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図書館

 雲間から陽の光が覗いている。その光は窓に残った雨粒や水溜りに反射しキラキラと輝いていた。


「雨、止んだみたい」

「お姉ちゃん、図書館に行こうよ!」


 パタリと本を閉じたクレアが突然そんなことを言い出した。どうやら町への滞在が1日延びたのだし、折角なので行ってみたいということらしい。

 リルファナの言っていた魔法剣の掲載された本も気になるし、図書館に行くのはやぶさかではない。


「図書館は北東区でしたかしら?」

「うん、北通りを見ながら、お昼食べて行こうか」

「やった!」


 フロントに鍵を預けて北通りへと足を運ぶ。


 北門からは国と同じ名前を冠する首都ソルジュプランテへと続いている。さらに北東区の一部が貴族街となっている影響からか、北通りは国産品の取り扱い店が比較的多かった。


 ソルジュプランテは魔導機の技術力は低く、隣国ヴァレコリーナに及ばないが、農耕や畜産業に関しては発達している。また、北方にそびえる霧の山脈(ネビアモンターニャ)を中心に大量の鉱石を採掘出来るため、かなり豊かな国だ。


 昔から善政を敷く国王とその家臣の信頼も厚く、他国から移住してくる民も多い。移住民の職人たちはその技術力を広め、第二次産業である製造業や建設業の技術力をも持つようになった。20年ほど前から、国王の第三夫人の提案により難民や孤児などの対策も推し進められ、現在では『大陸一安全な国』とまで呼ばれるほど成長した。

 これらの政策を推し進める中、第三夫人は第一子を出産直後に亡くなられてしまったが、その思いを継いだ官僚たちの手によって計画は着々と進行したと言われている。


「ここのミートサンドのソースには野菜が崩れるまで煮詰めたソースを使っているって話だ」

「ほう、肉だけだとどうも物足らない感じになるが、ソースを絡めると面白い味になるな」


 ジャンクフード店のようなカフェがあったので、ここにしようかと3人で入ると、中からそんな話し声が聞こえた。

 ミートサンドは、シャキシャキの野菜を数種類と丸めて焼いたひき肉にソースをかけて、食パンのような四角いパンに挟んだ食品だった。ハンバーガーとサンドイッチの中間のような存在だ。


 別料金になるが、野菜増しやチーズ入りなどのトッピング追加も出来るようだった。


 出てきたミートサンドは肉々しさを感じる料理だ。煮詰めた野菜の出し汁をベースにしたソースも美味しい。


 ……うーん、肉の味は生臭さも全く無いし美味しいけど、煮込みハンバーグみたいな方が好みなわたしにはちょっと物足りないかな?


「お肉の旨みですわー」


 うん、リルファナは気に入ったらしい。とても上品な幸せそうな顔をしている。


 煮込みハンバーグか。ミンチにするのがちょっと大変そうだけど家で作ってみるかな。ひき肉に玉ねぎなどのつなぎを入れるから、肉のかさ増しも出来て母さんも喜ぶかも。



 昼食後、北通りから北東区への環状の道へ入って少し行ったところに図書館はあった。北東区は奥へ進むほど徐々に庭の広い大きな家になっていく。環状道路の真ん中辺りが貴族の住む屋敷が多いらしい。

 領主であるハウリング家の屋敷もあるはずだが、特に用事も無い。善政を敷いているといっても貴族とはあまりお近付きになりたいとも思わないしね。


 図書館は大きすぎず、小さすぎずの町の図書館といった大きさだろうか。2階建てのレンガ造りの建物だ。


「町の住民証は持っていますか?」

「いえ、村から出てきたので」


 図書館の受付で身分証の提示を求められたので冒険者のギルドカードを出したのだが、ダメなのだろうか。


「住民以外の方は、預かり金としてお1人様、大銀貨1枚必要となりますがよろしいですか? またマジックバッグやカバンをお持ちの方は退館時に調べさせていただく可能性がありますのでご了承ください」


 価格自体は高いとは言えないが、印刷や運搬に時間がかかることなどの理由で本はまだまだ貴重品である。また、図書館には印刷ではなく写本などで複製した本や、もう印刷されていない本もある。

 それらの本を守るためにも預かり金が必要となるらしい。もちろん出るときに問題無ければ全額返金されるが、そもそも本を読むために、それだけのお金を出せるということが大事なようだ。

 裕福な人間ほど犯罪は起こしにくいとも言えるだろう。役人の汚職事件などを考えれば必ずしもではないことは自明の理だけど。


 図書館の本には保護の魔法がかけられていて、持ち出そうすると分かるようになっていることも説明された。詳細については防犯の理由により秘密だそうだ。


 3人でギルドカードを見せて大銀貨3枚を渡すと、預り証を返された。預り証には身分証の名前が書かれている。帰りに再度、ギルドカードを示して、預り証と預かり金を引き換えるようだ。


「午後2の鐘が鳴りましたら係員が退館の指示を出しながら見回りますのでご協力ください」

「分かりました」


 システムを聞いていたら結構かかってしまったが、これで本が読み放題だ。


「各自で好きな本を探そうか。見つけた本を長く読むときは近くの出来るだけ見つけやすい席にいるようにしてね」

「分かった、お姉ちゃん」

「わかりましたわ」


 入り口に館内の地図が貼られていて、どこの本棚にどの分類の本があるか説明されている。クレアはそれを見ると真っ直ぐに魔術系の本を探しにいった。


「リルファナが魔法剣について書いてあったという本ってどんな本だったか覚えてる?」

「ええと……、古い歴史書か武芸書だと思ったのですけれど、それ以上は覚えていませんの。もしかしたら小説の登場人物だったかもしれませんわ」


 うーん。見つかるかな?


「ミーナ様は魔法剣について調べたいんですの?」

「うん、本があるなら読んでみたいと思って」

「ではわたくしも調べてみますわ」

「手伝ってくれるのはありがたいけど、リルファナは読みたい本とかはないの?」

「いえ、面白そうな小説を探そうかと思っていたぐらいですの。そうですわね、読んだ本ならある程度分かりますし、小説から探してみますわ」

「分かった。ありがとう」

「ミーナ様のためですもの」


 ふふ、と微笑んで、リルファナは2階に上がっていった。小説のコーナーは2階にあるようだ。


 さて歴史書か武芸書の本を探そう。

 ついでにこの世界(ヴィルトアーリ)のことが載っている本も少し読んでおきたい。バラバラに分かれたのは、セブクロとの繋がりをこっそり調べたいというのもあるのだ。一緒にいたとしても何を調べているかまでは分からないと思うけれど、質問されたら誤魔化すようだし、念のためというのが大きい。


 歴史書は1階、武芸書は2階になっていた。タイトルから判断しやすそうな武芸書からにしよう。


 階段を上がり、武芸書のコーナーで剣が関わる武芸書を見ていく。

 剣の使い方や流派のガイドブックのような本が多く、魔力や魔法と絡めたようなものは見つからない。


 そもそも流派などは門外不出だったりもするので本にされていること自体が少ないのだろう。


 武芸書は総数が少ないこともあり、念のために短剣や槍などの本もさっと流し読みしてみたが、魔法剣の情報が欲しいわたしが興味を引かれる内容は無かった。



 2階の武芸書のコーナーでは期待した物が見つからなかったので1階に戻り、歴史書のコーナーへとうつった。


 何冊かぱらぱらと読んでみる。ほとんどの本がソルジュプランテの建国やその後が主軸になっていた。乗物も馬車ぐらいまでしか無く魔物の多い世界では、どうしても流通網が弱くなるので他国の本まで仕入れることは珍しいのだろう。


 ソルジュプランテが建国されたのは350年前、国家と呼ばれるほどではなかった複数の小さな町や村が、同盟を結び国の原型になったらしい。この時期はまだ国家間の戦争も多く、何とか存在出来ていた弱小国家だったようだ。

 300年前ぐらいに大陸中で大改革が起きた。『魔導機』の誕生である。


 『魔導機』の誕生により、土地を武力で奪うよりも今まではどうにもならなかった土地を開拓した方が国力の増強には効率がよくなった。また、この頃に英雄と呼ばれる冒険者がたくさん現れはじめる。

 とある英雄は剣の一振りでドラゴンを倒し、また、ある英雄は難しい国家間の交易を交渉でとりまとめて莫大な富を得たなどだ。


 英雄の増加と共に、理由不明の魔物と迷宮ダンジョンの増加という問題が出てきたようで、それらの対応に追われる国々での戦争は急激に減少していった。人間同士での争いに注力しなくてよくなったソルジュプランテは、農耕や畜産、採掘の第一次産業と、治安維持を重視していくことになる。

 現在でもその姿勢を崩さず、今では『大陸一安全な国』になったというわけだ。


 これらの合間にはもっと様々な事件が発生しているが、建国記の大筋として見るとこんな感じである。


 『英雄』、後から読んだ人には眉唾物でしかないが、わたしには思い当たる節がある。そう、転生者プレイヤーだ。


 『魔導機』自体も転生者プレイヤーが生活改善のために生み出したんじゃないかとさえ思ってしまった。


 あくまでもわたしの推測ではあるけど、なんとなく確信もある。そして悔しい。


 ――この時期(300年前)に転生してれば知識チートし放題だったんじゃないか!

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[一言]  あくまでもわたしの推測ではあるけど、なんとなく確信もある。そして悔しい。  ――この時期300年前に転生してれば知識チートし放題だったんじゃないか! ↑ とてもよく分かるwww(≧▽≦)で…
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