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家族会議

 冒険者として活動を始める準備をあれこれとしつつ1ヶ月が経ち、今は12月の終わりだ。


 この世界(ヴィルトアーリ)では、12月が終わると「闇の神の週」という1週間が挟まって年が明ける。年が明けると「光の女神の週」があってから1月になる。

 なんらかの理由があったのか、昔の人の思いつきなのかは知らないが、そういうものなのだと思うしかない。丁度1年が350日になるのでわたしにとっては分かりやすくて良いけどね。


 この1ヶ月は、森の様子を確認がてら3人で狩りや野営の練習もしたり、薬草を集めてリルファナに薬品を作って貰ったりといった細々と準備を進めていた。北の森に魔物がいなくなっていたし、南の森でも殺人兎キラーラビットも蜘蛛も村の近くでは見かけなくなっていた。


 クレアも張り切っていて、更にいくつかの回復魔法と強化魔法を習得したそうだ。その習得速度に教会のシスターには驚かれたと聞いた。


 12月といえば日本人ならクリスマスというイベントが思いつくだろう。

 と言っても、わたしは家族とケーキを食べるぐらいだったし、1人暮らしになってからは全く関係無いイベントになってしまったけれど……。


 もちろんセブクロでもクリスマスイベントは毎年行われていた。

 内容はクリスマスプレゼントを落としてしまったサンタクロースから依頼を受けるというイベントだった。魔物を倒したり、フィールドに落ちているものを拾ったりしてプレゼント箱を集め、記念品や消耗品などと交換するタイプの単純なイベントだ。


 ミーナの記憶からは村でこの時期に何かした覚えはないので、クリスマスやそれに似たイベントは無いのだろうと思っていたのだが、リルファナから聖誕祭はやらないのかと聞いてきた。どうやら貴族ではちょっとしたお祝いのようなものがあるとのことだ。


 そんなことも過ぎて、フェルド村では年の終わりの週に1年の間に溜まった穢れを落とすという意味もこめて家の掃除をする。


 要は大掃除ってやつだ。


 うちでも、毎年、担当を決めてあちこち掃除していた。もちろん今年もやるだろう。


 わたしの誕生日は、冬の終わりである2月28日となるので少なくともまだあと2ヶ月は村にいることになる。

 リルファナの誕生日は3月2日だそうなのであまり気にしなくても良いだろう。尚、貴族は日付もしっかり記録しておくとのことだ。


 クレアが成人には1年遅れなので、どうするべきか悩んでいる。


 冒険者として活動する分には問題ない歳ではあるが、どうやら成人してから活動を始める方が普通ではあるようだ。家から飛び出して冒険者になることを目指す若者などもいるようではあるが、のんびりしたフェルド村っぽくはないね。


 父さんと母さんに早めに相談すべきだろう。



 というわけで、思いついた時に相談してしまおうと夕飯後に家族会議になった。


 そもそもわたしが冒険者になるってちゃんと言ったの初めてじゃないかな?

 まあ、もう当然みたいな流れでそのことは無視されてるんだけど。


「私は、お姉ちゃんが春に村を出るなら一緒に出たいけど……」

「父さんとしては、クレアが成人してから合流して欲しいとは思ってる」


 想像していた通り、親としてはそうなるよね。

 そして話し合いも平行線を辿るまま、ここで止まってしまった。


 そうすると、選択肢は2つ。


 まず1つ目は、わたしとリルファナが秋まで待ってから3人で活動開始。

 この選択肢だと、わたしはまだ1年近く村にいることになる。ずっと村にいることに我慢出来る自信はあまりないかも……。


 2つ目は、リルファナと2人で先に町に出て依頼をこなしつつ秋にクレアと合流。

 これだと、クレアとしては足を引っ張る気がするのだろう。わたしとリルファナがある程度慣れてきたところで、1から覚えないといけないわけだし。


「母さんは、どう思う?」


 聞いているだけで黙ったままの母さんに話を振ってみた。母さんがクレアも行って良しと言えば、それで終わるのだけど。


「そうねえ……、出来ればクレアの意見を尊重してあげたいけれど。父さんの気持ちも分かるのよね」

「むぅ」


 クレアが膨れっ面で抗議している。


「うーん、クレアが春からミーナとリルファナに付いていっても良い条件を作ったらどうかしら? 父さんだって、いつかは冒険者になることは許しているんでしょう? なら少しでも早く経験を積みはじめた方が良いんじゃないかと母さんは思う」

「そっか。お父さん、どうかな?」


 父さんは、腕組みして考えている。


「母さんの言うことも分かる。そうだな、いくつか条件を飲めるなら春からミーナについていっても良いことにしよう」

「ほんと? ありがとうお父さん!」

「ミーナの誕生日までに細かい部分までちゃんと考えておくことにする。とりあえず基本的にはクレアの誕生日までは毎月1回は家に帰ってくることと、国内で活動することの2つは入れたいと思う。それと一応言っておくがパーティ解散は許さんぞ」

「お姉ちゃん、いい?」


 わたしとしては、全く問題無いのでクレアに頷いた。


 これで春からクレアと一緒に町に出ることが出来そうだね。

 ガルディアの町で少し経験を積んだら、どのぐらいの装備があるのか王都に行ってみたいかな。町から3日ぐらいで行ける距離だと聞いているし大丈夫だろう。


「それと、リルファナのことなんだが」

「わたくしですの?」

「ああ、ラディス領が国の管轄に変わったと聞いた。詳細までは分からなかったが、ピノ・ボゼッティ侯爵はリルファナの叔父さんでいいんだったか?」

「ええ、そうですわ。ラディス家からボゼッティ家への入り婿ですので」

「どうやらボゼッティ領に戻ったようだ。リルファナのことを探しているようだが、伝えた方が良いか?」


 伝える方法があるとは思わなかったのだろう、リルファナは息を呑んだ。


「伝えられますの?」

「ああ。ただ内容の機密性は保証できん。ラディス家を騙した相手にバレる可能性はある」

「……それでは必要ありません。ボゼッティ家に迷惑がかかる可能性もありますし」

「そうか。必死に探しているようなので少し心配ではあるが……」


 リルファナは頬に手を当てている、癖なのだろうリルファナが長考しているときの仕草だ。


「ええと、……この村から手紙を出したということが分からないのでしたら、一応無事を伝えることはできますわ」

「それは大丈夫だ。ガルディア方面から手紙が来たぐらいは分かるかもしれないが」


 リルファナは部屋から紙と封筒を持って来る。

 わたしたちには全く関係のない商売の御礼の手紙を書き込み、端の部分にさらさらと模様になるような絵を描いて封筒に入れて、しっかりと封をした。


「これだけ送っていただければ大丈夫ですの」

「分かった。次に町に行ったときに手配しておく。来月末までには届くだろう」

「お願いいたしますわ」


 親族にだけ分かるような暗号か何かなのかな?

 父さんはどうやって他国の貴族様に手紙を送るんだろうか、それも気になる。


「じゃあ、次は母さんからね」


 まだ何かあったっけ?


「家族で掃除するのもミーナたちが家を出てしまったら最後になるかもしれないし、今年は徹底的にやるわよ」


 ああ、大掃除かあ……。


 母さんの指導の下、大掃除が始まった。

 外壁やら畑の囲いまで掃除したのは今年が初めてだと思う。


 この5日ほどで家の中も外もぴかぴかになった。わたしたちは朝から晩までの掃除でぐったりしていた。


 年末最後の2日は手伝いも無しでのんびりさせてくれたのは母さんの優しさなのだろう、多分。

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