廃墟 - 聖堂
廃墟の大扉を開くと、そこは広い聖堂だった。
吹き抜けになっており、何箇所か2階の通路に上がる階段がある。
今までは通路も床も石造りだったが、階段と2階の通路は木製だった。
右側はこの建物の玄関であろう大扉。左側には小さな扉が1つ見えた。部屋の反対側の正面にも今開いたのと同じような扉がある。
神像は回収されてしまったのか設置されていないが、建物全体に神聖さのようなものを感じる。
ここに使われている魔除けの類だと思う、特に危険は無さそうだ。
「すごいね。お姉ちゃん! 光の魔力を感じるよ!」
「……光の魔力?」
クレアは新しい発見に喜んでいる。この神聖さは光の魔力なのか。正直、さっぱり分からなかった。
「え、分からないの?」
「得体の知れない何かは感じるけれど……」
「そっか、お姉ちゃんは感覚派なんだっけ」
感覚派! 何それ、そんなのあるの。だからわたしは直感的にしか魔法が使えないのか。でも感覚派の人ならみんな一緒だ。良かった。
「わたしが勝手に付けただけで、とりあえず知ってる人にも、聞いた限りではその知り合いにもいないよ、お姉ちゃん」
わたしだけじゃん! がっかりだよ。
「お姉ちゃん、そんなことよりこの部屋を調べてみようよ」
「これだけ光の魔力が強い場所なら魔物の類が出てくることはないと思うけど、離れないようにね」
わたしのショックは、そんなことで流されたが今は探索が優先だ。右側にあった扉は予想通り入り口のようだ。
内側からかんぬきで閉じられていて、窓から森が広がっているのが見えた。
窓が数箇所割れていた。外を見ると入り口には花壇があり、見たことがない白い花が咲いている。花壇の一部が崩れて陥没しているようだ。
吹き抜けの通路に上がる階段は部屋の手前と奥で2箇所ずつあるが、割れた窓から雨でも吹き込んだのか入り口側の2箇所は腐っていて使おうとすると踏み抜きそうだ。
部屋の中は使わなくなる前に片付けられたのか、脇に長椅子がいくつか寄せられた以外はガランとしている。
通路の木箱は朽ち果てていたけど、こちらの椅子が無事なのは部屋に満ちた魔力の影響なのだろうか。
2階の通路は光を多く取り入れる造りのようで明るかった。正面にある階段を上がった先にそれぞれ扉が見える。
ここは昔の教会のような施設で、荒れているわけでもなさそうなので何か理由があって引っ越したようだということは分かった。
部屋には何もなさそうなので先へ進むことにした。最初に見えた反対側にある扉を調べる。
聞き耳して音がないことを確認してから開く。左右に通路があり、左側は崩れてしまっていた。
「入ってきた場所と似てるね、お姉ちゃん」
「こっちも転移の魔法陣があるのかもね」
右の通路を進むと予想通り、小部屋と魔法陣があった。
「魔法陣が使えるかどうか確認する方法ってあるのかな?」
「魔力を流すしかないと思うよ。転移先が壊れたり埋まったりしてれば動かないはず」
「転移の魔法陣じゃない可能性は?」
「魔法陣の構成を確認すれば良いけど、私にはそこまで分からないよ。パッと見た感じでは入り口の魔法陣に似てるし、不安なら真ん中に立たないで端から魔力だけ流してみれば良いんじゃない?」
何となく聞いてみたらしっかりと返事されてしまったよ。クレアは魔法の勉強をしているらしく、思った以上に知識が多かった。
後から聞いた話だと、クレアの教師役であるシスターはそこそこ名前の知れた魔術師だったらしい。才能は伸ばすべきというシスターの方針のもと、クレアは様々な知識を熱心に植えつけられたようだ。
クレアの言う通りに端の方から魔力をちょっとだけ流してみた。
「特に反応がないね」
「お姉ちゃんの魔力は流れていたから、反対側が埋まってるのかもしれないね」
え、人の魔力って見えるの? 魔術師って怖い。
「魔法陣に流された魔力は分かるけど、常に分かるわけじゃないよ。むしろ、お姉ちゃんが普段どうやって魔法を使ってるのかが分からないよ……」
呆れたように言われてしまった。今わたしは何も言ってないよね、わたしの顔って何考えてるか分かりやすいのかな?
ここには何も無さそうなのでクレアと広間まで戻り、奥の扉を調べることにした。
「2階もあるみたいだけど、どうするのお姉ちゃん?」
「んー、どっちからでも良い気がするけど。……上からいこっか」
手近な木製の階段を上がるとすぐに扉がある。並行してある反対側の階段の前にも扉が見えた。いつも通り、聞き耳して音がしないことを確認してから開ける。
わたしとクレアは目を見張った。
「色々あるね、お姉ちゃん」
「家具が傷んでないのは光の魔力の効果なのかな?」
木の机、ベッド、タンスなどの生活に必要な家具が置いてあった。木製で埃はかぶっていたが、最初の部屋に比べれば綺麗なままだ。念のため木剣で軽く叩いて反応がないことを確認してから調べてみる。
結果的に何も入っていなかった。引っ越して忘れ去られたような場所だしそれも当然か。どうせなら宝箱とか無いかなと期待しちゃうよね。
同じ手順で横の部屋も調べることにした。
机の引き出しにも、タンスにも何も入っていなかった。うーん、がっかり。
これらの部屋は個室か客室に使われていたような印象だ。
「あれ?」
「どうしたの?」
「お姉ちゃん、隣の部屋をもう1回調べよう」
机を調べていたクレアが何かに気付いたようだ。一緒に隣の部屋に移動すると、クレアは机の引き出しを取り外した。
「やっぱり! お姉ちゃん、これ二重底になってるよ」
クレアは引き出しの厚さの違いに気付いたみたい。わたし? さっぱり気付かなかったよ。
「はい、お姉ちゃん。こういうのは得意でしょ」
クレアに頼られたんだから、ここはお姉ちゃんらしさを見せなきゃ!
クレアから引き出しを受け取り、開けるための細工が無いかよく見る。うん、分からない。というかこういう細かい作業は全然得意じゃないよ!
それでも珍しくクレアに頼られたのだからと必死に開ける方法を探す。
「ここだ!」
指の入りそうな亀裂を見つけたので、ここだろうと思いっきり引っ張った。バキッと二重底の蓋が壊れた。
「うんうん、やっぱりお姉ちゃんに任せた方が早かったよ」
したり顔で頷くクレア。……泣いてもいいかな?
「クレアさん、これは小金貨かな」
「ここって随分古い建物みたいだし、金貨とは限らないんじゃない? というか何でさん付け?」
「目的への道を見つける軍師であり、そのためなら躊躇しない小悪魔でもあるクレアさんを呼び捨てなんて出来ませんわ」
クレアに騙されたショック(自称)と金貨を見つけたショックが重なったあまりお嬢様口調になってしまった。クレアがちょっと引いてたのでやめよう。
中には2枚の金貨が入っていた。村での生活では小銀貨ぐらいまでしか使わないので見たことが無いものだ。
「金貨でも、そうじゃなくても値打ち物だよお姉ちゃん」
「クレア、盗みはよくないよ?」
「所有者のいない遺跡で見つけたものは発見者が持ち帰って良いんだよ。冒険者の基本でしょ!」
「そういえば、そっか」
昔話を聞いていたときに父さんもそんなことを言ってたな。わたしたち冒険者じゃないんだけど、細かいことはいいらしい。
クレアと話し合った結果、1枚ずつ持ち帰ることにした。
わたしが両方とも預かっておいて、万が一落としたら嫌だからね。