ガルディアの町 - 遺跡からの帰還
遺跡から戻り、ガルディアの町の東門をくぐる。
「あたしは急いで戻ってギルドで指示を出してくるよ。準備もあるから、ミーナちゃんたちはゆっくりでいいさね」
それだけ言うと、レダさんは急いでギルドへと向かっていった。
「お姉ちゃん、お店閉まっちゃうし買い物してから行く?」
「そうだね。そうしようか」
ガルディアの町では、日が落ちる前に閉める店が多い。
日が落ちてからもやっている店はレストランや酒場といった飲食系か宿屋のみで、例外として街灯が設置された大通りの店は遅くまで開けていることもある。
「我ははんばーぐを食べたいぞ。似たような料理は町で食べたがミーナの作ったやつが一番美味かった」
「じゃあお肉屋さんかな」
献立が決まれば行くべき店もすぐ決まる。
買い物をして冒険者ギルドへ到着すると、受付でレダさんが待っていた。
「じゃあ、先に帰ってるね。お姉ちゃん」
「3人で下ごしらえをしておくぞ!」
「できる範囲でいいからね」
先に家の鍵を受け取り、クレアとリルファナ、ネーヴァは先に帰らせる。
依頼の報告は遺跡で済ませているし、商人ギルドへ向かうにしても、ぞろぞろとみんなで移動する必要もないだろうからね。
「じゃあ、カードを通してみるさね」
受付のカウンターに座っているレダさんに、遺跡で手に入れたカードを渡す。
レダさんは受付で仕事をしていることもあるので、迷うことなく設置されている機械にカードを通した。
「ふむ。この数字だと……、種類違いのようさね」
レダさんが分厚い本を読みながら色々と確認していく。
世界中にある冒険者ギルドのシステムだけあって、ちゃんとした説明書があるようだ。
「よし。商人ギルドでの確認が終わるまでカードは預かりになるけど、依頼の報酬を渡しておくさね」
ここで行える確認は全て終わったようで、レダさんはこちらを向いた。
「えっと、商人ギルドの方はどうしますか?」
「確認したところ、ギルドのカードと種類が違うカードになっているみたいさね。念のため、商人ギルドへも確認に行くけど、これならあたしが行くだけでも大丈夫さね」
「なるほど」
「もちろん、一緒に行きたいなら着いてきても問題はないけど、ミーナちゃんは商人ギルドには、あまり興味ないだろう?」
「あー……、ならお願いします」
マオさんに視線を送ると、どっちでも良さそうな顔をして頷いた。
商人ギルドには用事もないし、頼めるならレダさんに任せてしまって良いだろう。
受け取る報酬はいつも通りに分ける。
遺跡の探索分の報酬が増えたので最初の提示額より多かった。先に帰ったクレアとリルファナの分はわたしが受け取っておく。
「久しぶりにミーナちゃんのご飯が食べられそうだし、期待してるさね」
ギルドを出るときにそう言い残して、レダさんは広場の反対側にある商人ギルドの方へと歩いて行った。
あれこれと調べたので、カードの確認に意外と時間がかかっている。
ご飯が早く食べたいから、わたしを早めに帰したんじゃないよね……?
◇
「やっぱり便利ですね、これ」
「うん。誰でも使えると便利なんだけどね」
クレアから買い忘れがあったとチャットで連絡があったので、帰り道で購入してきたのだ。
丁度、閉店の準備をしていたので商人ギルドへ行っていたら間に合わなかった。
キッチンへ向かうと3人で手際よく準備している。
「買ってきたよ」
「ありがとう、お姉ちゃん」
「なくてもいいんだけどね」
買ってきた香辛料を取り出す。
ナツメグのような風味がほんのりとする、臭みを消したりするのに使うスパイスだ。
「あった方が美味しいですの。あるのに使わないのはお肉に対する冒涜ですわ」
「そうだぞ!」
リルファナの言葉にネーヴァが同意する。
すでに他の材料は混ぜ合わせ、こねてあるようで、クレアが香辛料を加えて更にこねる。
「もうわたしがいなくてもハンバーグは作れそうだね」
ギルドで多少時間がかかったとはいえ、ここまで3人だけで進んでいたのは少し驚いた。
「お姉ちゃんの教え方が上手いからだよ」
「確かに、料理はかなり上達していそうな気がしますわ!」
たまには、わたしは手を出さずに料理を任せてみるのも良いかもしれない。
と思いつつも、それはそれで寂しいような……。
「お姉ちゃんが作った方が美味しいからソースはまだ作ってないよ」
「火加減が難しいですの」
「はいはい」
まだまだ、わたしがいないといけないのかもしれない。
油を引いて熱したフライパンに肉を並べていく。
それとは別のフライパンで醤油ベースの和風ソースを作ることにした。
「良い匂いがしてきたぞ!」
「早く食べたいですね」
わたしと一緒に戻ってきたので手伝うことがなく、大人しく席で待っていたマオさんもソースの匂いに刺激されたようだ。
「ただいま。良い匂いがするさね」
「お帰りなさい。そろそろ出来上がりますよ」
レダさんは商人ギルドに寄ったあとは、冒険者ギルドに寄らずに帰ってきたらしい。
「ミーナちゃん、カードは商人ギルドで明日まで預かりたいとのことなので、明日の帰りに受け取ってくるさね」
「分かりました。村に帰るのは明後日にしようかな?」
「冒険者ギルドと違って、しっかり調べておきたいようさね」
冒険者ギルドでは依頼の遂行能力、大抵の場合は戦闘能力が伴わなければカードを偽造してまで冒険者だと騙る意味があまりない。更にA級といった有名冒険者になると姿や特徴が多少なりとも国民にも知られていることも多いため、バレやすいというのもある。
対して商人ギルドでは、なりすましされてしまうようなことになれば、すぐに本人かどうか判別できないのでしっかり調べたいのだろうということだ。
そもそもの話、カードにはレダさんのようなギルドマスターでも知らない偽造防止の仕掛けがたくさんあるようだし、発覚すればあっさりと死罪となることもあるため、犯罪者ですらカードを偽造するような者はいないそうだが。
あちこちで身分証としても使っているだけあって、悪用すればその罪も重いというわけだ。
「本当かどうかは分からないけど、偽造自体は300年前ぐらいから急激に減ったという話も聞くさね」
300年前……。転生者たちも何かしたような気もするね。
◇
夕飯を食べ終え、霧の山脈にあった遺跡についてレダさんに相談することにした。
「なるほど。ロボットたちの安全のためにも隠したままの方が良いんじゃないかということさね」
「はい。それ以外にもあることはあるんですけど……」
魔力さえあれば1度行ったことのある場所なら、行ったり来たりできる町門の存在も大きい。
「……それは、あたしでも使えるのかい?」
「魔力次第になりますけど」
「うーん……、レダさんはぎりぎり使えると思うよ、お姉ちゃん」
人の魔力が見えるクレアが言うなら間違いないだろう。
「あたしでぎりぎりかい。それだとほとんと使える人はいないかもしれないさね」
「うん。会ったことがある人だと……、レダさんとコアゼさんしか使えないと思う」
強くても魔力がないとダメとなるとなかなか該当者はいないようだ。
というかレダさんってそんなに魔力を持っているのか。吟遊詩人としての腕前はかなり高いのは確かだけどね。
「そうだねえ……。王都のギルドで機密扱いで報告しておくのがいいと思うさね」
「それってどれぐらいの人が知ることになるんですか?」
「ギルドマスターとサブマスター、マスターの右腕である秘書ってところさね。王都でも二桁いはいかないんじゃないかね。ちなみにガルディアだとあたしと秘書1人ぐらいさね」
「国王や貴族といった人たちにも教えないんでしょうか?」
「基本的にはギルドが抱え込んで話さないさね。未知の発見をした優秀な冒険者を無下に扱って町や国を去られる方がギルドとしても痛手さね」
もちろん報告内容によっては、ギルドマスターが機密扱いにしない場合もあるらしいけど、今回の報告なら確実に機密扱いとしてもらえるだろうとのことだ。
「……ただ、今回の話では国防の観点から国王に伝わる可能性はあるさね」
「調査の手伝いをさせられる可能性とかは……」
「現状、ミーナちゃんしか入口を開けられないんだろう? 1回ぐらいはあるかもしれないさね」
国側の調査に同行するのは時間がかかりそうだなあ……。
「そうなっても、信頼できる人だけのパーティで調査すればいいさね」
「うーん……?」
「アルフォスたちに頼めばいいさね。A級冒険者で、あれでも爵位を貰っているから国もダメとは言わないはずさね」
ピンとこなかったところにレダさんが付け足した。
「もし王都のギルドに報告するなら一筆書くさね」
「分かりました。村に帰る間に考えておきます」
思っていたよりもしっかり機密としてくれるようなので、報告しておいても良さそうな気はするね。
後から誰かが偶然見つけたとしても、ギルドに報告してあればすでに発見済みという証明にもなるそうだ。
「あ、それと……」
「……1ヶ月ちょっと王都に行ってただけで、まだあるさね……?」
レダさんはチャット機能を使えそうになかった。
◇
――翌日。
スティーブたちと代わる冒険者を連れて昨日の遺跡へ向かうというレダさんを見送ったあとは、久しぶりのガルディアの町でのんびりすごすことにした。
昼過ぎ、食材の買出しから家に帰ると、すでにレダさんが遺跡から戻っていた。
「あれ、早いですね」
「往復するだけなら、さほどかからないさね。それでミーナちゃんにお願いがあるさね」
改まってレダさんが言う。
「スティーブたちに稽古をつけてやってほしいさね」
適当に言い訳しつつ、なあなあにして逃げようかと思ってたんだけど、レダさんから言われるとは思わなかったよ……。
「帰りにもずっとミーナちゃんに頼んで欲しいと言われてねえ……。あのパーティは向上心も高く、熱心だしあたしとしてもお願いしたいさね」
「ええと、剣は父さんに習ったから基本的なことぐらいなら教えられるけど、槍は我流なので難しいことは教えられませんよ?」
「それでも十分……、あれだけ使えるのに我流さね?」
「神槍なので、認められれば使えるんじゃないですかね?」
本当は魔法戦士のスキルによるものだけど、理由を説明しにくいところは神槍に押し付けておこう。
「スティーブたちは町でお昼を食べてからしばらくギルドで待ってるそうさね」
「……分かりました」
レダさんを味方につけたスティーブたちが上手だったと思うことにしよう。
「わたくしも行きますわ!」
「お姉ちゃん、私も」
「じゃあ一緒に行きますか。必要なら私も格闘術を教えられるかもしれません」
すぐ近くで耳をそばだてていた3人が答える。
野次馬が増えた。




