情報交換ネットワーク管理室
見つけたノートをぱらぱらとめくると、タイトルの通り『情報交換ネットワーク』の概要と管理方法が書かれている。
「このノートは『情報交換ネットワーク』の機能のまとめと、利用方法、考察、最新の情報を書き込む本です。長期保存のできる管理室から、許可なく持ち出さないようにしてください。また最新情報は追記式のためノートの最後になります」
内容が合っていることを確認できたので、途中で最初に戻ってノートの1ページ目を読み上げる。
「しっかりとまとめてますのね」
「そうだね。使い方が書いてあれば、アレコレと試す必要がなくなるのは助かるかも」
ざっと目を通したところ、『情報交換ネットワーク』と呼ばれる装置は、この遺跡に設置されている古代秘宝。
遠く離れた人同士でも文字を送受信することができる機能らしい。
「……チャット機能ですの?」
「それは便利そうですね」
わたしの説明を聞いていたリルファナが呟いた。
「リルファナちゃん、チャットってなあに?」
「ええと、短い文の手紙を送りあうことができる機能といった感じですわ。実物を見ないと詳細は分かりませんが……」
「そうなんだ! フェルド村にも送れるのかなあ?」
父さんたちやレダさん、アルフォスさんたちとも会話できるなら便利そうである。
しかし、ノートの先を読むとそう簡単にはいかないようだった。
「うーん、使える人は限られるみたい。『資格』が必要だとか」
「そっか。じゃあ、見つけても使えないかもしれないんだ……」
クレアががっかりしている。
クレアには言わなかったが、その辺りもちゃんと書かれていて、『資格』についてもいくつかあるらしい。
1つ目の『資格』は、はっきり分かっていて称号『還りしもの』の所持者となっていた。
転生者の称号だと思われるので、当時の転生者で使えなかった者はいなかったのだろう。その通りならわたし、リルファナ、マオさんは使えることが確定する。
2つ目は、転生者以外の話で、魔法の教養があり、魔力量の高い者だと利用できる者がいたらしい。
その際、ソルジュプランテ人の割合が多かったそうだ。この点については、ソルジュプランテにある装置だから、使えるかどうか試す人がソルジュプランテ人に多かったからかもしれないとなっている。
3つ目が最後で、神様と出会ったことがある者、加護持ちだとシステムに参加できる可能性があるとなっている。
クレアは2つ目にも3つ目にも、ばっちり当てはまっているので使えるかもしれないね。
期待させておいて使えなかったとなるとがっかりしそうだし、ここでは黙っておこう。
尚、『情報交換ネットワーク』が使えるかは登録できるかどうかですぐ判別可能とのことだ。
転生者は使用時に消費魔力がほとんどない。しかし、この世界の人が登録して利用する場合は、魔力の消費が必要となっていた。
違いの原因はいくつか考えられるが、『転生者はステータスが高いし、スキルも多く持っているので、システムの利用に最適化されているのではないか』という意見に賛同者が多かったみたい。
珍しいのは、一周回って『このシステム自体が転生者が利用することを目的に作られたのでは?』という見解もあったとか。
「他には何かありましたの?」
「んー……。このノート、無駄な知識や考察も多いかな」
転生に関係することだったので黙って読んでいたからか、リルファナが本を覗き込んできた。
言葉にする意味がなかったということを匂わせつつ、読み進める。
ちなみに、わたしには分かるけど、転生や転生者、転移者という部分はぼかして書いてあった。
日本語を学ぶ人がいるかもしれないので、その辺りは転生者たちで一致団結して警戒していたようだ。
文字の読み書きを覚えるのが味方とは限らないからね。
「結構長そうだし、ざっと読んじゃうから、他に何かあるか調べてて」
「分かりましたわ。いくつかメモや本があるので、こちらを調べてみますわ」
リルファナが、他のメモ書きなどを読んでいく。
「私はどうしよう?」
「そうですね。クレアさんは魔力の強そうなところを探してみてください。重要な部屋のようですし、保存の魔法以外にも何かあるかもしれません」
「うん!」
マオさんの提案で、2人は部屋の中の魔力について調べ始めた。
◇
……一通り読んだところ、使い方も細かく解説されていた。
どうやらはるか昔にも転生者がいたことが分かり、後の時代にも転生者が現れるかもしれないと、ノートにまとめてくれていたようだ。その通りだったよ、ありがたい。
そして、わたしたちに今すぐ関わる重要な内容が1つあった。
『情報交換ネットワーク』は魔力で動いていることは間違いないのだが、色々試しても魔力の補充の仕方が分からなかったそうだ。
このままだと、200年ほどで魔力が切れるだろうとも書かれていた。
「ざっと読んでみたけど、実際に動くかどうかを確認しないとダメみたい。他に何かあった?」
読み終わったので、周囲を調べていた3人に聞いてみる。
「メモ類がたくさんありますが、ここの装置についての考察のようですの。途切れ途切れなので意味は分かりませんでしたわ」
リルファナが調べていた他のメモやノートなどは、わたしの読んでいたノートをまとめる前の下書きのようなものだったみたい。
最終的にノートには掲載しなかった内容もあるようだが、わたしが読んだものとほぼ同じことが書かれたメモも多く見つかった。
「それと近くの遺跡で何か重要なものが見つかったということが書かれておりました。町門のあった遺跡か、まだ行っていないもう1つの遺跡のことかもしれませんわ」
具体的な事は何も書かれていないらしい。
情報漏洩の対策、……というより、具体的な話はチャットシステムを使っていた可能性が高い気がする。
そうすれば、会議や話し合いのために同じ場所に集まる必要もないだろうし。
「メモとは関係ないですが、入口に鍵がかかっていますわ。廊下の突き当りの部屋の鍵だと思いますの」
リルファナが入口の壁を指さした場所には、鍵かけのボードがあり、鍵が2つかかっている。
形から、どちらも同じ鍵のようだ。片方はスペアキーだろう。
「あ、お姉ちゃん。ここに保存の魔法とは違う、変な魔力があったよ!」
「私やクレアさんが触れても変化はないようです」
クレアが部屋の奥の壁を指さす。
見た目では特に違和感もないし、魔力の違いも分からない。
「仕掛けがあるかどうかも、全然分かりませんわ」
リルファナの探索スキルで調べても、何があるのかすら分からないらしい。
「どれどれ? うわっ」
わたしが壁に触れた途端、閃光と共に小さな魔法陣が浮き上がった。
この図形は、遺跡で時々見かける妖精の魔法陣だ。
「金庫?」
魔法陣はすぐに消えて、小さな真四角の扉ができていた。
魔法陣の効果で、この扉の上に壁の絵だけでなく、全く違和感がないような手触りまでも投射していたように感じる。
金庫と違うのはダイヤルはなく、取っ手だけついていた。
一応、罠の有無をリルファナに調べてもらったあとに扉を開けた。
「あれ?」
「また魔法陣があるね、お姉ちゃん」
扉の中、金庫のように四角いスペースがあった。
何も入っていないが、床の部分に魔法陣があるのが見える。
扉を最後まで開けた途端、魔法陣が起動したようで、ボフンと白い煙があがった。
異様に多い煙が晴れると魔法陣の上に妖精が現れていた。
今回の妖精は、男の子寄りの恰好をした妖精だ。
「んー? ミーナ?」
妖精が声をかけてきた。
セブクロでこなしたクエストのおかげか、わたしは妖精に顔を知られている。
例に漏れず、この妖精もわたしのことを知っているようだ。
「こんなところで何してるの?」
「んーと、ちょっと待ってー。ここはー……」
妖精に質問すると、妖精はポケットから本を取り出した。
いや、明らかにポケットに入らないほど分厚い本なんだけど……。
妖精はパラパラとページをめくっていく。何か調べているようだ。
「なるほどー。えーとね、こっちー!」
妖精は、入らないはずのポケットに分厚い本をしまうと、わたしたちをどこかへ案内してくれるらしい。
真っ直ぐ、部屋の出口へと飛んでいく。
「ええと……?」
「はやくー」
4人で戸惑っていると、扉の前の妖精に急かされた。
「この魔法陣から召喚された場合、どこかへ案内することになっているという感じでしょうか?」
「そうー。そういえば案内の仕事は久しぶりな気もするー!」
マオさんの推測に妖精が頷く。
仕草で分かるとは思うけど、マオさんには妖精語が通じないのでその通りらしいと伝えた。
ヴィルティリア時代には、こんな風によく人を案内していたのかもしれない。
妖精の時間に対する感覚は曖昧らしいので、あまりあてにはできないが……。
「とりあえず付いて行ってみようか」
「そうですわね」
「うん!」
大人しく鍵を取ってついていくことにした。
今更だが、3人も目で妖精を追っているし見えているみたいだね。
案内人が見えなかったら困るだろうし、妖精の方で見えるように調整しているのだろう。
……あの金庫、賢者の職についていた人なら詳しく調べれば発見できそうだけど、昔の転生者たちは、存在に気付かなかったのだろうか?
ブクマ、評価などありがとうございます。
初投稿(2019/10/01)から3年目となりました。
作品と同じく執筆ものんびりペースですが、今後もよろしくお願いします。
※2021/10/13
マオさんには妖精の言葉が通じないことが分かるように終盤を少し修正しました。
現時点の登場人物で、妖精の言葉を理解できると分かっているのはミーナと、確実に妖精の言葉に反応しているネーヴァのみです。
(ただし、妖精を見ることが出来れば、仕草で大体何が言いたいかわかります)