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光の女神の聖域

 リビングアーマーの残骸が転がった部屋。固まった冒険者たちが4人。1人は元だけど。


 虚を突かれた4人は、意識がどこかへ飛んでしまったようで反応が無くなってしまった。


 魔法剣を解除してリビングアーマーの残骸を突いていると黄色いガラス玉が転がってきた。魔法物質系の魔物のドロップのようだ。色は多分属性の違いだろうと思い拾っておく。


「ミーナ」

「ん?」

「闇属性も使えるなんて聞いてないぞ!」


 父さんが最初にどこかから戻ってきたようだ。そういえば父さんは風と炎しか見てないのか。わたしもその2つしか見てない(使ってない)けど。


「火水土風光闇、全部使えるよ?」

「そ、そうか」


 高ランク冒険者のアルフォスさんたちがフリーズしてしまったことからも、どうやら魔法剣の技術自体が広まっていないか、廃れているようだと確信する。


 父さんも魔法剣はマジックアイテムのように、せいぜい2属性ぐらいしか使えないと認識していたようだ。


 確かにゲームではキャラクターによって得意とする属性があり、相反する属性は使えないこともあった。

 魔法戦士の魔法剣スキルは、獲得した時点で全ての属性を使用出来るようになり、よっぽどのことがない相手の属性の弱点をつくように使うのは常識でもあるのだが。


 ちなみに木剣は割れなかったが、魔法剣をもう1回使えば破損しそうである。魔法剣で使える耐久値は直感的に分かるようだ。


 前回は極限状態で強烈に打ち込んだから魔力を流しすぎて一撃で割れてしまったのかもしれない。


「ミーナちゃんすげえじゃねえか!」

「ん、びっくりした」

「そんなスキルがあるんだねえ」


 固まっていたアルフォスさんたちも戻ってきた。


 剣に流した魔力を属性に変換するというわたしの説明を聞いて、難易度が高すぎるとアルフォスさんたちも習得するのを諦めるのだった。


 魔法剣は魔法戦士の秘儀だからね。多分魔法戦士にならないと使えないよ。


 父さんが魔法剣については口止めしていたが、元々、冒険者が他の冒険者の能力などをしゃべるのはマナー違反だと頷いていた。


 ……わたし冒険者じゃないんだけどな、いまのところは。


 まあいいんだけど。


 リビングアーマーのいた後ろの扉を開くと、数段の階段、そこを下りると小さな部屋になっていた。


 正面に女神像があり、その左右には宝箱が置いてある。これはボス討伐報酬だろうな。


「一応調べる」


 ミレルさんが女神像や宝箱を調べはじめた。


 ダンジョンのボス討伐報酬の部屋に罠があることは基本的に無いのだが、罠の一種に「偽の報酬部屋」があるという噂があるらしい。


 この部屋ならば、実は女神像やミミックがボスだったというパターンだ。

 ほとんどの冒険者が他の冒険者から聞いたというだけで、自分自身で実際にそのような部屋に遭遇したという冒険者はいないらしい。


 ベテラン冒険者が駆け出し冒険者に「常に油断するな」ということを教えるための作り話ではないかというのが有力だとか。


「罠はない」

「じゃあこっちあけるわよ」


 ミレルさんが確認し終わると、ジーナさんが待ってられないとばかりにミレルさんとは反対にある宝箱を開けた。ミレルさんも目の前の宝箱を開く。


「マジックバッグと剣、金貨は無いわね」

「こっちも似たようなもの。村に戻ったら鑑定する」


 ミレルさんとジーナさんの反応を見る限り、あまり良いものは出なかったようだ。

 箱を覗き込もうとして、わたしは女神像に触れた。



 わたしは草原にいた。道が先へと続いている。振り返った先は道が無く草原だけが続いていた。


 ……わたし、この世界に来てから転移してばっかりじゃない?


 仕方なく、道を歩いていく。


 普段ならちょっとぐらい考えてから行動するわたしが、この道を歩いていくことを不思議にも思わなかった。この道は安全であるという確信があった。


 すぐに建造物が見えてきた。丸い石柱が並んでいて壁はなく、石造りの屋根だけがついている。

 目の前の建物は小さいパルテノン神殿みたいな建物だった。


 今まで見てきた遺跡の柱にも作りが似ている気がする。


「あら、お客様なんて珍しいこともあるものね」


 女神だ、女神がいる。


 神々しすぎるのか、圧迫感がある。金色の艶やかな腰まで伸びる長い髪。

 目、鼻、口、全てが整った顔立ち。白銀に輝くローブを羽織っている。探索していた聖堂のような光の魔力を感じるが、その強さははるかに上で比べ物にならない。


 その女神様は神殿の中央にある丸いテーブルでお茶を飲んでいた。


「ここは私、テレネータの聖域。……あら、ミーナちゃん?」


 光の女神様はテレネータって名前なんだね。ってそんなことより何故、女神がわたしを知っているんだろう?


「随分早かったのね。あら?」


 テレネータと名乗った女神様が立ち上がり、わたしに近寄ってくる。なんだかじっくり観察されている。


「んー、気まぐれ屋か悪戯好きのせいかしら? もしかしたら運命神? もう、あれだけ言っておいたのに。ちょっと待ってね」


 女神様はわたしの頭に手をのせる。暖かい。


 唐突にこの世界に来たときのことを思い出した。


 こっちの自分にそっくりな人に迎えられたことを。そして彼女が何と言っていたのかを。


 確か……。


「……ミーナは、あなたに身体をお返しします。これで、……」


 でも完璧には思い出せなかった。


「思い出せたかしら?」

「わたしが元のミーナに会った夢のことですか?」

「ええ、そうよ」

「でもそれ以外は分かりません……」

「うーん、予想以上に絡み合いすぎていて私の力だけでは完全に戻すのは無理そうだわ」


 女神様はため息をついた。


「まあ、いいでしょう。記憶としてではないけれど、このままだと困ったことになりそうだから教えてあげる」


 理由は言えないが、わたしがこちらの世界に流されるのは確定であった。


 ……「流される」ね、わたしの転生は女神様、または神々の意志ではないと強調したように感じた。


 この身体の本来の持ち主であるミーナは生まれて数ヶ月で命を落とすはずだったらしい。


 そこを本来のミーナと交渉し、わたしの魂の受け口として命を永らえたとか。


 本来のミーナは女神様からの申し出を受け、そのお礼としてミーナの生まれ変わり先は恵まれたものになるという。ただ生まれ変わり先がいつになるかは女神様にも分からないらしい。


 滅多に無いみたいだけど、過去に生まれ既に故人となっている可能性もあるのだとか。


 本来はミーナが15歳になった時にわたしと交代する予定だったのだが、何かしらのイレギュラーが起きて少し早くなった。

 その影響によってわたしの転生時の記憶やら能力やらが全て中途半端になってしまっているのだとか。


 ……あれ、わたしチート能力貰い損ねたんじゃない?


「あなたはこの世界に必要な人間の1人なのよ。あなたは好きなように思うまま生活すれば良いわ。必要があればそれらは自然に交わるようになってるの」

「それって運命ってやつですか?」

「ちょっと違うわね。そもそも人間の言う運命(外れられない道)なんてものは無いということははっきり告げておくわ」

「そうなんですか?」

「ええ、多少は神々、特に調整を司る運命神の都合で捻じ曲がることはあるけれど、それで人間の一生が決まることはありません。私たちにとって、あなたがいる必要はあることは分かるけど、それが何を意味するのかは私たちにも分からないの。もしかしたらあなたは大陸や世界を救う人間になるのかもしれないし、窮地に陥れる魔王と呼ばれる存在になるのかもしれない。でもそれに意味があるとでも言えばいいのかしらね」


 自転車に油を差すようなものなのかな?


 自転車が世界で油がわたしだ。まあ、この場合はなんで油を差すのかは分かっていることだけど。


 わたしが好き勝手しても良いならあまり気にしなくても良いことだろう。何をしていても運命に引き寄せられるというわけでもないようだし。


 ……もし何をしても結果は一緒だと言われていたら、運命に引き寄せられるまで村に引き篭もってたわ。


「うーん、これ以上は干渉し過ぎにあたってしまうから言えないかしらね。気になるのならば、私以外の神々の聖域を訪ねてあなたの中にあるミーナの記憶を取り戻す手伝いを頼むのも良いでしょう。神々は自力で聖域に辿り着いた者に協力する義務がありますから。もちろん、全て教えてくれるとは限りませんけれど」

「神像に触れてまわれと?」

「いいえ、今回はたまたま神像と繋がっただけです。入り口ときっかけは複数ありますが、これ以上は内緒よ」

「運頼み過ぎません? 運というより神頼みかな?」

「神頼みなんてそんなものですよ。ふふ」


 女神様が笑う。つられて私も笑った。


「神々の聖域に招かれることはその他の利点もありますから、考えてみてくださいな。客人が数百年も来なくて暇だという者もいますよ」

「……やっぱり神頼みですね」

「ああ、久しぶりのお客人なのにお茶も出し忘れていたわ。座って頂戴な」


 わたしはテーブルの席につかされて女神様からお茶をいただくことになった。


 女神様は何も無いところからティーポットとカップを2つ出してお茶を注ぐと、わたしの前に1つ置く。


「お口に合うと良いのだけど」


 色や香りは紅茶のようだ。


 カップを手に取り一口飲むと茶葉の良い香りが鼻に抜けた。身体中の魔力が暖かみを帯びるのが分かる。


 ……なんだろ。


「なるほどねえ」

「テレネータ様?」

「気にしなくて良いわ。あなたが潜在的に欲しているものが定着しただけだから」


 女神様は1人で納得しているようだ。


 ……わたしが欲しがるものって何だろうね? チート能力ならいっぱい欲しい。


 女神様はわたしの話を聞きたいらしく、お茶を飲みながら村の生活について話したりした。

 神様たちもそれぞれに仕事があり、人間の細かい生活については見ている余裕がないらしく、大したこと無い日常生活の話を楽しんでいるようだった。


「久しぶりのおしゃべりも楽しいのだけど、そろそろ時間かしらね。それに、人の子があまり長く聖域に留まると問題が出てくるし」

「え?」

「ふふ、ミーナちゃんにはまた会える気がするわ」


 親切ではあるけど時々不穏なことを言うのはやめてほしい。そして発言がフォローされないのはもっとやめてほしい。

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