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東の森の迷宮探索 - 7階

 歩き始める前に、リルファナがそういえばと切り出した。


「植物系の魔物が擬態しているとわたくしには判別できないかもしれませんので、クレア様も注意しておいてくださいまし」

「うん、分かった!」


 アルジーネの依頼を受けたときに、リルファナはトレントと普通の木の違いが分からなかった。

 微妙な魔力の違いを区別できるクレアなら、トレントと同じように擬態している魔物が分かるかもしれない。


 わたしはどっちも分からないので2人に任せる。

 妖精とは話せるようになったけど、あまり役に立っている気はしない。


「ミーナ様」

「ん?」

「一応、自分で警戒していた方が、気配察知スキルが上がると思いますわよ?」

「なるほど」


 セブクロには、『気配察知スキル』というものは存在しない。

 ゲームでは画面上で判断するので必要もない。もし、ゲーム上で再現してもリアルにはなるかもしれないが、操作や探索が面倒になるだけだろう。


 でも、この世界(ヴィルトアーリ)では斥候の役割のある人は、周囲の気配に敏感になるようなので、ここでは実際に存在していてもおかしくないか。


 リルファナに任せっきりにしないで、少しぐらいは自分でも索敵してみよう。


 街道を歩いていると、道から離れた場所に木立がいくつも見えた。

 膝から腰ぐらいまでの高さの低木が密集していて、生垣のようになった場所もある。


 木だけでなく草花も伸び放題で、植物系の魔物なのか、ただの植物なのか判別できない。


「いくつか魔物がいるようですわ」


 むむ、植物系の魔物でもリルファナの能力で分かるようだ。


「どの辺り?」

「ええと、あそこなら見えますわね。それとあちらの低木にも潜んでいるようですわ」


 リルファナが見えると指さしたのは、たくさんの花が咲いている付近だ。

 パッと見た感じだと白い花が多く、とこどころに黄色や赤、青などの色のついた花も見える。


「どこだろう」

「うーん? 魔力はぼんやりと感じるかな?」


 わたしもクレアもどこに魔物がいるのか分からない。

 トレントのときは、いくつも並んだ木の中からはっきりと区別していたから、擬態に使われる魔力を感知していたのかな。


「あの赤い花ですわ。近付かなければ放っておいても大丈夫だと思いますわ」

「ああ、血花ブラッディフラワーかな?」


 血花ブラッディフラワーは血のような赤い色の花の魔物の総称だ。花の種類は様々だが、色は血液のような赤色であることが共通している。

 踏み潰すぐらいの距離まで近付くと、身を守るために土魔法で攻撃してくるぐらいで、積極的に攻撃してくる魔物ではない。


血花ブラッディフラワーって、血を吸うっていう花だよね、お姉ちゃん?」

「んー、それは迷信ってどこかの本で読んだかな?」

「そうなんだ」


 迷宮ダンジョンに出現する魔物は、迷宮ダンジョンのある地域とは全く関係ないこともある。

 わたしたちの持っている魔物図鑑に掲載されていない魔物も出現するため、クレアの知らない魔物もいるようだ。


 血花ブラッディフラワーの花びらは赤色の染料の素材になる。ただし、染料の素材にするだけなら赤い花でよく、魔物である必要もない。

 この階の魔物の情報はすでにギルドに伝わっているし、無視して進んで良いだろう。


 低木の方もしばらく観察したがよく分からなかった。


「あちらは、わたくしも何がいるのか分かりませんわね」


 しばらく観察していても、近付いてくることもなさそうなので、先へ進むことにした。

 植物系の魔物なので、距離があると積極的に近付いてくる魔物は少ないのだろう。


「リルファナちゃん、あそこの木は魔物だよ」

「あら、わたくしには気配が察知できませんわ」


 クレアが指さしたのは街道のすぐ脇に生えている木だ。


 リルファナが分からないのは擬態スキルの高い魔物かな。


 セブクロで、木の魔物は特に擬態が上手いという設定だった覚えがある。


 強化バフ魔法を使ってから慎重に木に近付いてみると、しならせた枝でこちらを叩くように攻撃してきた。

 しなるだけでなく、ある程度伸びるのか、見た目よりもリーチが長い。


食人木マンイーターツリーですわね。火には耐性がありますわ」


 リルファナが伸びてきた枝を、短刀の鞘を使って打ち払った。


 今まで迷宮ダンジョン内で見てきた魔物の中では断トツに強い魔物で、レベル25以上はあったかな。

 普通のC級冒険者では大変かもしれないが、わたしたちならまだまだ問題のないレベルだ。


風刃ヴェント・ラーマ!」


 クレアが枝に風の刃を放つ。

 簡単に枝が何本か切断され、地に落ちた。


 しかし、落ちた枝はうねうねとのたうちながら、こちらにゆっくりと近付いてくる。


「えええ、なにあれ?」

食人木マンイーターツリーの枝を切断すると、這いまわる枝(クロールブランチ)になるんだよ」

「強くはないですけど、足元から跳ね飛んできますわ」


 這いまわる枝(クロールブランチ)は自身のしなりを活かして、跳ねるように飛んでくる枝だ。

 防具を着ていれば痛くもないし、目に当たると危ないぐらいか。


 這いまわる枝(クロールブランチ)はセブクロでも存在する。

 食人木マンイーターツリーのような特定の木の魔物にダメージを与えると、ランダムで這いまわる枝(クロールブランチ)が出現するのだ。


 まあ、ただの枝という見た目通り、体力も低いので出現した途端に範囲攻撃で処理されてしまうのが普通だったけど。


 この世界(ヴィルトアーリ)では、使用されるスキルの種類が少なく、範囲攻撃も少ないんだよね。

 前衛との乱戦状態に範囲攻撃を撃ち込むわけにもいかないし、使用頻度が少ないから苦労して覚える必要がないと判断されてしまうのだろう。


 アルフォスさんたちは、いくつか使っていた気もする。

 パーティ内で連携が取れるようになり、1度にたくさんの魔物を相手にするようになると、必要になることもありそうだ。


 わたしたちで使える範囲攻撃に分類されるスキルは、クレアやリルファナが新しい魔法を習得していなければ『爆発エクスプロジオーネ』ぐらいしかない。

 枝にも食人木マンイーターツリーと同じく火の耐性はあるが、体力が低いから倒せるかな。


 リルファナが周囲に落ちた這いまわる枝(クロールブランチ)を、短刀で切断すると動かなくなった。


 うーん、植物には斧系の武器が効果的なんだけど、持ってないし魔法剣でいいか。


風剣ヴェント・スパーダ


 リルファナが1番近くにいるからか、枝の攻撃は執拗にリルファナを狙っている。

 しかし鞘に戻した短刀で、リルファナが簡単に枝を打ち払う。


 こっそりと、食人木マンイーターツリーに近付き、風を纏った剣で木の幹を狙った。


 この魔物は、攻撃してくる以外には普通に生えている木と変わらない。


 避けられることもなく、刃が当たった。


 思ったよりも手ごたえがなく、あっさりと幹を3割ほど切断。


 ざわざわと枝が動く音が響き、葉が舞った。

 トレントのように顔があるわけでもなく、この反応だけでは、どの程度のダメ―ジなのかよく分からない。


 枝を打ち払っているだけのリルファナよりも、ダメージを与えたわたしの方が危険と判断したのか、枝の攻撃がこちらに向かってきた。


 剣で防御しようとすると、枝を切断してしまう。

 這いまわる枝(クロールブランチ)が増えても大丈夫だけど、わざわざ増やすのも後が面倒だ。


「リルファナ、任せた」


 わたしが枝を引き受けることにして、下がることにした。


「分かりましたわ」


 リルファナが鞘を腰に戻し、前傾に構えた。


「『風断ち』」


 リルファナの手元がブレたように見えた。


 次の瞬間には、刀が右へと振り抜かれている。


 風断ちは、居合に分類されるスキルだ。なぜか風属性のスキルだったはず。


 ズッと木の幹が斜めにずれたかと思うと、断ち切れた食人木マンイーターツリーの上半分が滑り落ちた。


「リルファナちゃん、すごい!」

「ミーナ様が目印を作ってくれましたので、簡単でしたわ」


 わたしが3割ぐらい切った部分と、全く同じ場所を切断したようだ。

 少し潰れたような、わたしが叩き切った跡が3割ぐらいあり、その先は滑らかな切断面となっていた。


食人木マンイーターツリーって素材になるっけ?」

「ええ、魔力を帯びた木材で、魔木まぼくと呼ばれる素材だったと思いますわ」

「それなら木工で使えそうだね」


 使えるなら切断して持って帰ろうと剣を構える。


「お姉ちゃん、リルファナちゃん、切ったら動いたりしない?」

「どうだろう?」


 クレアが警戒する顔で聞いて来た。


 枝を切ると這いまわる枝(クロールブランチ)にならないかということだろう。

 大丈夫だと思うけど、念のため警戒しながら切った。


 さすがに切られた枝が動くことはなかった。


「それと、この実を食べておくとしばらくの間、毒や麻痺の耐性を強化してくれますわ」


 よく見ると葉と葉の間に、親指大ぐらいの黄色い実がなっていた。

 あまり強い香りではないが、柔らかな甘そうな香りだ。


 わたしの調理スキルによると生でも食べられるが、加工した方が美味しいとなっている。


「しばらくってどれぐらい?」

「効果はあまり強くありませんが、12時間ほどですわね」

「思ったより長いね。生でも食べられるみたいだし集めておこう」


 わたしの調理スキルと同じように、リルファナは製薬スキルか何かで判別しているようだ。


「酸っぱい……!」


 生でも食べられると聞いたせいか、もぎ取った実をクレアが口にした。


「どれどれ……、うわ」


 わたしも食べてみたが、確かに酸味が強い。甘そうな香りとは全く違う。裏切られた気分だ。


「なぜ、酸っぱいと聞いたのに食べましたの……」

「言われると気になって」

「たしかに気にはなりますわね……。ううう」


 結局、気になったのかリルファナも一口食べて、酸っぱいときのしかめ面になっていた。

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