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再び町へ

 今回の報酬を精算するために、町のギルドへ行くことになった。

 父さんは「疲れたから任せる」と、わたしたちが受け取りに行くことが決まった。


 短刀も必要だし、マヨネーズを作る酢も買いたいので丁度良いかな。クレアの反応から前回は買わなかったんだよね。

 町などの飲食店では、マヨネーズを使っている店もあるそうだけど基本的に自家製だそうだ。


 母さんからは、醤油をもっと買って来て欲しいと頼まれて銀貨を渡された。

 消費が早すぎるもんね。たくさん買ってこよう。


 そんなわけで、アルフォスさんたちとレダさんの7人で町まで行くことになる。


「急いで帰るさね」


 レダさんがリュートを爪弾き、行進曲のような音楽を奏でた。行軍の歌アヴァンツァーレ・カンツォーネというスキルで移動速度が上がる呪歌だそうだ。

 覚えが無いのでセブクロには存在しなかったかもしれない。


「ちなみに呪歌の曲は何でもいいんさね」


 行進曲から、子守唄へと変化させても移動速度は維持されている。


「そうですのね」

「いいえ、ここまできっちり違う曲で維持出来るのはレダだけだと思うわよ」

「騙されましたわ……」


 ジーナさんが否定した。

 誰でも出来るのかとうっかり信じるところだった。でも何かしらのコツが分かれば維持することは出来るんだね。


 レダさんは、気分で曲を変えながら休憩以外はほとんどずっと弾きっぱなしで町まで着いた。門が見える頃、午前4の鐘が聞こえた。


 移動速度の上昇によって、正午に到着出来たようだ。疲労感も軽減しているように思う。


 強化バフ無しだと到着は午後1の鐘ぐらいだったので、随分早い。



「とりあえずギルドに行くさね」


 レダさんがいると門もフリーパスだった。いくつかの制限はあるけれど、ギルドマスター権限で可能らしい。

 門兵には全員がガルディアの町の依頼を受けている冒険者だから、と言っていたかな?


 わたしたち3人は村でレダさんに頼まれただけで、正式な依頼としては受けていない気もする。


 南門から町に入ると、やはり都会だなと思わせる町並みである。他の大きな町を知ったらどう思うか分からないけど。


 ぞろぞろとギルドへ向かっていると、いつも使っていた服屋が閉まっていて「1週間ぐらいお休みします」と札がかかっていた。

 この札の内容だと、普段町にいない人にはいつまで休みか分からないね。


「レダさん、お疲れ様です」


 ギルドに入ると中年ぐらいで、薄らと色の入っている眼鏡をかけた男性の職員が出迎えてくれた。

 普段使い出来る眼鏡は高級品らしく、あまりかけている人を見かけない。書類仕事などに使う老眼鏡のようなものはそれなりに普及しているらしい。


 そのまま、すぐにギルドマスターの部屋へと通された。


「適当に座って、女王クイーン悪魔蜘蛛デーモンの素材を出すさね。他は数が多いから直接、買取の方に持って行っておくれ」


 貴族が来ても対応出来るようにするためか豪華なテーブルとソファーのセットだ。

 わたしたちが座ると、素材を確保していたアルフォスさんたちがテーブルの上に甲殻や爪を並べた。


「それでは調査と査定いたしますね」

「頼んだよ」


 案内してくれた職員が、素材を集めてどこかへ持って行った。

 素材買取部門みたいな担当の人だったのかな?


「今回の事件、助かった。ギルドマスターとして礼を言わせて貰う」


 レダさんは、立ったまま深く頭を下げたままだ。


「ふふ、ミーナちゃんたちがポカンとしてるわよ」

「……そうさね。今回の事件、マルクがあたしのところに直接来なかったらもっと酷いことになってた可能性があったんだ」


 レダさんは掻い摘んで、最初から話してくれた。


 森の様子がおかしいぐらいでは、すぐに調査隊が送られることはほぼ無い。

 今回はたまたま父さんがレダさんに話を持って来たことと、レダさんが暇つぶしにギルドを抜け出して村へ直接向かったことで町との連絡もすぐ取れた。そのおかげでアルフォスさんたちもすぐに村へ来れたとのことだ。


 もしそのまま通常の依頼として調査されずに放置されていたら、巣を確立した蜘蛛の女王(スパイダークイーン)によって気付かれないまま村が壊滅していた可能性もあった。

 そうなれば、村だけでなく森にも町にも浅くはないダメージがあっただろうとのことだ。


 まあ、わたしたちがいたから逃げ出す人もいないまま村が壊滅するということは無かったと思うけれど、死傷者が出たり、戦場になる村の家屋が破壊されたりはしていただろう。


「それと、騎士団の蜘蛛の女王(スパイダークイーン)の調査によると、北の山脈の方から来たのではないかということさね」

「そういえばミーナちゃんたちの話では女王クイーンは怪我の治療中のようだったけど、北方から逃げてきたということかな?」

「え、それって、もっと強い何かがいるってこと?」


 クレアが出されたお茶を飲みながら聞き返した。


「何かとの勢力争いに負けて南下してきたんじゃないかっていうのが騎士団の意見だ。霧の山脈(ネビアモンターニャ)では、よくあることだと聞くが、一応王都にも注意するように伝えておくさね」


 霧の山脈(ネビアモンターニャ)の人類の活動領域は、鉱石を採掘している極一部に過ぎない。


 いくつもの分岐がある迷路状の洞窟に、迷宮ダンジョン化したエリア、常に吹雪いている極寒の山頂など、とてもじゃないが人が生きていける環境ではないそうだ。そこに何かあると果敢にも挑戦している冒険者たちもいるようだが、そのまま帰ってこない者も多いらしい。


「報酬の方なんだが、全員で白金貨1枚に、不要素材の買取分とさせて貰おうと思う。正直、間接的にガルディアの町を救ってくれたにしては、あたしは安いぐらいだと思うんだが予算の都合でね……。他に何か融通して欲しいことがあれば、今後それを聞くってことで勘弁して欲しい」


 白金貨は一生見ない人の方が多いと言われている貨幣で、大金貨100枚分。

 多くても大金貨10枚ぐらいかなと予想していたんだけど10倍だったよ……。


「お待たせしました。買取の場合はこの金額となります」


 眼鏡の男性職員が素材を持って戻ってくると買い取り価格の書かれた紙と一緒に置いていった。

 分かりやすいようにちゃんと分別されている。


「結構良い額だな……」

「ええ、どうしましょう」


 アルフォスさんとジーナさんがびっくりしている。

 ちらっと紙を見ると、女王の甲殻は大きいもので大金貨10枚とか書かれていた。


「わたしたちは素材はいらないので、アルフォスさんたちが必要な分だけ引き取って貰えば良いですよ」


 村にいる間に3人で決めておいた。

 わたしとリルファナの生産スキルでは、甲殻などの素材は使えないので持っていても仕方ない。


 頑張って考えればわたしの防具の強化で使い道もあるかもしれないけれど、そこまで必要な気もしないんだよね。

 わたし的には防御力を強化するなら金属系の鎧の方が良いし。


「それとミーナちゃんたちのギルドカードに裏書うらがきをしておくさね」

「裏書?」


 ギルドへの貢献度が非常に高い依頼をこなしたときのシステムらしい。ギルドのシステムが出来たころはランクを一気に上げていたのだが様々な問題が浮上したとか。

 依頼主を買収し、金でランクを買うやからなどが出ることを防ぐ目的もあるそうだ。


 わたしたちのように戦闘能力だけで判断されてB級などに上がってしまった場合、採取や護衛などの経験や知識が圧倒的に不足してしまう。だが、依頼者側としては、それを知るすべがないのでB級の実力があると思って雇う。その結果、依頼に失敗するとお互いに不幸になってしまうわけだ。


 そういうことが無いようにカードに公開されているランクは上げず、カード内に情報として「戦闘能力はB級に匹敵」「町クラスの救済経験あり」「貴族の急な依頼に成功」といった風に内容を書き込んでおくらしい。

 この情報は各ギルドの職員しか参照出来ないが、依頼を受けるときに内容によっては優先的に依頼を持ち込まれたり、得意分野ならば現在のランクよりも上位の依頼を受けさせて貰うことが出来るなど有利に働く。


 アルフォスさんたちが言うには裏書はギルドからの信用を保証していることと同じなので断る人はいないと断言された。それぐらいなら問題無いかなと思うし了承することにした。


 内容は、わたしたち3人でも少し変えるそうだ。


 リルファナは「戦闘能力はA級と同等」、クレアは「戦闘能力はC級、サポート判断はB級と同等」となるらしい。


 わたし?


 わたしは「戦闘能力はB級、統率、継戦能力はA級と同等」。


 それにプラスして3人とも「ガルディアの町の救済依頼の協力者」と書いてくれた。


 裏書は最低保証の意味も持つので、少しだけ低く見積もられるらしいけれど、思った以上に細かく評価されるんだね。

 D級に上がるための最低限の基準を満たしていないので、カードの表記はE級のままだ。


 それを見たミレルさんがそっと一言漏らした。


「……表記詐欺」

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