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王都にて - 休日

 マオさんがチームハウスから戻ってきてから夕飯となった。


「マオさん、おかえり」

「ただいまです」


 夕飯は栗ご飯と、フォーレンそうのおひたし。


「お肉ですわー」


 それと、リルファナが豚肉でジャンジャ(しょうが)炒めを作っていた。


 外に出ていると狩りをしない限り、肉料理は保存食の乾燥肉が多くなる。

 そのまま齧るかスープと一緒に煮込むぐらいしかないので、少し手の込んだものが食べたくなったのだろう。


「ええと、ソーニャから手紙が来ていました。解呪の薬を試したところ、弟さんに効いたようです。あっという間に睡眠時間が戻ったそうで……。今は体力を戻すためにリハビリ中とのことです」

「それは良かったですわ」


 リルファナが嬉しそうに答えた。


「ただ、何やらあったようで、王都に戻るのは8月後半になるかもしれないとのことです」

「何があったの?」

「遅れるけど、悪いことではないから気にしないでといった内容しか書いていませんでした。何でしょうね?」


 マオさんが腕を組んで考えている。


 ずっと悩まされていた呪いが解けたのだ、しばらく家でのんびりしたいだけかもしれない。


 問題が発生したわけではないようだし、戻ってから聞いたら教えてもらえるかな?


「西の遺跡ですが、ヴィルティリア時代だと思われる遺跡が1つずつ見つかっているようで、場所も分かりました。時間がなかったのでざっと調べただけですが」

「おお」

「1つはプレガーレ湖の北西。山の麓にある洞窟です。雨期の後である今は、周辺にぬかるみが多いようで近寄るのは少々大変なようです」

「ふむふむ」

「それと通り道に、コボルト族の集落があるようですね」

「コボルトかあ……」


 コボルト、背丈は子供ほど、犬のような頭部をもつ人型の種族だ。


 ファンタジーでは定番の魔物だね。


 セブクロのコボルトは、人と敵対していないことが多いので魔物ではなく種族とされている。


 詳しく覚えていないけど、大昔は人間と敵対する魔物という扱いだったが、今は人間と仲良くしようとなったという設定があったような……?

 もしかしたら、リルファナが詳しく覚えているかもしれない。


 見た目から、犬型の獣人に似ているようにも思えるが、違いを確認するのは簡単で、コボルトは頭の中央に小さな角が生えている。

 それでも、地域によっては獣人と同じ扱いをされていることもあるらしい。


「んー、氏族は?」

「『鋼の尻尾』だそうです」


 コボルトたちは、いくつかの氏族に分かれている。

 『闇の鉤爪』という氏族は人間と敵対しているが、他の氏族であるなら戦闘になることはないだろう。


 ちなみに、ゲームでは『白髭の計器』という氏族から、よくクエストを依頼される。

 知識の探求にいそしんでいるという、コボルトの中でも変わった氏族という話だったが……。


「『鋼の尻尾』なら問題なさそうかな?」

「そうですね。集落を通してもらうだけなら大丈夫だと思います」


 もう1つの遺跡は、霧の枝(ネビアラーモ)の中とのことだ。

 発見された段階で、数部屋も進むと落石で埋まっていることが確認されたため、何もない部屋がいくつかあることが分かっているだけとか。


 場所はこちら(王都)から数えて3つ目の要塞の近くらしい。

 アルフォスさんの手伝いに行ったときは2つ目の要塞までしか行かなかったので、その先まで行く必要があるね。


「チームでも調査にいったことがあるようですが、掘り起こすのは難しいんじゃないかということです」

「掘り起こさなくても、残っている部屋に何かあるかもしれませんわね」

「ええ、ミーナさんならまた何か見つけるかもしれません」


 リルファナの答えに、マオさんが真面目な顔で頷いた。


 わたしの意思で何かしているわけではないので、何か起こることを期待されても困るんだけど……。


「とりあえずマオさんは8月中は一緒で大丈夫ってことでいいのかな?」

「そうですね」

「お姉ちゃん、8月はフェルド村に帰るの忘れないようにね」


 そうだった。


 王都にいられるのは、最長であと半月と少しといったところだ。


「じゃあ、何日か休みにして北西の遺跡に行ってみようか」

「分かりましたわ」

「ざっと見てきただけなので、チームハウスで詳しく調べておきますね」


 ぬかるみが歩くのが困難というレベルなら、歩きやすくなる時期まで待った方が良いだろう。

 マオさんに調べてもらった結果次第では、行き先を変更することに決めた。



 ――翌日。


「さて、どうしようか」


 有名な観光場所は大体回ってしまったし、大きな買物も必要ない。


 王都はとにかく広いので、あまり知られていない場所や、珍しいお店などもありそうではあるけど。


「すみません。あまり詳しくなくて……」


 王都に住んでいるマオさんだが、あちこち歩き回ったりしたことがないので、そのような雑学的な情報は持ってなかった。


「うーん、詳しい人がいると良いんだけど」

「お姉ちゃん、ミレルさんたちに聞いてみたら?」

「なるほど。そうしようか」


 マオさんはチームハウスに向かうため、今日は別行動となる。

 ついでに他の用事も済ませてくるとのことだ。


 3人で風の(西)区に向かう。

 時間があれば、ガルディアのギルドに卸す武器を追加で作らせてもらおうかな。


 アルフォスさんたちのチームハウスに到着し、中庭に入る。


「お、ミーナちゃん。いらっしゃい」


 アルフォスさんとブコウさんが、中庭で稽古していた。

 ブコウさんは後ろを向いたまま、微動だにしない。


「むむむ、隙あり!」

「ええ?」


 アルフォスさんは、その隙を突かれてブコウさんに一本とられてしまったようだ。


「おお、フェイントかと思ったが、本当だったわい」

「……そんなフェイントはかけないよ」


 アルフォスさんの抗議の声を聞き流し、ブコウさんは使っていた模擬刀を倉庫に片付けている。


「ミレルから聞いてるけど、武器を作りに来たのかな?」

「ええと……」


 王都を回るのにオススメの場所がないか、ミレルさんたちに聞きに来たことを話した。


「ミレルに相談すると、可愛い系の店ばかり回ることになるんじゃないかな……。ジーナが嫌がるから、あまり行けないって文句言っていたこともあるし」

「……たしかに、そうなりそうだのう」


 アルフォスさんの言葉にブコウさんも同意する。

 うーん、ファンシーショップ巡りか。クレアは喜びそうだから、1日ぐらいならそれでも良いかもしれないけど。


「おお、そうだ。わしで良ければ紹介できる場所があるぞ。……若者が気に入るか分からんがのう」


 ブコウさんのオススメの場所か。


 どんな場所か、ちょっと気になる。

 クレアとリルファナも興味がありそう顔だ。


「じゃあ、そこに行ってみます」

「ふむ、ここじゃな」


 ブコウさんに地図を描いて貰った。


 土の()区の南側のようだ。

 同じ土の()区だけど、ティネスさんの案内で前に行った孤児院とは全然違う方角である。


「もし管理人に何か言われたら、ブコウに紹介されたと言えば大丈夫じゃ。それと、夕方過ぎか明日にでもまた顔を出してもらえるかの。ちょっと用意があるでな」

「え? 分かりました」


 ブコウさんからそう言われ、アルフォスさんのチームハウスから土の()区と向かった。


 ――土の()区。


 ブコウさんに描いてもらった地図を見ながら歩く。

 この辺りは、完全に住宅街となっているようで冒険者や商人といった姿は見えない。


 こんな地元の人しかいないような場所に、何かあるのだろうか。


「地図だと、この先みたい」


 立ち並んでいた家が途切れると、急な坂道となっていた。

 小さな丘になっているようだ。


 坂の真下から見ると、坂道は林の間をぬって、ゆっくりと蛇行しつつも丘の上の方へと続いていることが分かる。

 坂道や周りの木々はしっかり管理されているようだけど、木陰になっているせいか昼間なのに薄暗く、どことなく吹き抜ける風も冷たい。


「なんだか薄暗いね、リルファナちゃん」

「王都の雰囲気とは少し違いますわね」


 クレアとリルファナは、予想外といった感じで顔を見合わせている。


「公園でもあるのかな?」

「たしかに、そんな感じにも見えますわ」


 さて、この坂を上ると何があるのだろうか。

 ……上から町を見渡したら、景色は良さそうだね。

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