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冒険者ギルド

「あの受付の方、随分と強いですのね」

「見た目通りではなさそうに感じたけど、強さまでは分からなかったよ」


 リルファナと話しながら2階への階段を上がる。クレアは貰ったカードを眺めてニヨニヨしていた。クレアのカードは白金色で綺麗だ。金色は光属性なのだと思う。


「無くさないようにチェーンを通すかカード入れでも買う?」

「う、うん!」


 冒険者ギルドの2階は酒場も兼ねた飲食店と売店となっているようだ。飲食店にはちらほらと大麦酒エールを飲んでいるグループもいて依頼クエスト達成の打ち上げかなにかだろうか、なかなかに盛り上がっている。


 それを横目に、わたしたちは売店になっている部屋へ入った。棚には商品がずらりと並べられており、部屋の出入り口付近には「セール中」と書かれたワゴンが置いてある。


 冒険者であろう男女が商品を見ながら、楽しそうに話している。なんだか2人の距離感が近い気もするけれど、恋人か何かなのかな?


 奥に「買取」と書かれている窓口が見えた。


 何が売っているのかも気になるが、とりあえず先に金貨を現金化しよう。


「買取をお願いします」

「あ、お姉ちゃん、これも」


 買取のカウンターでわたしが金貨を4枚出すと、クレアが自分の金貨を1枚足した。


 買取の窓口は仕切られていて、ちょっとした個室のようになっていた。

 6人ぐらいは入れそうな広さで、魔道具マジックアイテムが設置されている。高額買取などの取引が外に漏れて面倒ごとが起きないように、外部には声が聞こえないようになっているらしい。


「あいよ」


 色白で細身、無精髭の生えた無愛想な男がルーペを取り出し、丁寧に1枚ずつ調べ始めた。


「ふむ。ヴィルティリア時代の金貨か。ほとんど劣化していないところを見るとダンジョン産か? こっちの2枚は違うな」


 引き出しに入っていた2枚だけを取り除く男の鑑定眼は確かのようだ。


「まさか、オリジナルか……。保存状態も良い、いや良すぎる気もするが。……『鑑定』」


 男が『鑑定』の魔法を使った。スキルを使わずに自分の眼だけで鑑定していたようだ。「やはりか」と納得したように頷いた。


「3枚が大金貨3枚、こっちの2枚が大金貨4枚と小金貨8枚ってところだが良いか? こっちの2枚は売る場所を選べばもっと値がつくかもしれないが」


 この世界の通貨は、小銅貨、大銅貨、小銀貨、大銀貨、小金貨、大金貨の順で10倍になっていく。

 その上の白金貨だけは例外で大小の区別が無く大金貨の100倍の価値がある。白金貨は稼ぎの良い冒険者ですら滅多に見るものではないけれど。


 ゴールドなどといった単位は無く、「小」の部分は省略され単に銅貨や銀貨と呼ばれることもある。


 これらの貨幣は各国で管理された古代の秘宝(アーティファクト)によって造られており、サイズや重さなどは揃えられている。


 1日の生活費は宿屋暮らしで生活したければ小銀貨5枚ほど必要となる。フェルド村のようにのんびりとした自給自足と物々交換が主体の村であれば小銀貨1枚もあれば全く困らずに生活できるだろう。


 裕福な暮らしが送りたければ少なくとも大銀貨1枚ぐらいかかるし、それ以上はどれだけ贅沢したいかによって天井知らずだ。


 尚、この金額はその生活を維持するためのものであり、リルファナの服の費用のように生活の改善で一気に買い足したり、仕事や結婚などによる引越し代、あまりに多い交友費などの費用は別である。


「クレアはそれでいい?」

「良いよ」

「全部、換金でお願い。高い方の1枚分は分けてクレアに」

「あいよ」


 男は金貨の山から、大金貨2枚と小金貨4枚を別の山にした。


「ギルドのカードに入れて欲しいんだけど、買い物もカードから出来る?」

「ここと商人ギルド内ならばカードの残高払いも可能だが、他は店によるな。大通りの店で2割ぐらいかな」


 カード払い対応の店はあまり多くないようだ。使うと手数料でもかかるのだろうか?


「嬢ちゃんたちは冒険者なのか?」


 わたしは軽鎧だけど、クレアもリルファナも武器も持ってないし、普段着なので確信がないらしい。


「さっき登録したばっかり。今回は観光だけの予定ね」

「そうか。いつでも冒険者ギルドで引き出せるし、あまり持ち歩かない方が良いとは言っておく。カードならば再発行しても入金した額は残っているからな」

「なら、小金貨2枚残して、全部カードに入れてくれる?」

「私は銀貨5枚だけ残してカードに」


 男はこちらの言った通りに分けてくれた。


 ギルドのカードと同じような薄い銀色のカードを出して、わたしのカードとあわせる。チリンという音がした。

 これで金銭の移動が出来たことになるらしい。トラブルにならないように冒険者同士のギルドカードでは、このような交換は出来ない。決められたカードのみの機能だそうだ。


 冒険者同士で残高を分けたい場合は冒険者ギルドか商人ギルドの窓口や店で頼めば良いらしい。


「小金貨1枚はリルファナのカードに入れておいて。何かあった時に無一文じゃ困るし」

「はい。ミーナ様」

「そっちにある四角い板にカードを載せると、残高が分かるようになってるから確認しておいてくれ。店を出てから不足に気付いても文句は受け付けないからな」


 リルファナのカードにお金を入れて貰ったあと、3人とも間違いが無いか確認した。板に載せると各硬貨の所持数が出るようになっていた。


「お姉ちゃん、あんまり可愛いのが無いね」


 店の商品を眺めていたら、カード入れも置いてあったがシックな作りの男性向けといった物が数点置いてあるだけだった。


「女の子向けのものなら雑貨店とかに行った方が置いてあるわよ。ここよりちょっと高いけどね」

「そうなんですか」


 いつの間にか後ろにいたらしい、ワゴンを見ていた女性が声をかけてきた。


 兜は外しているけれど、板金鎧フルプレートアーマーを着込んでいる。黄緑色の長髪で整った顔立ちの女性だった。まさに騎士ナイトって感じだ。


 普通なら安全なところで重い金属鎧なんて着て歩こうとはしないと思うんだけど、町を歩いている人もいたしステータスか職業補正とかあるのかな?


「西通りに色々揃ってるお店があるから教えてあげるわよ」

「あ、ありがとうございます」


 クレアが店の場所を教えてもらっている間に支払いをしていたようで窓口からパートナーの男性が出てきた。呼ばれた女騎士さんは「じゃあね」と残して去っていった。


「うう、知らない人と話すのは緊張する。お姉ちゃんは平気でしゃべってるのに」


 村だと大体の人が顔見知りだから、クレアは知らない人としゃべるのが慣れていないみたい。


 わたしだって知らない人と会話するのが得意というわけではないけど、門もギルドもサービス業の一種だと思えば気にならない。日本での生活が役立ってるという感じだろうか。

 たまたまなのか分からないけど、この町は丁寧な人が多いのも好印象だね。


 棚を見ていると携帯食が置いてあった。


 遺跡でアルフォスさんたちに渡された干し肉やビスケットは銅貨数枚で買えるようだ。

 隣には見た目はそんなに変わらないが大銅貨や銀貨のものもあるので、食べやすく工夫されているのだろう。


 缶詰みたいなものもあるけど、銀貨5枚以上と高価だ。


 ロープやランタン、薬草、松明、楔などの消耗品、毛布代わりにもなる外套、水袋、煙玉、手鏡など道具類はほとんど冒険者ギルドで揃えられるようだ。


 魔道具マジックアイテムや冒険に使いやすい魔導機も並べられている。


 魔道具マジックアイテムのコーナーを見てみるとマジックバッグも置いてあった。


 クレアが持っているポーチタイプの小で大金貨20枚、大だと大金貨75枚という値札になっている。リュックタイプだと1割ぐらい安い。持ち歩きやすいので小さいほうが高価なようだ。


 思っていた通り、かなり高価な物だったようだ。アルフォスさんたち、2つを大金貨2枚ぐらいでポンとくれたんだけど……。


「薬はあるけどポーションって無いんだね」

「ここに置いても高価過ぎてなかなか売れないと思いますわ。貴族向けの薬屋なら置いてあることもありますわね」

「そうなんだ」


 薬品はたくさん置いてあるが効果が出るまで時間がかかるし、回復量や治癒力もさほど高くない。


 ゲームではポーションをたくさん用意して使うのが一般的だったのだが、この世界では高級品らしい。


 錬金術か薬剤師のスキルで作れるはずなんだけど、わたしは取ってなかったからなあ。


 3階には駆け出し向けの武器や防具の取り扱い店もあるらしい。それなりに経験を積んだ冒険者は専用の量販店で購入したり、鍛冶屋で特注生産カスタムメイドするそうだ。


 どうしようかと話していると。


 ――くぅぅ。


 振り返るとリルファナの顔が赤くなっている。リルファナのお腹が鳴ったようだ。


 長く連れまわしてしまったけど、しばらくまともな食事をしていない可能性もあった。


「今日は宿屋にいって食事にしようか」


 冒険者ギルドを出ると、空がさっきのリルファナの顔みたいに赤らみはじめていた。カーンカーンと午後2の鐘が鳴った。

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