隠し部屋
地図を見ながら気になったところへと移動する。先ほど採掘した場所の少し奥だ。
「この辺かな?」
「ただの横穴じゃないの、お姉ちゃん」
「何かありますの?」
最初は地図を見たときには何となく引っかかっただけだった。
何だっけと思い出してみると、セブクロをプレイしていたときに見つけた隠し部屋。地図の形がすごく似ているのだ。
洞窟であること以外に共通点はないし、たまたまだとは思うのだけどすぐ近くまで来たのなら行ってみたいと思うのがわたしだ。
この先は、通路が碁盤の目のように交差した道が連なっているのだが、一箇所だけずれた場所がある。
そこから東へ3つ移動、次の通路を左折して右手の壁の中が隠し部屋だったはずだ。
セブクロでは大陸中に謎解き要素があって、隠し部屋の発見もそのうちの1つだった。
これらの探索をメインにしていたプレイヤーは考古学者と呼ばれ、歴史などの世界観を補完するものや、新ダンジョンを発見したプレイヤーもいる。考古学者という呼び名はプレイヤーが勝手に呼んでいただけで公式のものではない。
そんな考古学者であるフレンドと一緒に発見者となり、新スキルを見つけ一財産築いたときに見つけた隠し部屋と全く同じ構造なので覚えていた。
ゲームでは壁にスイッチがあったのだけど、何も見つからないのでツルハシで掘ってみることに。
ざくざくと掘っていると、硬い手ごたえがしてツルハシが弾かれた。
「材質が違うようですわね」
どうやら見た目は石壁のような物で出来ているようだが、このツルハシでは壊すことが出来そうにない。ここに何かあるのは間違いない。
色々と調べてみたが、盗賊系上位の忍者の能力も引き継いでいるリルファナにも仕掛けがあるか分からないようだ。
この状態で放っておいたらいずれは誰かが見つけてしまうだろう。
「風剣!」
魔法剣という名前ではあるが、武器になら何にでも使うことが出来る。ということはツルハシにだって使うことは出来る。
ツルハシが石壁に刺さった。みしみしとヒビが広がっていく。これはいけそうだと何度も叩きつけていく。
「強引すぎませんこと?」
「お姉ちゃん……」
ゲームをやってると『仕掛けなんて無視してその扉や壁をぶち抜けばいいじゃん』と思うこともあるわけで、現実になった今ならそれを実行出来るのだ。
「もう一発!」
更にツルハシを振るうと石壁のヒビが大きくなりぼろぼろと崩れていく。1人分は通れそうな穴になったが、ビシッとツルハシから嫌な音が響いた。
魔法剣の魔力に耐え切れずついにツルハシも粉々になり持ち手の部分だけ残っている。
ツルハシは犠牲になったが必要なことだったのだ。あとで弁償だね……。
開通した入り口を通ると中は石壁に囲まれた部屋だった。目の前には下り階段、側面は両方とも小さな人工池のようになっていて、地下から水が湧き出ているようだ。付近は草や苔に覆われている。
「これ、闇草とソルジュ苔もありそうですわ」
「こんなにたくさん!」
きっと今まで誰も入ったことのない部屋だ。
リルファナとクレアが草と苔の採取を始めた。階段の方が気になるのはわたしだけなのだろうか……。
そわそわと底の見えない階段下を眺めていると、ある程度採取が終わったのかクレアとリルファナもこちらにやってきた。
「とりあえず依頼の分だけ集めたよ、お姉ちゃん」
「下に何かが1体いますが、動いていないようですわね」
3人でやや長い階段を慎重に下りていくと、大きな広間のような場所に出た。円形の部屋になっており、リルファナが言っていた魔物がいる。
プチキャノンを横に5倍、縦に3倍ほどのサイズにしたドーム状の機械だった。正面に主砲があるのは同じだが、更に小さい副砲が2つと後ろ側にも1つ付いているはずだ。その巨体を支えるためか脚のフレームも太くなり12本に増えている。
「ウルトラキャノン……」
「大規模戦闘のボスでしたかしら?」
「大きい……」
ウルトラキャノン、セブクロでは大規模戦闘に慣れるための低レベル向けの1つだ。レベル20程度とかなり弱く、特殊な攻撃もしてこないが適正レベルで行くととにかく硬く時間のかかる魔物だった。
まだこちらに反応してないけれど、このまま戦って魔法剣とリルファナの火力で倒せるだろうか。
階段で少し作戦会議をすることになった。この辺りはゲームっぽいままなんだよね。
◇
クレアが足止め系の魔法を使えるようなので、そこから攻撃に移ることにした。
どうやら、クレアは戦闘中にあまりやれることが無かったことを反省し、補助魔法を中心にいくつか覚えたようだ。
3人でウルトラキャノンに近付く。こちらをレンズ越しに見つめていただけだったウルトラキャノンは立ち上がり、モーターが回転し始めるような駆動音を響かせた。
「雷粒!」
パチパチと響く粒がウルトラキャノンにまとわり付いた。AGIを下げる効果がある弱体魔法だ。こちらの世界では、DEXも下げられそうな気もする。
わたしは筋力強化と加速を自分にかけて右側面に駆け寄ると、風剣で斬りかかる。リルファナも左側面に駆け寄っていく。
しばらく戦っているが、ウルトラキャノンの様子がおかしい。
誤作動を起こしたかのように、時々何も無い方向へ砲弾を飛ばしたり、一瞬停止したりする。副砲も滅多に使わない。
おかげで3本ほど脚を落とすことが出来た。このペースなら倒すことも難しくなさそうだ。
更に脚を攻撃しているとクレアの雷粒が切れたようでパチパチという音がしなくなった。
するとウルトラキャノンが一瞬停止し、駆動音が切り替わる。
わたしとリルファナは、変化に警戒して近付けない。様子見だ。
ドーム状の砲塔が高速で回転すると、わたしを照準して止まる。その瞬間にわたしに向かって大砲が撃ちだされた。
プチやミニの砲弾の弾速と違って少し見にくい。まだまだ反応出来ない速度でもないが、レベル差によって違いが出るようだ。
「防護盾!」
クレアの防護魔法で砲弾が弾かれる。
「クレア、雷粒を!」
「うん!」
多分、機械系の弱点は雷だ。電気で動いてるわけでもないと思うのだが動きが阻害されるようだ。
「雷粒!」
再度、浴びせられた雷粒によって、推測通りにウルトラキャノンの動きが鈍くなる。
「雷剣!」
氷が出せたのだから、雷も出せるだろうと妄想したところ新しい属性の魔法剣が出来た。
剣の周囲に雷粒のような電気がまとわりつく。
鉄の剣と相性が悪いのか、他属性よりも壊れるのが早い気がする。逆に電気と金属の相性が良すぎるのかな?
雷剣で攻撃すると、さきほどまでなかなか通らなかった攻撃から一転し、脚を一気に断ち切った。
「雷が有効ですの?」
「きっとそう!」
「分かりましたわ!」
それを見ていたリルファナは短刀を両手で構えた。右足を引き、切っ先を後方へと下げた構えだ。
「紫電乃太刀」
そこから右足を前に出しつつ回転するように短刀を振り上げた。雷の轟きのような音が一瞬だけ響く。
「刃渡りが短いので2本しかいけませんわ!」
……十分だと思う。
◇
そこからは一方的だった。
雷に弱すぎると思う。これがゲームなら調整してないだろうと言われてもおかしくないレベルだ。
魔法剣が切れる前に、鉄の剣でウルトラキャノンを解体していった。
今日はプチキャノンたちを解体したときの短剣、ツルハシとこの剣で3つの魔法剣による破損だ。武器の破損が早すぎて魔法剣を常用出来ないのもどうにかしたいところであるが、方向性すら見えていないんだよね。
レベル80以上で使っていた武器があれば壊さずに使えるとは思うんだけど、ガルディアの町の武器屋を見ると簡単に手に入るとも思えない。
ウルトラキャノンとの決着もついたので、こんな所に何があるのかと辺りを見回す。
階段を下りてきた正面に扉があり、そこを開いて中に入ると小さな部屋になっていた。
中には書類棚と机、壁には小ぶりのハンマーややっとこと呼ばれる工具が几帳面にかけてある。
どこかで見かけたような気がするドワーフの石像があった。
――石像と目が合った気がした。
空は薄暗く、わたしの目の前には大きな山。立っている場所は山の裾野のようだ。
これは、また神様かなあと思っていると。
「ここはどこですの……? あら、ミーナ様?」
隣にリルファナが立っていた。