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東の森の迷宮探索 - 9階

 9階の入り口に建っていた小屋を離れ、次の階層を目指す。

 石畳の街道は、ゆるい弧を描きながらも、ほぼ真っ直ぐ進んでいるようだ。


「あ、ジャムの木だよ、リルファナちゃん」

「採ってきますわ」


 街道を歩いていると、クレアが木を指さした。

 クレア、あれは食人木マンイーターツリーであってジャムの木じゃないよ……。


 7階で戦っている間に発見したが、どうやら食人木マンイーターツリーには弱点があるようだ。

 1番低い位置に生えている枝の高さ、木の中央。そこに核のようなものがあり、そこを斬りつけるとダメージが大きい。


 リルファナが鞘で食人木マンイーターツリーの枝を打ち払いながら、左手の短剣で弱点を数回攻撃すると、動かなくなった。

 弱点が分かったおかげか、よどみない最短の攻撃で倒している。


 木の実や魔木まぼくを回収しながら、周囲を見回す。


 街道が続いていて、街道のすぐ近くは定期的に木が生えている。

 この木々の中に食人木マンイーターツリーが擬態しているものが稀にあるのだが、クレアが全部見つけてくれるので簡単に進んでいる。


 普通であれば簡単に見つけることもできない。

 すぐ横に魔物が擬態している木がある街道を歩くのは、精神的な疲労が大きそうだね。


 そういえば5階の岩場を境に、冒険者を全く見なくなった。


 5階に出現するキャノンは遠隔攻撃持ち。7階の植物系の魔物も、周囲の環境に溶け込んでいるため不意打ちされやすい。

 リスクを負ってまで倒しにくい魔物を、わざわざ討伐しに行こうと思うパーティが少ないのだろう。


 それでも実入りが大きければ、それを狙う冒険者はいる。

 しかし、キャノンの大部分を占める鉄は、隣町のミニエイナで採掘できるから大した額にならないし、植物系の魔物の素材も売値は上の階とさほど変わらないと思う。


 4階までの素材が値崩れしはじめたら、いずれ下りてくる冒険者もいるだろうけどね。


「石の壁があるね、お姉ちゃん」

「うん、囲ってあるような感じだし、小屋でもあったのかな?」

「中まで草が生えてしまっていますし、よく分かりませんわね」


 歩いていると、7階とは違って崩れた石壁があった。

 少し調べてみたけれど、石壁のほとんどは残っている場所でも膝ぐらいまでの高さで、それより上は崩れ落ちてしまっている。


 人々に忘れ去られた家の最期のようにも見えた。


「分かれ道ですわ」


 リルファナが地図のメモをとりながら立ち止まったのは、Y字路のような分岐点。

 歩いてきた道と同じ幅のまま左の方へゆっくりとカーブしていく道と、ねじるように右方向へと急激にカーブしていく細い道だ。


 生垣や木々、石壁に視界を阻まれ、先の方がどうなっているかは見えない。


「どちらに行きますの?」

「うーん、大きい通りの方が当たりの確率は高いけど、絶対に正解の道というわけでもないんだよね」

「ええ、7階では最後だけ細い道でしたわね」


 うむむ。


 この周辺は『迷宮の探究者(ダンジョンシーカー)』が探索済みだろうし、可能ならば先へ進む道を選びたいところではある。

 彼らがここを通過したのは3日前だろうから、痕跡も残っていなそうか。


「お姉ちゃん?」


 腕を組んで考えていると、クレアが顔を覗き込んできた。


「どっちが当たりかなあ?」

「どうせ分からないし、適当に選べばいいんじゃない?」


 さっさと、どちらかに進んだ方が良いか。


 マジックバッグから食人木マンイーターツリーの枝、魔木まぼくを取り出し、交差路に立てた。


「当たりの道はどっちかな」


 と言いながら手を放す。

 枝は右に揺れてから、反対の左の道へと倒れた。


「なんか今おかしくなかった?」

「倒れそうな方向とは、逆に倒れたように見えましたわ」

「少しだけ魔力が流れてたよ、お姉ちゃん」


 無意識に魔木まぼくに魔力を流してしまったため、変な力でもかかったのだろうか。


「……まあ、左に倒れたんだし、左にしようか」

「ええ、行きましょう」


 倒れた魔木まぼくを回収し、左の道へと進む。


 時々、分かれ道があったが全て同じように、魔木まぼくを使って決めた。

 その際に魔力を込めないように気をつけていても、少量の魔力を持っていかれてしまうことが分かった。


「こっちですわね」


 今回の魔木まぼくはぐるぐる回りながらも、1つの道の方へと倒れた。

 気になって同じ場所で2回以上、試してみたりもしたけど、その場合は魔力を消費せずに、普通の木のようにランダムに倒れる。


 変な倒れ方をするのは初回だけだ。

 どういう理屈なんだろうね。


 街道を歩いていると、周囲の半壊している石壁の数が増えてきた。


「町のような場所になってきましたわ」


 この辺りは石壁だけでなく、天井も残っている建物がいくつもある。


「ここが町の真ん中かな? リルファナちゃん」

「なんだか不気味ですわ」


 町の中央は十字路になっていた。

 そこから周囲を見回してみても、人も魔物もおらず、しんと静まり返っていて、滅びた町の遺跡といった印象だ。


「ここも休憩ポイントなのかな」

「魔物もおりませんし、そうかもしれませんわね」

「確認して、お昼にしようか」


 3人で少し建物を調べてみることにした。


 とりあえず選んだのは、入口には井戸も備え付けられている家だ。

 井戸は枯れていないようで水も汲むことができた。調理スキルによると煮沸すれば飲めそうだ。


「今までと違って中もちゃんと床が残ってるね」

「ええ、わたくしはそちらを調べてみますわ」

「お姉ちゃん、こっちに何かあるよ」


 隣の部屋を調べていたクレアが声をかけてきた。


「んー?」


 クレアのいた隣の部屋に入ると、天井が半分崩れ落ちていて、空が見えている。

 部屋の隅の床が黒ずんでいた。よく見ると灰が残っていて、煮炊きをしたような跡だ。


「ミーナ様、保存食の容器が落ちていましたわ」


 リルファナが部屋へと入ってきた。


「『迷宮の探究者(ダンジョンシーカー)』のメンバーがここで野営をしたみたいだね」

「ええ、昨日か一昨日でしょうか」


 迷宮ダンジョンの構造物を破壊したり、ゴミを捨ててもいつの間にか元に戻ったり、消えたりしてしまう。

 この辺りのシステムは昔から検証されているようだが、検証するごとに結果が大きく変わってしまうらしく、細かい部分は判明していない。


 他の家も調べてみたが、何も見つからなかった。


 『迷宮の探究者(ダンジョンシーカー)』が使ったのなら安全なのだろうと、最初に調べた家に戻って昼食の準備だ。


 さすがに毎食、甘いジャムを食べていると飽きてくる。

 干し肉と野菜入りのスープもメニューに加えた。


 干し肉は保存が効くように塩が多く使われているから、スープにすると出汁が出るので丁度良い。

 野菜は冷蔵のマジックバッグに数日分ぐらい入れてある。レダさんだけだと使わないだろうから、家に残っていた分を持ってきたのだ。


 ついでに水を煮沸して、水袋に補充しておく。



 昼食を食べ終えたあと、リルファナがここまでの地図を見ている。


「ミーナ様、クレア様」

「ん?」

「どうしたの、リルファナちゃん」

「今までの階層と同じだとしたら、こちらの方に次の階層があると思いますわ」


 リルファナが地図の左上を指さした。


 便宜上、この地図の上を北とすると、9階の入口は地図の南東で、街道をぐねぐねと歩きながら今の町へは東から真っ直ぐに入った形だ。

 もちろん、手書きなので多少はずれていたりはすると思うけどね。


「1階以外は、入口と点対称になる付近に出口がありますわ」


 リルファナが、今までの階層の地図を広げる。

 たしかにぴったりというわけではないが、階層の中心を通った反対側にあるようだ。


「ホントだ!」


 クレアが地図を見比べて確認している。


「とすると、リルファナの言う方へ続く道がありそうな方へ、町を抜けていくのが良さそうかな」

「推測ではありますが、可能性は高いと思いますわ」


 町の十字路から、地図上では上の方の街道へと抜ける。


「なんだか急に暗くなったよ、お姉ちゃん」

「うん、ここから9階の後半のエリアになるみたいだね」


 あの町が9階の中心になっているのかもしれない。


 街道を進むと、空が暗くなり、周囲には枯れた草花や木が生えている。

 今までは陽気な温かい空気だったのに、急に禍々しいともいえるような冷たい空気へと変化した。


 その先には、石でできた柵で囲われている敷地があるようだ。

 街道は敷地の中へと続いていて、入口は石のアーチになっている。


「これは……」

「お墓ですわ」


 9階の後半部分は、お墓が立ち並ぶエリアになっているようだ。

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