヴィルトアーリに生息している生物だったはず。セブクロでは、基本的に敵対的アクティブなので襲い掛かってくるが、一部の小悪魔インプは友好的に接してくる者もいた。


 小悪魔インプのレベルは地域ごとに差があって15程度の下級から100以上の上級まで幅広い。


 この辺りの小悪魔インプはD級依頼に貼られているので下級なのだろう。この依頼は常在依頼になっている。

 最近、目撃件数が増えているようで数を減らす目的のようだ。討伐証明は角か牙だけ持って来れば良いらしい。


 灰色熊の依頼はD級にしてはやや強めの魔物なので残っていたような気がする。


「お姉ちゃん、灰色熊か小悪魔インプにするの?」


 わたしが真剣に内容を読んでいたのでクレアは察したらしい。


「うん、その辺りがいいかなって」

「そうすると森だから採取は薬草か樹皮かな?」

「樹液の採取というのもありますわね」


 これらの素材は薬品か木工関係の生産に使われるものが多い。

 専用の道具もあるのだろうけれど、樹皮も樹液もナイフで削れば集めることが出来る。


「他に何か良さそうな依頼はあった?」

「うーん、前に倒した蟹の依頼もあったけど」


 足長蟹ロングレッグクラブの討伐はE級依頼でこなした依頼だが、指定数が多いからかD級依頼として貼られているものがあった。


「綿も集めるなら悪くないですけれど、また同じ依頼になってしまいますわね」

「やっぱり灰色熊にしようか」


 灰色熊の依頼書を剥がして受付に持って行く。


「この依頼はD級にしては魔物が強く難易度が高いですけれど……、いえ、大丈夫そうですね。失礼しました」


 受注処理をしてくれた受付の女性が、言いかけた途中で見事に手のひらを返した。

 多分、途中でわたしたちのギルドカードの裏書を見たんだろうね。



 広場でお弁当を買ったら東門から町を出る。

 街道を少し歩いて森の中へと入っていく。森への入り口付近には、踏みしめられた土の道が街道の北の森へと続いている。


 南へ入る道は見当たらないことから、ほとんど立ち入られないようだ。

 魔物も少なく、フェルド村まで来る冒険者を見たことが無いので冒険者としては街道から南側へ入っても旨みが無いのだろう。


 この辺りは、フェルド村から見れば北の森の先なので雰囲気や植生は似ているように感じる。しかし、時々見かけたことの無い植物が生えている。


「灰色熊は1頭か2頭でいることが多くて、小悪魔インプは3体以上かな」

「そう思って探してみますわ」


 本の知識ではなくセブクロの知識だ。

 合ってるかは分からないけれど、さすがにリルファナもそれぐらいは分かっているだろう。


 付け加えるなら小悪魔インプは崩れた遺跡といった人工物の付近にいることが多かった。現実になった今だと空腹で動くことも多いだろうから、そこまでは役に立たない知識だろうけど。


 魔物の探知はリルファナに任せて、目的の薬草や樹皮が無いか辺りを見回しながら歩く。


 探している薬草は前にも集めたアロの葉。

 他の薬草の採取依頼は無かったけど、リルファナがポーションに加工出来るし、ギルドで買い取りもしているで見つけた分は採集しておいて損は無い。


 樹皮と樹液はウェッブという木のものだ。


 ウェッブの木は、黒っぽさのある紺色がかった色。なんとなく青みがかった程度のハシュガーナの木よりもはっきりとした色なので、この辺りでは目立つ。

 木材というよりも樹皮や樹液、葉、芽が主に薬の素材として使われるようだ。


「あそこにウェッブの木があるね」

「図鑑で見るよりも目立つ色ですのね」


 本屋で買った図鑑はカラーも入っているけど、全体的にくすんだ色な気がした。印刷の影響か、インクの品質なのか分からないけどね。


 ウェッブの樹液は簡単に採取出来る。

 まずは樹皮を確保するために薄く樹皮だけを削り取る。その後、もう少し木に傷をつけると自然と染み出してくるのだ。


 この樹液は、空気に触れて固まる性質を持っているので少し待つだけで手で剥がして取ることが出来るようになる。

 湯煎などで温めれば液体に戻るようなので、固体のままギルドへ持ち込めば良いらしい。


 ウェッブの木が何本かまとまっていたので、少し時間を取って3人で樹皮と樹液を集めた。


「何かが複数いますわね」


 リルファナが何か見つけたようだ。複数だと小悪魔インプだろうか。


 3人で木々の間をこっそりと近付いていくと、大型犬ぐらいの大きさのリスが3匹、固まってごそごそと何かしていた。どうやら穴を掘っているようだ。リスの近くには木の実の山が出来ている。


「お姉ちゃん、ワイルドスクイレルだ」


 セブクロにはいなかった魔物だが、魔物図鑑には載っていた。

 単純に大きなリスで、こちらから手を出さなければ人を襲うことは無い。図鑑にも魔物というよりは野生動物だという注釈もあった気がする。


 習性もリスとほぼ同じようで、集めてきた木の実を貯蔵するために穴を掘っているのだろう。地球のリスは冬眠する前に行うのだけど。


「そっとしておこうか」

「うん」

「そうですわね」


 習性なのかよく分からないが、尻尾をゆらゆらと揺らしていた。大きくなっても仕草などは変わらないので見ている分には可愛い。

 特にリスに用事は無いので遠くからしばらく見守ったあと、ほっこりとした気持ちでそっと立ち去ることにした。


「あそこの穴の中に何かいますわね」


 しばらく森の中を歩くと小高く盛られた土があった。よく見ると一箇所だけ空洞になっているようで何かの巣の入り口のようにも見える。


「灰色熊……にしては小さすぎるね」

「ええ、野生の動物や魔物が掘る巣穴は、自分が通ることが出来るぎりぎりの大きさにするでしょう。先ほどのリスよりは大きいぐらいですわね」


 何か出てこないかと見ていると、タイミングよく何かがごそごそと動いているのが見えた。どうやら入り口を広げているようだ。

 穴を広げているような動きが止まると少し大きくなった入り口から、赤い体色で翼を持った子供のような外見の魔物が出てきた。


小悪魔インプ……?」


 出てきた小悪魔インプはきょろきょろと辺りを見回している。どこかに行くというわけではないようで、座り込んでしまった。


「……小悪魔インプが出てくるのは予想外でしたが、倒すチャンスではないかしら?」

「よし、倒そう」


 わたしたちは慌てて武器を手に取り戦闘態勢をとった。

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