王都 - 再び遺跡調査へ
待っていても暇なのでこちらに来たらしいアルフォスさんと一緒に、3階の会議室に移動した。
入ったのはギルドマスターの部屋の隣の会議室で、盗聴防止の魔道具が設置されているそうだ。
会議室らしく四角になるように設置された長机にはミレルさんが座っていた。
部屋の奥には黒板のような板や棚があり、そちらに向かってギルドマスターが何か作業をしている。
「ミーナさんたち、お待たせ。もう1人来るから席に座ってお待ちください」
「はい。分かりました」
しばらく待っていると、白衣を着た中年の男性がやってきた。
「お待たせしました」
「あれ?」
クレアが首を傾げた。
どこかで見たことがある人だ。
「お久しぶりですね。ミーナさん、クレアさん、リルファナさん」
「あ! ティア―ノさん!」
思い出した。
半年ぐらい前に訪れた魔法研究所の所長。ティア―ノさんだ。
魔法研究所は色々な魔法だけでなく、基礎研究として魔道具の研究も行うらしい。
そこから発展して小規模ながら魔導機の開発や古代秘宝の解析なども手掛けているそうだ。
「この魔力を測る道具もそこの部門で作られたものなのですよ」
ティア―ノさんが水晶玉を取り出した。
前にクレアがヒビを入れて、わたしが割ってしまったやつだ。持ち運ぶには大きいのにわざわざ持ってきたのか。
「改良品を作りましてね。過剰な魔力を逃がすようにしたので、後でこちらも使ってみていただきたいのですが……」
「ごほん」
話が脱線しそうになったためか、ギルドマスターが咳払いで止めた。
「後でお願いしますね」
ティア―ノさんは小声でそういうと席についた。
「では遺跡調査について、現状の情報共有と方針を決定する会議をはじめましょう」
――数時間後。
会議といっても内容はさほど多くなかった。
この会議が終わったら霧の山脈の手前、麓の村まで移動し一泊。翌朝から遺跡へ移動し、調査を開始。
遺跡の中はわたしたちが探索した場所を一通り案内しつつ、再調査するといった流れだ。
その際、可能なら『管理者』を探す。
また、遺跡内で働いているロボットたちに変なことをしないことも約束した。
「ではこれで会議は終わりましょう。後はお願いしますね」
ギルドマスターが会議を〆る。
「ミーナちゃんたちは準備できてるんだよね?」
「はい! すぐ出発できますよ」
「こちらも一度研究所に戻れば荷物はまとめてあります」
「僕たちも、一度家に戻るようだけど、すぐ出発しようか」
ティアーノさんの返事もあり、アルフォスさんが決めた。
アルフォスさんたちが戻るのは、ミレルさん以外にも参加するので呼んでくるということらしい。
◇
アルフォスさんたちと別れ、ティアーノさんと一緒に研究所に寄り北門へ向かうことになった。
「予定通り、行ってきますね」
「はい。お気をつけて」
研究所に入り、ティアーノさんが受付に挨拶するとマジックバッグを渡される。
奥まで荷物を取りに行くと時間がかかるからか、荷物は受付に預けてあったみたいだね。
「調査はティアーノさん一人で大丈夫なんですか?」
「ええ、ギルドから制限されたわけではないのですが、極秘の調査ということもあり、あまり人を出さない方が良いと判断しました」
流石に数人は必要な気がするのだけど、大丈夫なんだろうか。
「そのための魔道具も用意してあるので大丈夫ですよ」
「ふむふむ」
そんな話をしながら北門でしばらく待っていると、アルフォスさんたちがやってきた。
「おう久しぶりだな!」
そう言うのは、ずんぐりむっくりとした姿のドワーフ、ディゴさんだ。
アルフォスさんの家に遊びにいっても全く出会わないので、かなり久しぶりだと思う。
「やっほー」
その後ろには巫女服のコアゼさんがいた。犬耳がぴこぴこと動いている。
「ミーナちゃんたちがいるし、探索寄りの編成にしたよ」
「ん。4人編成でディゴと一緒は珍しい」
確かにアルフォスさんたち4人だけでの行動だったら、2人がシーフだとバランスが悪いだろう。
「じゃあ、行こう」
北門から町を出て麓の村へ向かう。
◇
昼過ぎからの会議だったとはいえ、すぐに終わったこともあり、明るいうちに麓の村へ到着した。
「今日はここで休憩だね」
アルフォスさんを先頭に、村の入口付近にある一番大きな宿に入る。
わたしたちとアルフォスさんたち、ティアーノさんで3部屋とっていた。
「ミーナさんたち、この後ちょっといいですかな」
ティアーノさんが水晶玉をそっと取り出した。
マジックバッグに入れてしまえば重くはないとはいえ、わざわざ持ってきたんだ……。
改良がどの程度うまくいったか試してみたい気持ちは分からなくもないし、時間もある。
断る理由もないのでここで付き合っておこう。
階段を上がり、わたしたちの隣に割り当てられたティアーノさんの部屋へ入ると、1人では広すぎるだろうという大きな部屋だった。
室内に開いた扉があり、寝室が2つとお風呂もあることが分かった。
アルフォスさんたちは1部屋だったので男女で部屋を分けないのかと思っていたのだが、この宿屋は寝室が分かれていることを知っていたからかもしれない。
ティアーノさんが部屋の中央にあるテーブルを確認し、大きな布を広げると中央に台座を置き、その上に水晶玉を置いた。
「最近ギルドのものが新しくなっていたけど、改良品だったのね」
「ええ、安全性なども高くなっていますよ」
何をするのか気になったのか、一緒についてきたコアゼさんが感心している。
ちなみに、アルフォスさんとミレルさんは自分の部屋へ。ディゴさんは出かけてくるといって部屋番号を聞いただけですぐに外出していた。
「では、どなたでもいいので順番にお願いします」
細々と周囲に魔道具を置いていたティアーノさんだったが、準備ができたようだ。
「私もやってみようかしら」
コアゼさんがそう言って水晶玉に手を置いた。
「あら?」
前のときのように魔力が流された水晶から光が発せられる。
白っぽい光だけでなく、金色のキラキラとした小さな光が水晶の周りをくるくると回転した。
「なんだか綺麗だね、お姉ちゃん」
綺麗なエフェクトの出現に、クレアが笑顔になった。
「これが今回の改良の分かりやすい点でもありますね。ある程度の魔力量は必要ですが、属性を分かりやすく表示できるようになったのですよ」
「おお、すごい」
「ちなみに金色と銀色は光属性です」
コアゼさんは巫術を使うことが多い。セブクロの巫術は光属性のものが多かったから、自然に使い慣れた属性の魔力を出してしまうのだろう。
「えっと、二色なの?」
クレアが首をかしげた。
「ええ、何故か2パターンできてしまうのですよ」
どっちかが光じゃなくて聖属性なんじゃないかと思ったけど、面倒なことになりそうなので黙っていよう……。
セブクロでは聖属性というものは存在せず、聖属性っぽい魔法や特技は光属性扱いだった。
ただ、スケルトンの王と戦ったときに光属性とは別に聖属性の魔法剣が使えたので、こちらの世界とゲームの設定では違うのだろう。
ティアーノさんが気付かないということは、こちらの世界の人も正しい属性の種類や数が分かっていないのかもしれない。
「似てるだけで何か違いがあるのかもしれないね」
「はい。そう思って色々と研究中です」
クレアが意外と鋭いことを言っている。
「次はわたくしですわ!」
「どうぞ」
コアゼさんとリルファナが入れ替わった。
リルファナが水晶玉に魔力を注ぐ。
青い光に雨粒のようなエフェクトが広がった。
水属性はあんな感じかと思ったところで、赤い光になり燃え盛るエフェクトへと変わる。
緑色の光に葉っぱがひらりと舞い上がり、赤茶けた光と石礫のエフェクトへと変化していく。
「おお、すごい。こんなに滑らかに変化させられるとは……」
「なるほど、魔力操作の練習にもなりそうですわ」
「ふむ。そのような製品を作るのもありかもしれませんね」
ティアーノさんは楽しそうにメモを書いていく。
「もうあるのかもしれないけど、エフェクトの範囲が広いものを作れば舞台装置とかにも使えそう」
「それもいいですね! 娯楽に応用できれば魔法の有用性も伝わりやすいですし」
わたしの意見も拾ってメモに書き足していた。
「次はクレアかな。前よりも魔力量が増えてるからゆっくりがいいかも」
「うん!」
今後はクレアの番だ。
クレアの魔力量は明らかに増加している。最初は手加減した方が良いよね。
クレアが魔力を注ぐと、赤い光と燃え盛るエフェクトが表示された。
リルファナのように器用でもなければ無意識に得意属性が出てしまうのだろう。
そこからぎこちないながらも光や土属性に変化させてみせた。
「思ったよりも難しいね。リルファナちゃん」
「頭の中で上手くスイッチを切り替える感じですわね。属性の違う魔法を思い浮かべると良いかもしれませんわ」
「むむむ」
アドバイスされてもそこまで上手くいかないようだ。
相反する魔法を使いこなさなければならないトリックスターのリルファナだからこそできることなのではないだろうか。
「水晶玉の方は余裕そうなのでもっと魔力を込めてもらって構いませんよ」
「はい!」
クレアが注ぐ魔力を増やしていく。
前回はひびが入った魔力量を越えても、光り方が強くなるだけでびくともしない。
思ったより頑丈になっているね。
「あっ」
そう思っていたら変化がおきた。
光っていただけの水晶玉が、チカチカと点滅しはじめたのだ。
「お、もう少しいけますかね?」
「うーん」
火が消えるような、じりじりという音と共に水晶玉の光が消えた。
ティアーノさんは水晶玉や測定用の装置を確認して頷いた。
「うん。ちゃんと超過分の魔力を逃して自動的に消えてる。とりあえず大丈夫そうだな」
「次はミーナ様ですわ!」
クレアが割ってしまえば、わたしはやらなくて済んだのになあと思いつつも魔力を流した。
「おや? 前と違って色が少し薄いですね」
薄い青、水色の光だ。
水ではなく氷属性だろうと予想しつつ、魔力を流し続ける。
「あれ?」
なんだか水晶玉に魔力を流すというよりは、吸われているような……。
注ぐ魔力を減らそうとしているのに、むしろ増えていく。
魔力の流し込みが止まらないんだけど!
「お、お姉ちゃん?」
その瞬間。小さな破裂音。粉々に、爆発した。
うん、知ってた。
「あら。『そよ風』」
コアゼさんが破片の飛び散りをどうにかしようと瞬時に風を起こす生活魔法を唱える。
が、その必要はなかったようで、破片は飛び散らず、下の布から小さな竜巻が出て破片が中央に集まった。念のため、安全装置は二重にする。魔法研究所すごい。
「やはりダメでしたか」
ティアーノさんがメモを書き終わると、破片を包んで機材と共にマジックバッグにしまった。
最初から失敗する予想だったんかい……。
◇
――その夜。
「ん。面白いゲームだった」
「私にはちょっと難しかったわね。じゃあ、また明日ね」
遊びに来ていたミレルさんとコアゼさんが部屋に戻ったので休むことにした。
「そういえばコアゼさんの様子がおかしくなかった? お姉ちゃん」
「ん? ああ、なんかいつもより近いというか、フレンドリーな気はしたけど……」
「それはコアゼ様が犬の獣人だからだと思いますわ。本人が自覚しているのかは分かりませんが」
一見、耳ぐらいしか特徴が出ていなくても獣人は多かれ少なかれ元になっている動物の特徴や特性が出やすい。
犬は警戒心が強いものの、仲間や家族と認めた相手には忠誠心や愛情を与える生き物でもある。
コアゼさんから仲間や友達として強く認識されたということなのだろう。
明日からは遺跡の再調査だ。
昔、ギルドへ遺跡の『管理者』だと名乗った人に出会えると良いのだけど。
※10/16修正
次回の投稿ですが、リアル都合(事故による家族の入院)により目途が立っていません。
9月の通院時点では完治まではまだかかりそうということです。
※12/17
インフルで寝込んでます。
※1/02
あけましておめでとうございます。
インフルから風邪の症状がずっと残っていて、やっとよくなってきました。
※2/4
話の流れが不自然だったので修正しています。
2/1投稿予定だったのですが、思ったより時間がかかっています。




