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闇の神の聖域

 何も見通せない暗闇。光の一切入らない場所なのだろうか。


「くくく、我が居城にようこそ」


 わたしは大きな部屋の中にいたようだ。赤い絨毯が敷かれ、その先には玉座があった。

 壁にかけられた燭台が、わたしの近くから順にボッボッと火が灯っていく。


 ああ、これ、古いゲームのラスボス戦の前とかでよくあるやつだ。


 その先には、先ほど見た神像と同じ顔のイケメン。神像だと色が無かったが、本人は黒髪黒瞳のようだ。薄い金属鎧にサーコートと呼ばれる軍衣をまとっている。


 闇の神は玉座に座っていた。玉座には大鎌が立てかけられている。


「我が名はステラーティオ。この刹那の邂逅を共に楽しもうではないか」


 漆黒の髪をかきあげた闇の神様の名前はステラーティオというらしい。……イケメンでいいや。


 ――ところで闇の神様は思春期特有の病気かな?


 わたしがポカンとしていたせいか、玉座から立ち上がるとわたしの方へと歩いてきた。わたしの近くまで来ると指をパチリとならす。わたしとイケメンの間にテーブルと椅子が現れた。


「客人には我が恩寵を与えるのが、この漆黒の城での習わしでな」


 イケメンは、いつの間にか持っていたコーヒーポットからマグカップへとコーヒーを注ぐと、わたしの前に置いた。


「お前……、転生者というやつか。なぜか我と邂逅した転生者は、必ずそのような顔をするのだ。その後、遠くを見つめるものと微笑むものがいるのも知っているぞ!」


 微笑ましいものを見るような目つきだったのだろうか。なんだかちょっとがっかりした顔のイケメンが可愛く見えた。


「ふん、まあいい。とりあえず我が手ずから入れた珈琲を飲むが良いわ」

「はあ、いただきます」


 席についてコーヒーを飲んだ。砂糖やミルクを入れていないのに、そこそこ甘くて飲みやすい。わたしの身体が一瞬、おぼろげな光に包まれた。


「ほう、テレネータには既に会ったか。ではこれも食らうが良い」


 どこからともなく焼き菓子、クッキーを出した。

 その後、自分用に新しく入れたコーヒーを一口飲んで「もっと甘くするべきだった……」と涙目になっている。ここはスルーしてあげるべきだろう。


 ……変なこと言うとめんどくさそうだし。


 クッキーを一口齧ると、口の中でほろりと崩れた。砂糖の甘さをコーヒーの苦味で抑え、その味がなんとも言えない深みを出している。


 ……なんだか、不味いわけではないのだけど、美味しいという感じでもないな。普通?


「ど、どうかね」

「もうちょっと砂糖多い方が美味しいかも」

「ふむ、我が虚空記録アカシックレコードに残しておこう」


 ただのメモ帳です、ありがとうございました。

 というかこのクッキーって神様の手作りなの!?


 クッキーを食べた瞬間に、この世界に来たときのミーナとの会話を思い出した。


 たしか……。


「……女神様との約束に則り、ミーナは、あなたに身体をお返しします。これで、古代文明ヴィルティリアの……」


 ……ミーナは古代文明を知っていたということかな?


 それが何か意味あるのだろうか。いや、テレネータ様は「気になるのであれば」としか言っていなかったので、この記憶自体が重要な情報ではないのかもしれない。


「どうかしたかね?」

「いえ、わたしは転生時に記憶とか能力がおかしくなっているとテレネータ様に聞いたので……」

「……混濁の落とし子ということか、やってみよう」


 イケメンはわたしに手をかざすと黒いもやのようなものが、わたしの周囲を漂った。しばらくすると点滅するように消えていった。


「これは?」

「鍵を1つ外した。いや外れやすくした、といったところかな。テレネータが随分張り切ったようだな。我に出来るのはアリアドネの糸を張るまでだ」


 イケメン語は難しい。

 鍵うんぬんというのはレベルかステータスが上がりやすくなったとも取れそうだが、後半からは他の神様のための道しるべを創ってくれたということだろうか。


「我がすべきことは成した。さあ、下界の様子を告げるが良い」


 キラキラした瞳でわたしを見つめるイケメン。下界の様子っていうのは普段の生活ってことだよね。


 あとはテレネータ様のときと同じように、クッキーを食べながら普段している生活の話をさせられた。神様たちは娯楽というか人に飢えているのだろうか。


 ……このクッキー、最初は微妙だったけど、食べてるとついついもう1つと手に取ってしまう味だ。さっぱりしているから食べやすいのかもしれない。

 そこまで考えて作ったんだろうか。


「おや、そろそろ決別の刻限のようだ。なかなか楽しめたぞ。この会遇に感謝を」


 イケメンが懐中時計を出して、時間を確認していた。

 話が一息ついたところでお別れの時間になったようで、イケメンが再びパチリと指を鳴らすと視界が徐々に暗くなっていく。



 わたしは聖堂に戻っていた。


 そういえば、結局チート能力は貰えなかったようだ。残念。


 チラリと横を見るとクレアとリルファナがまだ祈っている。時間が経っていないのは前回と同じようだ。


 不意にクレアとリルファナが同時に目を開いた。不思議そうにキョロキョロと辺りを見回している。


「ねえ、お姉ちゃん。テレネータ様って会ったことある?」

「クレアも呼ばれたの?」

「う、うん。紅茶を貰ったよ。話してたらお姉ちゃんを知ってるみたいだった」

「わたくしはフィメリリータ様からの御招待でしたわ」


 3人とも別々の神様に呼ばれたようだ。


 クレアは紅茶を貰って、魔法の使い方について少し聞いたぐらいで、ほとんど日常の話をしていただけとのことだ。紅茶を飲んだときに何か祝福のようなものを貰ってる気がするけれど、クレア自身には何の実感もなかったみたい。


 リルファナを呼んだフィメリリータというのは風の女神の名前らしい。

 噂好きらしくて色々な話を聞いたらしい。お茶を出されて一方的に話をされたそうで、特に役立ちそうな話でもなかったようだ。どうやら聞くより話す方が好きな神様もいるみたいだね。



 教会を出ると、環状の道をこのまま南通りへ抜けることにした。


 昨日の服屋でクレアとリルファナの服を受け取るのだ。

 ついでに自分の服を見ても良いかもしれない。西通りや東通りにも服屋はあったけれど、品揃えや値段を考えると一歩及ばずといった感じだった。


「いらっしゃいませー」


 店に入ると、ちりんちりんと鈴の音がした。昨日と同じようにエプロンをつけたエルフの店員が出てくる。


「あ、お客様、手直しの方終わっていますよー」

「ありがとう。自分の服も見たいからその後に受け取るね」

「分かりましたー。準備しておきますねー」


 他の通りの服屋を見てきたところで、この店の品揃えのすごさを再認識した。

 ところせましと並べられた服は、他の店とは商品の密度が全く違う。通路を歩きにくいのが難点だけど……。


「お姉ちゃんってこういうの似合いそうだよね」


 クレアが持って来たのはネイビーのトレンチコートだった。わたしの服を選んできてくれたらしい。


 リルファナは防刃性能のある冒険者向けの上着のコーナーを見ているようだ。革の質が気になるのか触れて確認している。


「春も兼用しやすいベージュの方が無難かなあ」

「季節で変えるの?」


 思ったよりは手頃と言っても、ほとんどの人にとっては季節ごとに何着も買えるほどの値段ではない。この世界では、そこまでお洒落にお金をかけられるのは富豪や貴族ぐらいだろう。

 そもそもフェルド村の冬はそこまで寒くなる時期は短いので、春先まで使っても良いかもしれない。


「そ、そういう人もいるんじゃないかなと思っただけだよ」

「そっか。町ならいるかもしれないね」


 いけないいけない、誤魔化しが通じて良かった。クレアは素直で助かる。


「折角だし、このコートを買っていこうかな」

「うん!」


 クレアが選んでくれたコートなので、どうせなら買っていこうと思う。

 それに合わせたくるぶし丈のワンピースも選んだ。どちらも調整はいらないので、支払いを済ませればこのまま持ち帰れる。


「ありがとうございましたー」


 昨日の手直し分も受け取ってマジックバッグに放り込む。畳み方に工夫すれば服ならポーチ型でも入るのだ。

 自分の選んだコートをわたしが買ったのが嬉しかったのか、しばらくクレアはあふれんばかりの笑顔だった。


「クレア様、何か良いことがありましたの?」


 リルファナは自分用に何か買ったようで袋を受け取って、リュックに入れた。

 マジックバッグに入れておこうか聞いたけど、さほど重くないみたいで自分で持つそうだ。


 店を出て中央広場に戻ろうと歩いていたら、午後1の鐘がなった。


「休憩がてらおやつにしようか!」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「お前……、転生者というやつか。なぜか我と邂逅した転生者は、必ずそのような顔をするのだ。その後、遠くを見つめるものと微笑むものがいるのも知っているぞ!」 ↑ これは相当イジられたな(ノ´∀…
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