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マオ

 迷宮の探究者(ダンジョンシーカー)のチームメンバーであるマオさんから突然、日本という言葉が飛び出した。


「ええと」


 転生者プレイヤーの話は、テントの中にいるクレアには聞かれたくない話だ。

 いずれはクレアに話さないといけないときが来るかもしれないけど……。


 テントの方をちらりと見たわたしに気付いたのだろう。マオさんが魔法を詠唱した。


「『風の壁』。私が作った雨除けの生活魔法ですが、小さな声なら外に漏れなくなる効果もあります」


 自分の周囲に風を起こすことで、雨や落ち葉といったものを寄せ付けない魔法らしい。

 折角作ったものの、声や外部の気配まで遮断してしまうため、野外フィールドで使えなかったと苦笑していた。


「クレアさんは妹だと聞きましたが、転移者ではないのですか?」

「転移? 転生じゃなくて?」

「私は、友達とセブクロで遊ぶ約束があったのでログインしようとしていたところでした。気付いたら、キャラクターの恰好で王都にいたんです」


 マオさんとはこの世界(ヴィルトアーリ)への来たときの状況が違うようだった。


 わたしやリルファナと違い、この世界(ヴィルトアーリ)で生活していた記憶もなく、自分と知り合いだという人にも会ったことがないらしい。

 容姿はキャラクターの姿に変わっているものの、転移だと思ったのだろう。


 マオさんが良い装備を使っているのも、キャラクターが装備していたものだったからか。


 昔の英雄たちも、あれだけの伝承が残っているのに出身地については残されていない人が多い。

 もしかしたら、マオさんのように転移してきた人も多かったのかもしれない。


 簡単にお互いの状況を説明する。


 マオさんは、友達に誘われてセブクロを始めたようで、プレイ歴は2ヶ月過ぎたぐらいだったそうだ。


「レベル上げやクエストなどは手伝ってもらっていたので、最上級職までもう少しといったところでした」


 レベルは60以上、80未満といったところかな?

 セブクロでは初心者を脱したところといったレベルだが、こちらの冒険者としてはかなりの高レベルだ。


「最初は何をすれば良いかも分からず大変でした。それでも、キャラクターの能力があったのと、この周辺の魔物は弱いので生活費用のために冒険者として活動をはじめたんです」


 マオさんからしてみれば、まだ慣れていないゲームシステムの世界に1人で放り出されたのだ。

 言葉では一言になってしまうが、本当に大変だっただろう。


 異世界の人として生まれ変わる『転生』と、単に異世界へと移動してしまう『転移』の違いを分かっていることから、ある程度は異世界ものの知識はあるようだけど。

 知識があるからといって上手くいくとも限らないからね。


「王都の北の山脈にはまだまだ未知の場所が多いと聞きました。何か帰る手がかりがあるんじゃないかと探索していて、……色々あって迷宮の探究者(ダンジョンシーカー)に入れて貰いました。それも、もう1年前ぐらいです」

迷宮の探究者(ダンジョンシーカー)の人たちは転移者だって知ってますの?」

「いえ、遠くの国に帰る方法を探していることは伝えていますが、そこまでは知りません。多分、迷宮ダンジョンなどの罠にかかって知らない場所に飛ばされてしまったと思っているかと」


 まあ、いきなり別世界から来たと言っても信じてもらえないよね。


「ところで、なんでわたしたちが転生者だって気付いたの?」

「ドラゴンスカルとの戦いでギミックと言っていましたし、先ほどもスキル名をあげていたので『もしかして』と」

「なるほど」


 確かに『技』という意味でスキルと呼ぶことはあるけど、調理スキルや剣術スキルという単語は聞いたことがない気がする。


 クレアはわたしと一緒に村から出てきたため、冒険者としての常識には疎い。

 わたしやリルファナが普通にゲーム用語をしゃべっていても、そんなものかと思っているのだろう。あるいは、勝手に似たような不自然でない用語に翻訳されているのかも。


 どちらにしろ、日本という国を知っているかと聞くだけならリスクはほぼない。


「魔物を、直接強化するような仕掛けがあるのも初めて見ました」

「そうなんだ」

「はい。パーティメンバーも不自然だとは思っていたようですが、仕掛けがあることには気付いていなかったので、かなり珍しいものだと思います」


 ゲームではギミックのあるボス戦は多かったけど、こちらではほぼないようだ。


 こちらの世界について、お互いに知っている情報の交換を済ませる。

 わたしたちは図書館などで集めた情報がメインで、マオさんは実際に迷宮ダンジョンに潜ったときの経験による情報が多かった。


「マオさんはこれからどうしますの?」

「その気があれば、わたしたちと合流するのもありかな?」

「ええと、今のチームにもお世話になっていますし。まだしばらくは、このまま帰還方法を探してみようと思います」

「では、連絡方法を決めておきましょう」

「チャットが使えると便利なんだけどね」

「そうですね」


 マオさんがチャットという言葉も懐かしいと笑いながら答えた。


 基本的にマオさんは王都にいけば連絡がつくとのことだ。自宅やチーム、ギルドでの連絡先を複数教えてもらう。

 探索が長引いても、1ヶ月に2回ぐらいは王都に戻っていることが多いらしい。


 わたしたちはまだしばらくはガルディアにいるが、いずれは旅に出るつもりだと伝えておく。

 少なくとも聖王国。ヴァンパイアの問題が解決したらヴァレコリーナにも行きたい。


「分かりました。帰還方法があるかもしれないということも分かりましたし、また色々と探してみようと思います」

「うん、昔の日記で、かもしれないって表記だけどね……」


 ラーゴの町で見つけた転生者プレイヤーの日記の内容も教えた。

 もうほとんど読み終えているので、いずれはラーゴの町に返しにも行かないとね。


「手がかりが何もなかった今までより希望も持てます。同じ価値観で話ができる人がいると分かっただけでも少し気が楽になりますし」


 確かに、わたしもリルファナが転生者だと判明してからは、精神的にも楽になったかも。

 日本のゲームや漫画、ちょっとした日常の話ができるだけでも違うものだ。


「今後は少し図書館も覗いてみますね」

「ええ、歴史書や英雄に関する情報を追っていくのが良いかもしれませんわ」


 あのとき、直観ながらリルファナを引き取って正解だったね。


「どうしましたの?」

「いや、なんでもない」

「そうですの?」


 じっと見ていたら、リルファナから何かあるのかと思われてしまったようだ。


 そのあとは、情報交換というよりは、こちらの世界(ヴィルトアーリ)の生活から日本のことまで様々な話をして就寝となった。



 ――翌朝。


「お姉ちゃん、朝だよ!」

「うーん、もう少し……」

「ミーナ様、ソーニャ様が挨拶に来てますわよ」


 そうだった。迷宮の探究者(ダンジョンシーカー)のパーティと一緒なのだった。

 がばっと起き上がると、テントを覗き込むソーニャさんと目が合った。


 野営時は夜襲などに備えて防具をつけたまま寝ている。


 地球では鎧を着こんだまま寝るなんて無理だと思うけど、こちらの世界ではそれが普通だ。

 魔物がいる世界であるため、そのような鎧が求められた結果なのか、ステータス補正による効果なのか分からないけどね。


 そのおかげで顔を洗って、軽く乱れた髪を整えればほぼ準備も済むため楽でいい。


「お待たせしました。怪我の方はもう大丈夫ですか?」

「おかげ様で動くだけなら問題ないです。ええと、ミーナさんたちに助けられたと聞きましてお礼をと。……その前に自己紹介ですね。迷宮の探究者(ダンジョンシーカー)のサブリーダー、ソーニャと申します」


 ソーニャさんは鎧がダメになったらしく、昨日とは違う軽装の鎧を着込んでいる。

 兜や帽子などもなく、肩にぎりぎりかかるか、かからないかという長さの金髪が目立っていた。


 ソーニャさんが立っているのを初めて見たけど、小柄なリルファナとほぼ同じ身長だ。リルファナよりも少しだけ小さいかもしれない。

 背中にはソーニャさん自身よりも大きな盾を背負っている。その盾も大きくへこんでしまっていて、昨日の戦闘の凄さを物語る。


 再度、わたしたちも自己紹介しなおして、ガルディアまで一緒に戻ることを伝えた。


「わざわざ、すみません。助かります」


 ソーニャさんは念のための護衛も兼ねて、わたしたちも一緒に戻ると思ったようだ。


 朝食を済ませ、魔法門ポータルから奇数の階層を経由しながら、迷宮ダンジョンを脱出。

 ガルディアへ向かって出発した。

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