ミニエイナの鉱山
鉱山に向かって町の西通りを歩いていると、徐々に鉱石や宝石を扱う店や鍛冶関係の施設が増えてきた。
「ここなら鍛冶用の鉱石も買えるかもしれませんわね」
「使える施設があれば武器を作るのもありかな」
「お姉ちゃん、リルファナちゃん武器作れるの?」
「一応、知識はありますわ。作ったことはありませんけど」
さすがにひょいひょい武器を作ってしまうとクレアを誤魔化すのが難しい気がする……。
セブクロでは鍛冶を専門職にはしていなかったけれど、自分で修理するために中級ぐらいの武器を鋳造できるぐらいまでスキルを上げていた。そのため、素材と道具が揃っていれば鍛冶も出来ると思うし、今の武器よりはるかに強いものが手に入るはずだ。
生産出来るかぐらいは試しておきたいところだし、町にいる間に情報を集めたい。
とりあえず今は依頼の採掘を優先しなければ。
道の突き当たりには洞窟の入り口がぽっかりと開いていた。
ここは初期に使われていた坑道で、現在は倉庫などに利用されているので採掘は出来ないらしい。
洞窟に入らず左右にある緩やかな上り坂を進むといくつも坑道があるようだ。
ギルドで買った地図によると左は管理区域が多いので右の上り坂を選ぶことにした。
急な斜面になると階段状に整備されている。それを折り返すようにしばらく登っていくと1つ目の坑道があった。
中は真っ暗で何も見えない。よく使われる坑道は魔導機の灯りを通しているようだが、この坑道はほとんど使われることがないのだろう。
「最初の入り口だから混んでるとかあるかな?」
「入り口付近に人はいませんわね」
「お姉ちゃん、どうせ分からないんだから入ってみても良いんじゃない」
ここで悩んでいても仕方ないし、クレアの言う通りだと入ってみることにした。
魔導機のランタンを取り出し、明かりをつける。片手が塞がるので左手が空いているわたしが持つことにした。
更に照明を前に立つリルファナの短剣にかける。こうしておけば鞘にしまうことで消すことも出来る。
「最初の道から逸れたら採掘しても良いんですのよね。とりあえず横穴があるところまで進みますわ」
入り口が分かるようにと、主道は広くなっていて5人ぐらいなら並んで歩けるほどの幅がある。主道が手押し車もすれ違えないとかなると困るか。
分かれ道には、入り口の方向を指す矢印が描かれている。
ランタンと照明の明かりを頼りに、リルファナを先頭に少し進むとすぐに横穴があった。
横穴も余裕で人がすれ違うことは出来そうだ。
ちらりと覗き見ると、少し先から採掘した跡が見える。リルファナの短剣の光に青みがかった水晶の破片がキラキラと反射する。ソルジュ水晶だと思うが、これを集めても小さすぎるだろう。
「あの光ってる石の大きいやつを探せば良さそうかな。もうちょっと奥に行ってみようか」
いくつかの横穴を通過していくと広くなった場所に出た。手すりがあり、下へ降りていくようになっているようだ。
地図には大雑把に平面で書いてあるので、立体構造になっているかは分からない。
「地図を見るとここまでで半分ぐらいかな」
「主道はどうなってますの?」
「降りた場所から複数の道があるけど、真っ直ぐ行く道だけ採掘禁止のマークがついてるから、他は横穴扱いだと思う」
階段を下りた先で、横穴に逸れて採掘してみることにした。
冒険者が採掘しにくるようで、あちこちに掘られた形跡が残っている。壁は虫食いのようにあちこち削れているし、大きく削った場所には土の山が出来ていた。付近の土もここに捨てているのだろう。
「じゃあいくよ」
横に1人分ぐらいへこんだ場所で借りてきたツルハシを使い壁を掘る。ざくざくと土を掘っていくと、すぐにキーンと響く音がした。鉱石に当たったのだろう。
「何かが2体寄ってきますわ」
鉱石にぶつかった甲高い採掘音が魔物を引き寄せたようだ。
ツルハシを壁に立てかけて、剣を抜く。
かたかたと音を鳴らしながらドーム状の魔物であるプチキャノンが歩いてくるのが見えた。レンズが目のように赤く光っている。
小型の大砲を背負っていると言っても、射程や命中率を上げるための施条加工はしていないので射程はあまり長くないという設定だったはず。
出来れば射程外から魔法で倒してしまいたい。もし近寄られても正面に立たずに戦えば問題はないだろうけど。
セブクロでは、機械は無属性のものが多かったので得意な魔法を撃ち込むのが良いだろう。
「火球」
「氷針」
まずは、リルファナが二重詠唱で迎え撃つ。並んできた1体に火球が炸裂し、氷柱が突き刺さる。多少動きが鈍くなったもののこちらに近寄ってくる動きに変化は無い。
「硬いですわね」
「氷針」
「風刃」
クレアとわたしが、すぐに追撃を放つ。
前にいた1体に氷柱とカマイタチが襲い掛かる。更に氷柱が突き刺り、風の刃によって足が1つ千切れると、動きが止まった。
動きの止まったプチキャノンを乗り越えて、もう1体が近寄ってくる。
そろそろ射程に入りそうだと思っていると、ドンッという重低音が響く。砲撃してきたようだ。
セブクロの距離感よりも射程が少し伸びているかもしれない。
普通ならのん気に見てる場合でもないのだけど、弾道が分かるほどゆっくりだし、当たると痛そう程度であまり危険性を感じない。
明らかにレベルやステータス補正みたいなものがあるようだ。
普通の速度で銃弾が飛び交うような戦闘だったら、わたしたちのレベルがいくら高くても戦いにならない可能性もあるので助かるけどね。
「防護盾!」
どうしようかと思っていたら、クレアが魔法で障壁を出して防いだ。透明な盾の向こうで砲弾が小爆発を起こす。
まさかそんな補助魔法も覚えていたとは思わなかったよ。いつの間に覚えたんだろう?
その隙にリルファナが駆け寄って一刀で切り伏せた。
キャノン系はミニ、プチなどほとんどがレベル10ぐらいの敵なので、相手にならないことに変わりは無いようだ。
これならわたしは採掘に専念しても問題無いだろう。
「いつの間に防護盾なんて覚えたの?」
「ふふふ、本を買ってから載ってる魔法をシスターに相談して覚えたんだよ」
この表情は、まだ他にも隠してそうだ。
防護盾は先ほどの通り障壁を出して身を守る魔法なのだが、どちらかというと壁役が範囲攻撃されたときに後衛に対して使う魔法だった。
セブクロでなければ、後衛が前衛を守るために似たような魔法を使うこともあるし変でもないけれど。
「このまま掘ってみるから、何か来たらお願いね」
「うん!」
「わかりましたわ」
さきほど響いた場所を掘っていくと、大きい水晶の塊が見つかった。『石を掘るほうが難しい』だっけ? 確かに簡単に掘れるようだね。
ツルハシでマジックバッグに入る程度に砕く。ポーチに入るサイズだとかなり小さくなってしまうので、リルファナのリュックサックに入る程度に砕く。
たまに後ろで砲撃音が聞こえるので、キャノンが寄ってきているようだ。
その都度、確認はしているけどリルファナとクレアの2人で余裕で対応出来ていた。
黙々とただひたすら掘る。ツルハシを振っていると水晶よりも土の方が硬いぐらいだ。作業に集中していたら、いつの間にか水晶の小塊がたくさん散らばっていた。
「あら、たくさん掘ったのですわね」
「魔法付与に使ってみようかと思ってね」
依頼の分は最初の大きい塊だけで十分だろう。魔法付与の媒体を作ってみようと思ったので多く集めていたのだ。
「お姉ちゃん、たくさん倒したよ!」
プチキャノンの残骸が10匹ぐらい転がっていた。小さいのもいるのでミニキャノンも混じっているかもしれない。
素材としては目玉のように見える部分がガラスとして使えて高価。他にもバネと黒いスポンジのような緩衝材が取れるが、戦闘で壊れてしまっている部品も多い。
また制御用の回路かそれに代わるものもあるはずだが、それらの入ったブラックボックスの中身は機体の破損時に自壊システムを積んでいるようで何も残らないそうだ。
捕獲してキャノンが動作した状態のまま取り外そうとした人もいるようだが、どう頑張っても残せなかったらしい。
キャノン自体が鉄くずにもなるので溶かして使える。捨てるところが無い魔物でもある。
これだけキャノンがいたんだと近くに冒険者はいないと思う。町から近い坑道には目ぼしいものが残っていないのだろう。
「ミーナ様、全部持ち帰りたいのでお願いしますわ」
リルファナに笑顔で短剣を渡された。こいつらを丁度良い大きさに切れということか。
「火剣!」
久しぶりに使った魔法剣ですぱすぱと切っていく。
魔法剣は作業用スキルではないのだが武器が傷むせいであまり使えず、こういう使い方をされることの方が多い気がする……。
◇
採取品をリルファナのマジックバッグに詰め込んだあと、まだ時間に余裕があるのでもう少し探索してみることにした。
「この地図で気になるところがあるんだよね」
「気になるところですの?」
「気のせいだとは思うんだけど、一応見てみよう」
最初にこの坑道の地図を見たときに気になった場所があった。