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冬の市

 キノコ狩りと魚釣りをした翌週。冬のいちが開かれる時期になった。


 冒険者ギルドの初心者向け講習は神々の日とレダさんは言っていたので、わたしの誕生日の次の講習は3月7日になる。依頼を受け始める前に講習を受けたいので、その前日に家を出ることにすれば良いだろう。

 父さんに聞いてみたら、この講習はレダさんの提案ではじまったもので現在はガルディアの町と、その影響を受けた王都のギルドでしか行っていないらしい。


 まだ村に1ヶ月ぐらいいることになるし、何か暇つぶしになるものでも探しに露店を見に行ってみようかなとマジックバッグとお金を準備する。

 クレアとリルファナは2人で何かするようで忙しそうだったので、1人でいちが立つ広場に行くことに決めて家を出た。


 広場に到着すると、いつものように露店が立ち並んでいた。しかし、明らかに数が多く見える。普段は露店用に予め空き地を仕切った場所を使っているが、今回は仕切りを作っていない場所にまで簡易の店を立てている商人さんもいた。


 やってくる商人のグループが多すぎたのか村長さんが、忙しそうに対応している。

 村長さんとは、蜘蛛騒動の後にうちにお礼しに来たときに会ったぐらいで、わたしはあまり見かけることはない。


 フェルド村の村長さんは、父さんと歳が近い。いくつか上ぐらいらしい。

 平和な村の村長らしい穏和な性格で、綺麗に整えた髭が紳士的な雰囲気を出している。


 父さんが村にやって来る少し前に、父親から村長の役職を引き継いだとのことだ。


 それまでは野菜も畜産も平均的にやっていた村だったが、他の村と何かしらの違いを作りたかった村長は、町や王都にも詳しい元冒険者の父さんの意見を取り入れたりしてフェルド村の野菜を強く売り出したようだ。

 そんな村興しが成功し、今ではフェルド村の野菜というと町でちょっとしたブランドのような扱いになっていると聞く。


 ガルディアの町の大通りにいくつかあった八百屋では特にフェルド村の野菜といううたい文句は見かけなかったけれど、町の住人向けの店は大通りよりも区画の中にあるらしいので、そっちで扱っているのだろうか。


「やあ、ミーナくんじゃないか。久しぶり」

「おはようございます。村長さん」


 声をかけられてしまった。忙しいなら放っておいてくれても良かったんだけど。


「去年の森の騒動のときにお土産に贈った野菜が随分と好評だったみたいでね」


 味や品質に問題はないが、売り物にするには微妙というものを騎士さんたちに大量に渡していたようだから、食べきれない分などは家族や知人などにも配ったのだろう。

 騎士の中には爵位を持った人たちもいるだろうし、改めて宣伝効果になったわけだ。


 商人たちもそれを聞いてフェルド村に行って野菜を仕入れてこようと動き出したわけか。


 村としては、仕入れに来る商人さんからよく売れると言われたり、野菜の収入が良いことからも町で結構食べられていると思っていたようだ。けれど、実際は飲食店が仕入れているのがメインで個人で買って食べるほどは知れ渡っていなかったのではないかとも思う。

 わたしたちが泊まった宿屋ではメニューにフェルド村の名前が載っていたから知ってる人は知っているのだろうけども。


 個人での消費が増えれば、更に村の野菜は売れるようになるかもしれない。


「お土産に持っていってもらえば多少は宣伝にもなるかと思ったけど、予想以上の反響になってしまったな」


 村長さんは頬を掻きながら呟いた。一応は狙ってやったことでもあったようだ。

 新たにやってきた商人さんと話し始めた村長さんと別れて、露店をぶらぶらと見て回った。


 和風の物を売っている露店があった。聖王国から仕入れてきたのかな。

 醤油と酢、日本酒はあったが、残念ながらみりんは無い。お酒は料理用に買っておいても父さんが飲んじゃいそうな気がするからいらないかな。


 母さんが醤油をご近所にも宣伝していたので、醤油が売れているようだ。

 町に行った父さんがやたら大量に醤油を買ってくると思ったらご近所の分まで買っていたせいか。ちなみに、父さんは冒険者時代に使っていたというマジックバッグに入れて運んでいる。


「最近、売れ筋なんで持って来たんですが、村でも使う奥様が多いようでよく売れてますよ。他国の物が町でなく村で売れるのは珍しいですね」


 知らぬ間にフェルド村に醤油ブームを巻き起こしてしまったようだ。


「あれ? これは?」


 醤油の近くに似た色の調味料が置いてあった。醤油よりもどろっとしているように見える。


「聖王国ではソースと呼ばれてる調味料でね。醤油が売れてるならと少しばかり持って来たんだがこっちは知られていないみたいだった」


 おお、ソース!


 当てが外れてがっかりしていた商人さんからソースを何本か買い込んだ。どうせ売れてないんだし多めに買っても良いよね。


 突然、ソースの説明も無しに売れたせいか商人さんも笑顔だ。醤油よりも長く保存出来ないから早めに食べるようにと言われた。ソースは野菜とスパイスを煮込んで作ったものなので、しっかりとした密閉容器も冷蔵庫もないこの世界(ヴィルトアーリ)ではあまりもたないのだろう。


 その後も露店を見て回って、スパイス類や、彫金と魔法付与エンチャントなどで使えそうなものなどを少し買った。


 今回のいちは、野菜の売上が良かったことから村の人もいつもよりお金を持っているし、露店の立地が悪くて在庫がまだ残っている商人さんも多いので明日もいちを開くらしい。

 前から1日商売したら帰るという商人さんが多かっただけで、何日か滞在して個人宅に訪問販売する商人さんもいたみたい。繁忙期が重なった家や足腰が悪くて出かけるのが大変な老人には喜ばれているとのことだ。


 露店を1周したところで買い物も済み、そろそろ帰ろうかと思っていたらクレアとリルファナが何か買っているところを見かけた。

 声をかけようかと思ったのだけど、なんだか周囲を気にしてこそこそと買い物しているようだった。何を買っているのか知らないけれど、こういうときは関わらないでおいてあげよう。



 家に帰って、早速ソースを使った料理を作ることにした。


 まず、トマトと玉ねぎなどの材料を煮詰めてケチャップを作る。

 前に作ったときと同じようにハンバーグを焼いていく。煮込みにするのだが、今回はケチャップとソースと混ぜればデミグラスソースになるのだ。醤油と赤ワインも少しだけ入れて味を調える。


 時間があればキノコを刻んで入れても良かったかな。


 ミンチを作るのに時間がかかるので、ひき肉を作るためのミンサーが作れると楽そうである。手回しで刃がぐるぐる回る仕組みなんだろうけど、刃の形など細かい仕組みが分からないので作るのは難しいかな。

 町なら金物屋辺りで売ってたりしないかな。


 そんなことを考えながらも黙々と手作業でハンバーグが出来た。


「美味しいですわ!」


 リルファナに肉料理を出すとこれしか言わないことはすでに悟っている。


「前に作ったのはさっぱりした味だったけど、濃い味も美味いな」

「美味しいわね、ミーナはあとでレシピ頼むわね」


 父さんと母さんにも評判が良かった。


「うむむ」


 クレアは難しい顔で食べていた。食べる手が止まっていないので不味いわけではなさそうだけど。


 ……便秘かなにかかな?



 リルファナの誕生日は3月2日。村では本来ならば3月28日に祝うのが普通だ。

 しかし、2月28日の方が近いし、家を出てしまうということで、わたしの誕生日にまとめてお祝いしようということになっている。


 誕生日プレゼントも用意しておきたいけれど、リルファナの欲しそうな物か……。


 ベッドかな。


 部屋に新しいベッドを入れるには狭いということと、どうせ冒険者になったら家を出るんだろうという理由で父さんがベッドを作ってくれなかったのだ。

 今でも3人で交代で寝ている。冬はクレアやリルファナがいると暖かいからいいけど。


 うーん、欲しそうなものが思いつかない。好きなものなら何だろう?


 やっぱり、あれかな?

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