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少年の悩み

 少年は、たまたまギルドに来ていたらしい。

 講習を受けていたわたしたちがいたので見ていたら、たった2日でD級になったと言われていたので驚いたようだ。


 昨日1人で受けた依頼は成功扱いとなったものの思ったほど良い結果ではなかったようで、上手くやっていそうなわたしたちに相談したいらしい。


 時間もあるから話ぐらいなら聞いても良いだろう。

 リルファナもちょっと興味がありそう。クレアは知らない人相手なのであまり関心が無さそうな感じだったが反対ではなさそうだ。


「わたしたちも駆け出しだし聞くだけになるかもしれないけど、それでも良ければ」

「そうか! 助かる」

「上の食堂でいいかな?」


 2階の酒場兼食堂の端の席で話を聞くことに。

 お金を節約したいのか飲み物を断っていたけれど、1人だけ飲まないというのも悪いので奢ることにした。こっちから指定した場所だしね。


 少年の名前はスティーブ。なんだか物を作るのが得意そうな名前だな。


 わたしたちも名乗って自己紹介した。


 スティーブは、赤茶系のぼさぼさ髪にグレーの瞳。ガキ大将っぽさを感じる釣り目。ぼさぼさといっても不潔ではなく、無造作ヘアとでも言う清潔な感じなので整えてはいるのだろう。今日もどこかに行っていたのか少し乱れているけれど。

 身長は成人した男性の中ではやや低いぐらいかな。


 町の孤児院の出身らしい。

 孤児院は国からの保障もあるので最低限の衣食住には困らないし、ささやかながらも季節ごとに1回はお小遣いも配られるそうだ。代わりに町への奉仕活動はあるようだが、これもゴミ拾いや年末年始のお祭りの手伝いなど子供が出来ることになっている。


 成人前になると紹介された仕事を選ぶなり、探すなりして見習いとして仕事に就く。成人後には孤児院を出るか、孤児院の手伝いをしながらしばらく生活するのが一般的らしい。

 冒険者になると決めている子供は、成人までは短期雇用などで稼ぎながら孤児院の手伝いをするようだ。アルバイトとほぼ同じだろう。


 スティーブは孤児院にしばらく残りながらも冒険者となることを選んだという。

 上手くいけば稼ぎも大きいので、冒険者を選ぶ子供もそれなりに多いそうだ。1年以内に冒険者になることを諦めて町の仕事に就くものも半分以上、消息不明が1割ぐらいはいるそうだけど。


「俺ならすぐにD級になって独り立ち出来ると思ってた。けど実際に依頼をやってみて全然ダメだと気付いたんだ」


 スティーブは昨日、薬草採取の依頼を受けたと言う。

 西の道沿いには、依頼の対象以外にも色々と買取している薬草が生えているらしいということは町で聞いていたのでそっちに向かったらしい。


 しかし、実際に採取しようという段階でどれが使える薬草なのかが分からなかったようだ。


 まあ、ゲームのように依頼対象の薬草が光ってたりするわけはないからね。知識がないと何も出来るわけがない。


 仕方なく辺りの草を全部集めてきたけど、ほとんど使い物にならない雑草ばかりだった。

 結局、依頼達成の小銀貨1枚と小銅貨数枚ぐらいにしかならなかったようだ。


「今日はコニリアの討伐依頼に朝から行ってみたんだけど、すぐ逃げられちゃって……」


 コニリアは兎の魔物だ。殺人兎キラーラビットとは違い簡単に倒せるが、気配に敏感で見つかるとすぐ逃げてしまう。

 セブクロでは、ウルフと同じくゲーム開始時に戦う魔物なのだが、ウルフを相手にした方が追い掛け回す必要がないのでほとんど狩られることも無かった。


 スティーブは剣の練習ぐらいはしていたようで兎なら倒せるだろうと思っていたけど、なかなか上手くいかず落ち込んでいるみたいだ。わたしたちに話しかけたのも藁にも縋る気分だったのだろう。


「……もしかして魔物と戦ったり、採取したりしたの初めてなの?」


 話を聞いていたクレアがふと呟いた。声に出すつもりは無かったようで「やっちゃった」という顔をしている。


「ああ、子供が町から出ることはほとんどないからな」


 スティーブは素直に頷いた。

 これが町の普通なのだとすると、わたしたちには簡単なE級依頼でも意外と難しいのだろう。


「だったらまずは勉強した方が良いと思う。町の子供なら図書館はタダで入れるんでしょ?」

「勉強か……、苦手だから冒険者になろうと思ったんだけどな」

「採取に行ったものが分からない。倒しにいった魔物の特徴を知らないなんて危ないからダメだよ」

「そ、そうなのか?」

「依頼に書かれている薬草とか魔物の名前を覚えておいて、図鑑で確認してから向かった方が良いと思う。私たちだって半年前ぐらいに図鑑を買って勉強してるんだよ」


 言ってしまったものは仕方ないと思ったのか、クレアが今までのメモ書きなども出して一生懸命説明していた。


 図鑑で何かを調べるということは勉強という意識を持つのが普通なのだろう。

 わたしにとってみると攻略本を眺めている気分なんだよね。


 ……更に、わたしとリルファナは遊びながら覚えられるゲーム時代の知識も随分持ってることは言う必要もあるまい。


 そういえば最近はクレアに新しいことを教えても滅多に変な目で見られなくなった。わたしが図鑑などで勉強していると思っているのかもしれない。


 クレアがスティーブの相手してくれてるのは良いんだけど、わたしとリルファナはやることが無いな。


「なるほど。分かった」


 クレアは、依頼書を覚えていたのか町の西側に生えている薬草の種類やコニリアの特徴も教えてあげたようだ。

 わたしも戦い方ぐらいは少しアドバイスしてもいいかもしれない。


「コニリアみたいな逃げる相手ならその両手剣を使うよりも、短剣の方が戦いやすいと思うよ」

「でもこいつなら当たれば一撃で倒せると思うんだ」

「確かにね。でも『当たれば』の話だよね。コニリアは臆病だから攻撃されることはあまりないからいいけど、他の魔物なら武器を振り回して疲れたところを攻撃されて大怪我するかもしれないよ?」


 大怪我と言ったが、下手すれば命を落とす可能性だってある。

 噛まれたのが腕なら武器が振るえなくなり冒険者どころか町で仕事を探すのも大変になる可能性だってある。教会で回復魔法をかけてもらえるかもしれないが、それも無料ではないことは知っている。


「そうだな……。武器を変更することも少し考えてみる」

「徐々に扱いに慣れれば買いなおさなくても良いとは思うけどね。買い足すなら片手剣で、買い換えるなら片手半剣バスタードソードぐらいでも良いかな」


 片手半剣バスタードソードなら、片手でも両手でも使うことが出来る。斬っても突いても使えるのでバランスも良い。

 孤児出身のスティーブに、そこまでお金があるかは分からないけど自分から考えるというなら余裕はあるのかもしれない。


「とりあえず明日は教えてもらった薬草を採りに行ってみる。その後は図書館かな……。ありがとな!」


 スティーブは、わたしたちが話を聞いてくれたことと、ある程度目標が見えたことで少し前向きになったようだ。

 残ったお茶をぐいっと飲み干すと晴れ晴れとした笑顔で食堂を出て行った。


 人の意見を素直に聞けるようなので、良い先輩でも見つけて指導してもらうのも良いんじゃないかな?

 そういうシステムがギルドにあるかは知らないけれど。


「ふふ、素質はありそうですわね」


 会話にはほとんど口を挟まなかったリルファナが微笑んでいた。

 社交界へは出ていないようだけど、貴族の生まれだからなのかリルファナって人を見る目があるような気がする。



 宿屋で夕食中に、ふと思いついたのだけどセブクロでは水も氷も、水属性で統一されていた。


 この世界(ヴィルトアーリ)では別属性となっていることが蜘蛛騒動で発覚している。けれどいつだったか、リルファナは氷の反属性として火を使っていた。

 水の反属性は変わっているのだろうか? それともトリックスターの『聖者と悪魔』の能力も何か変わっているのだろうか。


 部屋に戻ってからリルファナに聞いてみる。


「わたくしも閃いたので村にいるときに少しだけ試してみましたの。色々やっていたら水の攻撃魔法を覚えましたが、どうやら水も氷も反属性は火のようでしたわ」

「別の属性があれば、そっちでも良くなるかもしれないってことかな?」

「別の属性ですの? たしかに氷があるなら他の属性も存在するかもしれませんわね。そこまでは思いつきませんでしわ」


 わたしの考えでは、セブクロだと雷っぽいものは光属性になっていたみたいだけど、この世界(ヴィルトアーリ)では雷属性があるんじゃないかと思ってるんだよね。


 それと気付いたのなら水の攻撃魔法を教えて欲しかったよ……。

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