検証 - スキル上げ
ガルディアの町から帰った翌日はお休みにして、午前中の手伝いもいらないということで久しぶりに家でごろごろしていた。
父さんは昨日のことで村長さんの家にいってしまったし、裁縫はクレアとリルファナがいれば良いらしい。
なので町で知ったことなどを日本語のメモ書きに追加したり、買ってきた本を読んでいた。
午後はクレアは教会へ勉強に。
リルファナは町で買ってきたものを使って何かやりたいことがあるらしく、母さんと話し込んでいた。
◇
「リルファナはお裁縫も上手で助かるわ。ミーナに手伝わせると壊滅的で見てられないもの」
「ありがとうございます」
母さんの手伝いを終わらせたリルファナは、町で買い足していた素材を使って防具を作ってみようとしているようだ。
リルファナはメイド服を崩して、服屋や冒険者ギルドで買った厚い革や金属板を組み込んでいくかのように縫い合わせていく。
その手際の良さから、ただの貴族令嬢ではないのではと一瞬思ったけれど、そんなことあるわけないか。冒険者に憧れてたって言ってた気もするからその関係で勉強したのだろう。
そんなことより、リルファナはメイド服で戦うつもりなのか……。
町の冒険者を見た感じでは、防御力さえあればどんな服でも大丈夫そうな世界ではあるけれど。
「補強だけなら2、3日あれば出来そうですわね」
夕方、昼過ぎからずっと続けていたようで、痛くなったのか首や肩を回しながらリルファナが呟いていた。
町で醤油を買ってきたので、母さんに教えるためにも夕飯に醤油を使った料理を1品出した。醤油とバターを使ったポテトとベーコンの炒め物だ。
――醤油の旨みを思い知るが良い。
「今の町には美味しい調味料が売っているのねえ」
「聖王国の商品を扱ったお店にあったんだよ、お母さん」
「いっぱい買っておいたからしばらく使えるよ」
ドンッと10本ほど大ビンを置いたら、買いすぎでしょという目で見られた。
「他にもたくさん使い道があるから大丈夫だよ」
「ミーナ様とお義母様の作るご飯は美味しいですわ。わたくし料理はあまり得意でなくて……」
母さんはリルファナにうっかり奥様と呼ばれるたびに、母と呼べと言い続けた結果、リルファナも完全にお義母様と呼ぶようになっていた。
よく考えたら、リルファナがわたしの嫁に来たようにも感じて恥ずかしいのだけど……。
ちなみに父さんは急ぎで冒険者ギルドに行くと言って、昼過ぎには村を出ている。
父さんがいないとリルファナ用の新しいベッドが作れないな。
その夜はクレアが「今日は私とリルファナちゃんが一緒に寝る!」と言い出した。
リルファナのことになると頑固というか我がままになるのはクレアも妹が欲しかったのだろうか。
厳密にはリルファナの方が年上だけど、背の低さだけでなく、奴隷だからというより本来の性格なのかあまり自分を主張しないリルファナの方が妹のように見えるのだ。
どっちにしろ、仲良くしてくれる分には放っておいても問題は無いので良しとする。
◇
――翌日。
リルファナは今日もメイド服を改造している。
わたしは1人でスキルの特性を調べるために、北の森の秘密基地にやってきた。
念のため、鉄の剣と胸当てだけは着けてきたけど魔物に遭遇することはなかった。家の近くまで川に水を汲みに来ていた子に見つかって剣を持ってることを注意されそうになったけれど、冒険者の証であるギルドカードを見せたら瞳をキラキラさせていた。チョロい。
生活魔法に分類されている魔法はセブクロには存在しなかったため、システム的にはどうなっているのかイマイチよく分からない。逆に言えば、通常の攻撃魔法ならシステム的にある程度なら検証が可能であるということだ。
と言っても、体力や魔力、スキルレベルを数値で確認できないので、何でもかんでも検証出来るわけじゃないけれど。
今回試そうと思ったのは魔法のスキルレベルがゲームと同じように上がるかである。更に言えば空撃ちでも上がるかまで調べたい。
セブクロのサービス開始時はスキルの空撃ちでもスキルレベルを上げることが出来た。ただそれでは簡単に上がってしまうのですぐに修正され、スキルレベルに対応したレベル以上の敵に当てたときや体力が減っているキャラクターを回復したときだけなど条件が含まれるようになった。
例えば、攻撃魔法であればスキルレベル1ならばどんな敵に撃ってもレベルを上げることが出来るが、スキルレベル2になるとレベル21以上の敵に使わないと上がらなくなるといった具合だ。この辺りの数値は遊びやすくするためにアップデートのたびに細かく調整されている。
スキルレベル1から2に上げるための試行回数は100回、これはどのスキルでも同じでアップデートでも変わっていない。そこで、スキルレベルが上がったことが見た目で分かるものを100回撃ってみようということである。
変化が分かりやすい魔法で、わたしが1度も使っていない魔法が1つある。
土壁、名前の通り土で壁を作る魔法だ。
敵の侵入を防ぐ魔法なのだが、ゲームではあまり使い道の無かった魔法の1つで、もちろん壁があれば仲間の視界を塞ぐし移動も制限される。何も言わずとも連携が取れるようなパーティでもないと邪魔にしかならない。
撤退時に壁を置いて足止めしたり、予め計画を立ててから挑む大規模戦闘などでは使うこともあったようだが、大規模戦闘に参加したことがほとんど無いわたしはよく知らない。
土壁は、スキルレベル1では20cm程度の土の壁を設置するだけの魔法である。また地面が土でなければ使えない。スキルレベルが上がるごとに設置出来る壁の高さが増えていくので検証には分かりやすい魔法だと思う。
地面を指定する魔法ということで、セブクロでも空撃ちでスキルレベルが上げられる魔法に分類されていたので最初の検証には丁度良いだろう。
また、血狼戦で1度だけ使ってしまったが氷針も針の数が一定のレベルごとに増えるので変化は分かりやすい。こちらを使えば空撃ちでもスキルレベルを上げられるか確認出来る。
こちらの針の数が増えるのはスキルレベル4になったときなので、必要な使用回数は1400回となりちょっと、いやかなり面倒だけれど……。
◇
ぼこ。ぼこ。ぼこぼこ。
地面から土壁が生える。
ぐしゃ。どちゃ。
魔法の効果時間が切れて土壁が崩れる。
秘密基地から少しだけ離れた場所に向かって、無詠唱でひたすら土壁を作り続ける。想像以上に大変な作業だ、これ!
魔法は無詠唱で簡単に撃つことが出来る。
魔法の習得時には詠唱する方が集中しやすいが、安定して使えるようになれば詠唱する必要は無い。
常に詠唱するのは、魔法のためというよりは仲間のためで、味方にこれから何を使うよと知らせるために行っているからだ。これは、攻撃スキルも同じ理由である。
土壁に限らず、町に向かうときに使った旋回のようにセブクロには使い所が難しい魔法や、全く役に立たないと言われる魔法が数多くあった。
これについては、会話やサイコロを使って進めるテーブルトークロールプレイングゲーム、通称TRPG化するための布石ではという説も浮上した。確かにTRPGで登場するような魔法も多かったように思う。
例えば、遠くのエリアの会話チャットを読み取る風の声や、土壁に穴を開ける魔法、穴のような魔法だ。
現実になった今ではこれらも強力な魔法だと思う。
そんなことを考えつつ体感で1時間近く、そろそろ100回になる。
わたしが魔法戦士扱いだからか、魔力は豊富なようでまだまだ余裕がある。
ぼここ!
おや、あれこれ考えながらやってたせいで何回分か数え間違えていたようだが、スキルレベルが上がったようだ。
明らかに今までより高い土壁を築いた。……50cmは無いぐらいかな? これでは簡単に乗り越えられてしまうし、実用化するにはスキルレベル5ぐらいは必要かもしれないね。
さて、この作業に心が折れる前に、氷針でも実験をしようか。
もしこれで氷柱の数が増えたなら、単純な空撃ちでスキル上げが出来ることになる。
近くの木に向かって氷柱を無心で打ち続けること700回。土壁と違って連射出来るのでカウント自体は早いが、今日はそろそろ日が暮れるので半分のところで帰宅だ。
……最初に適当でいいやと空に向かって撃ったらすぐ近くに落ちてきた。死ぬかと思った。
リルファナが自分の作業に集中しているのが確実な明日までには終わらせたいかな。こんなことしてたら絶対変な目で見られると思うし……。