荷物整理
照明の魔法をランタンにかけて町へと歩く。
全ての依頼をこなして、ガルディアへの街道に戻る頃には、陽が落ちて暗くなってしまっていた。
迷宮と往復する冒険者が多いせいか、依頼対象の魔物が町の近くで見つからず、探すのに手間取ってしまったのが原因だ。
ミニエイナまで森の中を突っ切って、1泊してくるのも手だったかな?
「ギルドへの報告は明日にしようか」
「うん!」
日帰りのつもりだったので、家の鍵も持ちっぱなしだ。
普段通りならレダさんも帰宅しているだろうと、そのまま家へと戻った。
「おかえりさね。今日は帰ってこないかと思い始めたところだったさね」
「ただいまです。魔物がなかなか見つからなくて時間がかかってしまいました。夕飯の準備をしますね」
「ああ、パンで良ければ買ってきてるさね」
テーブルに置かれた袋から、パンの香りがした。
帰宅してもわたしたちがいなかったので、今日は帰ってくるか分からないと近くの店で買ってきたようだ。
1人で食べるには明らかに多いので、わたしたちが帰ってきても良いように多めに買ってきてくれたみたい。
それと、レダさんにスキル本や上位鑑定の道具について聞いておくことにした。
マオさんだけでなく、何人かから話を聞いておいた方が良いだろうからね。
レダさんには本の名前を何て言えば良いのか分からなかったので、実際にスキル本を見せる。
「ああ、神の技術書かい。あたしが冒険者としてふらふらしてた頃はそれなりに見かけたけど、最近は全く見ないし手に入れたという話も聞かないさね」
なんだか仰々しい名前が付いていた。
読むだけで技が覚えられる、神の御業としか考えられない本というところから付いた名前らしい。
レダさんは20冊近くのスキル本を読み、特に違和感もなく覚えたスキルを使えているそうだ。
マオさんに聞いた話とも一致するし、レダさんの様子から覚えられる数が増えているか、そもそも制限数が撤廃されていると考えて良いだろう。
上位の鑑定道具については、ガルディアでは取り扱っていないということだった。
価格が高く、ランクの高い冒険者が少ないガルディアでは売れないそうだ。
販売はしていないが、ギルドの買取のカウンターには冒険者から持ち込まれたものを調べるために置いてあるらしく、聞けば鑑定してくれるとのことだ。
夕飯とお風呂を済ませたあと、部屋に戻る。
明日は冒険者ギルドで依頼の報告と、使わない素材などを売却してしまうことにした。
防具の強化などに使うかもと皮などの素材を取ってあったのだけど、リルファナの叔父さんから貰った防具があるので使わないためだ。
「皮とかは、ラミィさんも使わないかな? お姉ちゃん」
「そうだね。先に聞いていこうか」
ラミィさんにはお世話になっているし、欲しいものがあれば買い取ってもらおう。
「そういえば、レダさんって何歳なんだろうね、お姉ちゃん、リルファナちゃん」
「うーん、冒険者を長くやってて、ギルドマスターになったんでしょ。若くても40歳ぐらいかな?」
「全くそう見えませんわね。わたくしたちと同い年と言われても納得できる見た目ですの」
レダさんの歳について考えてみるも、謎のままだ。
「エルフとか長命種の血が混じってるって可能性もあるかな?」
「なるほど。見た目の方は、人間の血が強く出れば分かりませんわね」
◇
冒険者ギルドに寄る前に、ラミィさんの店へ向かった。
この前もいた、孤児院の女の子が店員をしていたのでラミィさんを呼んでもらう。
「皮ですかー。買い取りますよー」
「これだけあるので、必要なだけどうぞ」
「おー、処理もちゃんとされてますし、買い取りますよー」
皮や裁縫に使う植物を並べると、ラミィさんは1つ1つチェックしてほぼ全て購入してくれた。
「最近はなかなか自分で採取に行く時間が取れないので、助かりましたー。また手に入れたら是非売ってくださいねー」
「また持ってきますね」
ラミィさんは、注文された夏服を作るのに忙しそうだ。
買取してもらったあとはギルドへ向かった。
依頼の報告は、買取のカウンターでまとめて行うことができるので別棟へ。
いつもいるお兄さんが査定してくれた。
「問題なしだな。お疲れさん」
「それと、今日はこちらの鑑定と買取金額も教えてもらえますか」
「あいよ」
大きい葉っぱ、粉の入った小袋を鑑定用に置く。
値段次第で売ろうかと、金属鎧や緩衝材も並べた。
「お、迷宮で見つけたのか?」
「はい、何だか分からないものもあって」
「ふむ、葉も粉も特に特徴もないし調べるか」
お兄さんは後ろにあるテーブルで調べる。
結果は、鬼木の葉と破邪の粉と出たそうだ。
鬼木の葉は、その名前からは想像しにくいがお茶にできる葉。
破邪の粉の方は具体的な使い道は分からないが、錬金術か薬の素材だったと思う。
「どちらも持ち込まれたことがない素材だから、買取希望だと買取価格を調べる必要があるけどどうする?」
「ミーナ様、粉は使い道がありますわ」
リルファナが、後ろからわたしにだけ聞こえるように伝えてきた。
もしかしたら、リルファナが使う貴重な素材なのかな?
「うーん、とりあえず持ち帰ることにします」
「じゃあ、次は鎧なんだが、これは相当良いものだ。ギルドで買い取るとしたら金額は大金貨5枚ってところだが、王都に持ち込めば倍以上になってもおかしくない」
能力が多いだけあってやはり希少品のようだ。
迷宮のボス討伐の報酬だけあって、すごい大金になるね。
「嬢ちゃんたちは、知り合いにA級冒険者もいるだろう? 話してみて、直接買い取ってもらうのも手じゃないかな」
アルフォスさんやソーニャさんたちかな。
アルフォスさんのチームはブコウさん以外は重装備ではなかったし、ブコウさんが使っていた武者鎧はこの鎧よりも上位だと思う。
ソーニャさんたちはまだ知り合ったばかりなので、買ってくれとはちょっと聞きにくい。
「ええと、金属鎧だと使う人がいるか分からないですけど」
「A級冒険者には相応の伝手があるからな。本人たちが使わなくても引き取り手を紹介してくれるかもしれないぜ」
そうか、本人たち以外にも使える人がいるかもしれないか。
高く買い取れないというのは、ガルディアでは良品でも高価な鎧を買える冒険者が少ないこともありそうだ。結局、鎧も持ち帰ることにした。
「それとこの小さいクッションだが、買い取るのは難しいな」
緩衝材は買い取ってくれないらしい。
たくさんあるし、大したものではなかったか。
「買取価格が高すぎるから、こんなにあるとな……」
「ええ……」
買い取れない理由は逆だった。
この緩衝材は、乾燥剤としての効果も持ち合わせている。更に、冷やすと長時間使える冷却材としても使えるらしい。
安価な食品などの運搬ではなく、温度管理が重要な研究所といった場所で使われるものだそうだ。
フェルド村で使うかと思っていたけどダメかな?
「さすがにこれを大量に積んでいることが分かると、価値を知っているヤツに襲われるかもしれないからやめとけ」
お兄さんに、それは絶対やめろという顔で忠告された。
「分かりました。……これも持ち帰りですね」
魔物の素材や竹は買い取ってもらえたけど、宝箱から手に入れたアイテムはほとんど残っちゃったね。
◇
冒険者ギルドから戻り、お昼にする。
今日は、ミートサンドを持ち帰りで買ってきた。
最近は色々な味を作るのが趣味になったのか、期間限定商品まで置いているのだ。たまに何でこの味を追求したんだろうという物もあるけれど……。
「破邪の粉は、賢者の石の材料ですわ」
「材料に粉なんてあったっけ?」
賢者の石。
これを作ることができると、錬金術スキルの上位に入ったとされる登竜門的なアイテムだ。
それだけなら問題はなかったんだけど、錬金術が関係ないクエストでも必要になることがあったんだよね。
そして登竜門とされるだけあって、とにかく素材集めが大変な生産品でもある。
作製には錬金術を上げていないプレイヤーたちも何かしら関わっていて、賢者の石を作るための3つの素材を知らない古参はいないとも言われる。
ちなみに後のバージョンアップで、素材集めの難易度が徐々に緩和された。
最終的には、ソロでもなんとかなるぐらいになっていたはずだ。
「正確には、材料の材料ですの。製薬スキルの担当なのでミーナ様は知らないかもしれませんわね」
「なるほど」
材料を集めておけば、いずれクレアが使うかもしれないので取っておこう。
昼食後、リルファナは解呪の薬の下準備。
クレアは図書館へ行くと出かけて行った。
わたしは、借りてきた本を読み込むことにした。
王都に出発する前に返しておきたいからね。
大した収穫はなかったが、英雄たちはこの世界で一生を過ごした者もいれば、突然いなくなった者たちもいることが分かった。
いなくなったのは日本へ帰った人たちなのかもしれない。
「お姉ちゃん、明日はどうするの?」
「うーん、トレンマ村の方に行きたいかな」
「サラミですの?」
リルファナは父さんから聞いた話を覚えていたようだ。
きっと、肉だからだろう。
「うん、またピザを焼くときに使いたいなって」
「では明日は、西方面の依頼ですのね」
せっかくだから、マオさんと一緒に行動できるうちにピザでも作ろうかと思い付いたというだけなんだけどね。
トレンマ村ならチーズも一緒に買えるから一石二鳥だ。
ずっと後回しになっていた荷物整理なども終わった。
明日の依頼を済ませたら、迷宮の探究者と王都に向かう予定である15日までは休みにしよう。