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霧の山脈 - 水処理施設

 通路を戻って丁字路、左手の部屋へ。

 ここまでの地図から推測すると、貴重なものがあるとしたら、ここが最後の部屋だろう。


「中に何かいますが、あまり動きがないですし、またロボットかもしれませんわね」


 リルファナが中に何かいることを警告する。


「……なんだか扉が重いですわ」


 念のため、罠がないかも確認し、扉に手をかけたところで呟いた。


「何か引っかかってる感じ?」

「いえ、単純に扉が重いようですわね」


 少し開くと、厚みのある扉だと分かった。


 部屋に入ると、少し肌寒く感じる。

 また、今までの部屋や通路と違って靴音がかなり響く。


 音が反響しやすいせいか、奥からウイーンという機械の駆動音のようなものも聞こえてきた。


「音が響きますね」

「今までと部屋の作りが違う?」


 部屋に入ったところで周囲を見回しても、天井が少し高い以外には今までと違いはないように見える。


 この部屋は、2メートルほどの仕切りで、複数のスペースに区切られているようだ。

 仕切りで作られた通路は、左手方向へ進む通路と、正面から奥へ向かう通路になっている。


「容器がありますわ」


 奥の方から響いてくる音も気になるが、まずは手前から調べよう。


 この部屋の入口は、広めに取られたスペースとなっている。


 すぐ目の前には、蓋の付いた金属製の容器が並べてあった。それぞれの容器には、持ち運びやすいように取っ手がついている。

 蓋を開けてみると、容器には透明な液体が入っていた。


 わたしの調理スキルによると、このままでも飲めることが分かった。

 ちなみに調理スキルで川の水を調べると、ろ過が必須だったり煮沸推奨となる。この液体はそのままでも大丈夫なようなので、綺麗な湧き水か、飲めるように処理されたものなのだろう。


「うーん……、水のようですわね」

「なんでこんなところに水の入った容器が?」


 リルファナも製薬スキルで、薬に関わるものは感覚的に判別できる。わたしの調理スキルの結果と合わせて、ただの水のようだと分かった。

 長く放置されていたのなら、全て蒸発してしまうはずである。


「ロボットさんが、何かしてるんじゃないかな? お姉ちゃん」


 そういえばリルファナが、中に何かいるって言っていたっけ。

 理由は分からないが、ここの作業をしているロボットが、水を運んでいるのだろう。


「水のご利用デスカ。こぼさないように気をつけて運んでクダサイ」


 そんな話をしているとロボットがやってきた。

 歩いた時の音が響くし、わたしたちが入ってきたことに気付いたのだろう。


 入口や図書館にいたロボットよりも、流暢なしゃべり方だ。

 角の部分が丸く加工されていたりと、見た目も少しだけ変化しているので他のロボットよりも新しいのかもしれない。


「ロボットさん、ここの水は勝手に使って良いの?」

「はい。調理場での利用か、部屋で飲料用する方が多いようデス」


 調理場には水道も付いていたように見えたけど、たくさん使いたい場合はここから持っていったのかな。


「この水はどこで生産しているのですか?」

「この部屋で作っていマス。見学していきマスカ?」


 マオさんが質問すると、ロボットが答えた。どうやら見学もできるらしい。

 どうせ部屋の中を調べる必要があるのだし、案内してもらっても良いだろう。


「じゃあ、お願いします」

「では、こちらへドウゾ」


 ロボットはやってきた正面の通路を進んでいく。


 しばらく進むと加工された壁ではなく、灰色の岩肌がむき出しになっていた。

 床は加工されているので、歩くのに不便はない。足音が響くのは、この辺りの岩の特性のようだ。


「ここから水を汲み上げてイマス」


 先導していたロボットが、こちらに振り返り説明する。

 辿り着いた場所は、大きな空洞のようになっていて、洞窟の中を川が流れていた。


 洞窟の中を流れる川としては、川幅も広く、水の量も多く感じる。

 川の真ん中に、水を汲み上げる大きな機械が置かれていて、そこからパイプを通してろ過するための機械に流しているそうだ。


 入口で聞こえた機械の駆動音も、この機械が主な原因だろう。


 煮沸やろ過を何度か行い、検査したあとにこの部屋の貯水槽に貯めているらしい。


 そこから飲み水やシャワーの水として施設内に流れていくようだ。各機械やパイプには魔力で処理をしているため、経年劣化もほぼない。

 水の重要性を分かっている人がここを設計したのだろう。


「安心、安全を心がけてイマス!」

「すごいですね」


 入口にあった容器は、1日何度かこのロボットが運んでいるみたい。

 その間に使われなかった水は、川に戻されるそうだ。


 水処理施設を案内されながら、入口まで戻ってきた。

 他にも食料を保管する冷蔵施設などがあったが、保管するものがないため現在は使われていないそうだ。


「えっと、他の場所も見ていって良いかな?」

「構いませんが、設備の機械には不用意に触れないようにお願いシマス。それと、メンテナンス班に伝えて欲しいことがあるのデスガ」


 何かあったのだろうか。ロボットに付いていく。


「こちらに不備がありマシテ、どうにかならないかと思っておりマシタ」


 入口のすぐ近くの仕切られたスペース。

 金色の魔力が揺らめく転移門ポータル迷宮ダンジョンの入口があった。


「ええと、これはいつ頃からあるのでしょう?」

「魔力の揺らぎを感じたのは、1年と18日前からデス」

「ふむ……」

「定期的に計測しておりマスガ、それから魔力が変動したことはアリマセン」


 迷宮ダンジョンは、放っておくとどんどん大きくなるというのが定説だ。

 小さくなって気付かれないうちに、自然消滅したりすることもありそうだけどね。


「お姉ちゃん、あまり魔力を感じないよ?」

「消えかかっているとか?」

「ロボットさんが言うには変化してないんだよね?」


 迷宮ダンジョンのもつ魔力量は、迷宮ダンジョンの構造や魔物の強さの判断材料にもなる。

 魔力量が少ないままで、変化がないということは難易度も低いだろう。


 小さな迷宮ダンジョンであるなら、わたしたちが調査すればすぐに消える可能性も高そうだ。


「入ってみようか」

「分かりました」


 ここまで安全な遺跡だったが、迷宮ダンジョンとなると罠があったり、魔物がいるかもしれないので注意が必要だ。



 迷宮ダンジョンに入ると、小さな部屋に出た。


 床や壁、天井は今までいた遺跡と変わらないように見える。

 4人いると狭く感じるぐらいの大きさで、扉があるだけの空っぽの部屋だ。


「このような迷宮ダンジョンは、周囲の環境に似ることも多いです。本来の遺跡と同じような構造を模しているのでしょう」


 マオさんの言葉に納得し、部屋を出る。

 もちろん、リルファナが罠を調べてからね。


 部屋の外は左右に通路、右手の方はさらに右へ曲がる通路のある丁字路が見えた。


 ……あれ?


 この形はさっき見たばかりの通路だ。


「この形は、向こう側はロボットさんがいる図書館だよね。リルファナちゃん」

「ええ、そうですわね。実際の遺跡と全く同じ形の通路のようですわ」


 左手の通路の先、実際の遺跡では進んでいない方向を見ると、黒いもやのようなものが覆っている場所がある。

 距離的には扉のある位置だと思う。


「うーん、単なる迷宮ダンジョンの壁なのか、なにかギミックでもあるのかってところかな?」

「魔力は感じないよ、お姉ちゃん」


 リルファナが試しにと、短剣を投げつけた。

 短剣が黒いもやに当たると、金属にでもぶつかったような高い音を響かせて、床へ落ちる。


「普通に、硬質の壁に当たったような音でしたわ」

「あまり魔力のない迷宮ダンジョンのようですし、ただの壁の可能性が高そうですね」


 そういえば、本来ここにはガラスの扉があったはずだけど、もやの隙間からは壁しか見えていない。

 どちらにせよ、現時点ではこっちへは進めそうにないし、通路を進むことにしよう。


 図書館や反対側の小部屋の入口も、同じように黒いもやが覆っていた。


町門タウンポータルのあった部屋しか行く場所がなさそうだね」

「ええ、そうですわね」


 丁字路を曲がり、少し長い通路を歩く。


「引っ越し作業を急げってどういうことだ?」

「うーん、思ったよりも時間がないようですよ」


 後ろから、わたしたち以外の話し声が聞こえた。

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