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帰宅

 お昼を食べてたっぷりと休憩を取ったあとは再び村へと歩き出す。


 クルマ、とまでは言わないから自転車ぐらい欲しいな。でも完全に舗装された道じゃないから自転車があっても大変そうではある。


 町から丁字路の道は、町からしばらくは石畳が敷かれているが、町から離れると土の道となる。土を平らに均した道の端を少しへこませてあり、そこを雨水が流れるようにしているようだった。どういう技術なのか分からないが、単純に踏み固めた道というわけでもないようだけど。

 ところどころ石畳が敷かれていた跡が残っているので昔はずっと石畳が続いていたようだ。きっと、英雄時代に作られたものの、全ての街道までは維持出来なくなったのではないだろうか。


 丁字路から村までは、それまでと違いただ踏み固められただけの道だ。

 村人が思っている以上に、領地としては重要な農耕地となっているのだろう、騎士たちが小まめに往復して整備しているのか荒れてはいない。


 ぐねぐねと森に沿った道を歩いていると、森の中から視線を感じた。


「お姉ちゃん、熊がいるよ」

森林熊フォレストベアですわね」

「近付かなければ襲ってこないよ」


 森林熊フォレストベア、ゲームを始めた初心者がウルフなどを倒して少しレベルが上がった頃に戦う魔物だ。非攻撃的ノンアクティブなので近付かなければ襲ってくることもない。

 現実になったこの世界では空腹だったら襲ってきたりするかもしれないけど。


「お姉ちゃん、こっち側って村の北の森だよね?」

「そうだね、熊は南の森の魔物だったはずだけど」

「北と南で違いますの?」

「植生が違うせいか生息する魔物の種類が違うんだ。それに北の森の浅い部分にはあまり魔物がいないはずなんだけど」

「さっきの騎士さんが言ってたことと関係あるのかな?」


 ――最近は森の方も騒がしい。


 森林熊フォレストベアが南の森から北の森に移動するような何かが起きている?


 しばらくこちらを警戒していた森林熊フォレストベアは、わたしたちが近寄る気がないことが分かったのか森の中へと引き返していった。その後ろを小熊が2匹ついていった。


 ゲームでは設定されていない限り、全ての魔物は同じものだったけど、現実になれば個体差はあるし魔物には魔物の暮らしがあるということか。


 肉と毛皮と経験値としか思わなくて申し訳ない気持ちになった。気をつけてはいるが、まだゲーム感覚が抜けていないのだろうな。



 村の入り口と共に柵の付近に自警団の格好をした人が3人立っているのが見えた。2人は父さんと同じぐらいの歳で、1人はわたしより1つ下、クレアと同い年の見習いだ。


「ミーナ、クレアお帰り。お客さんも連れてきたのか?」

「ああ、うん。しばらく一緒にいるかも」


 奴隷だとは言いづらく、そう扱いたくない気持ちもあるので、適当に誤魔化しつつ返事をした。


「珍しく朝から領地の騎士様方が来たんだが、どうも森の様子がおかしいから監視をつけろって言われてな。自警団所属の俺たちは大忙しだよ」

「多分、その騎士さんたちなら途中ですれ違ったよ」

「そんなわけだから、森に入るときは気をつけろよ」

「分かった、ありがとう」


 家に向かって歩く。3日ぶりに帰ってきたなと思わせる景色だ。


 リルファナを父さんと母さんに紹介しないとなんだよね。ちょっと気が重い。


「ただいまー」

「お母さん、ただいま。あ、お父さんもいたんだね」

「え、えっと、お邪魔しますわ」


 3人で家に入ると父さんと母さんが丁度、お茶を飲んでいた。父さんのぎっくり腰は治ったらしい。


「おかえり。そちらのお嬢さんは、町で友達でも出来たのか? それぐらいあるかもしれないとたった今、母さんと話してたところだったんだが……」

「あらあら、こんな遠くまで遊びに来てくれたの」

「ちょっと複雑だから座って説明するよ」


 父さんも母さんも「またか」と言う視線を送るのはやめてくれませんかね……。


 リルファナ用の予備の椅子を出してきて5人で席に座って一呼吸。


「結論から言えば、奴隷を拾いました」

「え、またお前……」

「待った! 怒られる前に1から説明するよ」


 門で馬車を助けたことから説明した。

 これにはクレアも擁護してくれた。


 またリルファナも移送中に知的奴隷から愛玩奴隷に勝手に変更されていたことや、藁にも縋る思いでわたしに助けを求めたことも追加した。


「それと、これはミーナ様にも言っていませんでしたが……。わたくしは騙されて奴隷に落とされました。あのまま商人に売られていたら、追っ手に買われ殺されていた可能性もゼロではありません……」

「リルファナちゃん、そんな危ない状況だったの?」

「最悪を想定した場合の推測でしかありませんし、ヴァレコリーナから別の国に追い出せればそれで良かったということもありますので何とも言えませんが……。現在はミーナ様の所有になっているので少なくともこの村周辺で生活していれば無理に手を出してくるようなことはないと思います」

「ふむ……。あの国は貴族間の派閥争いが激しいとは聞くがそこまでか。昔の伝手で少し調べてみよう」

「アルフォスさんたちに頼むの?」

「いや、貴族関係なら他にも伝手は持ってる。国内の貴族なので役に立つかは分からないが、最近は顔を出していなかったから町に行ったときに尋ねてみよう」


 なんだか父さんも顔が広いよね。冒険者時代の伝手なのかな。


「じゃあ、リルファナさんはうちの娘ってことでいいわね。もう1人娘が増えるとは思ってなかったわ」

「ん、……まあいい。母さんが言い出したらもう聞かん」


 笑顔で母さんがパチンと両手を合わせた。父さんはやれやれとすぐに折れた。


 父さんの言うことに滅多に口に出すことはないけれど、うちの主導権は母さんが握っているのだ。


「リルファナと申します。よろしくお願いします、旦那様、奥様」

「ジェッタよ、そんな硬い言い方じゃなくてお母さんって呼んでね」

「え、ええと」

「……諦めろ。いっそのこと俺もお父さんでいいぞ!」

「わ、分かりましたわ。お義母かあ様、お義父とう様」


 うふふ、と母さんが喜んでいた。よく考えたらクレアって母さん似じゃないかな……。



「まあ! カレーですの?」

「ミーナが作った料理なんだよ」

「新しい料理も作れるのですね。ミーナ様はすごいですわ!」

「いやあ、香辛料を適当に混ぜただけだよ」


 夕飯で母さんがカレーモドキを作ったところ、リルファナはとても喜んでいた。町でも見なかったけど、カレーは世界も超えて好まれるようだ。


 リルファナが知っているということは別の国にはあるのだろう。


「ミーナ、言い忘れていたが、北の森に入るなら武器は持っていくように」

「様子がおかしいって聞いたけど、そのせい?」

「ああ、村の付近でも魔物の報告例がある」

「そういえば帰ってくる途中に北の森側に森林熊フォレストベアがいたけど」

森林熊フォレストベアが?」

「クレアもリルファナも見てるよ」

森林熊フォレストベアはかなり臆病な魔物だ。余程のことがなければ魔物避けの石柱や村に近寄ってまで北の森へ抜けていくとは思えない」

「南の森でその『余程のこと』が起こってるのかもしれないってこと?」

「……調査が必要になりそうだな。アルフォスたちとの遺跡の調査では何も無かったんだが」


 冒険者を雇うか、領主に相談するか村長と検討しなければと、父さんとの話はそこで打ち切られた。


 町で使った鑑定紙は料理中のかまどに放り込んだし、買ってきた本は部屋の空いた棚に並べておくことになった。

 特に図鑑は誰でも読める方が便利だろう。



「そういえば部屋のベッドが足らないことを忘れてた!」


 さあ、今日は寝ようという時間。

 リルファナの説明や、荷物整理などでばたばたしていてリルファナのベッドが無いことを完全に失念していた。


「買っておいた寝袋で大丈夫ですわ」

「私がお姉ちゃんと寝るから、私のベッド使いなよ」

「いえ、わたくしのためにミーナ様とクレア様に負担をかけるわけには……」

「じゃあ、リルファナがこっち入りなよ」


 うちのベッドはダブルサイズというわけではないけど少し大きめに作られているし、リルファナは小柄なので一緒に寝ても平気そうだと声をかけた。


「リルファナちゃんは昨日、お姉ちゃんと一緒に寝てたでしょ。今日は私の番!」


 あれ、わたしが起きたときはまだ寝てたのにクレアは知ってたのか。トイレにでも起きたのかな?


「え、えっと。……分かりました。今日はクレア様のベッドを使わせていただきます」

「やった!」


 クレアが笑顔でわたしのベッドに潜り込んできた。まだまだ子供だね。


 ――まあクレアが嬉しそうだし良いか。

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