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プレガーレ湖北部 - コボルトの集落

 ぬかるんだ場所を避けながら、コボルトの集落を目指す。


「ここから坂になっているみたいですわ」

「ええと、もう少しでコボルトの集落だと思います」


 地図を確認しながらマオさんが言う。


 上り坂になっている街道を進むと、ぬかるんでいた地面が減り、徐々に乾いた地面が増えてきた。

 土の色も違うため、坂だから水が流れるだけでなく水捌けが良い土なのかもしれない。


「あそこですわ!」


 坂を上りきると視界が開けて、先の方に頑丈な木の柵が設置されているのが見えた。

 柵のすぐ向こう側には、簡素な木製の見張り台が建っている。


 あれがコボルトの集落だろう。

 予定通り、日が暮れる前にたどり着けたようだ。


「お姉ちゃん、印のついた旗が立ってるよ」

「見た感じ、『鋼の尻尾』の印だね」


 旗は薄灰色をベースに、くるっと丸まった犬の尻尾のようなマークがついていた。


 コボルトたちは様々な氏族に分かれている。


 氏族といっても、そこまで堅苦しいものでもないようで、コボルトによっては所属する氏族を変更することもある。

 考え方や、別種族との関係性、趣味嗜好などで分かれているだけのような気もする。


 もちろん、人間に敵対している氏族や、極一部の氏族はよそ者を毛嫌いしていたりすることもあるけど。


 ここの集落に住む『鋼の尻尾』は、人間には友好的な氏族だ。


 わたしもセブクロ時代は、『鋼の尻尾』の氏族から受けられるクエストをこなしていたこともある。

 普段は人間と同じように農業や畜産を主に生活をしているが、必要に迫られれば武器を手に取り勇敢に戦うこともある氏族だったはずだ。


 ……まあ、ゲームと同じかは分からないけどね。


 まだ日は落ちていないので見張りのコボルトたちも、集落に近付いてくるわたしたちに気付いたのだろう。

 見張り台の上のコボルトが、何やら下に声をかけているのが見えた。


「思っていた以上に、かわいいですわね」

「うん!」


 コボルトたちの見た目を、簡潔に現すなら「子犬の獣人、犬寄り」といった感じだ。

 背丈も人間の子供ほどであり、もふもふとした毛並みといい、見た目はとても可愛らしい。


 ぬいぐるみが好きな2人には、コボルトも同じように見えるかもしれない。


「見た目で、子ども扱いしちゃダメだからね」

「わ、分かってますわ!」

「う、……うん!」


 いきなりコボルトたちが怒り出すようなことはないと思うが、一応2人には釘を刺しておく。



 集落に近付いていくと、兵士たちが左右に整列していた。

 装備はばらばらで革製の鎧を着ているコボルトもいれば、金属製の鎧を着ているコボルトもいる。武器も片手剣や槍、弓と様々だ。


 ここにきた目的や所属ぐらいは確認されるだろうと思っていたけど、これは予想外の反応なのだけど……。


 何事かと、子供のコボルトたちが遠巻きに眺めている。

 ということは、冒険者が来るたびにこうなるわけでもないんだよね……?


「ようこそいらっしゃいませ。長のところに案内いたします」


 一番前に立っていた金属製の鎧を着ていたコボルトがお辞儀して、そう言った。


「えっと……?」

「英雄殿が来たときは、お通ししろと言われておりますので!」


 丁寧過ぎる対応に、英雄殿と言われ4人で顔を見合わせてしまう。


 誰かと勘違いしているのだろうか?


「あの……。『鋼の尻尾』との友好度を上げていたりしませんか?」

「あっ!」


 マオさんから、耳打ちされて気付いた。

 そういえば、セブクロではコボルト関係のクエストもたくさんこなしていたような……。


 ガルディアの町や王都では何もなかったので、人間やそれに近い生物にはゲーム内の友好度は関係ないのかと思い込んでいた。


 ソルジュプランテという国はゲーム内にはなかったし、所属グループや派閥が違うから友好度が初期値扱いというだけなのかもしれない。

 そうでなければ、なんらかの理由で情報が伝達されないことで友好度がリセットされている可能性もあるかな?


「お姉ちゃん?」

「……誰かと間違えているのかも。とりあえず付いていこうか」


 クレアから見れば、わたしとコボルトたちに接点はない。

 コボルトたちが間違えていると言った方が信用しやすいだろう。


 そもそもゲームの友好度が引き継がれているなんて、異世界からやってきたことよりも説明するのが難しい。



 集落の中央にある、木造の大きな家に案内された。


「ほほ、英雄殿が2人もやってくるとは思いませんでしたのう」


 通された部屋でしばらく待っていると、杖を付いたコボルトがやってきた。

 なんだか威厳を感じる白毛のコボルトだ。話し方からもここの長なのだろう。


 『2人』ということは、リルファナも友好度が上がっていたようだね。


「あの……、誰かと間違えていませんか?」


 ゲームの引継ぎがあるなら、無駄だろうけど、一応聞いてみる。


「いえいえ、私は初めてお会いしますが、『鋼の尻尾』でのお噂は兼ねがね伺っておりますじゃ」

「はあ……」

「それで、本日は何用でこの集落に?」


 遺跡の調査にきたことと、1日野営する場所が貸してもらえないか、ついでに持ってきたものと何か取引できるかを話した。


「ふむふむ。野営についてはもちろん歓迎ですじゃ。野営といわず、この家の客室を使っていただいても構いませんぞ。取引についてもこの時期は冒険者がなかなか来ないので、皆が喜ぶでしょう。ですが、遺跡の方は……」


 長の表情が険しくなった。


「何かあったんですか?」

「……少し前から魔物が住みついておりましてな。洞窟の方に近寄らなければ襲ってくるようなこともないので、冒険者が再び来る時期になったら依頼を出そうかと思っていたのですが……」


 大きな狼のような魔物だったという。

 遺跡のある洞窟にやってきた頃には、怪我をしていたようで後ろ足を引きずっていたらしいが、今は分からないみたい。


「たしか……、銀色の毛並みに、青い瞳との報告がありましたな」

「……シルバーファングの特徴ですわね。狼種は種類が多いので確実ではありませんが、シルバーファングならソルジュプランテではあまり見ない魔物のはずですの」

「ええ、斥候の調べでは、西の山を越えてきたか、洞窟を抜けてきたのではないかと思われますな」


 シルバーファングという名前は聞いたことがあるぐらいだな。後でリルファナに詳細を聞かないとだね。


 その狼は霧の枝(ネビアラーモ)を抜けてきたということか。

 普段はそのような行動をしない魔物なら、何故ソルジュプランテ方面まで来たのか理由も気になる。


「リルファナちゃん、狼のいる洞窟が近いのにコボルトさんたちが襲われることはないの?」

「シルバーファングは雑食ではありますが、主な食べ物は土や鉱物ですの。怪我をしている状態だったのなら、無理に反撃されるような相手を襲わなかったのかもしれませんわね」

「そうなんだ。でもそれって怪我が治ったら……」


 クレアが言いたいのは、コボルトの集落を襲う可能性もあるということだろう。

 土や鉱物の何を栄養にしているのか分からない。洞窟内の餌が尽きたら洞窟からも出てくると思う。


「ふむ……。英雄殿、この時期に来たのも何かの縁、討伐を頼めますかの?」

「ええと……?」


 わたしはシルバーファングの強さを知らない。


 困ってリルファナの方を見ると、大丈夫だというように頷かれた。

 わたしたちでは手に負えないほど強い魔物というわけではないようだ。


「分かりました。どっちみち遺跡に向かう予定でしたし、調査してみます」

「ありがとうございますじゃ。さすがは英雄殿ですじゃ」


 依頼とするなら、しっかり話を詰めておかないといけない。

 長と話し合いを進める。


 結果、依頼内容はシルバーファングの討伐。

 シルバーファングが見つからない場合は、洞窟内の調査を済ませた上で3日ほど集落に滞在すること。


 依頼の報酬は、ギルドでの依頼として貰うことと、集落に滞在中はご飯付きで客室を借りることにした。

 討伐時は、お金も払うとのことだが、集落に無理のない程度にと伝える。


 さて、コボルトたちとの取引の前に、シルバーファングについて知識を共有しておくべきだろう。

 今、突然、集落を襲ってきたなんてことにならないとは言えないからね。


「では、予め皆に声をかけておきますかのう。お金か売買したいものを持って集まるように言っておきますじゃ」


 ここの集落ではお金も使えるらしい。

 長さんが、物々交換や売買したい人を集めておいてくれるそうだ。


「こちらをお使いください」

「ありがとう」


 長の家で家政婦をしているという女性のコボルトに客室に案内してもらう。


 とりあえず、シルバーファング討伐のための作戦会議だ。

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