東の森の迷宮探索 - 5階
大木の中の螺旋階段を上がりながら、途中にあった小部屋を確認する。
「こっちも7部屋。でも何もないね」
「残念ですわ」
下りてきたときには、いくつか見つかった宝箱は見つからない。
階段を上りきり、外に出ると木に囲まれた広場の中だった。
構造は入口側と全く一緒。
だが1ヶ所だけ明らかな違いがあり、大木を出たすぐ近くに魔法門が開いている。
魔法門は、3階と同じ青色で、向こう側にはゆらゆらと3階の魔法門が見えている。
「魔法門がありましたわ!」
「ふぅ、またそこの階段から帰る必要がなくて良かったよ」
クレアがほっとした顔をしている。
ほぼあるだろうとは思ってたけど、魔法門がなかったら完全に無駄足だったね。
魔法門で往復できることを確認。
3階を経由して1階まで戻ることができるようになっているようだ。
「もう真っ暗だね」
迷宮の外にでると、陽が落ちて森の中は真っ暗。
魔法門周辺には魔物が寄ってこないようなので、迷宮の1階で野営してから町に戻ることにした。
明るい迷宮内の方が、見張りをするのが楽だからね。
◇
交代で仮眠ができるぐらいの時間、休憩を取りガルディアの町へと出発する。
迷宮から戻るのが朝になったせいか、探索に向かう冒険者のグループとすれ違うことも多かった。
「探索している人も多いんだね、お姉ちゃん」
「そうだね。すぐ2階に下りちゃったから気付かなかったね」
1階は蟹ばかりで買い取る素材も安くなっているからか、戦闘に慣れてきたぐらいかなというD級の冒険者が多い印象だ。
すれ違うグループから、レベル上げという言葉が聞こえた。
鑑定紙のおかげで、レベルという概念は冒険者なら誰でも知っている。
そこから、レベルも高い方が良いということも知れ渡っているようだ。昔の転生者の影響もあるかもしれない。
ガルディアの町に到着し、すぐに冒険者ギルドに報告へ行く。
依頼を受ける冒険者が集まる時間は過ぎているようで、中は閑散としていた。
見慣れない冒険者が数人いたが、王都や周辺の町の冒険者だろうか。
受付の窓口に行くと、ギルドマスターに直接報告してほしいと言われ、ギルドマスターの部屋へ。
「お、早かったさね」
「はい。5階に魔法門を見つけたので、帰りは歩く必要がなかったので」
「なるほど。じゃあ報告を頼むさね」
2階にキマイラがいなかったことから、5階の入り口までをざっと報告する。
「むむ、ブラッドヴァイパーかい? 報告からすると、偶数階の初回の探索はランク制限をかけるべきかねえ……」
レダさんがメモを取りながら考えている。
「王都の冒険者が素直に注意を聞くと良いんだけどねえ……」
ギルドに見慣れない冒険者がいたのは、ガルディアに迷宮ができたと聞いて王都から探索にきた冒険者だったのかな。
「そうそう。2階のキマイラの再出現の時間を測るために、町に帰ってきたドゥニたちに調査を頼んだんだよ」
ドゥニさんたちはどこか出かけていたのか。
「そうしたら、蟹が多くいたと報告があったさね。どうやら、ボス格だと思われる魔物は、再出現しないタイプの迷宮のようだと分かったさね」
この世界の迷宮には、いくつかのパターンがあるみたい。
今回出現した東の森の迷宮は、偶数階にボスがいて、倒すと3日後から前の階の弱い魔物に変化するタイプではないかということだ。
「もちろん新種のパターンということあるから注意は必要さね」
とはいえ、これらの迷宮の情報は大陸中の冒険者ギルドが、数百年もの間に蓄積した情報らしいので信頼性は高いみたい。
「さて、報告はこれで良いとして。ミーナちゃんたちはこれからどうするさね?」
「ええと、朝ご飯にして少し休もうと思ってますけど」
野営のあと、軽く食べてから出発したけどちゃんとしたご飯も食べたい。
「ああ、そうじゃなくて迷宮の探索さね」
レダさんが苦笑する。もっと長期に渡る話だったようだ。
「ギルド側で急いで探索して欲しいとかの依頼がなければ、そろそろフェルド村に戻る必要があるかな? そのあとは決めてないです」
フェルド村に帰るまでの時間にはまだ数日は余裕があるので、もう1回ぐらいなら野営込みでも探索に行ける。
でも、慎重に探索する必要もあるし、体力より精神的に少し疲れ気味だ。
最初に比べて随分と旅慣れてきたとはいえ、リルファナやクレアにも無理をさせたくない。
「ん、了解さね」
わたしの考えを察したのか、レダさんの返事は簡素だった。
ギルドマスターの部屋を辞して、1階の窓口でキマイラが再出現するかの確認依頼を報告。
そのあと、隣の棟の素材買取に向かう。
ブラッドヴァイパーの素材と、宝箱から出た使わないものを売ってしまおう。
「おう、おはよう。今帰ってきたところか?」
買取のカウンターには、いつものお兄さんがいた。
あれ? 普段、わたしたちは夕方に買取を頼むことが多い。この間も夜に近かった。
朝もいるってことは、いつ休んでるんだろう?
「普段は昼から晩までが多いかな。最近は迷宮の影響で人手が足らなくてな。ま、今日は昼過ぎまでさ」
聞いてみたけど、たまたま朝のシフトだったってことかな。
迷宮にいたウルフなどの素材と、ブラッドヴァイパーの素材を出す。
「それと、こういうのもここで大丈夫ですか?」
「ああ、ここで分からないものは、ギルドの道具屋に持ち込んでくれってなるけどな」
宝箱から出た使わない素材なども買い取れるか聞いてみた。
ここで出してしまって良いみたいなので、不用品は全てカウンターに出してしまおう。
「この辺は駆け出しがもってくる素材と変わらないか。……なんだか肉が冷たいな」
「保存機能のあるマジックバッグを見つけたんです」
「おう、そりゃラッキーだったな。ギルドマスターの話じゃ、西の方だとそこそこ見つかるらしいが、この辺りじゃ珍しいって聞いたぜ!」
腐りそうなものは、冷蔵機能付きのマジックバッグに入れてきた。
温度が違うからすぐに分かったようだが、ギルドの職員でもあるお兄さんには隠す必要はない。
それと冷蔵機能付きのマジックバッグは、地域によって入手性が違うみたいだ。
「これは蛇か。鱗が赤いってことはあのでかいやつか。久しぶりに見たな」
「この辺りにもいるんですか?」
「たまにだけど、発見されることがあるな。鱗が頑丈でスケイルメイルやスケイルシールドの材料になるし、人気の素材だぜ」
森の奥の広い洞窟などに生息していることがあるらしい。
討伐が必要な場合は、C級冒険者グループが合同で討伐することが多いようだ。
「魔物の素材はこんなもんか。残りは鉄製の装備と……」
お兄さんが鑑定のレンズを使い買取額を決めていく。
そして、まとめて置いておいた竹槍を見た。
「バンブースピアか! これは性能が良くて高価だぜ」
「え、竹が?」
「おう! 俺も専門じゃないから詳しくないが、繊維を魔導機の素材に使うとか」
なんだ武器として使われているわけじゃないようだ。びっくりした。
「嬢ちゃんたちは字を読めたよな。全部でこんなもんだな。鑑定結果も一応書いておいたから確認してくれ」
お兄さんの書いたメモを見ると、1番上の桁が大金貨9枚になっている。
竹槍1つで小金貨5枚だった。かなり上等な素材として使われているようだね。
装備類なども使わないので買い取ってもらった。
リルファナとクレアのギルドカードにも、大金貨3枚ずつ入れて貰う。
「朝ご飯……、少し早いお昼になっちゃったけど、食べに行こうか」
「うん!」
「何にしますの?」
「うーん……。眠くなってきたし、ミートサンドを持ち帰りで買って家で食べよう」
買取まで含めると、思っていたより冒険者ギルドで時間がかかってしまったな。
眠気もあるし、今日はさっさと帰って家でだらだらすることに決めた。
「お姉ちゃん、明日はお休みだっけ?」
「うん。家にも帰らないとだけど、少し休憩したいかな」
「そういえば、お父さんが何か考えておくって言ってたね」
毎月、強制で帰宅するようだと依頼のスケジュールが組みにくくなってきている。
こんなに早く、ランクが上がるとは思っていなかった父さんの誤算のようだけどね。
単純に来月の帰宅はしなくて良いって言いそうかな?
とりあえず今日はご飯を食べたら、少し寝よう。