王都にて - 北の村へ
ミレルさんたちが買ってきた食材を確認すると、なんだか様々な食材が入っている。
ハンバーグに使わないようなものもあるけれど……。
「なんか色々入ってるけど……」
「ミレルさんが使うかもしれないって適当に買い足してたんだよ。お姉ちゃん」
「うーん、ポテトとカロッタは茹でて付け合わせに使おうかな? あとはー……」
野菜を見ていると、きのこが目に付いた。
オーソドックスなハンバーグだけでなく、きのこあんかけのハンバーグを作ろうかな。
――夕方。
出来上がった料理を並べ夕飯となった。
「ミーナの料理はいつも予想を上回ってくる」
「色々な作り方があるわね」
ミレルさんとジーナさんがそう言いながら、きのこのハンバーグを食べている。
「どちらも美味しいですわー」
リルファナはナイフとフォークを使って、器用にハンバーグを一口サイズに切り分けると、幸せそうに頬張った。
日本でも、こちらでもリルファナはマナーをしっかり学んでいる。ナイフやフォークの使い方が綺麗で見とれてしまうぐらいだ。
しかし、よく見ていると2つの味を交互に食べている。
……それはマナーとしてはありなのだろうか。
「そういえばミーナちゃんたちは、まだしばらく王都にいるの?」
「はい。来月の頭ぐらいまではいると思います」
ソーニャさんたちが帰ってくるのにそれぐらいはかかるだろう。
ちょうど良いので、それまでは王都観光や冒険者ギルドで依頼を受けるつもりだし、いつもより長く出かけることはレダさんにも伝えてある。
「アルフォスたちも、予定通りならそのぐらいだったかしら」
「ん。いつでも来る。留守番は暇だし……」
夕食後、マオさんの家に戻ることにした。
泊っていっても良いと言われたのだけど、明日からまた新しい依頼を受ける予定だ。
早朝からマオさんの家に戻って、荷物を整理したりするのは面倒だからね。
◇
――翌日。
混雑している依頼争奪戦の時間帯を避けて、風の区の冒険者ギルドにやってきた。
風の区のギルドは、王都から北方面の依頼が多く貼られていることに気付いたからだ。
「北方面の依頼を探せば良いの? お姉ちゃん」
「そうだね。遺跡は見に行くだけだから、少し寄り道になるぐらいの依頼でもいいけど」
マオさんによるとヴィルティリア時代の遺跡は、霧の山脈の麓にある村から、半日もあれば見に行けるらしい。
今回はどんなものなのか見るだけのつもりだ。
「北へは街道が走っているので、道中でこなせる依頼はあまり見つからないかもしれません」
わたしの返事を聞いてマオさんが言った。
「ついでに受けられる依頼で良さそうなのはあるかな?」
「プレガーレ湖の北方面か、北東の森林地帯まで足を伸ばしても良いなら依頼もたくさんありますよ」
マオさんがまだソロで活動していたころは、資金稼ぎのために北東方面の討伐依頼を受けていたようだ。
北東方面は、王都の住民の食を賄うための重要な農業地帯でもある。
何かあってから対応するとリスクも大きくなる。村人の生活圏にいそうな魔物の討伐依頼は常在依頼になっているものも多い。
「じゃあ森の方へ行ってみようか」
「うん!」
「分かりましたわ」
湖は前回行ったし、逆方向へ行ってみることに決めた。
4人で北の村に近く、森の方へ向かう依頼を探し、いくつか選び出す。
目新しい依頼は、フォレストパンサーの討伐ぐらいかな。
ガルディアと同じような、薬草や樹皮の採取もあったので一緒に受けておくことにした。
この前の受付のお姉さんだったからか、今度は何も言わずスムーズに手続きを行ってくれた。
「がんばってくださいね!」
受付のお姉さんに応援され、冒険者ギルドを出る。
◇
水の区を抜けてたどり着いた北門は、南門や西門と比較すると小さな門だった。
元々、農家と山脈へ向かう冒険者ぐらいしか使わない門なので、大きく作る必要がなかったようだ。
この区は職人が多く工業区のようになっている。力仕事をする人も多いからか、門の近くにはお弁当屋が多く出店していた。
「ボリュームたっぷりのお弁当が多かったですわ」
「うん。食べきれるかなあ?」
まだ朝なのに、クレアはもうお昼の心配をしている。
適当に選んだお弁当屋さんで昼食を買ってきたのだけど、ボリュームたっぷりのお弁当が多い傾向だった。
さて、正式な名前もなく『麓の村』とか『北の村』などと呼ばれる村までは、街道に沿って真っ直ぐ北上するだけだ。
そのあとは依頼をこなしてから遺跡に向かう予定とした。観光が後の方が気分的に楽だからね。
北門から王都の外へ出ると、いつも南よりも少し狭くなった街道が続いていた。
真っすぐの道なので、点々と魔物除けの石柱が並んでいるのも見通せる。
街道から西側はまだらに草が生える草原だ。プレガーレ湖までほとんど木も生えず、湖岸が薄っすらと見える場所もあった。
反対の東側は畑が広がり、その向こうには森が広がっている。印象としてはフェルド村に近いかもしれない。
「右と左で全然違うんだね、お姉ちゃん」
「うん。ちょっと不思議だね」
「元々、この道は森に沿って造られたそうです。今は伐採して畑になっていますが」
山脈からの風の影響を大きく受けるのが、丁度この道辺りまでなのだろう。
不思議な景色を眺めながら北へと歩く。
時々、畑の区分けが変わるぐらいで、それ以外の景色には何も変化がない。
「どれぐらい歩いて来たんだろう?」
「麦畑が見えてきたので、半分ぐらいですね」
マオさんが麦畑を指さしながら答える。
マオさんの指さした先、麦畑の中で妖精が3人ぐらいでふわふわと飛び回っているのが見えた。遊んでいるみたいだ。
「あ、妖精さんがいる!」
「本当ですわ」
こちらに気付いた妖精が手を振ってきたので、振り返していたらクレアとリルファナが気付いた。
「たまに感じる、あの気配は妖精だったのですね」
聞いてみるとマオさんは妖精を見ることはできないが、知覚できるらしい。
妖精たちは、こちらに興味がわかなかったらしく、そのまま畑の中に隠れてしまった。
「妖精さんがいるってことは、この辺りは魔力が豊富なんだね」
「霧の山脈も近いですからね。変異種の魔物が出現することも多いらしいですよ」
数年に1度ぐらいの間隔で変な魔物が出現することがあるらしい。固有種のことかな?
「そんなところに畑を作って大丈夫なんですの?」
「変異種といっても必ずしも強いわけではないらしいです。私が入る前、探索者でも討伐依頼を受けたことがあるらしく、ドウランから聞いた話ですけどね」
「そうなんだ」
固有種であれば元になった魔物よりも強いのが普通だ。変異種というのは別物かもしれないね。
そんな話をしながら歩いていると、右手の畑が途切れ森が広がってきた。
「もう少し歩けば麓の村ですが、そろそろお昼ですね」
空を見上げると丁度前で太陽が輝いている。
すぐそこに魔物除けの石柱もあった。
村に近いこともあり、よく使われているのだろう。座りやすそうな石がたくさん置いてある。
「そこの石柱でお昼を食べてから村に行こうか」
「うん!」
無理に村まで空腹を我慢する必要もないし、ここで食べていってしまおう。