フェルド村 - 8月末の日々
残っている鉄や霊銀を使ってナイフをいくつか作る。
戦闘用ではなく、狩った動物の解体やちょっとした加工などに使う作業用のものだ。
「あら、新調しますの?」
「ちょっと実験に使おうと思ってね」
「実験ですの?」
「前回の遺跡で宝石が手に入ったでしょ。魔法付与に使ってみようと思って」
盗賊系スキルの効果で目利きもできるリルファナが一目見て『質が良い』と言っていたので、安値で売っているような品質の悪いものではないと思うのだ。
帰った後に町で鑑定してもらおうかと思っていたのだけど、そのまま忘れてしまっていた。
適当に使っているクズ宝石よりは良い効果が付きそうだし、セブクロとは違うことも分かるかもしれないと軽く実験してみることにした。
報酬の宝箱に入っていた宝石は全部で4つ。
その中からルビーじゃないかと想定している赤い宝石を選んで端の方を少しだけ削る。
それを媒体に、鉄のナイフに魔法付与を施した。
「鑑定」
ルーペでの結果は……。
STR上昇(小)、耐久力上昇(極小)、威嚇効果(極小)と表示された。
「んー……」
「どうでしたの?」
セブクロでのルビーの付与効果はSTR上昇だ。
その部分は想定通りなのだが、他の効果も付与されている。
耐久力上昇は前のクズ宝石でも付与されたことがあり、装備そのものの耐久性が上がっているのだと思う。
威嚇効果は……、ヘイトの取りやすさみたいなものだろうか。
「もうちょっと試してみる」
自分で見た方が良いだろうと、リルファナに今作ったナイフと鑑定のルーペを渡す。
わたしは別のナイフを用意して、宝石が同じぐらいの量になるように魔法付与していく。
2本目、STR上昇(小)、斬撃効果上昇(極小)。
3本目、STR上昇(小)。
4本目、STR上昇(小)、刺突効果上昇(極小) 。
「うん。ちょっと違うけど、必ずSTRが付いてるね。この宝石自体はルビーだと思う」
「他の効果も今のところ攻撃に関係するものが多いですわ」
「もしかしたら、セブクロだと細かいところまで作られてないだけで、ルビー自体がそういう効果なのかな」
とりあえず武器に付与するなら攻撃力の上がるルビーで問題なさそうだ。
セブクロの武器への付与によく使われていた宝石でもある。
次に砕く量を多くして付与すると、STR上昇(中)となった。
もっと増やせば大も付与できそうだけど、使用量がかなり多いので数回で宝石がなくなってしまいそうだ。
「ヒヒイロ装備にはこれで付与しておこうかな」
「ええ、それが良いと思いますわ」
「作ってから、まだ使ったことないんだけどね」
人目のある場所で使うと緋色の刀身が悪目立ちしそうなので、緊急時には使えるようにしてはいるものの、マジックバッグにしまったままだ。
他の宝石でも同じように試した結果。
ルビー以外の宝石で、色のない透き通った宝石がダイヤモンドであることがほぼ確定した。
ダイヤモンドは装備に属性耐性が付与され、防具によく使われていた宝石だ。
「こっちはアクアマリンかな。もう1つは全然分からない」
「付与が必要になったらその都度、攻略サイトで確認していましたし、仕方ないですわ」
残り2つの宝石はINT上昇とLUK上昇がメインだった。
LUKというステータスはセブクロに存在しなかったので完全に不明なのだ。
「ただ……、色合いではアクアマリンとエメラルドだと思いますの」
薄い青みのある透明な石、透明で濃緑の石を確認しながらリルファナがそう言った。
「そうそう、宝箱に一緒に入ってたモルーカンシルクなんだけど、リルファナが加工できるなら考えがあるんだけど……」
「加工なら出来ますわ。どうしますの?」
リルファナが加工できそうなことを確認しつつ、使い道を相談した。
◇
フェルド村、東の海岸。
前回は塩作りに来たが、今回は肥料を作るための貝殻を拾いにきた。
「思ったよりも少ないね、リルファナちゃん」
「そうですわね」
クレアとリルファナがあちこち歩き回りながら広い集めている。
「あの辺りにたくさん見つけました」
「おお! そっちに行くぞ!」
マオさんとネーヴァも手伝ってくれたものの、収穫はそこまで多くなかった。
木で作ったバケツごと、貝殻をマジックバッグに片付ける。
「折角だし少し遊んで帰ろうか」
「うん!」
「やったー!」
ネーヴァやマオさんもいるし、軽く水遊びもできる服装にしてきた。
……貝殻はラーゴの町で買うのが良さそうだ。
◇
――翌日。
クレアが新しい水薬を作っているようだが、なんだか様子がおかしい。
「お姉ちゃん、失敗してなんか変なのになっちゃった」
「んー?」
その水は無色透明、無味無臭。
味の方は、わたしの調理スキルで飲めることが分かったので確認した。
失敗品を食べるなんて、普通は危険なのでやってはいけない。
鑑定のルーペも試したが何も表示されない。
「魔力は定着していますわ」
「私は専門外なのでよく分かりませんね」
4人で悩んでいるとネーヴァがやってきた。
「お、きしゃくえき、とかいうのをつくったのか?」
「きしゃく……。なるほど」
適当に持っていた回復用のポーションを出して混ぜてみる。
一般的には、別種のポーション同士を混ぜると使えなくなる。
これはそれぞれのポーションに含まれる魔力同士が反発したり中和されてしまうことが原因だ。
だが、このポーションの魔力は失われることがなかった。
「ちゃんと使えそうですわね」
「あまり入れると効果が弱くなるんだろうけどね。……希釈液だし」
何故、ネーヴァが知っていたのか聞いてみると。
「昔、魔術師たちがよく使っていたぞ!」
「強い薬とかを弱くして使ってたのかな?」
「いや、酒に入れて飲んでたぞ! 水より美味いらしい」
お酒を割るのに使ってたのか……。
「そうなんだ。使い道があるなら色々やってみるね」
その日のうちに、クレアは希釈液の作り方をマスターするのであった。
「なんかよくわからんが、こっちのほうが美味い」
試しに父さんに飲んでもらったところ、実際に希釈液で割ったお酒の方が味が良いらしい。
◇
――数日後。
フェルド村での休日を過ごし、ガルディアに戻ることにした。
裏手の小屋の方はリルファナのおかげでほとんどの家具を揃えて並べた状態といったところ。
今回はとりあえず部屋として使えるようになったといった感じだ。
次に帰ってくるまでに町で工具類を揃えたい。
「じゃあ、これを頼むな」
「うん、分かった」
父さんから2通の手紙を受け取る。
1通は王都のギルドへの手紙。
門のある遺跡の報告をするときに渡せとのこと。
もう1通はフォーレンのベルガメリ家向けの手紙だ。
アルジーネの町で出会ったレイサちゃんのお父さんは、父さんの旧友らしい。
「次は……、そうだな、クレアの誕生日前には帰ってくるように」
「はーい」
また2か月後で良いようだ。
父さんも問題ないと判断してくれているのだろう。
「また来るぞー!」
「お世話になりました」
「ネーヴァちゃんも、マオさんも、また遊びに来なね」
ネーヴァとマオさんが母さんに挨拶していた。
「ガルディアでレダさんに報告したら、王都のギルドに行こうか」
「うん!」
「分かりましたわ」
ネーヴァは、ガルディアでラミィさんの店に顔を出すらしい。
ギルドでの報告後、特にやることがなければ、西の地下道を抜けてフォーレンに行ってみる予定だ。
以下のエピソードにおいて、投稿済の話と矛盾点があったものを12月下旬に修正しました
(数文字~3行ほどの修正なので読み直す必要はありません)
50話、130話、250話