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霧の山脈 - 開かずの扉

 通路の左手側には、空き部屋があった。

 特に何もない小さな部屋だ。


 この辺りは冒険者や学者たちによって、探索され尽くしている。

 何か置いてあったとしても回収されてしまっているだろう。


 同じ広さの空き部屋をいくつか通過すると、円形の部屋に行き当たった。


 全面が鈍く輝く金色の壁になっている。装飾なのか、波のような曲線の溝がいくつか走っていて模様が描かれていた。

 部屋の正面の溝だけ、波形も大きく深く彫られているし、形から見てもこれが開かずの扉だろう。


「これが例の『開かずの扉』ですね。私もここまで来たのは初めてですが……」


 そう思っていたら、マオさんがメモを見ながらこの部屋についての説明をしてくれる。


 この部屋は数年に1度ぐらいの頻度で、変化がないか調査されているらしい。

 しかし、新しい発見があったこともないため、最近は気にかける冒険者も減ってしまい滅多に人が寄り付かないようだ。


 扉には、火でも使ったのか煤けたような跡がほんの少し残っている。

 だけど、傷がついていたりはしない。


「ここまで持ち込めるサイズの攻城兵器で攻撃を加えたこともあるそうです。それでもほとんど傷がつかないし、その傷も数日もすると復元されてしまうそうです」

「魔法は?」

「障壁があるようで、魔力が吸収されてしまうそうです。上位の魔法は使い手が少ないため、試していないかもしれませんが」


 破壊するのは難しいようだ。


「お姉ちゃん、いきなり壊そうとするのはどうかと思う」

「そうですわ! とりあえず調べてみますの」


 クレアとリルファナに怒られてしまった。


 いや、マオさんの情報を聞きたかっただけなんだけど……。


 この部屋は入口に近く調査に来る人も多かったようだし、罠があるようなことはないだろう。


 とりあえず、扉に触れてみる。

 石壁のようなつるりとした感触。予想に反して壁に触れたときの冷たさはない。温かくもないけれど。


 溝を覗き込むが、暗くてよく見えない。


「うーん……」

「なんだか変ですわ」


 横で扉を調べていたリルファナが呟いた。


「リルファナちゃん、どうしたの?」

「扉の構造がさっぱり分かりませんの」


 リルファナの調査スキルは、調べようと思うと罠や仕掛けの構造が分かるスキルだ。

 難易度が高くても、物理的なものか魔力的なものかぐらいは認識できるはずなのだけど。


 期待していたリルファナのスキルで、全く分からないのではお手上げだね。


 と言っても、せっかくここまで来たのだし、やれそうなことはやってみよう。


「クレア、魔力はどう?」

「うーん、何も分からないよ。お姉ちゃん」

「じゃあ、そのまま魔力を見てて」


 わたしは威力を落とした氷針ギャッチ・アーゴを唱える。

 小さな氷柱つららが扉に飛んでいくが、扉に当たった途端に輝いて消えてしまった。


「壁に当たったときに魔力に分解されて、溝の中を通って吸い取られたように見えたよ、お姉ちゃん」

「過去の調査通りですね」


 クレアの返事にマオさんが頷いた。


「扉以外の場所も同じなのかな?」


 適当にずらした壁に魔法を放つと同じように消えてしまった。


「魔力が扉の方に吸い込まれるのは同じだったよ、お姉ちゃん」


 魔法で破壊しようとすると、魔力に変換して中に引き込んでいるのか。


 ……ん?


「分解しているとはいえ、扉の中に魔力を吸い込む必要があるのかな?」

「攻撃魔法を防いでも、魔力をそのまま外に放置しておいたら、再使用されてしまうかもしれないからじゃないでしょうか」

「うーん……。魔法を分解する障壁を維持するために再利用してるのかも」


 マオさんとクレアが答えた。

 なるほど。吸い取った魔力を防御に回せば、再利用されることもないし効率が良い。


「魔法を防ぐ魔法というと防護盾スクード系の上位魔法を使っているんだと思うんだけど」

「そうですわね」


 セブクロでは、術者のレベルが上がると防護盾スクードの魔法自体が強くなったため、上位魔法というものは存在しなかった。

 けれど、現実になったこの世界(ヴィルトアーリ)なら防衛力は重要であるし、何かしら開発されていても不思議はない。


「少なくとも中位の魔法でも防げるだけの魔力が、この扉の後ろにあるってことだよね」

「うん。でもそれが何か関係あるの? お姉ちゃん」

「それだけの魔力を貯めておくのに、どれだけの装置が必要だろうって」


 魔力を貯蓄するための魔石は前に遺跡で見ている。あれと同じかそれ以上の大きな装置が必要となるはずだ。

 そして、撃たれた魔法に瞬時に反応するためには、装置を近くに置いていなければならないだろう。


「この後ろに装置があると言いたいのですわね」

「うん。ついでに、これって本当に扉なのかなって」


 3人が同時に扉の方を見た。


 溝があって形も扉っぽいけど、真っ平過ぎる気もする。

 外開きにしろ、内開きにしろ、どっちかにスライドするにしろ、どうやって開くのか推測しづらい形状でもあるんだよね。


 リルファナのスキルがなんの反応もしなかったというのも、大きな根拠の1つなんだけど。


「では、ここで行き止まりということですの?」

「ここが装置を置くだけの場所なら、その可能性もあるかも」


 ただ、ここで行き止まりだと、この遺跡が何のために建てられたものなのか分からなくなってしまう。

 特に洞窟の入口側の部分が後世の後付けだとすると、ただ狭いだけの部屋がいくつかあるだけだ。


 この部屋の壁が魔力に反応することしか分かっていない。


「いや、魔力なら反応するのか。クレア、部屋全体の魔力を見てて!」

「え? う、うん」


 魔力を集中し、放つ。


霜の小風(ブリナ・ブリッサ)


 凍てついた小さな風を起こす魔法だ。


 セブクロでは属性を複合させた魔法の1つ。

 複合魔法は、キャラクターの属性が威力や持続力などに影響する使い勝手の悪い魔法だった。


 この魔法を本気で使うと、対象を凍り付かせることも可能だけど、今回は肌寒い程度に抑えて部屋全体に放った。


「すごいですわ!」

「綺麗ですね」


 部屋全体に拡散した冷気が、キラキラと光を反射し綺麗だ。


「あれ?」


 クレアが何か気付いたのか、壁の1点を見ている。

 それに気づいたリルファナが、その周辺を調べ始めた。


「リルファナちゃん、そこだけ魔力が壁に吸い込まれたよ」

「ええ、ここに何か仕掛けがあるようですわ。特定の魔力に反応する仕組みのようですけれど……。ちょっと試してみますわ」


 リルファナが火球フオコ・グローボ氷針ギャッチ・アーゴを連続で唱えた。

 こういうときでも、必ず二重詠唱を使わなければならないというのは不便だね。


「あれ? リルファナちゃんの魔力は扉の方に吸い込まれたよ」

「属性が関係しているのでしょうか……。ミーナ様、氷か風の魔法をお願いしますわ」

「はいはい」


 風刃ヴェント・ラーマを唱えると、目の前の壁に吸い込まれたようだ。


「少し強く撃ってみるよ」

「う、うん」


 風刃ヴェント・ラーマを連続で叩きつけると、壁の一部が開いた。

 四角く外れたようで、中にはスイッチのようなものが並んでいる。


 操作盤のパネルが外れたということだろう。


「ミーナさん、入口が」


 マオさんが部屋の入口の方を指さす。

 壁の一部が外れたのと同時に入口の扉が、音もなく閉まったようだ。


「閉じ込められた?」

「いえ、これに罠はありませんわ。多分こうすれば……」


 リルファナが、パネルを元の場所に戻すと入口が開いた。

 パネルをはめ込んだ瞬間に切れ目は消えて、どこが外れていたのか分からなくなる。


「連動しているだけかな?」

「そのようですわね」


 何度か試すと、パネルが開くと同時に入口の扉が閉まることが分かった。


 その際に、使わない武器を扉に挟んでおくと、そのまま潰されるようなことはなく途中で止まる。

 入口の扉が完全に閉まらないと、パネルが完全に外れないので使うことができないようにも見える。何か安全面を考えた機能だと思う。


 しかし、パネル部分を外すのに毎回魔法をぶつける必要があるのが面倒だ。


「スイッチは何か書いてある?」

「ええ、スイッチは3つあって、それぞれ記号が書かれていますわ」


 四角いスイッチが縦に3つ並んでいて、記号が書いてあるが意味は分からない。

 そのうちの1つ、真ん中のスイッチが光っている。


 うーん……。これってエレベータに見えるんだけど……。

 真ん中の光っている場所が現在地だとすると、ここは中層ということだろうか。


「下のボタンを押してみようか」

「分かりましたわ」


 記号の意味は分からないが、なんとなく下のボタンの記号の方が気になる。


 リルファナが、わたしの言う通り下にあるボタンを押した。

 ガコンという音と、浮遊感に襲われる。


「お姉ちゃん、なんだか気持ち悪いよ」

「すぐ慣れるよ」


 エレベータの浮遊感に慣れていないクレアが青い顔をしている。

 日本にあるエレベータとあまり変わらない乗り心地だし、何度か乗れば慣れると思う。


「これは動いているようですね。エレベータでしょうか。ええと……、上下の階を移動する昇降装置ですね」


 エレベータではクレアに通じず、不思議そうな顔をしたのでマオさんが補足した。


 ガタガタという音がしたあと部屋が止まる。


 その直後、入口の扉が自動で開く。

 扉の先は、来た時とは違う通路が続いている。やはりエレベータだったようだ。


「行ってみようか」

「うん!」


 この先は、冒険者や学者は入ったことのないフロアだろう。警戒しながら進もう。

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