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東の森の迷宮探索 - 宝箱

 辿り着いたドーム状の建物。違いは一回り小さいだけでなかった。


「塞がってるね」

「ええ、ドアノブも鍵穴もないようですし、壁なのでしょうか」


 リルファナの言う通り、柄や溝のない真っ平な石が入口を塞いでいる。


「とりあえず調べてみましょうか」


 リルファナが石に触れると、石の中心から縦に小さな白い線が入った。


 そのまま白い線がスルスルと上下に伸びていく。

 白線が石の両端にたどり着いた途端、両開きの扉のように内側へ開いた。


「え? な、なんですの?」

「リルファナちゃん、何かの仕掛けだったの?」

「いえ、触れただけで開いてしまいましたわ」


 ドームの中には、石像が一定間隔で立ち並んでいる。

 中央には台座があり、豪華な装飾のある宝箱が置かれていた。


「何か条件がないと開かないような仕掛けはあったように見えますわね」


 リルファナが、開いた扉を調べながら言う。


「もしかしたら、ドラゴンスカルを倒した人しか開けられなかったんじゃないかな?」


 いつもあったボス討伐の報酬が、あの場には出現しなかった。

 ボス戦に参加しなかった人に先を越されても、この部屋の宝箱は手に入らないような仕掛けだったのかもしれない。


 リルファナがドラゴンスカルにトドメをさしたので、あのエリアにいた人なら誰でも良いのかは分からないけどね。


「中に並んでいる石像は神様のようですわね。ヴィアジョルソ様の石像がありますわ」

「クレアの会った神様はいないの?」

「ここにはないみたいだよ、お姉ちゃん。あ、でも9階の町の中で見かけたかも」


 アグリコルトーレ様の石像も見当たらない。

 そもそも教会でよく見かける六大神の神像は1つもないようだ。9階もあわせて小神の石像群という感じなのだろうか。


 この世界(ヴィルトアーリ)の宗教学を学んでいれば共通性を見出せるのかもしれないが、学んでいないわたしには分からない。


「宝箱に罠はありませんわ」

「じゃあ、開けてみよう」


 大きな宝箱を開けると、上部にぎっしりと入った何かに覆われていた。

 半透明の柔らかそうなクッションのようなものが、たくさん入っている。


「何これ?」

「梱包材のようにも見えますが……」


 そう言われれば空気の入った緩衝材のように見えなくもない。


「軽いけど何か入ってるみたい」


 箱から1つ持ってみると中はジェルのような液体が入っているようだ。

 簡単に破れたりしそうにもないし、非常に軽い。


「うーん、カバンとかにも使えそうだけど、マジックバッグがあるからなあ」

「そうですわね」

「お姉ちゃん、リルファナちゃん、村とか町から商品を運ぶ商人さんなら使えるんじゃないかな?」

「確かに」

「軽くて頑丈そうですし、積み荷の箱に入れておくと便利そうですわね」


 クレアの一言にリルファナと頷く。


 緩衝材を使いたいときは一般的に布や、木くずなどを使うことが多いが、重くなってしまうのが欠点だ。

 どうせマジックバッグは空いている。ギルドに持って帰ってみよう。ギルドでの反応が微妙なら、フェルド村で使えるなら寄付するのもありだろう。醤油とか運んでるし。


 覆いかぶさっていた緩衝材を取り除くと、やっと本来の中身が見えてきた。


 パッと見て分かるのは、金属鎧プレートアーマーと木製の弓、革製のベルトなどの装備類。それと大きなサイズの本が2冊、巻物スクロールが数本。

 他にも中身の入ったガラス瓶がいくつかと、大きな葉っぱ、革製の小袋が入っていた。


「本!」


 クレアが本や巻物スクロールを見て驚いている。

 確かにこの世界(ヴィルトアーリ)では見かけない綺麗な装丁となっている。でも、驚くほどのものでもないような気がするが。


「どうかしたの?」

「たまたまかもしれないけど、ペシェツァ様が色々な知識と出会いやすくしてくれるって言ったんだよ、お姉ちゃん」


 神様による加護かもしれないということか。


 にこにことクレアが本をマジックバッグにしまう。

 あ、クレアがしまう前にタイトルぐらい確認しても良かったな。


 まあ、帰ってからでいいか。


「竹槍が敷かれていますわ」


 箱の下には竹槍が一列分入っているようだ。


「あれ、先が尖ってないよ、リルファナちゃん」

「普通の竹でしたわ……」


 これも緩衝材変わりなのかな。単純に報酬の一部であるのかもしれないけどね。

 竹は魔動機の素材に適しているらしいので、これも持って帰ることにする。


「竹の下に金属板がありますわ」


 リルファナが、箱の底から青みがかった薄い金属板を取り出した。


「エルフェルムっぽいかな?」


 鍛冶スキルの効果か、前に1度見ているからかすぐに分かった。

 しかし、この板は薄すぎて防具として使うには向かない気がする。使い道は後で考えるとして、他の物と一緒にマジックバッグへ。


 この建物にはもう何もなさそうなので、島を一周してみることにした。

 小さな島なのですぐに一周できるだろう。


 10階の入口からは見えない位置に、小さなドーム状の建物がもう1つ建っていた。


「休憩ポイントかな?」


 机と椅子が置いてあるだけの殺風景なドーム。

 別のドームと違い、窓のような四角い穴がたくさん開いているのが特徴だろうか。


「この階層は魔物もいないようですわね」

「先へ進む場所もなかったね、リルファナちゃん」

「ええ、ミーナ様どうします?」


 ゲーム的に見た場合でも、明らかにここで終わりといった様子。


「ここで1泊してガルディアへ帰ろうか」

「うん!」

「分かりましたわ」


 あちこち細かく調べていたので、もう遅い時間だ。

 ここで野営してから、町へ帰ることにした。


 野営中にそれぞれが出会った神様の話で、情報を共有する。


 クレアの出会った知識の神、ペシェツァ様はお爺さんのような姿で魔術師の恰好をしていたそうだ。

 貰った加護は、先ほどの色々な知識と出会いやすくなるというものと、魔力の強化らしい。


「優しい人だったよ! お爺ちゃんが生きてたらあんな感じだったのかなあ?」


 母さんの両親は母さんの成人後、クレアが生まれる前に亡くなっている。


 父さんの方の両親は王都で生活しているようだけど、貴族なのでそう簡単に会える立場でもない。

 嫁の顔が見たいと母さんを呼び出したぐらいだし、孫ができたときにも呼び出したか、会いに来たりしているかもしれないけれどね。


 リルファナが出会ったのは旅人の神、ヴィアジョルソ様。


 六大神以外の神様は、人々の生活を見守ったり、単なる趣味だったりでわたしたちの世界に下りてくることがある。


 ヴィアジョルソ様は下界を旅する際に、行先に合わせた姿に化けていることが多い。そのため、神像が作られるときも種族や性別は様々だ。

 リルファナが訪ねたときは、エルフの女性の姿で旅装束だったらしい。聖域にいた姿だから本来の姿だったのだろうか。それとも、リルファナの好みに合わせた姿をとっていただけだろうか。


「内容はちゃんと教えてくれませんでしたが、野営と探索時に役立つと言われる加護を貰いましたわ」

「能力強化かな?」

「多分そうだと思いますわ」


 六大神に比較すると、小神の授けられる能力は強くても限定的だったり、ちょっとした効果しかないらしい。

 神様から見れば「ちょっとした」でも、人から見ればすごいなんてことも多々あるけどね。


 わたしもアグリコルトーレ様の加護で、盾の扱い方が上手くなり、防御力が上がったことを教えた。


「さっき見つけた金属で盾を作ったらどうかな、お姉ちゃん」

「薄いから防具にするのは微妙かな」

「そっか」


 クレアが残念そうに呟いた。



 ――翌日。


 ガルディアの町、ギルドマスターの部屋。


 冒険者ギルドの窓口で報告して家に帰ろうと思っていたのに、なぜかギルドマスターの部屋へと通された。

 ギルドマスターであるレダさんだけでなく、どういうわけか迷宮の探究者(ダンジョンシーカー)のソーニャさんも同席している。


「たまたまギルドに顔を出していて呼ばれたのですが、ミーナさんたちでしたか」


 ソーニャさんもなぜ呼ばれたのだろうという顔だ。


「おかえり。受付の勘違いで、この間から一緒に調査していると思っているのかもしれないさね。あとで言っておくさね、悪いね」

「なるほど。私も迷宮ダンジョンの先が気になっていましたし、構いませんよ」


 ソーニャさんが頷いた。


「で、早かったってことは10階で行き止まりだったさね?」

「はい。10階は小島のような場所でほとんどなにもありませんでした」


 わたしの説明にレダさんがほっとしたように息を吐いた。


「よかったよ。ミーナちゃんたちでも手に負えない魔物が出たって言われたら困るところだったさね」


 わたしたちでも手こずる魔物か。

 セブクロでの100レベルまでの魔物ならほぼ大丈夫だろう。現時点では150レベルを超えると危ない気もするかな?


 うん。この辺りの冒険者や兵士じゃ、誰も倒せない気がする。


「ええと、地図を作ってきましたわ」


 リルファナが手描きの地図を出して、9階の町の変化と10階を報告した。


「ふむ、まとめてみると普段の迷宮ダンジョンとは随分と違うところが多いですね」


 ソーニャさんが報告を聞いて呟く。


「そうなんですか?」

「ええ、迷宮ダンジョンなので何でもありといえばありなのですが……」


 ガルディア東の森の迷宮ダンジョンの珍しい特徴を教えてくれた。


 まず10階層という広さ。5階以上ある迷宮ダンジョンはかなり珍しいらしい。


 次に、魔法門ポータルの多さ。

 出入口や最奥からの脱出といった近道ショートカットはよくあるが、奇数階ごとと頻繁に発生するのも、これまた珍しいことだそうだ。


「最後に、偶数階のボスが異常に強かったことでしょうか……」


 迷宮ダンジョンはフィールドも出現する魔物も、すべて魔力で構成されている。

 それだけの規模の迷宮ダンジョンを創造ができるほどの魔力が、あの周辺に集まっていたんじゃないかという話だ。


「経験則ですが、魔力が大量にあっても小さな迷宮ダンジョンがいくつも出来上がることの方が多いですね。もちろん、今回たまたまそうなっただけと言われればそれだけですが」

「ふーむ……」


 レダさんが考え込んでいる。


「あの辺りは、前にミーナちゃんたちが探索した遺跡の近くさね?」

「はい、でもあの遺跡って迷宮ダンジョンに関わるようなものは、何もなかったような?」

「お姉ちゃん、魔石があったよ」


 避難所シェルターのアレコレを動かすための魔石か。


「でもあの魔石、空っぽだったよね? ……あ、そうか」

「魔石に蓄えられてた魔力が、魔石から放出されてあの周辺に溜まっていたかもしれないということですわね」

「魔石から魔力が漏れていると困るし、装置の調査をもう1度行う必要がありそうさね」


 レダさんがメモに色々と書き込んでいる。

 遺跡はほぼ安全な場所ということもあり、わたしたちではなくD級冒険者に頼むそうだ。


「それと10階の水晶ですが、これは迷宮ダンジョンに残っている魔力を表示しているのだと思われます」


 ソーニャさんたちは、似たようなものを見たことがあるらしい。

 表示しているだけであり、実際に迷宮ダンジョン内の魔力が溜まっているわけではないとのこと。


 クレアがあの水晶を見て変に思ったのは、測定するための魔力や、その揺らぎを捉えていたのではないかと思う。


「残り3割ぐらいというと……。発生した時期から考えると、数か月から半年ほどで消滅するような気がしますね」


 どれだけ迷宮ダンジョンが残るかは、冒険者が迷宮ダンジョン内の魔物を倒す速度などにもよるらしい。


 ガルディアでは珍しい迷宮ダンジョンの出現。

 低層だけとはいえ、冒険者が押し掛けるように探索しているので、1ヶ月ももたずに消えてしまう可能性もあるという。


「報告は以上かな?」

「了解。ソーニャちゃんもありがとうさね」

「いえいえ、念のため、装備が直ったら私たちも10階を調べようと思います」


 ギルドマスターの部屋を退出し、探している薬についてソーニャさんに話を聞くことにした。

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