ヴィルティリア文明
依頼も終わったので、翌日から3日ほど休みにした。
冒険者は依頼さえ受けていなければ、何をするのも自由だ。
クレアとリルファナと3人で土の区の図書館にやってきた。
本当は各自で自由行動にして、わたしだけ図書館に調べものに行こうと思ったのだけど、2人も調べたいことがあるらしい。
マオさんはチームハウスに顔を出してくると今日は別行動だ。
昨日見つけた神殿の地下室の報告もしてくるとのこと。
ちなみに、神槍については、聞かれない限りはこちらから話さないということに決めた。
科学捜査のない世界だから適当な話で誤魔化すことも可能だろう。
ただ、もしかしたら嘘をついているか分かる魔法が存在するかもしれないからね。セブクロにはなかったけど、用心した方が良い。
土の区は住居が多く、英雄関係の本が多く置いてあるんじゃないかと教わった図書館だ。
住民用だから小さな建物かと思っていたのだけど、そんなことはなかった。
3階建ての大きな建物で、蔵書を隅々まで確認するだけでも数日では終わらないだろう。
「今日は色々と調べるつもりだから、ほぼ1日いるかもしれないけど」
「お姉ちゃん、何を調べるの?」
「300年前の英雄と、ヴィルティリア文明についてかな? 神様についても余裕があれば」
「じゃあ、私もヴィルティリア文明について調べるよ。ガルディアだと似た内容の本しかなかったし」
そういえばクレアは、前から古代文明について調べていたっけ。
あまり話さないのは資料が少ないからだったのかな。
「わたくしも、余裕があれば英雄や神様についても見てみますわ」
「うん、何か自分で調べたいものがあるなら、余裕があったらでいいからね」
リルファナは生産スキル関係を調べる予定だったらしい。
特にクレアが覚えた錬金スキルは、うろ覚えなことばかりなので染料や塩ぐらいしか作り方を覚えていない。何かレシピはないかということだ。
その日はお昼に集合して食事に出た以外、夕方まで図書館に籠っていた。
「お姉ちゃん、ヴィルティリア文明については色々書いてあったよ!」
「錬金術スキルはかなりマイナーなようで、いくつかレシピが見つかったぐらいですわ。王水のレシピもありましたが、危険ですので作らない方が良いですわね」
「リルファナちゃん、王水って?」
王水は濃塩酸と濃硝酸を一定の比率で混ぜた液体だ。
金や白金ですら溶かしてしまう液体なので、スキル上げで作るようなものではない。
そもそも塩酸や硝酸ですら、知識のない人ばかりのこの世界で作るには危険だと思うけど。
「取り扱いを間違えると大怪我じゃ済まないよ」
「そうなんだ。でも、そんな危ないもののレシピが図書館にあるんだね?」
「えっと、一般の人では素材を集めることすらできないと思いますの。伝説や地域の伝承といった形で残っていたのですわ」
セブクロをやっていたリルファナだから、入手可能な素材だと分かるレベルだったようだ。
一般人であれば素材に竜の髭と書かれていたら、おとぎ話としか思わないよね、といった感じだろう。
「でも、そのような危険な薬品も取り扱うこともあるのが錬金術師ですわ。常に安全に扱うことを考えなければなりませんの」
「うん!」
わたしやリルファナには、その辺にある鉱石から塩酸や硝酸を作り出す知識もない。
クレアがそこまでスキルを上げるかは分からないし、実際にそのような薬品を使うことはほぼないだろう。
◇
夕飯後、図書館で調べたことをマオさんも含めた4人でまとめる。
日本へ帰る手立てになるかもしれないので、マオさんも手伝ってくれた。
さすがに古い文明であるため、ほとんどの内容に確証はない。
しかし、いくつかの共通見解のようなものもあった。
ヴィルティリア文明は、1万年ほど前に滅びた文明だ。
何年ほど続いたのかも不明だが、世界中で似た形式の遺跡が見つかることなどから広大な地域に様々な国があり、それぞれが活発に交流していたことが分かっている。1つの国が世界を治めていたという話もあるが、この意見は少数派だ。
この時代は魔法学が発達しており、今では作り出すことができない古代秘宝が数多く造られた文明でもある。
空に浮かべた島に住む魔術師がいたり、ゴーレムやホムンクルスといった人工生命体がたくさんいた時代だとも書かれていた。
文明が滅んだ理由は不明。
手に負えない魔物の出現、疫病の流行、魔力の暴走、魔法の進化により禁忌に触れたという説があった。
この時代にほとんどの生物が死滅したのではないかという話まである。
現在発見される遺跡は、全損の状態ばかりで、床や壁の一部が残っているだけということも珍しくないそうだ。
そんな中で、ソルジュプランテ国内では、ある程度の形が残ったまま見つかる遺跡が多く、文明の中心部だったから最後まで残ったのではないかと考える学者が多いようだ。
わたしとしては、文明崩壊後、北東部の地方を開拓する人々があまりいなかったから自然に残ったという話の方が有力そうに思うけど。
「霧の山脈に迷宮が多いのは、この時代の魔力が暴走しているのではないかって書いてあったよ、お姉ちゃん」
「たしかに、あの辺りではヴィルティリア文明の遺跡が多く見つかりますね」
その他にもたくさんの情報があったけど、龍を操り敵国を滅ぼした国があるなんてものまであった。
書かれている本も1つだけだし、信用度が低い方にメモっておこう。
うーん。まとめてみても、大雑把な情報のみだね。
それに古い時代の文明というだけで、セブクロやわたしに関係があるようには思えない。
もし関係しているのだとしても、1万年以上前のことだ。わたしができることは何もないだろう。
次に英雄関係の情報をまとめていく。
「こう見てみると英雄はいつの時代にもいるのですわね」
「うん。新しい技術を作り出したとか、不思議な能力を使いこなしたっていうのが多いね」
「リルファナちゃん、ヴィルティリア文明の時代にもいたのかな?」
「記録はありませんが、きっといたと思いますわ!」
それぞれの英雄の情報を読み込んでみると、転生者の情報だと思う人も多かった。
半分ぐらいは単純にこの世界に生まれた天才や努力家じゃないかという気もするけれど。
「ミーナ様、神様の方は調べられましたの?」
「うん、少しだけどね。目新しい情報は、神様たちも元々は人だったぐらいかな?」
セブクロでは、神様の成り立ちまでは言及されていなかった。
人々を率いて悪魔と戦った王様や、たくさんの人を救った聖女、上手く立ち回りいくつもの国を裕福にした大商人。
図書館で見つけた本によるとそんな人たちが大昔に神様になったらしい。
「そうなんだ」
「神話といった感じだけどね。でも、こう色々な情報を並べてみるとヴィルティリア文明が滅びたころの話に見えなくもないかな?」
本来のミーナの記憶でも聞いたことがない内容だった。
教会で勉強していたクレアも知らないということは、マイナーな説なのか、表立って語られることでもないのかな?
神様本人に出会って聞くこともできる世界だから、嘘が広がっているとは考えにくいし、本当のことなのだろう。
そして、それが本当なら、わたしたちでも神になることができるのだと思う。……特に興味はないけど。
そうそう、フィメリリータ様が言っていたテカフェ様というのは酒の神様の名前だった。
カルファブロ様自身も酒の神様として崇められているので、重複した神様もいるってことだね。
「うーん、ヴィルティリア文明について知りたいなら、遺跡に行ってみないとダメかな?」
「それなら、霧の山脈の入口にも残っていますよ。見に行ってみますか? 冒険者の間では有名な場所ですが」
王都の北、霧の山脈の麓に冒険者たちが使う小さな村がある。
その周囲には遺跡が数多く残っているし、ギルドからも討伐依頼や採取依頼などの依頼が出されていることも多いらしい。
「そうだね。休みが終わったら依頼を受けるついでに行ってみようか」