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北通りにて

「ミーナ様、見つかりましたわ」


 歴史書のコーナーを調べていたら、リルファナが本を1冊持って来た。


「昔、実在したと言われる英雄の伝記ですの。その英雄を題材にした創作という形で小説の方に分類されていましたわ」


 タイトルは『魔法剣の使い手』。かなり前から置いてあった古い本のようで、随分とインクが色褪いろあせている。

 リルファナから本を受け取って軽く流し読む。魔法剣を使う英雄が、あちこちの事件を解決していく話だった。設定や描写などから幻想小説ファンタジーであることは間違いない。

 気になるのは、魔力の流れなどの細かい描写もあり、その辺りはわたしが使う魔法剣の感覚と似ているところだ。


 この本も魔法戦士であるか、魔法戦士を知る転生者プレイヤーが書いたものではなかろうか。


「ありがとう、歴史書と武芸書には見当たらなかったから、後は好きに見てていいよ」

「わかりましたわ、何かあったら声をかけてくださいまし」


 リルファナは小説コーナーに戻るようだ。


 歴史書よりも古い小説や伝記の方が、転生者プレイヤーについては分かるかもしれない。問題は、あくまでも読物として書かれた物なので必要な情報が載っているとは限らないことだけど。


 残りの似たような歴史書もざっと目を通した後、リルファナの持って来た『魔法剣の使い手』を読み込むことにした。あまりページ数の無い本なので1時間もあれば読み終わるだろう。


「お姉ちゃん、帰りに本屋に寄っても良い?」

「わたしも買おうかな」

「わたくしも悩みますわ」


 読む本が無くなったのか、集中力が尽きたのか、示し合わせたわけではないが何気なく合流した。


 良い本があったのだろうか、図書館で読んでいた本でクレアは手元に置いておきたくなったみたい。


 図書館は貸し出しまではしていないので、家で読みたければ同じ本を購入するしかないのだ。


 リルファナも気になった小説があったようで、頬に手を当ててうーん、と悩んでいる。こういう仕草がお嬢様なんだよね。本人は意識せずにやっているところが尚更。

 村の生活は、暇な時間もたくさんあるので多めに本を買っておくのも良いと思う。マジックバッグに入れておけば重さも感じないし。


 わたしも、『魔法剣の使い手』を読み込んでみたら、小説ではあるものの、知っている人が読めば魔法剣の使い方についてのハウツー本のような書き方であることに気付いた。魔法剣の使い方自体は分かっているけれど、応用に使えるかもしれない。

 古い本なので売っているか分からないが、続編がありそうな終わり方だったのに図書館では2巻が見つからなかった。本屋にあれば買っておいても良いだろう。


「北通りに戻る途中に大きめの本屋あったよね」

「ええ、図書館帰りに寄る人を狙って作ってあるのかもしれませんわ」


 受付で預かり金を返してもらって、本屋に寄ることになった。宿から来た道を辿るように歩いていく。


 図書館を出てしばらくすると、馬に乗った金属鎧を着た一団とすれ違う。金属特有の光沢のある暗い灰色の鎧を全員が着ていた。集団で訓練された一糸乱れぬ整列のまま道を進んでいく。兜で表情は分からなかったが、動きからは疲労感なども見えなかった。


「ハウリング家の騎士ですわね」

「この領地の? リルファナちゃん何で分かるの?」

「鎧や馬具にハウリング家の紋章が入っていますわ。先ほど図書館で少し調べておきましたの」

「急いでるわけではなさそうだから町の巡回かな?」

「馬の足が泥で汚れてたから街道から帰ってきたところじゃないかな、お姉ちゃん」

「貴族街と言うには貴族の屋敷の区画が小さすぎるので、騎士団の本拠地も近くに構えているのかもしれませんわね」


 貴族の家の紋章を調べるなんてわたしには全く思いつかなかった。貴族独特の視点なのだろう。

 クレアは周りをよく見てるようだ。もちろんわたしは馬の足なんて見てなかったよ。


 騎士団とすれ違った後、少し歩くと本屋に着いた。北通りから少し入ったところで、こちらからも通りが見えている。


 昨日と同じように各自で見たいものを探しに行くことにする。


 クレアは魔術書の取り扱いコーナーへと歩いていった。わたしは小説の置いてあるコーナーに同じ目的のリルファナと一緒に足を運んだ。


「リルファナ、村では自由な時間が随分あると思うから、本は多めに買っておいても良いよ。マジックバッグもあるし」

「では、そうさせていただきますわ」


 わたしの買いたかった『魔法剣の使い手』は2巻まで取り扱いがあったので2冊とも購入することにした。リルファナは本を前にまだ決めかねているようなので、クレアを見に行くことにした。


「あ、お姉ちゃんどうしたの?」

「自分の分は見つけたから、様子を見にね」

「これかこれにしようと思うんだけど、どっちがいいかなあ?」


 クレアが悩んでいた2冊の本。

 『生活魔法から始める魔法入門』、『生活魔法で出来る簡単魔力強化』という本だった。


「図書館で読んだ本に書いてあったんだけど、生活魔法を使い続けると魔力操作の技術とか魔力量が上昇するんだって。お母さんから習った魔法が2つだけだから増やそうかと思ってるんだよ」


 セブクロではスキルにもレベル制が取り入れられていた。スキルを使い続けると、そのスキルは成長レベルアップしてより強力な効果を発揮するようになる。それに付随して、剣術や弓術のように物理系スキルだとスタミナが、魔法系スキルだと魔力が上昇した。


 生活魔法でもそれが可能ということだろうか。

 魔法というくくりは一緒なので出来ないと言い切ることも出来ない、むしろ出来る可能性の方が高いとは思う。


 それを踏まえればわたしの解答はこれしかない。


「覚えていない魔法が多い方を選べば良いんじゃない?」


 複数のスキルを使い続けてスキルレベルを上げたほうが効率が良いはずだ。


「そっか、そうするよ」


 魔法の種類は『生活魔法から始める魔法入門』が勝ったようだった。クレアはもう1冊を元の場所に戻す。


「ミーナ様、買ってきましたわ」


 そういえば、昨日の本屋でリルファナには、カードに振り込んだお金から本を買っても良いと言ったんだっけ。

 この本屋はギルドカードから支払いが出来たようで、リルファナは自分のカードの預金から購入したようだ。


 わたしの本と一緒にクレアの本も会計を済ませる。リルファナの本もまとめてマジックバッグにしまった。さすがに本を何冊もリュックに入れると重いだろうし、雨が降ると濡れてしまう。



 本屋から出て北通りを歩いていると、すごい速度で馬車が走ってくるのが見えた。


 ――タイミングと位置が悪かった。


 雨が降った後なので、車輪が水溜りに突っ込んで泥水をバシャーンと跳ね上げた。馬車だけに、そうじゃない。


「きゃっ」


 歩道の中央側を歩いていたリルファナに跳ねた泥水がかかってしまった。あまり高くは跳ねなかったので被害は靴とスカートだけだったけど、泥だらけになっている。

 わたしはリルファナの影になる場所にいたのと、クレアはわたしの後ろにいたので汚れることは無かった。


 馬車は止まりはしなかったが、速度を一時的に緩めた。その途端、若い男性が馬車から飛び降りてこちらに走ってきた。男性が降りた途端に馬車は速度を上げ、北西区の環状の道の方へ抜けていった。


「お嬢様、申し訳御座いません」


 謝りに降りたのであろう男性は、燕尾服のような服を着ていた。今の馬車に乗っていた家の執事の1人なのだろう。


「ミーナ様に買っていただいたのに……」


 リルファナが泣きそうな顔になっている。スカートは泥汚れが酷いので、洗っても綺麗に落ちないかもしれない。

 ポーチやリュックまでは濡れなかったのは不幸中の幸いだったかな。


 男性はリルファナの『隷属の首輪(ブレスレット)』に気付いたようで、わたしの方にも頭を下げた。


「申し訳御座いません。本来なら家に招いて謝罪したいのですが、ただいまそれが難しく。まことに勝手ですが、こちらで買い直してさしあげてください」


 大銀貨2枚をわたしに握らせた。


 迷惑料も含めて多めに渡そうとするのは分かるけど、服の弁償にしては大金である。特にスカートは買い直す必要がありそうだが、靴は洗えば大丈夫だと思う。両方買うとしても靴とスカートぐらいなら大銀貨1枚だって余裕でお釣りが来るだろう。


「弁償してくれるのは良いんだけど、何で急いでたの?」

「ええと、それが。……奥様が産気付いたと商会の方に報告がありまして、はじめてのお子なので旦那様が焦って帰ろうと……」


 なるほどね。


 ここで怒ってもリルファナの服が綺麗になるわけじゃない。

 リルファナも理由と謝罪があったことで、納得出来ないということはなさそうだ。


「分かりました。これで買い直そうと思います。リルファナもいい?」


 だが、納得出来るからといって気持ちまでもすぐに落ち着くわけでもない。それでも、リルファナは目が潤みながらも頷いた。


「もし何かありましたら、ヴァルディア商会へお立ち寄りください」


 執事さんは何度も頭を下げながらも、馬車の向かった北西区の方へ走っていった。


「とりあえず宿に戻って着替えましょう」

「……はい」

「リルファナちゃん……」


 クレアがよしよしとリルファナの頭を撫でて、手をつなぐ。


 実際はリルファナの方が年上なんだけどクレアの方がお姉さんにしか見えないね。

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