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王都にて - 鍛冶工房へ

 ――翌朝。


 少し遅めの朝食を済ませたあと、リルファナとカエデさんのいる工房へやってきた。


「クレアも来たがるかと思ったけど来なかったね」

「そろそろフェルド村に帰らないとなので、早めに調べものがしたかったようですわ」

「そうなんだ」


 クレアは調べたいことがあると、マオさんと図書館へ出かけて行った。


 何かあったとしてもチャットで連絡をとれるようになったこともあり、最初は1人で行くつもりだったクレアだが、マオさんも解呪について調べたいと一緒に行くことになった。

 特に何も言わないが、ソーニャさんのことが気になるのだろう。


 ちなみに王都でチャットを試したところ、数秒の遅延ラグが発生していた。


 クレアが言うには、この遅延ラグの長さは装置のある場所からの単純な距離ではなく、龍脈から離れるほど長くなる可能性があるとのことだ。

 ただ、大地の中を流れる龍脈がどのぐらいの速さで、どのような形なのか調査した人はいないそうで、龍脈地図のようなものはないらしい。


 リアルタイムでの会話はできないとはいえ、遠くの人と連絡するには手紙や希少な魔道具マジックアイテムを使うしかないこの世界(ヴィルトアーリ)では十分だけどね。


 門をくぐり工房のある建物へと向かう。


 工房の扉の横には木箱がたくさん積まれた荷馬車があった。

 馬は休ませているのか、繋がれていない。


「それは倉庫へ持っていってくれ!」

「はい!」


 前に来たときと同じように扉は開けっ放しだ。しかし、中から大きな声が聞こえてきた。

 荷物の整理でもしているようで、中にも木箱がたくさん置かれている。


「おや、丁度ミニエイナから戻ってきたところでな。騒がしくてスマンな」


 扉から覗いているわたしたちに気付いたみたい。

 鍛冶師らしい、がっしりとした初老ぐらいの男性が声をかけてきた。


「いえいえ、カエデさんはいますか?」

「ん? カエデに用事か。その辺に座って、ちょっと待っててくれな」


 カエデさんの名前を呼びながら奥へと入っていく。


「親方、これはどこへ?」

「あー、客が来たから、それはそこに置いておけ! おい! 誰か手あいてるやつ、これも持ってけ」

「え? はい!」


 うーん、声が大きいから丸聞こえだ。 


「お待たせしました!」


 鍛冶師のエプロンをつけたカエデさんが出てきた。


「あ! ミーナさんでしたか」

「うん、そろそろお姉さんも帰ってるかなって」

「ナイスタイミングです! 今は護衛依頼でギルドに行ってますが、すぐ戻ってくると思います!」


 リルファナの紹介をしつつ、出してもらったお茶を頂く。


「ただいま」

「あ、姉さん! こっちこっち!」


 外から入ってきた声に、カエデさんが反応した。


 部屋に入ってきたのはシルバーグリーンの髪色の女性。

 人間にしては耳が少し長い。エルフほどではないからハーフエルフかな?


 王都に帰ってきてから着替えたのか、ラフな普段着姿なのでパッと見では職業までは分からない。

 腰には護身用の小さなナイフを吊っている。


「ええと、お客さん?」

「うん、私が作った部品を買ってくれた人だよ」

「まあ、それはそれは。ありがとうございます」


 カエデさんのお姉さんが丁寧にお辞儀した。


「カエデ、呼んだってことは私にも何か用事があったの?」

「うん、ミーナさんたちもこっちの世界(ヴィルトアーリ)に来た人たちなんだよ」

「まあ!」


 カエデさんのお姉さんが目を丸くした。

 帰宅したばかりで、わたしたちが前に来たことは話していなかったみたいだね。


「アヤメと申します」


 カエデさんのお姉さんが名乗った。


「ミーナです」

「リルファナと申しますわ」


 わたしたちも自己紹介する。

 リルファナが華麗なカーテシーで挨拶すると、カエデさんとアヤメさんが驚いた。


 普通に暮らしていたら、日本でもこの世界(ヴィルトアーリ)でも貴族の振る舞いなんて見ることないだろうしね。

 しかもリルファナはメイド服を着ているから余計だろうか。


「ええと、今日はマオさんは来てないのかな?」

「マオさんは、クレアと図書館に行ってるんだ」

「ああ! 妹さんとも会いたかったなあ!」


 カエデさんの質問に答えると、クレアと会えないことを残念がった。


「ええと、本題なのだけど……」


 工房ではミニエイナで買い付けてきた物を運搬している。

 その際に、ちらちらとこちらを気にしている職人さんたちの視線が気になった。入口に据え付けられたテーブルで話しているので仕方ないところではあるけどね。


「……そうですね。場所を変えましょうか」


 転生者プレイヤーとしての話をしていると、意味の分からない会話が周囲に丸聞こえになってしまう。

 きょろきょろと辺りを見回していると、アヤメさんも同じように気付いたようで場所を変えることにした。


「親方、お客さんと少し出てきます!」

「おう!」


 カエデさんが奥の方で指示を出している親方に声をかけると、すぐに返事がきた。

 この工房では、工房の用事よりもお客さんの方が大切という方針のようで、急用が入っても特に文句も言われないそうだ。


 だがその方針も商売として得だからだ。

 帰りにカエデさんに少し武器の柄を注文しておいた方が角が立たないだろう。


 工房を出て路地を奥へと進む。

 カエデさんたちは数十メートルほど歩くと、2階建ての奥へと細長くなっている建物の前で立ち止まった。


 アルフォスさんたちのチームハウスのように、アパートのような造りになっているみたいだね。


「ここが私たちで借りている家です」

「2階の大きい部屋を借りてるんだよ!」


 1階は1人暮らし用の部屋が並び、2階には数部屋、数人で住むための部屋となっているらしい。


 2階の最奥の部屋がカエデさんたちの部屋だそうだ。


「入って入って」

「お邪魔します」


 カエデさんに急かされるように部屋に入る。

 リビング兼キッチンとなっていた。奥の部屋へ続く扉がいくつか見えている。玄関に近い方がトイレで、奥は寝室かな。


「お茶、……紅茶ぐらいしかないですが淹れてきますね」

「ありがとう」

「頂きますわ」


 アヤメさんが紅茶を出してくれた。


「じゃあ、こっち(ヴィルトアーリ)に来てからの話をまとめておこうか」


 カエデさんには前回会ったときに話しているけど、アヤメさんはまだ聞いていないようだし、1から話しておくことにした。



 まずわたしが、フェルド村に転生してきたこと、リルファナと出会ったこと、この世界(ヴィルトアーリ)の妹と共に冒険者になったことを話す。


「次はわたくしですわ」


 リルファナがわたしと出会う前の話を付け足した。


「それは大変でしたね……」

「リルファナさん」


 リルファナの話にカエデさんが席を立ち上がると、リルファナをぎゅっと抱きしめた。


「ミーナ様と出会ってからは楽しくやっていますわ」

「うんうん、良かったね」

「ええ」


 その後、アヤメさんの話を聞いたが、カエデさんから聞いた話とほぼ同じだった。


 カエデさんと共に王都へ転移してきて、セブクロを始めたばかりでレベルの低かったカエデさんを心配し、アヤメさんだけが冒険者となって活動中ということだ。


「あの……、お2人ともかなりレベルが高いようですが、カンストしているのでしょうか?」


 アヤメさんが聞いてきた。


「あまり確認してないけど、こっちでは60ぐらいかな? セブクロでは255だったけどね」

「わたくしもほぼ同じだと思いますわ」

「なるほど……。道理で自分が敵う相手ではないことしか分からないはずです」


 アヤメさんが呟いた。


「え? 相手のレベルって分かるの?」

「多少の誤差はありますが、相手の姿をしっかり視認できれば分かりますよ。自分よりはるかに上だと分からないことを今知りましたが」


 うむむ……、わたしは相手の強さって、弱いから強いの4段階ぐらいでしか分からないんだよね。

 リルファナの方がわたしより細かく分類できている気がする。レダさんの強さも見抜いていたし。


「わたくしも大雑把にしか分かりませんの。アヤメ様は鑑定のようなスキルを持ってますの?」

「あ、そういえば『洞察力』のスキルはカンストしていました」


 洞察力……、そんなスキルあったかな?


「どんなスキルですの?」

「ゲーム内ではあまり役立つスキルではなくて、NPCの所属や強さが分かるようになったり、会話中の選択肢から好感度が上がる選択肢が分かるようになったりするスキルでした」


 うーん、確かにゲーム中では微妙そうなスキルだね。


「なんでそんなスキルを?」

「一時期、NPCの国に所属していたのですが、他の国の調査などを担当していたんです」

「スパイですの! かっこいいですの!」


 セブクロでのスパイ行為は他国のNPCから様々な話を聞いて、それらの情報を自国へ報告するというミニクエストのようなものだ。

 色々な国の情報をたくさん集めるほど自国が発展しやすくなるという簡易的なものだけど、集めた情報を上手く扱っているということなのだろう。


「確かにそんな感じですね。職業が忍者クノイチだからか、国に所属したあとの話の流れでそうなってましたが……。『洞察力』をもっていると情報集めが楽だったんですよね」


 おや、忍者クノイチということはリルファナの後輩でもあるのかな?


「なるほど、それで武器をいくつか隠しておられるのですね」

「やはりバレていましたか。リルファナさんも隠し持っていますよね? 何となくしか分かりませんが……」


 ……隠す技術が高い方が有利なんだね。


 わたしはアヤメさんが武器を隠しているなんて全然分からなかった。

 スキルの有無の差は大きい。もうその辺の警戒はリルファナに任せることにしている。


 他にも体験したことや、クレアの例をあげて、こちらの世界(ヴィルトアーリ)でもセブクロの理屈が通じるものもあることを伝えた。


「私もレベルアップできるのかな?」

「転移者ならすぐ上がると思いますわ」

「できるだけ安全にしたいというなら、時間が空いたときに手伝えるけど」


 多少はレベルも上げておいた方が良いことは2人も分かっている。

 後でどうするかアヤメさんと考えるようだ。


 今まで見つけたヴィルティリア時代の遺跡の話をする。

 便利な機能や、帰還方法が見つかる可能性も高いので詳しく話した。


「ミーナさんたちは、昨日帰ってきたところだったんだ!」

「うん。それと……遺跡で見つけた能力があるから勧誘しておくね」

「……えっと?」


 戸惑うカエデさんとアヤメさんへチャットへの勧誘を飛ばす。


「そのまま許可を押せば大丈夫ですわ」

「ふむふむ」


 リルファナと使い方を教えて、一通り確認した。

 ちなみにカエデさんたちを誘うために、転生者プレイヤー用のチャンネルを追加で作ったのでクレアは入っていない。


「すごいですね!」

「少し遅延ラグはあるけど、かなり便利になるよ。どの程度使えるかは、まだ実験しながら確認中だけどね」

「それでも十分です。護衛依頼などでは数日遅れることがよくあるので、カエデと連絡しやすくなります」


 自由に使って構わないことを伝えると2人とも喜んでいた。


 念のため、チャンネルに入っている他の人にも見えることや、辻褄が合わなくならないようになど注意点をいくつか伝えておく。

 辻褄、例えばアヤメさんが護衛依頼中、カエデさんに2日後に王都に到着するよと伝えて、それをカエデさんが工房の人に話してしまったとする。それが続くと何故、そこまで的確に帰還日時が分かるんだろうということになってしまうからね。


「う、気をつけるよ……」


 チャットの勧誘と説明が終わるころ、外から午前4(正午)の鐘の音が聞こえてきた。


「折角ですし、お昼も食べていってください」

「うん、まだ話したいこともいっぱいあるからね!」


 2人の厚意に甘えて、そのままお昼をご馳走になることにした。

 日本の話からセブクロの話、こちらの世界(ヴィルトアーリ)の話など脈絡もなくおしゃべりしていると、クレアから『そろそろ帰るよ』と連絡が入った。


 窓から外を見ると、そろそろ陽が落ちそうな時間だ。

 午後1(午後3時)の鐘の音を聞き逃していたかもしれない。


「そろそろクレアが帰ってくるみたいだから、夕飯の買い物をして帰ることにするよ」

「あ! もうこんな時間! 1回、工房に戻らないと!」


 カエデさんもずっと工房から出たままだ。剣や刀などの柄を多めに注文して帰ることにした。


「ありがとう! これなら親方に怒られないと思う!」


 工房の前まで一緒に来て、2人とはそこで別れる。


「さて、今日の夕飯は何にしようかな」

「お肉が良いですわ!」

「じゃあ、野菜も買って焼肉にでもしようか」

「楽しみですわ!」

※2024/12/09

話の流れが変な部分を修正。

ミーナたちは聞きませんでしたが、アヤメさんの現在のレベルは30前後。セブクロプレイ時は150ぐらいでした。

(仮設定のため、今後の物語内の文章と矛盾する場合は、本文の方が正しいものとします)

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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公ってゲーム時代はカンストしててもこの世界だとレベルリセットされてて低かったはずだけど この世界でももうカンストしたのか?
[気になる点] クレアちゃん、セブクロとヴィルトアーリの両属性を持つ最強のキャラになるのか、続きが気になる処です。
[良い点] セクシースパイアヤメ殿。武器は太ももに忍ばせるもの! (偏見) [一言] クレアちゃんに顔文字を教えたくなりますね 寒い季節になりましたので、体調を崩されぬようお気をつけてお過ごしくださ…
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