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子守唄のレダ

 レダさんが、リュートを掻き鳴らすとギシギシと関節の音を響かせながら毒蜘蛛ポイズンスパイダーが複数、寄って来た。


 この世界(ヴィルトアーリ)の蜘蛛は日本で見る蜘蛛よりも何だか雑なハリボテというか、作り物っぽさを感じるため、あまり嫌悪感が湧かないのが救いか。


「どんどん来るさね。しばらく耐えて!」

「いきなり『出会い』からかよ! せめて先に言え!」


 近くの茂みからアルフォスさんの悲鳴が上がった。ジーナさんとミレルさんも「うへぇ」と呻いていたのが聞こえた。


 この曲は出会いの歌インコントロ・カンツォーネ、周囲の魔物を呼び寄せる呪歌の1つだ。セブクロでは、一気に敵を集めておき、まとめて倒す範囲狩りの時に使ったり、砂に潜った敵などを誘い出したり出来るスキルだった。ちなみに、固い土や石だと音が届かないらしく出てこない。


 えっと、毒蜘蛛ポイズンスパイダーがこの辺りに大量に湧いてるんだよね……?


 ガサガサガサ。


 出てくる出てくる。大きさは膝ぐらいまでだけど、7匹ほどの毒蜘蛛ポイズンスパイダーが茂みから姿を現した。


「来たぞ!」


 アルフォスさんの警告とジーナさんの雄たけびが聞こえた。


「アルフォスさんたちのいる方を、背にして戦うよ!」

「うん!」

「はいですわ!」


 乱戦になっても方向が分かりやすいように土壁スオロ・ムーロで低い壁を作っておく。スキル上げではすぐ壊れるようにしていたが、普通に使えば15分ほどは持つはずだ。壊されたら別だけどね。


 蜘蛛のレベルはさほど高くないとは言え、数が多いので剣がひっかかるとやっかいだ。

 わたしは最初から魔法剣を使うことに決める。アルフォスさんたちが剣を3本持って来てくれたのは正解だった。


加速アツェレ筋力強化ムスコロ水剣アクア・スパーダ

防御値強化付与レガロ・アルマ!」


 わたしは自分に強化魔法と水属性の魔法剣をかける、クレアはレダさんを含めた4人に範囲強化魔法をかけた。


「リルファナは左をお願い!」

「はい! 『影走り』」


 影走りは、忍者クノイチのスキルだ。移動速度のアップと足止め系の攻撃を全て回避する効果を持っている。ゲームとは変わっているだろうから粘着糸にも効果があるか分からないけれど。


 わたしが転生者だということが分かったせいか、リルファナが自重しなくなった。

 影走りの速度上昇効果によって、左から迫ってくる蜘蛛へ一気に近寄ると2匹を一瞬で切り裂く。止まらずに次の敵目掛けて走り出す。


 リルファナとは反対の右へ走り、片っ端から魔法剣で叩き切っていった。


「思った以上にやるじゃないか! どんどんいくよ!」

「おいおい、こっちはやべえよ!」

「ジーナ、前に出すぎだ!」


 曲調が変わり、テンポが速くなると同時にアルフォスさんと父さんの悲鳴があがった。


「新人が余裕なんだ、そっちはそっちで頑張るんさね」

「お姉ちゃん、リルファナちゃん、追加で8! 前方全方位!」


 クレアは何かあったときにすぐに魔法が撃てるように、魔力を留めたままだ。後方で戦闘エリアの観測を行ってもらう。


毒蜘蛛ポイズンぐらいなら余裕ですわ!」

「余裕なのはいいけど、噛まれるのには気をつけてよね」


 倒す、呼ばれた蜘蛛が寄ってくるの繰り返しで辺りには蜘蛛の死骸が積まれていく。

 時々、クレアの爆発エクスプロジオーネが炸裂した。数が多すぎてわたしとリルファナだけでは間に合わないのだ。


 土壁スオロ・ムーロが時間切れで壊れた。隙を見て再度設置しておく。


「次、追加、10……、いや、いっぱい! 毒蜘蛛ポイズン以外がいる!」

「お、本隊が来たかな?」


 クレアの報告にレダさんが反応した。


 毒蜘蛛天国ポイズンパラダイスと呼ぶべき光景に、何種類か大蜘蛛ヒュージスパイダーが混ざっていた。大蜘蛛ヒュージスパイダーは腰辺りまで届く大きさだ。


「寝かせるよ!」


 レダさんがリュートで出会いの歌インコントロ・カンツォーネを奏でたまま、歌い出した。


「眠れ、眠れ……」


 まどろみの歌コリカルシ・カンツォーネ。付近の敵対的な生物を眠らせる歌だ。


 ――音楽の二重詠唱!?


 1人で1度に2つの呪歌を使うなんてシステムはセブクロには無かった。

 そもそも楽器で曲を弾きながら、全く別の歌を歌うということ自体、難易度が高いだろう。更に呪歌にしたければ魔力を乗せる必要がある。


 ギシギシと関節音を鳴らす蜘蛛たちが、地面に崩れ落ちて徐々に動かなくなる。

 眠っていっているようだった。


 レダさんは、歌いながら演奏だけをやめると、そっとリュートを背負い鈍器メイスに持ち替えた。眼と仕草でわたしたちに合図する。


 ――れ、と。


 歌を止めてしまうと眠りが浅い魔物や、物音で目が覚めてしまう個体がいるのだろう。


 レダさんは手近な蜘蛛に鈍器メイスの一撃をお見舞いした。ニコニコしながら、散歩するかのように鈍器メイスで蜘蛛を屠っていく。


 これが<子守唄の>レダの正体なのだろう……。

 眠りに誘って動かなくなった魔物を、再度、永久に寝かしつけるのだ。


 一瞬呆気にとられたが、すぐにわたしたちも付近の蜘蛛にトドメをさして回った。



「ふぅ……」


 流石に長時間の実戦に息が弾む。しばらく休憩だそうだ。

 鉄の剣はそろそろダメになりそうだ。腰には予備の剣もいている。


 今の剣をしまって取り替えようか悩んでいるとアルフォスさんたちが顔を出した。


「おい、ミーナちゃんたちはまだ新人だぞ!」

「流石に危ない」


 合流した途端、アルフォスさんがレダさんに掴みかかりそうだ。

 ミレルさんも頬を膨らませて同意していて、ジーナさんはわたしたちの方を見て少し困った顔をしている。


「あー、だいじょーぶ、だいじょーぶ。彼女ら強いさね」

「新人というレベルではないかもしれないが実戦経験だって無いだろう!」

「まあまあ、よく見てみるさね」


 わたしもリルファナも呼吸は乱れているが、攻撃は一撃も食らっていない。

 クレアも後方支援を任せているし、クレアのところに行かせないことを優先して戦っている。むしろ敵の数が多すぎて、途中からは敵の密集している場所に爆発エクスプロジオーネを撃たせてもいた。


 一方、前衛であろうジーナさんやミレルさんは何度か噛み付かれたのか、前脚の攻撃を食らったようで出血していた。さらに、ジーナさんはどこかにぶつけたのか左腕を腫らしたままだ。

 毒の方はすぐにアルフォスさんが治しているのだろう。


「ん……。お、おう……」

「むむ」


 それに気付いたようで、アルフォスさんとミレルさんが黙ってしまった。


「ミーナちゃんたちは役割ロールの回し方が上手い。現状に満足していたら、アルフォスたちもすぐに抜かれてしまうさね」


 役割ロールって何だろう?

 セブクロではそんなもの無かったけれど、帰ったら聞いてみよう。


「父さん大丈夫?」

「ああ、だが連戦は厳しいかな」


 父さんは大きな石に座り込んで水を飲んでいた。一昨日も戦い続けていたし、昨日も黙々と訓練していた影響なのか父さんは疲れが溜まっているようだ。


「『氷精製』」


 ミレルさんが氷を精製してジーナさんの腫れた部分に当てている。生活魔法は、水だけじゃなくて氷も作れるようだ。水を沸騰させることも出来るのだから、凝固させられるのも当然か。


 アルフォスさんが、怪我を治すために癒し(グアリジョーネ)を使っているが、随分時間がかかっていた。

 クレアはあっさりと使っていたけれど、回復魔法を使うのは結構大変なようだ。


 魔力量か魔力操作の問題なのかな?


「この蜘蛛はどうしますの?」

「アルフォス班は、休憩後、こいつらを解体しておくさね」

「ん、別にいいが。レダたちはどうするんだ?」

「少し先を調べに行ってくるさね」

「分かった。……戦えるのは分かったけど無茶はしないでくれよな」

「当たり前さね! ちょっと先を見てくるだけ」


 うーん、レダさんの性格を考えると本当かなと思ってしまう。


「あの、蜘蛛の目玉も集めておいていただきたいのですけれど」

「それは良いけど使い道あったっけか?」

「……薬に使えるはず」

「ええ、そうですわ」

「ん、……あれって目玉を入れるの?」

「いえ、溶かし込んで目玉に溜まっている魔力だけを利用するので目玉を入れるわけではありませんの」

「そうなんだ、……飲まなきゃいけないのかと思ってた」

「流石に目玉が入ってると飲みにくくなりそうですの……。とりあえず、よろしくお願いしますわ」

「了解、気をつけてな」

「はい! ありがとうございます」


 ……なるほど、目玉が入ってるわけじゃないんだ!


「休憩が終わったら行くさね」


 休憩を終えると、レダさんが先導して進んでいくことになった。


「こっちから来る蜘蛛がやたら多かったさね」


 戦闘をしながら、どちらの方角から蜘蛛が来ているのかも確認していたらしい。

 森の中をしばらく進むと、立ち止まる。


「あの戦い方だとリルファナちゃんは気配も消せそうだけど、出来るかい?」

「ええ、一応」

「この少し先が、開けた場所になってるようでね。ちょっと見てきてくれるかい? 何かあったらすぐ戻って来てほしいさね」

「分かりましたわ。『隠密』」


 リルファナが隠密のスキルを使うと、すっと気配が消えた。目の前に見えているのに、認識しにくいという不思議な感じだ。


 そのまま、音を出さないようにサササっと偵察へ行った。忍者クノイチかっこいい。

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