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霧の山脈 - 図書館

 ロボットが図書館だと言ったように、周囲には大きな本棚がたくさん並んでいる。

 しかし、空っぽの本棚も多く、あまり本が置かれていないようにも見えた。


「あまり本がないみたいだけど……」

「シセツ ノ イテン ニヨリ ゲンザイ ノ ゾウショスウ ハ ヒャクサツ ヲ シタマワリマス」


 ただの呟きだったのだけど、ロボットが反応した。


「ここの本は勝手に読んでも良いのでしょうか?」


 マオさんが質問する。


「カンナイ デハ ジユウ ニ オヨミクダサイ。モチダシ ハ カシダシカード ガ ヒツヨウデス」

「貸し出しカードですか?」

「コノヨウナ カード デス。ゲンザイ コノ トショカン デハ サイハッコウ ノ テツヅキ ガ デキマセン。フンシツシタ バアイ ハ オテスウデスガ ホンカン デ サイハッコウ シテモラッテクダサイ」


 ロボットが薄い銀色のカードを見せてくれた。

 なんだか冒険者のギルドカードに似ている。


「このカード?」


 念のため、ロボットに見せてみた。


 ……いや、違うだろうけど気になったんだよ。


「ソノ カード ハ キュウシキ ノタメ アタラシイカード ノ ハッコウ ガ ヒツヨウデス」


 違いますとだけ言われるかと思ったのに反応があった。


 冒険者のギルドカードは、古代の秘宝(アーティファクト)を利用して作っているってレダさんから聞いたことがある。

 本来の使い方は、図書館の会員証だったのだろうか……。


「ミブンショウ デハナク センヨウ ノ カード ガ ヒツヨウ ト ナリマシタ」


 カードをまじまじと見ていたら、ロボットが補足してくれた。

 どうやら、身分証明用のカードだったらしい。それなら、今と用途はあまり変わっていないのかもしれない。


「この施設について教えてもらえますか?」

「モトモト ハ セイカツコウジョウ ノタメ マジックアイテム ノ ケンキュウシセツ トシテ ケンセツ サレマシタ。ゲンザイ ハ イテン ニツキ ヘイサチュウ トナッテイマス」

「移転先は?」

「ケンサクチュウ……。エラー ガ ハッセイ シマシタ。エラーコード 404。タントウイン ニ オトイアワセクダサイ」


 マオさんの質問は答えられないようだ。

 肝心な内容なのに、残っていないのだろうか。


「データが破損しているのでしょうか」

「……ゲンイン カクニンチュウ……。ネットワーク ノ ダイブブン ガ ヘイサ サレテイルヨウデス」


 ロボットに聞いたわけではないのだけど、返事してくれた。

 最初に出会ったロボットよりもフレンドリーに感じる。


 それと古代文明では、なんらかの方法でネットワークを利用していたことも判明した。


 ラーゴの町でハーミたちと生活していた昔の転生者プレイヤーも、他の転生者プレイヤーとの連絡手段を持っていたことを思い出す。

 もし、同じものを使っていたのだとしたら最近まで使えたのかもしれない。


「あの、現在の日付は教えてもらえますの?」

「ナイブデータ ニ ヨルト 2127ネン 8ガツ 4ニチ デス」


 リルファナの質問に、ロボットが答えた。


「あれ、今日は7月末だったはずですが……」

「1万年以上前の文明のはずじゃないの?」


 マオさんと、クレアが疑問を口にする。

 カウントだけならいくら低くても1万近いはずだ。


「ケンサクチュウ……。オーバーフロー ヤ ズレ ガ ショウジテイル カノウセイ ガ アリマス。7ガツ 28ニチ ニ サイセッテイ シマスカ?」

「現在と同じ数え方か分かりませんので、とりあえずそのままで」

「リョウカイ シマシタ」


 分かる範囲でロボットから色々聞いてみる。


 基本的に、この図書館のルール以外に答えられることは少なそうだ。

 ただ、ネットワークの調査をするには、ここのグループが移転したという遺跡に行く必要がありそうなことも分かった。


「お姉ちゃん、そろそろお昼過ぎだよ」

「図書館だし、外で食べてから調査しようか」


 屋内にいると時間の経過がよく分からないが、クレアの腹時計は正確なのでとても助かる。


「……リヨウシャ モ イマセンシ ホン ヲ ヨミナガラ デナケレバ カンナイ デ インショク シテモ カマイマセン」


 ……ロボットも寂しいのだろうか。



 館内のテーブルでお昼を済ませて、残っている本を調べてみることにした。

 ロボットにより、いくつかの棚に種類別に整理されている。ざっと目を通すだけなら、あまり時間はかからないだろう。


「小説が多いですわ」

「持っていく必要がなかったのか、余裕がなかったのかな」


 ほとんどが娯楽向けの小説で、貴重な本などは持ち運ばれているようだ。


 置かれている本には、劣化を遅らせる魔法がかかっているみたい。

 遺跡に残る本は持ち上げるだけでバラバラに崩れてしまうこともあるが、ここの本は少し古いだけといった感じで、読むのも難しくなかった。


「魔法陣の描かれた本があったよ。魔法の本かな? お姉ちゃん」

「んー、魔法の理論が書かれた本みたいだね」

「え、後で写しておいてよ!」

「はいはい」


 魔法の本ということで、クレアの瞳が輝いた。


 これらの本も、パネルの文字と同じように、転生者プレイヤー組には内容が理解できる。


 クレアには古代語にしか見えないそうで、描かれた絵や図を見て判断している。

 怪しいものがあると、わたしに持ってくるのでその確認をする。


「周辺の地図がありましたわ!」

「どれどれ」


 リルファナが本を持ってくると、この辺りに詳しいマオさんが確認する。


 ヴィルティリア時代の国の地図らしい。

 マオさんによると、現代ではソルジュプランテ北部から、西にあるデシエルト共和国まで入る東西に広がる国だったようだ。


「国名は薄くなってしまっていて見えませんね。ヴィルサ……でしょうか」

「うーん、ロボットさん、これってどこの本か分かる?」


 クレアが、わたしたちが使わないと判断して積んでいた本を片付けているロボットに問いかけた。

 管理しているとはいえ、本の判別までできるのかな?


「ソレハ ヴィルソナ シュウ ノ ホン デスヨ」

「そうなんだ。ありがとう」

「イエイエ。キガルニ オトイアワセ クダサイ」


 ヴィルティリア文明時代のヴィルソナ州という地名の本だったようだ。


「他の地図はありませんでしたわ」

「この辺りの地図だから置いてあったのかな」

「ソルジュプランテ周辺は、今と違いはありませんね。西部は全く違いますが……」


 デシエルト共和国は、砂漠にある国というのは常識である。

 しかし、この地図によると、西部は木材の輸出や加工を行っていた森林地帯となっていた。


「1万年の間に、西部では気候の変化でもあったのでしょうか」


 もちろん、他にも木の切り過ぎや、田畑の広げ過ぎなどの人間が原因で砂漠化することもある。

 いつ頃から砂漠化したのか、調べてみるのも面白いかもしれないね。


「ここから西にある研究所というのも、いくつか候補がでましたわ」


 地図を調べていくと、施設などの場所も掲載されていた。


 西に研究所のような場所は2つ。

 霧の山脈(ネビアモンターニャ)から伸びる霧の枝(ネビアラーモ)の付け根の辺りに1つ。

 それと霧の枝(ネビアラーモ)の真ん中辺りにも1つあった。


「こちらの遺跡は探索済ですね。探索に行ったことがありますよ」


 マオさんが霧の枝(ネビアラーモ)の付け根にある研究所を指さした。


「こっちは?」

「うろ覚えなので、詳しくはチームハウスで調べてみないと分かりませんが、発見されていたと思います」


 どちらの遺跡も発見済のようだ。

 わたしたちでないと入れない部屋があるかもしれないので、最終的にはどっちにも行ってみる必要があるだろう。


 残っていた本の確認とメモを終えて、次の部屋へ向かう。

 地図以外にはあまり有用な情報もなかったけど、当時の生活が分かる本もいくつか見つけることができた。


「歴史的な価値は高いと思いますが……」


 マオさんがちらりとロボットを見る。

 管理人がいるのに、勝手に持って帰るのは何だか気分が悪いよね。


「マタノ ゴリヨウヲ オマチシテ オリマス」

「またね、ロボットさん」


 片付けようと思ったら、本はそのままで良いとロボットが言うので部屋を出る。

 わざわざ入口まで来て見送ってくれたりと、なかなか人間味の強いロボットだ。


 図書館に入る前に見たように、左に曲がる通路と正面に向かう通路がある。

 丁字路までくると、正面側の通路の途中にも左手に扉があるのが見えた。


 今までの配置から、部屋の配置は左右対称になっているようだ。

 多分、図書館と同じぐらいのサイズの部屋があるのだろう。


「左の通路かな。正面の部屋は帰りに見ていこう」

「分かりましたわ!」


 通路を左折し、先へと進むと大きな扉が見える。


 扉には『利用許可のある者以外、立ち入り禁止』と扉に彫られていた。


 何の利用許可だろう?

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