ミニエイナの町
山に向かって街道を歩いていくと石の壁が見えてきた。あれがミニエイナの町だろう。
聞いていたよりも時間がかからなかったので、わたしたちの移動速度は普通より速いのかもしれない。
早朝に出れば夜にはガルディアに着くだろうから、帰りはそうする選択肢もある。
クレアが大丈夫かちょっと心配でもあるが、帰りは森の途中で野営することになるのでどちらが良いだろうか。
ガルディアのような立派な石壁でなく、わたしたちの背丈よりは高いぐらいの壁である。
完全に囲われてもおらず木の板や柵などで穴埋めしているようだ。
町の入り口には掘っ立て小屋のような建物があり、町の兵士さんが出入りの確認だけしている。馬車や大荷物だと中も確認されるようだが、わたしたちはギルドカードを見せるだけで入れた。
ミニエイナの東側は海岸で隣国も接しておらず、町に用事があるのもガルディアか王都からという人が多いのだろう。随分とゆるい警備のようだ。
ミニエイナの町は、鉱山のふもとに出来た村から発展した町だ。
ほとんどが鉱山か鍛冶に関わる人々のようで、山に近い建物の煙突からはあちこちで煙があがっている。
「冒険者ギルドは西通りだって、お姉ちゃん」
わたしが聞き忘れていたので、兵士さんに確認しておいてくれたらしい。クレアも少しずつ町の生活に慣れてきたようだ。
南の入り口から真っ直ぐ北の鉱山へ向かう東通り。西の入り口からも鉱山への道があり、そちらの道が西通りだ。
南から西の入り口へ抜ける道も大通りになっていて便宜上、南通りと呼ばれている。
ミニエイナの主要な道はこの3つで、三角形のようになっている。町自体はガルディアの半分ほどの大きさだ。
とりあえず冒険者ギルドに鉱山の話を聞きに行くことにした。
通りにある店も金物屋などの鍛冶に関するものが多い。鉱石屋というのも何軒かあったけれど別の町から仕入れに来る人用のお店なのだろうか。
ミニエイナのギルドは2階建てでガルディアのギルドよりも小さい造りだ。
1階は依頼受付と素材買取のカウンター、2階に雑貨屋と休憩用の長椅子が並んでいる。ガルディアのギルドのようにどんな時間でも冒険者がいるわけでもないみたい。
「ソルジュ水晶の採掘ですか? どなたでも出来ますよ」
受付のお姉さんにソルジュ水晶と鉱山について教えてもらう。
鉱山内での採掘は、坑道ごとに管理区域と自由区域に分かれるそうだ。
管理区域は町が管理していて、許可された者だけが採掘を行うことが出来る場所で、町の産業に関わっている重要な区域だそうだ。坑道への立ち入りも監視されている。
自由区域は名前の通り、誰でも自由に採掘可能な区域だ。大抵の場合、資源の枯渇などで管理区域から格下げされた坑道で、高価な鉱物があることはほぼ無いようだ。
ソルジュ水晶は希少な物では無いので、自由区域で少し掘ればすぐ出てくるらしい。青みがかった水晶なので見つければすぐ分かるとのこと。
「坑道の入り口から続く主道は崩れると危険なので、採掘作業は禁止されております。必ず横穴に入って少し進んでから行ってください。危険が予測される場所には目立つ位置に看板がありますので必ず確認するようにお願いします。また道具や地図については2階の雑貨屋で貸し出しています。ソルジュ水晶ならば鐘1つ分もあれば帰って来れると思いますよ」
まだ午後1の鐘もなっていない時間なので、遅めのお昼を食べてから出発しても今日中に行って来れそうだ。
オススメの宿屋の場所を聞いてから礼を言って受付を離れる。
「ついでに出来そうな依頼があるか探してきますわ」
「私も!」
リルファナとクレアが依頼の貼ってある掲示板を見ている間に、わたしは採掘用の道具を借りに行くことにした。
2階の雑貨屋に行くと、立派な髭をたくわえたドワーフの店員さんだ。
「おう、嬢ちゃん。初めて見るが駆け出しか?」
「はい、ガルディアで活動しはじめて1週間ぐらいかな」
「ガルディアから来たのか。んでミニエイナまで来てどんな用事だ?」
「ソルジュ水晶の採掘依頼を受けたので道具を貸して欲しいのですけど」
「ああ? 採掘依頼はD級依頼じゃなかったか。大丈夫か?」
わたしがギルドカードを見せると店員さんは納得したようだ。
「随分と速くD級に上がったんだな。ちょっと待ってな」
店員さんは店の後ろから自身と同じ大きさのタルを抱えてきた。中に何種類かのツルハシが入っているようだ。
「水晶ならこの辺りのツルハシで掘りゃあ、大丈夫だろう。出るかどうかは運だが、この辺りじゃ昔から『水晶より石を掘り当てる方が難しい』とまで言われてるからすぐ見つかる。それとランタンだな」
「えっと照明の魔法なら使えますけど……」
「ああ、たまに迷宮化してる場所が魔封じのエリアとかになることもあるからな。ランタンは持っていった方が良いぞ」
魔封じのエリアとは、名前の通り魔法が使えない場所のことらしい。強力な魔法ならごり押しで使えることもあるようだけど、威力は落ちるそうだ。
魔力が練りにくいのか、魔力そのものが霧散してしまう場所なのだろう。セブクロにも演出程度に数箇所だが魔法が使えないエリアは存在していた。
「基本的には魔道式タイプのランタンがオススメだ。軽く落としたぐらいなら消えないし、狭いところでも煙が篭もることもない」
ランタンには油を使うものと、魔導機式で電池を使うものの2種類がある。
オイルランタンは丁度鐘2つ分で切れるらしいのだが、調整することで鐘1つ分《3時間》に出来るようになっている。
野営の見張りはこれを使って交代時間を計るのが基本だそうだ。
……なるほどね。
ツルハシはレンタルで1本借りて、オイルランタンと魔導機式ランタンの両方とも買っておくことにした。
油や電池も含めて小銀貨5枚。ついでに保存食も3人で1日分を追加で購入しておく。
「地図はこれだな。山脈の端の方とは言え霧の山脈は内包する魔力が多いせいか、ころころ迷宮化するんだ。大抵は維持出来なくなってすぐ戻るけど気を付けてな」
地図はレンタルは無しで買取になるようだ。
自由区域の道はほぼ網羅されているらしい。冒険者や夢見る者が掘り進んでいるので、書いていない道が増えることもあるようだ。
手押し車も借りられるが、マジックバッグに放り込んでしまうことにした。
1階に戻るとクレアが掲示板を見ていて、リルファナは受付で何か話している。
「ツルハシを借りてきたよ」
「あ、お姉ちゃん。この辺の依頼なら一緒に出来そうだからリルファナちゃんが確認してるよ」
『洞窟蝙蝠の討伐』『プチキャノンの討伐』『ビッグキャノンの討伐』『闇草の採取』『ソルジュ苔の採取』と並んでいる。
洞窟蝙蝠はそのままで少し大きめの蝙蝠。
キャノンは、1メートルぐらいの高さの大砲を背負ったドーム状の機械で、4つの足を持つ。
古代文明の侵略兵器とか言われていたけど、実際のところは謎の存在だった。
セブクロではミニ、プチ、ビッグ、ダブル、シールドなど強さは大差無いのに、やたら種類が多いのが特徴だった。スタッフにメカ好きがいたのだろう。
そういえばウルトラキャノンとかいうボスもいたな……。
闇草やソルジュ苔は、洞窟内に生える草と苔らしい。薬や調味料として使うようなので、わたしかリルファナが見分けられるだろう。
依頼は全て常在依頼のようだ。
「戻りましたわ。魔物も植物も全て自由区域の浅い階層で見つかるそうですわ」
「時間があったら探してみようか」
「うん!」
ミニエイナの依頼は、ほとんどが鉱山絡みのようでミニエイナを拠点にする冒険者も鉱山探索に特化しているらしい。穴倉生活に耐えられないと王都に行ってしまう冒険者も多いそうで、常駐する冒険者は少ないそうだ。
そのせいで素材もあまり集まらないようで、リルファナはたくさん集めてもらえると助かると言われたみたい。
ある意味ダンジョンも産業の1つになっているとも言えるのかもしれない。
宿屋はいつもがらがらで満室になることはほぼないとのことなので、先に鉱山に行ってみることにした。