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王都にて - 鍛冶師の少女

 忙しない鍛冶師の少女に勧められ、椅子に座って話をすることになった。

 とりあえず、今日は会いに来ただけだということを説明する。


「……では注文ではなく、私に会ってみたかったということですか?」

「どんな人が作っているのかなって思ってね。今日は時間があったからついでに寄ってみたんだ」

「なるほど」


 話をすると少女は納得したように頷いた。


「そういえば見習いなのに注文をとってもいいの?」

「お客さんの指名なら問題ないです! 納品の前に親方のチェックは入りますけどね」


 私は指名で受けたことなんてないんですけど、と少女は照れ笑いを浮かべながら答えた。


「そうなんだ。在庫が切れそうになったら頼もうかな?」

「そのときは是非、お願いします!」


 さて、柄を作っていた鍛冶師に会うという目的だけでやってきたので、用事を果たしてしまった。


「あ、それとマオさんが確認したいことがあるんだっけ?」

「はい。ええと、この部品なのですが……」


 マオさんが考えるように少し間を置いた。

 鍛冶師の少女は、一体何を質問されるのかという表情でマオさんを見ている。


「全く同じ形に作られているので、もしかしたら鍛冶スキル(・・・・・)で作ったものなのかと思いまして確認したかったのです」

「えっ!?」


 少女が驚いて一瞬固まった。


 マオさんが何を気にしているのかと思っていたけど、そういうことだったのか。

 鍛冶スキルを強調したということは、セブクロのプレイヤーではないかと思ったのだろう。


 でも、そんな簡単に転生者プレイヤーなんて見つかるものかな?


「私たち以外にもいたんだ……」


 少女がぼそりと呟く。

 そしてキリっとした真剣な表情で、こう続けた。


「そうです。あなたも日本から? ……え? もしかして御二人とも?」


 ……あれ、簡単に見つかったよ?



 鍛冶師の少女から話を聞くと、名前はカエデさんというらしい。

 カエデさんは、ゲームを一緒にしていたお姉さんと共にこの世界(ヴィルトアーリ)に転移してきたとのことだ。


「姉さんはステータスが高かったので冒険者として活動しています。私はまだゲームを始めて1日だったので……」


 カエデさんはお姉さんに誘われて丁度ゲームを始めたところだったそうだ。

 レベル10になり、武器の修理に必要でソロで遊ぶなら半必須ともされている鍛冶スキルを取ったところで、気付いたら王都にいたとのことだ。


 その後、カエデさんのお姉さんは冒険者として生活費を稼ぎ始めた。


 セブクロでそれなりにレベルがあったなら、基本的なスキルや魔法だけでも王都周辺の魔物なら装備なしでも倒せる。

 マオさんと同じように転移者なら装備は持っていただろうし、1番手っ取り早く稼ぐ方法だろう。


 町に残っていてもやることのないカエデさんは、ゲーム中に取得した鍛冶スキルを使えることを確認して、この工房のお世話になりはじめたというのが大雑把な流れのようだ。


「あの、御二人はどのぐらいのプレイ歴なのですか?」

「私は2ヶ月ぐらいですね。友達に手伝ってもらっていたので、レベルは70を超えていましたが生産スキルは持っていませんでした」

「わたしは初期組で、カンスト勢かな……」

「すごいです! 私ももう少し強ければ姉さんと冒険できたのに……」


 カエデさんがキラキラした瞳で、わたしたちを見たあと、残念そうに肩を落とした。


「んー、一緒に活動してるだけでもそれなりにレベルが上がりそうだけど……。転生者や転移者(プレイヤー)ならスキルも獲得しやすいみたいだし」

「ええ? そうなんですか?」


 どうやらリスクは取れないと、カエデさんのお姉さんは検証などをしなかったみたい。

 そのため、カエデさんと一緒に冒険者の活動もしたことがないようだ。


「ここ1年ぐらいで活動を始めたソロの冒険者ですか……。うーん、そのような噂は聞いたことがありませんが」


 マオさんが考え込んでいる。


 カエデさんのお姉さんは相当高レベル。転生者プレイヤーであるならば、能力も高いだろう。

 様々な情報を集めている迷宮の探究者(ダンジョンシーカー)ならば、いきなり有望な冒険者が出てきたとなったら情報網に引っかかる可能性も高いようだ。


「姉さんは普通に生活できれば十分って言ってたので、能力は隠しているのだと思います。多分、私がいるから余計に気にしているのだと……」

「なるほど」


 下手に有名になってしまうと、妹であるカエデさんが狙われるかもしれないと考えたのだろう。

 カエデさんのお姉さんは慎重な人のようだ。


 その後、お互いの状況の情報交換などをして今日はお暇することになった。


「お姉さんとも会いたいね」

「はい! 親方の護衛依頼を受けて今はミニエイナに行っているのですが、来週には帰ってくると思います」


 1週間ぐらい先になるようだ。


 町にいるにはちょっと長いし、それだけあれば遺跡から戻ってこられるかな?

 また隠し部屋とかを見つけてしまって、長くかかりそうなら途中で引き返してくれば良いだろう。


「なるほど。じゃあ遺跡調査から戻ったら寄ることにするよ」

「分かりました。姉さんが帰ってきたら伝えておきます!」


 リルファナやクレアのことも話しておいたので、伝えておいてもらうことにした。

 後でクレアがいる場所で出会っても話を合わせてくれるだろう。



 ちょっと買い物するだけのつもりだったのだけど、話し込んでいたこともあり、思ったよりも長くかかってしまった。


「王都にもいたんだね」

「そうですね。私がずっとソロで活動していたら、会う機会はなさそうでしたが……」


 見習いの鍛冶師だもんね。転移時から装備が揃っているマオさんが出会いそうな職業ではない。

 冒険者をしているというお姉さんの方なら会えた可能性はありそうだけど。


 ――帰り道。


 途中にあった大通りの店で、予定通り紙を購入していく。


 ロボットは印刷に使うって言ってたよね。できる限り色むらのない綺麗なものを選ぶことにしよう。

 量が多いので店の人には珍しがられたけど、問題なく買えた。


「味噌とかも買っていこうかな?」

「味噌ですか。やっぱり聖王国の店にあるんですか?」

「うんうん、王都だと聖王国の商品を取り扱ってる店なら大体あるかな? 何故かガルディアの店だと見かけないんだけどね」

「聖王国、ククがたまに話していますが、和風なようなので少し気になりますね」


 ククというのは、ククララさんのことだね。

 ククララさんは聖王国に行ったことがあるのかな?


「そういえば、どうなんでしょう? 直接聞いたことはないですが……。あの話しぶりからすると、少なくとも行ったことはありそうでしたね」

「そうなんだ。いずれは行くつもりだけど」

「チームハウスで暇そうにしてますし、話が聞けるか聞いておきましょうか?」


 うむむ……。


 話を聞いてみたい気もするけど、道順や周辺の魔物といった安全に必要な情報以外は、仕入れないで行ったほうが楽しめそうだとも思う。


「その顔は不要ですかね?」


 マオさんにまで、表情を読まれるようになってしまった……。


 夕飯の材料を買ってマオさんの家に帰宅。


「リルファナちゃん、すごいね!」

「ふふ、ありがとうございます」


 玄関に入ると、何やら2人で盛り上がっている声が聞こえた。


「ただいま」

「あ、お姉ちゃん、お帰り!」


 クレアが遺跡にいたロボットと同じ形をしたぬいぐるみを抱えていた。


 多少遅くなったとはいえ、装備の強化はもう終わったんだろうか。


「板の入れ替えだけでしたので、すぐ終わりましたわ」


 わたしの表情を呼んだリルファナが答えた。


 もうちょっとポーカーフェイスを鍛えようと思う。


「無理だと思うよ、お姉ちゃん」


 ぐぬぬ。

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