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東の森の迷宮探索 - 休息

 目が覚めたら夕方だった。

 数時間の仮眠のつもりが寝すぎてしまった。


 慌てて起きると、クレアもリルファナも眠っている。

 迷宮ダンジョン探索の疲れがたまっていたのだろう。


 外は曇り空。


 暗くなる前に、夕飯の材料も買ってこないと家には何も残っていなかったはず。


「おはよう、お姉ちゃん」

「おはようございます」

「あれ、リルファナちゃんだけだった。……お姉ちゃんがもう起きてる」


 ごそごそと出かける準備をしていると、起きたクレアが目をこすっている。

 リルファナも目が覚めたようで上半身を起こした。


「おはよう。暗くなる前に夕飯の材料買ってくるね」

「あ、そうか。お昼を食べてから寝ちゃったんだっけ」

「では台所の準備をしておきますわ」


 近所のお店で適当に食材を買っていく。

 レダさんの家のある北東区は、貴族や豪商の家が多いこともあり、他の区画よりも食料などが少々高いのがネックだ。もちろんその分、質は良いんだけどね。


 雨にも降られず、買い物を済ませて家に戻る。

 リルファナとクレアは台所でお茶を飲んでいた。


「ミーナ様もどうぞ」


 リルファナがお茶を入れてくれたので、少し休憩してから夕飯の準備だ。



 夕飯はトマトとオニ(たまねぎ)ピーノ(ピーマン)、ベーコンを使ってナポリタンを作った。


 北東区だとこの辺りでは珍しいパスタの麺も売っているのだ。

 スパゲッティを出している飲食店はあるので、食べるだけなら珍しいものではない。しかし、家庭で作るものという意識はあまりないみたい。


 ちなみに「パスタのトマトソース炒め」というのが正式名称。

 昔の転生者プレイヤーの影響か、自動翻訳の影響か、ナポリタンという名前も通じるので正式名称を使ったことはないけど。


「クレアちゃんは大丈夫だったのかい?」

「うん!」

「ほう。レベルも上がっていそうだね」


 ギルドでは迷宮ダンジョンで何があったのか、ざっと説明しただけだった。

 改めてブラッドヴァイパーとの戦いの話を聞いて、レダさんが質問する。


「少し前に鑑定紙を使ったら40ぐらいだったよ」

「え? そんなに高いのかい?」


 クレアの回答にレダさんがびっくりしていた。

 丁度良いのでレベルについて、しっかり聞いておくことにした。


「そうさね。レベルが高いほど基礎体力が上がるかね。長時間歩いても疲れにくくなったり、多少の睡眠不足でも気にならなくなるさね」


 睡眠不足については、身体を誤魔化せるだけらしい。数日ならともかく、何日も起き続けているのは難しいそうだ。

 今日、わたしたちが予定より長く寝てしまったのも、気にならなかっただけで睡眠不足だったのかもしれない。


「それと、戦闘時の武器や魔法による攻撃力が高くなったり、魔物からの攻撃を回避しやすくなったり、打たれ強くなると言われているさね。戦闘に慣れただけという意見もあるから、少しのレベル差ではあまり変わらないんじゃないかね」


 ゲームと同じように、攻撃力や防御力が上がるのだろう。

 回避力も上がるようだけど、移動速度についてはほぼ変わらないようだ。


 それと魔物と戦わなくても、生活しているだけでレベルは上がる。


 ただし、レベルの上昇はゆるやかで戦闘に関わらない成人の平均的なレベルは15程度。

 身体を鍛えるのが趣味の人や、狩猟を趣味にしている貴族、家の周囲にまで魔物がやってくることのある田舎の人はレベルが高い傾向にあるそうだ。


 普段の生活で入る経験値が少なすぎて、15辺りでストップしてしまうのだろう。


 冒険者のレベルはピンキリ。

 ギルドのランクは依頼達成のポイント制だし、冒険者になった時点で高レベルの人もいるので、A級の人が必ずしもB級の人より高いということもないようだ。


 ギルドや町の人の感覚では、80レベルぐらいまではいてもおかしくないかなぐらい。

 100レベルあれば、英雄やおとぎ話の登場人物レベルという話だ。


 セブクロでのカンストは255。

 昔の転生者プレイヤーはレベルを公表しなかったんだろうか?


「一般的な情報はそんなところさね」

「なんとなく高い方が良いぐらいにしか思ってなかったよ」

「ほとんどの冒険者がそう思ってるよ。ミーナちゃんは細かいところに興味をもつことがあるさね」


 セブクロとの違いが気になって質問することがあるから、そう思われているのかな。


 夕飯とお風呂を済ませて部屋に戻ると、クレアがボードゲームの準備をしている。


「今日はこれをやろう!」

「新しい戦略を思いつきましたわ」

「はいはい」


 わたしが買ったものの、時間のかかるゲームであまり遊べていないやつだ。

 今日は昼寝しすぎてしまったので眠くないし、少しぐらい遅くまで遊んでいても大丈夫だろう。



 ――翌日。


 今日は休みにしたけど、何かする予定もない。

 午前中は、装備品や携帯食料の確認や整理をすることにした。


「お姉ちゃん、これはどうするの?」

「ああ、見慣れないものだから、何かあるのかと思って買取のときに出さなかったんだ」


 宝箱に入っていた財布のようなものをクレアが出した。

 見た目は完全に、赤みの強い茶色の札入れ。2つ折りタイプだ。


 なんだか分からなかったので、買取に出さなかったんだよね。


 鑑定してみるとマジックバッグ、容量(中)と出た。


 こういうのもあるのか……。


「マジックバッグだったんだ」

「珍しい形ですわね」


 入る量は多いみたいだけど、口が狭すぎるから使いにくそう。

 しばらく取っておいて使わなかったら売り払っちゃってもいいかな。


「ブラッドヴァイパーの毒腺はわたくしが保管しておきますわ」

「うん、よろしくね」


 毒腺は希少な薬品の材料になるので残しておいた。

 薬品にするまでの材料は揃っていないみたいだけど、途中まで処理してから保管しておけば、毒としては使えなくなるらしいのでリルファナに任せる。


「あ、それとクレア、リルファナが使ったコインに回復魔法を込めておいて」

「うん!」

「クレア様、お願いしますわ」


 リルファナがコインを出してクレアに渡した。

 ブラッドヴァイパーの攻撃は結果的に大したことなかったから良かったけど、クレアが怪我をしたときに回復できるようにしておく必要はあるからね。


 装備品の手入れなども行う。

 普段より念入りに掃除した。


「こんなに残ってる保存食が」

「外でもお姉ちゃんが軽く料理するからね」


 マジックバッグの消耗品を整理していたら乾パンみたいな、そのまま食べられるタイプの保存食が何種類か残っていた。

 初めの頃にどれぐらいの量を買えば良いか分からず、多めに買ったりしたことも原因だろう。


 あまり美味しくもないのだけど、そろそろ食べてしまわないとかな。


「うーん……、そろそろお昼だしちょっと使ってみるか」

「どうしますの?」


 いくつか思いついたので、ひと手間加えてみることにした。


 乾パン状なので小さく砕く。サラダにのせてクルトン代わり。

 残りはさらに砕き、揚げ物の衣の一部として使うことにした。砕くのがちょっと大変だけど、この方法なら量が多くてもまとめて使うことができる。


 豚肉にまぶして、からっと揚げていく。


「豚カツですわ!」

「これなら食べやすいね。お姉ちゃん」

「うん。そのまま食べるとパッサパサだもんね」


 カリッとした感じが強いが、美味しく食べることができた。

 もっと小さく砕いても良かったかもしれない。また作ることがあれば試してみよう。


 ――昼食後。


「そういえば最近、ネーヴァちゃんこないね」

「わたくしたちもあまり長く町にいませんから、ラミィ様のところに顔を出しているのではないでしょうか?」


 片付けも済んで、お茶を飲んでいるとクレアがふと思い出した。


「午後はラミィさんの店にでも行ってみる?」

「最近服を見に行ってませんし、それもいいですわね」

「うん!」



 ラミィさんの店に顔を出すと、ラミィさんは忙しそうだった。

 今日は、ネーヴァはいないようだ。


「いらっしゃいませー。そろそろ暑くなる時期なので、新しい服を注文に来る方が多いですねー」


 子供服の注文がまた増えているらしい。

 日本ほどの温度差はないけど、町では衣替えの季節か。


 フェルド村では、夏と冬でしっかり切り替える家もあれば、布の厚さを替えるぐらいであまり変化がない家も多い。


 うちでは夏の暑い時期は、半袖に着替えていた。

 家のすぐ裏手に川があることもあって、そこまで暑いってことはないんだけどね。


「ネーヴァさんですか? 週1回、とまでは言いませんがよく遊びに来てますよー。そういえばミーナさんたちは、町から出かけているようだってよく言ってますねー」


 そうか、ネーヴァは鱗の効果でわたしたちの位置を知っているか。


 ラミィさんは夏服の製作に忙しそうなので、軽く売り物を見てから店を出ることにした。


「リルファナちゃんのリボンも買いなおそうか?」

「まだ使えますわ」

「洗いなおしてるから、色が少し薄くなっちゃってるよ?」

「ミーナ様とクレア様に買っていただいた思い出のリボンですので大丈夫ですの」

「そう? この辺りもリルファナちゃんに似合いそうなんだけどなあ」


 クレアがリルファナの頭をぽんぽんと撫でた。


 町で服をダメにされて、急にリルファナが元気をなくしてしまったからクレアが買ったんだっけ。

 リルファナにとっては大切なリボンになったようだ。


 それでも一応予備として買っておいた方が良いんじゃないかなどと、クレアに説得され(丸め込まれ)て新しいものを1つ購入していた。

 色々と理由をつけていたけど、単にクレアが気に入っただけだと思う。


「ありがとうございます。クレア様」


 支払いは、クレアがプレゼントする形で買ったみたい。


 店を出たあと、夕飯の買い物を済ませる。


「明日雨が降らなければ、フェルド村に帰ろうか。ぎりぎりで大雨の中、帰るはめになるのも嫌だしね」

「うん!」

「分かりましたわ」


 そろそろ月末だ。

 雨が降りやすいこともあるし、早めに帰っておくことに決めた。

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