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町の散策

 リルファナにわたしの鉄壁の布団陣(おふとんふぁらんくす)をやぶられてしまったので、諦めて起きることにした。寝巻きから普段着に着替える。ガルディアの町は治安も良いし、夕方までに宿に戻るなら防具は装備する必要はないだろう。明後日に帰るなら今日中に自分の服も買わないとだろうしね。


 武器は鉄の剣だけ下げておく。木剣を腰に吊るすのはトラブル防止には逆効果だと思うし。


 クレアもリルファナもすでに着替えていた。

 リルファナは昨日受け取った一着しかないので同じ服だ。町の中を歩いただけで汚れてなかったし大丈夫だろう。


 まだ店が開くには少し早い時間らしい。とりあえず、食事処レストランで朝食を取ることにした。


 朝の食事処レストランは宿泊客のみに解放されており、メニューはみんな一緒のようだ。

 スクランブルエッグ、焼いたベーコン、パンとなっていた。パンは食べ放題、飲み物は水、アランチャジュース、牛乳から選べるようだ。気になったので頼んでみたらアランチャジュースはオレンジジュースと同じ味だった。


 しかし、異世界モノでは貴重なことが多い卵、ふわふわのパン、乳製品などがポンポン出てくるのに少し驚く。



「わー、いっぱい種類があるね」


 朝食後、部屋で一休みして午前3の鐘がなった頃、早速雑貨屋を訪れた。飲食店と宿屋を除くほとんどの店は午前3の鐘が鳴る頃に開き、午後2の鐘で閉まるらしい。

 冒険者ギルドの売店と違い、カード入れも女性向けの可愛いデザインのものも多数取り扱っている。


 クレアがカード入れを見ている辺りは布や革で作った収納用品が置いてあり、財布やポーチ、カバンなども並べてあった。


 他には石鹸やタオル、カゴ、ペン、紙、薬などの幅広い生活用品から、水袋といった冒険者向けの道具まで取り扱っているようだ。全体的に装飾や模様が入っていてシンプルなものよりは少しお高めなのかもしれない。


 クレアはピンク色で表側に花の刺繍があるカード入れを選んだようだ。ついでにわたしとリルファナのカード入れと、ベルトにつないでおけるようにチェーンを購入した。首にかけておくことも出来る。

 わたしのカード入れは黒一色で刺繍も無い簡素なもの。リルファナは髪の色に合わせたのか薄い青色に波紋の刺繍がされたものにしていた。


 リルファナ用の腰につけられるポーチと可愛らしいデザインの小さめのリュックサックを買った。数日分ぐらいの着替えなどの軽いものは自分で持って貰おう。


「とりあえず店を見ながら西門まで行ってみようか」

「うん、本屋さんあるかなあ」

「はいですわ」


 雑貨屋での買い物を済ませると、西通りを見て回ることにした。

 本屋の場所は雑貨屋で聞いても良かったんだけど、自分で探すのも楽しいよね。


 西通りの店は、ある程度は区分けされていた南通りとは違い雑多な並びになっているようだ。今日は時間があるので、外から覗いて気になった店に入っていくことにした。ウインドウショッピングだ。


「ここの本屋は大きいですわね」


 西門まで辿り着いたところに大きな本屋があった。途中にも3軒ほど本屋があったが売場面積が小さかったり、本よりも他の商品を多く取り扱っている店だった。


「入ってみようか」

「うん!」


 本屋に入ると、インクの匂いがした。識字率が高く、魔導機による印刷も存在しているこの世界では、本もそれほど高くない額で買うことが出来る。とはいえ、農業や畜産を主にしている村人が何冊も買うことが出来るほどでもないが。


 購買層は貴族や商人、それなりに稼いでいる冒険者が多いせいなのか、歴史書と戦術や魔法について書かれた技術書が大半を占めている。しかし、少数の文学作品やコミックも売っていた。


 このぐらいの金額なら数冊買っても良いと思ったのか、クレアは魔法関係の本を見比べている。図書館で読むよりも持ち帰って村でも読めたほうが良いからね。


 興味本位でぱらぱらとコミックをめくってみると、日常ものから異能力バトルものまで日本で見たことのあるような作品も多い。コミック自体は発行が古い作品が多いように感じるが、これは転生者プレイヤーが書いたものなのかもしれない。


 なぜなら、わたしが日本で読んだことのある内容の本も多かったのだ。

 最初は綺麗にストーリーをなぞっていたのに、途中から完全にオリジナル方向へ進んでいる作品もあった。それ以降の展開を知らずにこちらの世界(ヴィルトアーリ)へ飛ばされたのかもしれない。

 ちょっぴりしんみりしつつ、文庫の方も読んでみることにした。


 やはりこちらも日本で見たことのあるような作品もあった。コミックに比べるとあまり数は無く、ほとんどが男性向けの騎士物語や冒険者の物語、女性向けの貴族や身分違いの恋物語といったものが多い。

 コミックと違い、小説は文字だけで表現する必要があるため、日本の常識が通じないことを意識して書かれた作品しか残らなかったんじゃないかと思う。


 村でも読めるように1巻完結の短編集かなにかを買ってみようかな?


「リルファナも欲しければ昨日渡したお金で好きなもの買っていいよ」


 本が好きなのか、瞳をキラキラさせながらあちこち見て回るリルファナに声をかけた。するとすぐに2冊ほど本を持って来た。どちらも文庫のようだ。


「以前、読んでいた本の続きが出ていましたの」


 リルファナは続刊が気になっていたようだ。


 話を聞いてみたところ1冊は村から出てきた若者が冒険者になり成長していく成りあがりもののようで、リルファナのおススメらしい。わたしも気になったので1巻だけ買ってみることにした。リルファナが買うのが3巻なので、気に入ったら次に町へ来たときに2巻を買おう。


 もう1冊は学校に通う貴族たちの青春と恋の物語という感じのようだった。リルファナが持って来たのが9巻なので、買い揃えるにはちょっと高い。こっちはいいかな。


 他に冒険者になるための準備として、図鑑を何冊か買っておくことにした。絵付きで厚めの本なので若干だけど値が張るが、それでも1冊小銀貨5枚ほどだ。


 一応、ポーチにも入れることが出来る大きさの本を選んだので重さは気にしなくて良いだろう。


 買うことにした図鑑は『魔物大全』『野草の図鑑』『野外での生活 ~冒険者の心得~』の3冊だ。


 魔物図鑑は副題に「大丈夫。これがあればGM()にも勝てる!?」とか書いてあるので転生者のまとめたものだろう。

 ぱらぱらと確認したところ、ふざけた副題とは逆に必要なことはまとめられてそうな安心感があった。


 剣術や魔法の本はスキル名を知っているからなのか、何度か練習すれば感覚で使えるのでわたしはいらないかな。クレアが買った本を読ませて貰うぐらいで良いだろう。


「お姉ちゃん、冒険者になるなら攻撃魔法も覚える方が良いよね?」

「そうだね、いくつかは覚えた方が良いと思う」

「攻撃手段が無いと、何かあって孤立してしまったときに危険ですわね」


 回復魔法が使えるクレアは、現状だと回復職ヒーラー扱いになりそうだけど、ゲームでは職業によって攻撃方法はいくつかあった。


 基本的には攻撃も魔法で補う純粋な魔法タイプ、武器を持って殴る筋力タイプの2種類に分かれる。実際に試してみないと分からないけれど、少なくともクレアの剣の素質は普通以下に見えたので魔法タイプの可能性は高い。攻撃魔法を覚えておくのは悪くない選択だろう。


「じゃあこれを買おうかな」


 クレアが3冊の本をまとめて持ってきた。選んだ本は『魔力操作から始める魔法の使い方』『はじめての回復魔法』『攻撃魔法の基礎』と書かれている。


 会計をすませて本屋を出ると午前4の鐘が鳴った。


「お姉ちゃん、そろそろお昼かな? 少し戻ったところにお洒落なお店があったよ」

「カフェみたいなところでしたわね」

「じゃあそこにしようか」


 お昼時だけあってカフェはそれなりに混んでいる。なんとか空いていた3人席を確保できた。


「お昼はランチセットだけみたい」

「今日のランチセットはサンドイッチとスープ、サラダのセットで飲み物は好きなものを選べるようですわ」


 3人分頼むとすぐに出てきた。客の回転を優先してメニューを1種類に絞ってるのかもしれない。


 サンドイッチは、卵サンドとツナサンド、野菜サンドの3種類。サンドイッチとは別の葉物野菜を使ったサラダ。野菜で出汁をとり、豆とベーコン加えたスープだ。


 町の食事は種類も多いし、とても美味しい。ここまで進んでいるとは思っていなかった。


 まだしばらくは村で生活することになるし、もう少し村でも作れる料理を何か考えたほうが良いかもしれないね。

 調理スキルは持っているし、材料さえあれば作れる物は多いはずだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] コミック自体は発行が古い作品が多いように感じるが、これは転生者プレイヤーが書いたものなのかもしれない。 ↑ おぉ、異世界でならパクリパクリと騒ぐよりももう見れない日本を思い出させてくれるアイ…
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