ガルディアの町 - フェルド村へ
今話のタイトルは後ほど変更するかもしれません。
ラミィさんの店にネーヴァを迎えに行く。
一時期、子供服が人気になって店内に入れないほどの客が押しかけていたこともあったが、今は落ち着いたようで数人の客が服を見ているぐらいだった。
「いらっしゃいませー。あ、ミーナさん。ネーヴァちゃんは他の子とお使いに出て貰ってるので、少し待ってもらえますかー?」
「こんにちは。じゃあ、少し夏服でも見て行こうかな」
ネーヴァもしっかり仕事してるんだね。
雇っている孤児たちの護衛も兼ねていそうだけど。
「ふむふむ」
わたしが選んだ服の組み合わせを見ながらラミィさんがメモを取っている。
部屋着にするつもりだから、適当に選んでるだけなんだけど参考になるんだろうか……。
「ラミィさん、ガルディアであまり見ない生地とか道具を買ってきたんだけどいる?」
クレアがマジックバッグからいくつか生地や道具を取り出して並べていく。
「おー、ありがとうございますー。使わない分があれば買い取りますよー」
「多めに買ってきたから大丈夫だよ!」
正式な依頼というほどでもないけど、面白そうなものがあれば買っておいて欲しいと頼まれていたらしい。
面白いものという抽象的な言い方では分からないので、ガルディアの店で見かけない生地や便利グッズを色々と買ってきたようだ。
「ただいまー」
「買ってきたぞ!」
しばらく商品を眺めていると、ネーヴァが手伝いをしている孤児院の女の子2人と一緒に帰ってきた。
両手にたくさんの袋を抱えているが、小物や布が多いのかさほど重くはなさそうだ。
「ええと、この辺りに置いてくださいー」
ラミィさんがバサッと机の上にあったものを下に落として場所をあけた。
あんなに豪快に落として大丈夫なのかなと思ってしまうが、子供たちはその行動に慣れているのか、すぐさま買ってきたものを机の上に並べはじめる。
「お、ミーナ。待たせてしまったようだな。ラミィよ、もう手伝いがなければ我は帰るぞ!」
「はーい。お手伝いありがとうー」
「うむ。ではまたな!」
夏服をいくつか選んで購入したあと、ネーヴァと共に店を出た。
「思ったよりも高く買い取ってもらっちゃった。家で使う素材を買っておこうかな」
「良かったですわね。そういえば、そろそろ作れるかもしれませんわ」
「うん!」
クレアの錬金術スキルも順調に上がっているみたい。
錬金術での生産品は毒物など厄介なものも多いのだけど、使い方次第で命に関わるようなものは避けて作るように教えている。
ちゃんとした設備がない場所で、使い道もないまま危険なものを作っても持て余すからね。
「そういえばハチミツトーストというのが気になっているのですが」
マオさんにクレアが教えたらしい。
「結構動いて小腹もすいたし、お茶ついでに行こうか」
「はい!」
「あの甘いパンか。我も好きだぞ」
マオさんもネーヴァも甘い物は好きなようだ。
「前にリルファナちゃんとネーヴァちゃんと食べにいったんだよ」
いつの間にかクレアたちは、ネーヴァを連れて食べに行っていたらしい。
――数時間後。
「じゃあ、夕飯の買い物とか済ませておくね」
「うん!」
ハチミツトーストを堪能し、店でしばらくのんびりした後、クレアとリルファナは錬金素材を買いに行くというので別れた。
わたしは、マオさんとネーヴァと一緒にふらふらと買い物へ。
そのまま夕飯の準備だね。
「少しさっぱりしたものがいいですね……」
「我はなんでもいいぞ!」
さすがにマオさんも、あの甘さの物量作戦には勝てなかったらしい。
◇
「商人ギルドでもカードの検査が終わったそうさね。どうやら商人ギルドでも種類が違って使えないみたいだから問題ないとのことさね」
夕飯時にレダさんから、遺跡で手に入れたカードを受け取る。
このカードは、ヴィルティリア時代では兵士や軍人の身分証だった。
商人ギルドのカードは何が使われているんだろうね。
ちなみに冒険者ギルドのカードは、ヴィルティリア時代の図書館で使われていた図書カードだったことが、王都の北にある遺跡で判明している。
◇
――翌朝。
「おーい、マルクが来たさね」
朝食を済ませて、フェルド村に帰る準備をしていると、玄関からレダさんの声がした。
昨日言っていた通り、父さんがやってきたようだ。
「きょ、今日はミーナと帰るのだ!」
「ん? おう」
ネーヴァがわたしの後ろに隠れながら父さんに主張している。
「……なんかあったの?」
「あー……、先月な」
父さんが言うには、ネーヴァが1人でフェルド村にやってきたそうだ。
1人で町からやってきたということで、危険だと叱ったらしい。
そういえば父さんはネーヴァの正体を知らないんだった。見た目だけだと子供だからね。
「1泊したあと、マルクがギルドまで連れてきたさね」
「ネーヴァなら平気だと思うけど……。わたしより強いと思うし」
「そんなわけあるか!」
父さんがわたしの呟きに反対した。
おや、レダさん説明してない?
「そっちの方が面白そうだったさね」
レダさんの方を見ると、顔をそらしてぴゅーぴゅーと口笛を吹こうとして失敗している。
誤魔化し切れていない。……というか、レダさん口笛吹けるはずなのだが。
「ま、いっか」
面倒なので先送りにした。
父さんが困惑しているが、そのうち知ることもあるだろう。
「やっほー、ミーナちゃん」
父さんの後ろから声がした。
「おっと、忘れていた」
「マルク酷くない?」
ティネス様が父さんの後ろから顔を出した。
どうやら驚かそうと隠れていたらしい。
「ミーナちゃんたち、遊びに来てねって言ったのに全然来てくれないんだもの」
とは、ティネスさんの言。
そんなこと言われても単なる社交辞令だと思うし、そんな気軽に領主様の家に遊びに行けないよね。
「何かあったの?」
「あら、ティネス様ですわ」
クレアとリルファナも支度が済んで玄関まで出てきた。
「マルクと話してたらマルクの娘さんがミーナちゃんたちだと分かったから、これから会いに行くっていうし、ちょっと顔を見に来たのよ」
「なんだか付いてくると聞かなくてな」
「元気にしてるならそれでいいのよー」
門のところには執事さんと護衛の兵士さんが1人控えているようだ。
「あ、そういえば冒険者ギルドの話なんだけど……」
「この間の話さね?」
わたしたちから少し離れて、レダさんとギルド運営の話をしはじめた。
ティネス様、真面目な話をするときはさすがに雰囲気も変わる。
さすがに貴族ということだろう。普段の気安い雰囲気の方が素だと思ってるけどね。
「父さん、領主様の家に泊まってたの?」
「うむ。たまに顔を出せと言われていてな」
「ふーん」
父さんも元々は貴族だし、何かあるのだろう。
「他人事でもないんだがな……」
「あー、ミーナちゃんは手紙読まなかったんだっけ」
ティネス様とレダさんの話はすぐに終わったようで、いつの間にか戻ってきていて話に加わる。
「用意するのに苦労したんだが、あっさり燃やしたな」
「手紙? 燃やしたっけ?」
「覚えていないならそれでいい。その程度のことだということだもんな」
父さんがちょっと嬉しそうに言った。
「相変わらず仲が良いわねえ」
「自慢の家の娘だからな!」
父さんとティネス様とのやり取りで思い出した。
そういえば冒険者として活動をはじめる前、父さんがわたしの本当の父親から手紙を受け取ってきたとか言ってたっけ。
「さて、今日はこれから来客があるから、これで帰るわね」
「おう。またな」
父さんの一般人的な返事に『ごきげんよう』と貴族式の挨拶をすると、ティネス様は門のところで待っていた連れの人と一緒に帰っていった。
「何しに来たんだろう?」
「なに、本当に顔を見に来ただけだろう。ミーナが母親に似てるから気になるんだろうな」
「そういえば初めて会ったときにクローゼって呼ばれたっけ。そんなに似てるんだ」
ラミィさんの依頼で、ティネス様と出会ったときを思い出した。
「パッと見たときの雰囲気は似てるな。よく見ると全然違うが」
「むむ……」
父さんが全然違うと強く否定した。
否定するのは良いんだけど、なんですごく残念そうな顔なんだ。