蟻退治
村から出ると、すぐ南の森に入れる道があった。
街道からならどこからでも入ることは出来るけどね。
気配の分かるリルファナを先頭に森の中へ入る。
フェルド村の森とは違って、ごろごろと大きな石がたくさん転がっているものの、木の間隔が広く日光が差し込みやすいので明るいため歩きやすかった。
「たくさん気配がありますわ」
「大蟻かな?」
「村で聞いた話では恐らくそうですわね」
大蟻もレベルは低い。
わたしやリルファナだけでなくクレアから見ても不意打ちでもなければ敵ではないだろう。しかし、数に任せて囲まれると厄介だ。
火蟻の位置も分からないし、端から殲滅していくのが良いかな。
「少なそうなところから倒していこうか」
「分かりましたわ」
ここからは各自、武器を抜いて臨戦態勢で進む。
フェルド村の森に比べて敵に見つかりやすいという欠点はあるが、武器が振り回しやすいし視界も通るので戦いやすそうだ。
「1匹だけでふらふらしているのが何匹かいますわね。斥候役かなにかですの?」
リルファナの案内で、1匹でうろついている大蟻を見つけた。
大蟻と火蟻の区別は、体色で出来る。大蟻は錆びた黒鉄色で、火蟻は赤銅色なのだ。
蜘蛛と同じくややデフォルメされたような外見である。昆虫類の魔物はみんなそうなのかもしれない。
「あ、そうだ。水鎌を試したいんだった」
「あれ、本当に微妙ですわよ?」
「倒しきれなかったらお願いね。水鎌!」
水の形の片手鎌が出来上がり、対象にした大蟻へと飛んでいく。
思っていた回転は無く、刃先が真っ直ぐに打ち出された。刃が曲がっているので射られた矢のようにやや上方へ弧を描いて飛んでいった。
鎌は蟻を貫くことは無く、バシャッと水が散るに終わった。ダメージは無いだろう。
「え?」
クレアがびっくりしている。わたしもびっくりしている。
結果を知っていたリルファナが短剣を投げつけると、簡単に蟻を貫通した。
「だから言いましたのに」
「予想外過ぎたよ……」
◇
3人で大蟻を倒しながら森の中を南東方向へ進んでいく。
素材として使えるので、ざっくりと解体して甲殻と触覚を集めながらだ。
クレアの棒術も慣れたもので、大蟻を一撃で倒していた。装備の質が悪いことも考えるとセブクロと同じならレベル30近くまで上がっていると思う。
川が見えたら、そのまま北上して町へ戻る予定なので火蟻が見つかる可能性はあまり高くないだろう。
木々の間に石塊が並ぶ広場が見えた。
「あそこに巣がありそうですの。かなり数が多いですわ」
木の陰から様子をうかがうと蟻がたくさんいる。
一見しただけでも30匹以上はいるだろうか。巣の周辺から離れない蟻は護衛役なのだろう。
図鑑で調べておいた内容では、大蟻たちの巣は掘った土を固めて地上に作られる。掘った部分も利用するため、そこが地下とも言える。
また普段は巣の周囲に暮らし、雨などが降らない限りは女王蟻と子供、それらの世話する蟻以外は中に入らないようだ。
女王蟻の身体は銀色になり、卵を産むがそれ以外は変わらない。セブクロでは銀色の蟻になっても経験値は据え置きだった。
「女王がいるかもしれないのかあ」
「ええ、ですが周りの蟻が攻撃的になる以外は変わらないはずですわ」
「お姉ちゃん、リルファナちゃんあそこ!」
クレアが指差した先に火蟻がいた。
狩らない理由が無くなった。
「囲まれないように注意して殲滅しちゃおうか」
「がんばる!」
「ええ、やりますわよ」
突っ込んでいって狩るだけなら簡単なんだけど、それをやるとクレアが育たないし、パーティ連携の練習にならない。いずれはわたしやリルファナでも簡単に倒せない魔物が出てくるだろうし、あまりやらないようにしている。
しかし今回は、クレアも苦戦する相手では無いし解体時間も考えるとさくっとやってしまっても良いだろう。
「土壁!」
「爆発!」
蟻が固まったタイミングを計って土の壁を左右と後ろ側の3方に張り巡らせた直後、クレアの爆発が炸裂した。
壁で衝撃を反射させて爆発の威力を数倍に上げる作戦だ。これだけで近くの蟻が10匹近くが粉々に吹き飛んだ。
……威力が高すぎるので素材目当てではこれやっちゃダメだね。
「周囲からも援軍が来るかもしれないから気をつけて!」
「うん」
蟻を相手にするなら開けた場所にいた方が良いので3人で広場に出る。わたしはクレアの近くで戦い、リルファナが遊撃に回る形だ。
大蟻を問題無く倒していると、様子をうかがっていた火蟻が近寄ってきた。火炎攻撃で仲間を巻き込まないぐらいの知恵はもっているようだ。
カチカチと頭を鳴らすと細い線状の火を噴いた。点火装置のような構造でもしてるんだろうか。
余裕を持って横に回っておいたが、音がするなら分かりやすい。
分かりやすい反面、意外と火の勢いが強く正面にいると危なそうだ。
「氷針!」
火蟻はクレアの放った氷柱に撃ち抜かれて動かなくなった。
◇
数が多く少し時間はかかったが巣をひとつ潰せたようだ。
解体をしてみると身体の甲殻部分は簡単に剥がせた。触覚部分は節になっているのだが、大工や革細工ではこの部分からとれる油を使うらしい。
「あちらにも火蟻がいましたわ」
わたしとクレアは、辺りの蟻を殲滅したあとは解体をしていた。
周辺の見回りをしてきたリルファナも戻ってきたようだ。火蟻だけ解体してきたらしい。
「間引きも討伐依頼も十分だと思うし、これで町に戻ろうか」
「解体が大変だよ」
せっせと解体している間、たまに斥候役の蟻が戻ってくるがリルファナに片手間で倒されていた。
解体の手間を考えると爆発でもっと吹き飛ばしてしまうぐらいでも良かったかもと思ってしまった。
◇
結局、戦闘後の処理が終わって森を出た頃には夕方になっていた。
石橋はすぐそこに見えているけれど、町に着くのは午後3の鐘ぐらいになるだろう。
クレアではないが、お腹も空いてきた。
「そういえば橋のところに飲食店がありましたわね」
「やってそうなら寄ってみようか」
「うん、お腹空いたよ」
飲食店は営業中のようで、灯りがついていた。
さほど広くはない店だが、冒険者の客もいるようだ。わたしたちのようにこの辺りで依頼を受けている冒険者が使う店なのかもしれない。
よく見ると講習会に出ていた3人組もご飯を食べていた。
向こうも気付いたようで、手をあげたのでこちらも振り返しておいた。
メニューは少なめ、町と村の間ではあまり種類を出せないのだろう。
日替わり定食を頼んだが、焼き魚が2つとご飯に添え物だった。魚はそこの川で釣ってきているとか。
聞こえる話し声から推測するに3人組はこの店の釣りの依頼を受けたらしい。
量が多いが味は普通な店という印象だろうか。魚に醤油を垂らしたい衝動に駆られる。
店を出ると暗くなりはじめている。
キャンプ練習のときに覚えた照明の魔法を使って帰ることにした。
単純にたいまつの代わりになる魔法だが、指定した場所が明るくなるので手が塞がらないし、火傷もしないし便利である。
欠点は1度かけてしまうと時間が経つまでは消すことが出来ないことだ。と言っても軽石や小さな木片にかけておき、消したくなったら厚めのハンカチなどで覆ってしまえば良い。
街道では消す必要もないので、腰に下げている剣の鞘にかけたけどね。
◇
町まで戻った頃には完全に日は落ちていた。
門が見えた頃に午後3の鐘がなっていたし随分遅くなってしまったな。
クレアもリルファナも3日間動きっぱなしだったからか疲れが見えてきている。特にクレアがかなり眠そうだ。
わたしも気分的には大丈夫だけど、少しぐらいは疲れているだろう。
西門からならギルドよりも宿屋の方が近い。火蟻討伐依頼の期日もまだ余裕があった。
「今日はこのまま宿屋に戻って報告は明日にしようか」
「うん」
「そうですわね、ちょっと疲れましたわ」
明日の朝はゆっくりめに起きて、依頼の報告をしてから休みとしよう。




