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駆け出し冒険者講習 - 午後

 昼食の後、午後の講習を受けるためギルドに戻った。


 クレアとリルファナと雑談していると午前4の鐘がなり、しばらくするとレダさんがやってきた。いいのかギルドマスター。


「さ、起きた起きた、始めるよ」

「……寝ちまってたか、すまん」

「これから始めるところさね。必須でもない講義に出てるんだ、謝る必要はないよ」


 1人で参加している少年はずっとテーブルで寝ていたようだ。レダさんに起こされて、まだ眠たそうに顔を上げた。


「受付をやっているレダと言う。こんななりだが冒険者として活動していた経験はあるから心配しなくていいさね。今日はよろしく」


 受付()だと思うんだけどな。まあ黙っていよう。


「午後は実戦的な話をすることになる。まだしっかりと理解出来ないこともあるだろうが、よく聞いておいて欲しい」


 レダさんがキリッとした表情で話し始めた。普段のお気楽な感じは無く、仕事のオンオフがしっかり出来るタイプなのだろう。


「まず最初に言っておくが、『冒険者なんて誰でもなれるものだ』なんていうやつがいる。確かになることだけなら簡単だ。だが、続けていくのは非常に難しいことは覚えておいて欲しい。腕っ節が良いだけでも、頭が良いだけでもやっていけない。冒険者として長く生きていくにはその両方が必要さね」


 そんな前置きのあとは、依頼時の注意点から。


 しっかり依頼書は読めとか、事前の依頼人との話し合いは大事だとかそういう話だ。

 それを怠ったために失敗した実際の例と共に紹介してくれた。


 思い込みで依頼書とは違うものを集めてきて期日に間に合わずに失敗になったとかそういうこともあるようだ。普通は間違えないだろうと思いつつも、似たような依頼が多い中で稀に違う内容が混ざっていると間違えそうになる冒険者は多いらしい。


 また事前の計画はしっかり立てなさいということもあった。

 依頼は「いつ」「何処で」「誰が」「何を」するのか、それは「なぜ」する必要があり、「どのように」解決するか。


 いわく、5W1Hというやつだね。


 他には、地図の読み方、街道と魔物避けの石柱について、他の冒険者との付き合い方みたいなものまで幅広く扱っていた。


 正直、日本で義務教育を受けていれば、当たり前ということも多かったが、クレアにとっては初めて触れることも多いようで熱心にメモを取っていた。

 そういえば、村では地図なんて見たこともないか。わたしもそのせいで周囲の状況がさっぱり分からなかったし。


「そうそう、午前担当のアゼイリアは真面目なんで言わなかったと思うが、E級からD級への昇格は各種類の依頼を1件ずつ成功させれば上がる。E級は冒険者として本当にやっていく気があるのかって試験みたいなもんだ。自分に実力があるんだなんて勘違いすると痛い目見るから注意しな」


 それって言っていいのかな? アドバイスみたいなもんだろうけど。


「これは先輩冒険者なら大抵知ってることだ。でも、あたしが言ったのは内緒だよ!」


 ……やっぱり言っちゃダメなんじゃないか。


 その後は野外での生活の話だ。

 飲み水の確保出来る川の重要性や、毒かどうか分からないものは食べないといった基本的なことが多い。


 冒険者になれば野宿も必要になるので、その方法も含まれていた。

 野宿の方法は父さんからも色々と教えてもらっているし、3人で何度か北の森で練習も行っているので問題無さそうだった。


 講習の内容は、町で購入した『野外での生活 ~冒険者の心得~』に掲載されている内容も多かったと思う。


 ここまで聞いてみた感じだと全体的に浅く広く説明するだけのようだ。わたしたちぐらいしかメモをとっていないので、細かいことまで解説しても覚えきれないだろうという考えなのかもしれない。

 それでも何も知らないよりは1度聞いておくことは大事だ。


 その後、少し休憩を挟んで戦闘についてとなった。


「さて、次は戦闘についてだ。今日の参加者は武器を持って来ているようだから、その特徴から説明していこう」


 端に座った少女が置いているのが長杖。短杖よりも魔力量重視の武器となるが、短杖よりも長いし重くなるので取り回しがやや難しい。

 クレアには教えたけど棒術に使うということは言わなかった。あまり初心者向けじゃないのかな?


 3人組の多分リーダーかなと思われる少年が持つのは片手剣と円盾ラウンドシールド、標準的な武器でどこでも使いやすい。盾は敵の攻撃を防いだり、受け流したりと使う。可も無く不可も無くといった感じ。

 もう1人の少年が持つのが短杖と小盾。短杖は長杖よりも魔力操作がしやすい武器だそうだ。また小盾があれば矢が飛んできたり、奇襲されたときに頭ぐらいは守ることが出来る。

 少女が持つのは槍。リーチが長く、敵を引きつけている人の後ろから敵を突くことが出来るため、狭い場所での戦いも可能だ。広い場所ではなぎ払いも使えるし、リーチを活かすことで敵を寄せ付けない戦い方も出来る。


 杖については、クレアが購入したときに教えた内容と違ったな。やっぱりゲーム知識とは違うこともあるようだ……。


 ガキ大将っぽい少年の武器は両手剣。隙は大きいが一撃の破壊力は大きい、狭い場所では戦いにくいので短剣などのサブウェポンが欲しい。


「ああ、ちゃんと短剣も持ってるぜ」


 少年は腰の鞘を叩いてみせる。ガキ大将っぽいだけで意外と素直な気もするね。


 わたしとクレアの武器はかぶっているのでスルー。わたしは片手剣のみで左手はフリーなので回避型とは言えるかもしれない。一応、村で盾も練習したから少しは使えるけど。


 リルファナの武器は短刀。刀は斬れ味で勝負する武器だが、薄く作った刃は脆いため欠けやすい。生物には有利だが、鉱物系のゴーレムや硬い殻や鱗を持つ相手には不利になることもある。


 スキルについても説明があった。

 基本的には、魔力を身体に流した状態で使う技ということらしい。習得している人に教えてもらうことも出来るが、自然に覚えることもあると言っていた。


 この辺りはレベルの影響だと思うけど、発見されていないっぽいかな。鑑定紙もそんなにしょっちゅう使わないだろうからそんなものか。


 そして最後に、わたしが知りたかった役割ロールについて。

 これは昔のソルジュプランテの冒険者たちが作ったものらしく、この辺りの国では一般化しているが遠くの国に行くと通じないかもしれないとのことだ。


 初めてパーティを組む相手ともある程度、連携が取れるようにすることが目的で作られたらしい。パーティ内で戦闘時の役割を分けておくことだそうだ。


 役割ロールは、敵を引きつける盾役タンク、敵を攻撃をする攻撃役アタッカー、魔法や呪歌などで味方を強化する強化支援役バッファー、逆に敵を弱体化する弱体支援役デバッファー、味方の回復を担う回復役ヒーラー、戦闘の全体指示をする司令塔役コマンダー


 この中からメインの役割ロールとサブの役割ロールを決めておくらしい。もちろん、状況が変化し続ける戦場において、自分の役割ロールに固執しすぎないことも重要とのこと。


 例えばわたしたち3人のパーティならば、わたしのメインは盾役タンクである。サブで攻撃役アタッカー司令塔役コマンダーも担う。

 レダさんと毒蜘蛛ポイズンスパイダーを倒したときのように、わたしとリルファナが攻撃役アタッカーで、クレアが司令塔役コマンダーとなることもある。


 もちろん全部の役割ロールが毎回揃うわけでも必要なわけでもない。特に回復役ヒーラーは貴重で、いないパーティも多いそうだ。わたしが思ってた以上に回復魔法は難しいらしい。

 魔法戦士のわたしが、いまだに回復魔法だけ使えないのはそのせいなのかもしれない。


「講習は以上だ。実戦で迷ったりしたら再度聞きに来てもらって構わないさね。ちょっとした質問ぐらいなら受付で講習の担当者を呼んで貰っても良いからね。それと初参加の人には、ここの酒場で使える食券をプレゼントするから冒険者カードを持っておいで」


 ……ん?


 職業については何も言わなかったな。もしかして無いの?


 悩んでいたら他の5人はレダさんのところに並んでいた。食券が無料なら貰っておきたいよね。


「おや、ミーナちゃんたちは食券はいらないのかい?」


 メモ書きを片付けている間に他の5人は帰ってしまったようだ。


「あ、貰います。それと質問なんですが」

「ん? どうぞ」

「戦士とか魔法使いとかで役割ロールを分けることはないんですか?」


 職業という概念が無いとわたしの知識も崩れてしまう気もするのだが……。


「あー、聖王国やもっと西の方ではそういう言い方をするところもあったかな? ただ例えば、戦士と言うだけだと武器が剣なのか槍なのか、盾はあるのか、どのようなスキルを持っているのかで方針が随分変わってしまうから、この辺だと役割ロールを分けるという意味では使わないさね」


 ……ああ、何となく理解した。


 当たり前であるのだが、この世界(ヴィルトアーリ)が現実になったことで、同じ戦士という職業でも人によって持っているスキルが全く違うということだろう。


 セブクロならば、レベルさえ上がればその職業に分類されている全てのスキルを覚えることが出来る。

 例えば、戦士であれば基本スキルである斬撃スラッシュ強打スマッシュ貫通ピアースは誰でも使えるのだ。


 しかし、ここでは剣を使っていれば斬撃スラッシュ鈍器メイスを使っていれば強打スマッシュ、槍を使っていれば貫通ピアースが使えるようになるけれど、別のスキルは該当する武器を使ってみようとしない限りは覚えることが出来ないのだ。


 それに、まったく同じ能力を持っていても、個人の性格や資質によっても得意分野に少しは差が出るはずだ。

 これではゲーム時代の職業という分け方をしてもあまり意味がない。鑑定紙を使っても自分の職業は出てこないので、自分がどの職業なのか正確にも分からないのも原因かなと思う。


 職業制のゲームかと思ってプレイしたら、スキルを獲得していくタイプのゲームだったというのが近いかもしれない。

 実際のところは、その混合型かなと感じているけれど。


 鑑定紙の「魔法戦士の才能」という表記のおかげで完全に職業で分けられていると思い込んでいたような気がする。


 ……どっちにしろやることは変わらないし、職業やスキルの知識が無駄にはならないと思う。


 それに、それならそれで新しいことが出来そうな気がするので、時間が空いたときに試してみよう。

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