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廃墟

 わたしが立っていたのは石造りの小部屋の中だった。

 目の前には壊れかけた木製の扉。右、左、後ろ側の壁には、明り取り用の窓がついていて、光が射し込んでいる。


 窓から、ちらりと見えた外の光景は森の中のようだ。


 足元には『洗浄』後に見えた魔法陣のような物があり、端の方に木箱の残骸だと思われるものがいくつか転がっている。

 少なくとも数年は使われていないのだろう。壊れた扉の隙間からは通路を覗くことが出来る。


「ここに魔力を流せば帰れそうかな? ……帰れるよね?」


 突然のことにビクビクしながら、まずは周りを確認する。


 この先に何があるのかも気になるけれど、帰れないのが一番困る。

 足元の魔法陣を調べてみる。亀裂が走ってるとか、泥がつまってるとかそういうこともなさそう。


 とりあえず帰れるか確認しよう。

 わたしは洗浄のときと同じように魔法陣に向かって魔力を流す。


 先ほどと同じように魔法陣が光りはじめ、わたしは秘密基地いせきに戻っていた。


「良かった……」


 気が緩み、石床から降りて草むらでドサッと寝転がった。

 魔力はほとんど消費していない気がする。


「すごい発見をしてしまった気がするけど、どうしよう」


 こんな時にわたしが小説の主人公なら、戻ろうという考えも無しに、問答無用で廃墟を探検するのだろうなと思いながら、今後どうするか考えた。


 誰かに相談するなら、元冒険者の父さんが最適だろう。

 ただ、最近の父さんは町と往復していることが多くて、あまり村にいないのが気になる。


 村にいれば夕飯か何かのタイミングで相談ぐらいは聞いてくれるだろう。

 村長さんに相談しても、最終的には父さんの方に話が行く気がするし。


 それとも探検してみるか。


 戻れることが分かり冷静になってみれば、さほど嫌な感じも危険そうな印象も無かった。

 秘密基地ここで感じる澄んだ空気に似ていたので、魔物が寄り付かない力が働いている可能性もある。


 外の景色も似たような森の中だったから、あまり遠くない場所にある廃墟なのかもしれない。

 慎重に探索して危険そうなら報告する、暇つぶしという意味ではそれもありだと思う。


 楽観的に考えれば、何だかすぐにでも探索してみたい気もしてきた。


「お姉ちゃん、また昼寝?」

「ふわ!?」


 気合を入れて立ち上がるとクレアがそこにいた。ふらふらと森の方へ行くのが見えたようで、また倒れてないか心配して様子を見に来たらしい。


 考え事をしていると周りが見えないのはわたしの悪い癖だ。


「ひ、暇だから昼寝してただけダヨー」

「その顔は何かまた悪巧みしてるでしょ!」


 じとっとした疑いの目を向けられるわたし。


 なんでこの子はこんなに鋭いの。でも悪巧みではないと思うんですけど!



 わたしは草むらで正座してクレアに洗いざらい吐かされた。


 ……クレアの目を見ていると何故か正座しなければならない気がした。


「何それ、面白そう。私も行きたい!」


 ええと、クレアさんの目がキラキラしていらっしゃる。

 こういうの好きですか、そうですか。わたしの正座は何のためにあったのでしょうか。勝手にしただけだけど。


「でも危険かもしれないよ? クレアは生活魔法しか使えないでしょ」

「ふふん、実は私は回復魔法を覚えたんだよ、お姉ちゃん」


 クレアが胸を張って自信満々で答える。え、いつの間に?


「村の教会にいるシスターが回復魔法を使えるんだよ。お姉ちゃんはあまり家にいないから知らなかっただろうけど、たまに教えてもらってたんだ。魔法の基礎的なことは教えてもらったよ」

「あれ、でもクレアが魔法が得意そうと分かったときには、父さんも母さんも村に教えられる人がいないってがっかりしてなかったっけ?」

「それって随分昔の話だよね? 今のシスターは癒しの魔法を使えるよ」


 わたしはクレアは毎日、母さんの手伝いをしているのだと思っていたのだけど、教会に通って魔法を教えて貰っていたということか。


 そっか、わたしがのけ者にされてたわけではないのか。ちょっとほっとした。


「じゃあ、ちょっとだけ探検してみようか? 危険そうならすぐ帰るからね」

「うん!」


 2人で石床の中央に立つ。


「2人でも魔法陣を使えるか分からないけど、とりあえずやってみよう」

「がんばって、お姉ちゃん!」


 これは妹のために頑張らねばならない。

 3回目となると魔力を流すのも慣れたものだ。張り切ったせいか、人数が多いせいか、さっきより魔力の消費が大きい気がしたけど、無事に転移した。


「す、すごいよ、お姉ちゃん!」

「え、そうかな?」

「転移の魔法陣ってすごい複雑な魔力操作が必要なんだって教えてもらったよ?」

「ま、まあ、あそこは怪しいと思って前から色々調べてたからね!」


 ……適当に魔力を流しただけですって言ったら怒られそうだったので適当にこじつけた。


 感覚なのではっきりとは分からないけど、魔力は1人で往復した分ぐらい減った気がする。2人分で2倍ということかな?


「木箱は……ダメだね、何も残ってないよ」


 クレアが朽ちた木箱の破片をひっくりかえしていた。


 ずっと動かされなかったのだろう、もうもうと埃が立ち上る。

 どうせ探検するなら金属製の剣でも入ってればよかったのにな。錆びてたとしても木剣よりは心強かっただろう。


「そっちの扉から先は出てないから慎重にね」

「うん」


 念のためクレアだけでも秘密基地ひるねばしょと往復できるか確認したあとに、扉の先を調べることにした。

 最初は魔力操作にコツがいるようで苦戦していたが、一度覚えてしまえば簡単なのかすぐに往復してきた。


 わたしはそっと壊れた扉を開く、隙間から見えていたように通路になっている。

 左側には窓がたくさん並んでいるので明るい。木剣を腰から外してすぐ振ることが出来るように構えておく。


 クレアには少しスペースを空けて歩くように指示して、わたしが先に立って慎重に進む。

 わたしが落とし穴に落ちたとか、突然動けなくなったら、近寄らずに戻って大人を呼びにいけと伝えている。


 日本では、兄さんたちとTRPG(テーブルトークRPG)だってプレイしたことがあるのだよ、ふふん。あとは10フィート棒があれば完璧だった。


 しばらく進むと右側に大きな扉があった。

 この大扉は木製だが腐っておらず、向こう側は見えない。通路はまだ先にも続いている。大扉に耳を当てて音が聞こえるか確認するが、何の音も聞こえなかった。


「どうする、お姉ちゃん?」

「通路の先から調べよう」


 大扉だし、何かイベントがあるかもしれないでしょ!

 というのはゲーマー脳なのだろうな。とりあえず通路を進むことにした。


 通路の先には、わたしたちが到着したような小部屋だった。

 蝶番ちょうつがいが完全に壊れてしまったようで扉は倒れている。床にひびが入っていて、本来は魔法陣があったようだが破損しているように見えた。


 この部屋には木箱や残骸は見当たらない。


「こっちの魔法陣は使えなそうだね」


 クレアが魔法陣を見ながらつぶやいた。

 わたしは辺りを見回してみたが、面白そうなものは何も見当たらない。窓から見える外の景色も変わらず森の中だ。


「少し休んだら大扉を調べよっか」

「うん、そうしよう」


 10分ちょっとしか歩いていないのに慎重に進んでいるせいか精神的に疲れた。

 大きなダンジョンに潜れる冒険者ってすごいなと感心しつつ、わたしたちは小休止することにした。


「ここって何なんだろうね?」

「どこかの森の中の廃墟みたいだけど、今のところ何のための建物なのかも分からないね」


 とりあえずクレアも知らない場所だというのは分かったが、クレアにもこの場所の見当は付かないようだ。


 直感的にだけど、北の森とは外の植生がちょっと違うように見えるから、少なくとも北の森ではないと思う。


 南の森は植生が違うって聞いたけど、奥深くは魔物が多いらしく立ち入らないようにしていたので、わたしは詳しくは知らない。


 一度来た通路を戻り、さっきスルーした大扉にたどり着いた。

 念のためもう一度聞き耳してみるが何も音はしない。


 わたしはクレアに合図すると扉をそっと押し開けた。

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